写真を巡る、今日の読書
第21回:“冬のニューヨークをイメージ”させる『ソール・ライターのすべて』。冬になると思い出す作品たち
2022年11月30日 09:00
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
誰かへのプレゼントにも。冬にちなんだ作品をご紹介
この季節になると街並みはどこもクリスマス一色で、今年もどうにか年を越せそうだなあとほっとしつつも、残されている年内の仕事を早く片付けなければという焦燥感が頭の片隅に渦巻きます。朝晩は特に冷え込むようになりましたが、元々が東北出身だからなのか、寒い季節というのは嫌いではありません。特に東京に出てきてからは、乾いて晴れ間の多い冬の季節というのは、写真を撮るには良い光をキャッチしやすいようにも思います。
冬になると思い出す作品というのも多くありますね。ディケンズの『クリスマス・キャロル』だとか、太宰治の『グッドバイ』のように、クリスマスを舞台にしたものをなんとなく本棚から探してしまいますし、音楽でも冬のにおいが感じられるようなものをかけることが多くなるように思います。
そんなわけで、今日は(個人的な観点で)冬にちなんだ作品をいくつか紹介したいと思います。誰かへのプレゼントに選んでもらうのにも、良い選択のひとつになるのではないかと思います。
『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』ポール・オースター 著(スイッチパブリッシング・2021年)
一冊目は、『オーギー・レンのクリスマス・ストーリー』です。ポール・オースターの短編に、タダ・ジュンの絵を重ねることで絵本仕立てに作られた一冊です。
私がこの話に最初に触れたのは、ウェイン・ワン監督が同小説を映画化した『SMOKE』を鑑賞したときのことでした。ハーヴェイ・カイテル演じる街角のタバコ屋の主人であるオーギーは、毎朝同じ時間に、自分のタバコ屋の前の景色を一眼レフカメラで撮影します。
ある日、人生に悩んだ小説家とその写真をまとめたアルバムを見るシーンがあるのですが、写真について語られた映画の記憶のなかで、私にとっては少なくともベスト3には入る印象的な数分間だと思っています。それは全体の話の一部ではありますが、一冊を通してもそれぞれの人物の過去から現在、そしてその先への物語が非常に豊かに描かれた魅力的な作品です。
今回紹介する絵本では、銅版画によるざらっとしたモノクロームの絵柄も、これらそれぞれのシーンをより印象的に描いています。是非、クリスマスが近いこの時期に手に取ってみてほしい一冊です。
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『Irving Penn: Centennial(Fashion Studies)』(Metropolitan Museum of Art・2017年)
次に紹介するのは、『Irving Penn: Centennial』です。ニューヨークのメトロポリタン美術館で行われた大回顧展のカタログとして発行されたものですが、ハードカバーで包まれた372頁の写真とテキストは、非常に充実した内容になっています。
ファッションや広告、ポートレート、民族の記録、静物、花など多岐に渡るアーヴィング・ペンの仕事を網羅し、代表作がカバーされています。音楽で言えばベストアルバムのようなかたちのものですが、ペンの構図に関する美学を学ぶには最適の一冊だとも言えます。ペンの眼とレンズから描き出される映像の美しさを、十二分に俯瞰できる構成だと言えるでしょう。
現在に至るまで発行された様々な写真集は、全て古書市場で高騰していることからも、定価で買える今が買い時であるのは間違いないと思います。プレゼントとしても、写真やファッション、美術が好きな方には確実に喜ばれる選択のひとつだと言えます。
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『ソール・ライターのすべて』ソール・ライター 著(青幻舎・2017年)
最後は、『ソール・ライターのすべて』。雪や雨、埃、傘などが頻出するライターの写真は、冬のニューヨークをイメージさせるものが多いと思います。一冊目で紹介した小説家、ポール・オースターの世界観に重なるところがあり、『ガラスの街』や『鍵のかかった部屋』などの代表作を読むと、私は街の描写にライターの写真を思い浮かべることが多くあります。
本書では、英文と和文が併記されたライターの名言が多く散りばめられており、哲学を感じ取れると共に、写真というものについて考える様々なヒントが得られます。ライターならではの視点や考え方を知るのにも良い一冊になるでしょう。
巻末には様々な研究者による、日本の文化とライターとの関わりについても書かれており、読んでから改めて写真集を眺めると、また新たな発見が得られるのではないかと思います。