熱田護の「500GP-Plus」

第15回:F1に復帰したアロンソ選手に期待して2018年後半戦を振り返る

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L II USM+EF2× II(F10・1/500秒) ISO 100

オーストリアGPのレッドブル・リンクは丘陵地にあります。アンジュレーション(地表の起伏)を利用して、400mmに2倍テレコンをセットした800mmで画角を決め、後は空の雲の切れ間から射す太陽光が、撮りたいマシンを照らし出すという奇跡にも近い偶然を期待しながら、ひたすら待ち続けます。

運が良ければ? 日頃の行い? 神様のご加護? いろんな要素を味方につけて撮影することができた、お気に入りの1枚です。

EOS-1D X Mark II EF35mm F1.4L II USM(F4.5・1/8,000秒) ISO 500

同じくレッドブル・リンク。季節が合うとコース脇に花が咲いています。なんという名前の花なのか僕にはさっぱり分かりませんが、いつもはモノトーンが好きな僕でも、この可憐な黄色の花を利用した写真を撮ってみたくなります。

F1マシンのスピードはとても速く、しっかりと写し止めるには少し余裕をもって1/8,000秒が必要だと考えました。花もある程度はぼかしてキレイに見せてたいと思うとF4ぐらいがベスト、その結果としてISO 500という設定が導かれました。

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L II USM+EF2× II(F11・1/800秒) ISO 200

この写真はキヤノンギャラリーSで開催した写真展にも使った1枚です。舞台はフランスGPのポール・リカール・サーキット。

このグランプリで一番斜光になる時間にここで撮影することはレース開始前から決めていて、太陽の高さとこのルノーのマシンのノーズの角度が、僕の撮影していた場所に強烈な反射を放ちました。

もちろん、撮影前はこんなに光ってくれるとは想像もしていませんでした。不摂生な僕でも、偶然という幸運に恵まれることもあるんですよ。

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L II USM+EF2× II(F10・1/800秒) ISO 200

同じくフランスGP。カッパを持たず出かけたコースで、突然の大雨。ちょうど次の走行時間の直前の出来事でした。

松林に避難して、じっと雨の止むのを待ち続けている間に走行時間になり、そのうち雨は小雨になりますが、路面状況を見て走ってくるマシンはいません。

そんな中で最初にやって来たのが、僕がいちばん撮りたかったアロンソ選手です。「綺麗な水しぶきと共に彼の走る勇姿が撮れて良かった!」そんな自分の心の声が聞こえてくる瞬間でした。

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L II USM+EF2× II(F9・1/500秒) ISO 500

上の写真と似た感じですが、この写真はハンガリーGPの予選、アタックラップです。雨も結構降っている中ですから、このように固まり感のある豪快な水しぶきが撮影できました。

この連載でも何度か書いてきているので、ご存じの方も多いでしょうが、僕は雨の走行シーンを撮るのが大好きです。その水しぶきで、動感や迫力を表現できるのがいいんです。マシンのスピードやドライバーのアクセル開度、雨の量や路面状況などでも全然違うシーンが展開されます。

通り雨の場合だと、大雨のち晴れて光が射すという夢のような場面もあるかもしれません。そんな夢を30年も待っているんですけど、なかなか巡っては来ないですね。

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L II USM(F4.5・1/1,000秒) ISO 100

ベルギーGP、スパ・フランコルシャン・サーキット。山間にあるこのサーキットは、天候が安定しません。厚い雲に覆われた一部以外は青空という状況で、露出を意図的に切り詰めて背景を暗く落とし込みました。メルセデスのシルバーは最強の味方となります。

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L II USM(F16・1/1,000秒) ISO 400

ベルギーGP、上の写真でも書いたように安定しない天候が僕は大好物です。コントラストのある雲を演出してくれることも多いです。もはや、主役はF1マシンではなく、空に広がる雲ですね。

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L II USM(F9・1/800秒) ISO 500

イタリアGP、モンツァ・サーキット。歴史あるサーキットは、写真を撮る上でも好条件になることが多いです。新しいサーキットは金網とコンクリートで覆われていることが多く、しかも走行するマシンまでの距離が長いため、絵に変化を付けにくい場合が多いのです。

EOS-1D X Mark II EF85mm F1.4L USM(F11・1/1,600秒)ISO 200

美しい雲の隙間から、さっと太陽が路面を照らしました。85mmの単焦点レンズは、この解像感を活かしたくて常にフォトジャケットの中に入っている、お気に入りです。

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L II USM+EF2× II(F4・1/640秒) ISO 2000

シンガポールGPのナイトレースが行われるコースは、美しい照明設備で照らされています。

EOS-1D X Mark II EF35mm F1.4L II USM(F9・1/500秒) ISO 200

ブラジルGP、インテルラゴス・サーキットの最終コーナーの登り区間。太陽は背後にあって、明るめの空が展開しています。そして目の前の空は真っ黒。

そこにトロロッソのマシンが駆け上がって行く時、背後の空が大きなトレーシングペーパーのように柔らかな光でマシンを照らします。フルサイズのデータで見ると本当に美しいんです(掲載画像が小さなデータですみません)。

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L II USM+EF2× II(F29・1/8秒) ISO 50

400mmに2倍テレコンをセットした800mmによる超望遠でスローシャッター。芯がしっかり残ると、シャープな画像が撮れます。これでしか表現できない世界でもあります。

しかし撮影している時は、何枚も連写して、どうか1枚でもいいから写っていてくださいと願いつつ、シャッターをひたすら切る感じです。

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L II USM(F5.6・1/500秒) ISO 200

アブダビGP、ホテルのバルコニーから撮影をさせていただいています。バルコニーから下を向きながらの撮影ですから、一脚は使えません。

太陽が沈む直前に始まるセッションですから、このようにマシンに光が当たるのは最初の数分だけ。その短い時間だけしかこのようなライティングになりません。手持ちの400mmで狙うという緊張感がたまりません!

EOS-1D X Mark II EF400mm F2.8L II USM(F2.8・1/5,000秒) ISO 4000

アロンソ選手がF1から引退した2018年。レース終了後、ホームストレートでドーナツターンを決めてくれました。ドーナツターンをするかどうかは分かりませんでした。後からカメラの設定を見てみると、どんなシーンでも対応できるような設定になっていました。パルクフェルメに帰ってきて、暗い中でも撮れるようにISO感度を4000までアップしていたように思います。

しかし、アロンソ選手は2021年、再びF1の舞台へと帰ってきました。2005年と2006年にチャンピオンとなったベテランドライバーの復活です。この時のような、キラキラした速さには少し陰りが見えているようにも思いますが、それでも期待せずにはいられません。一体どうなのか、今年残りのレースをしっかり撮影したいと思います。

さて、僕はと言えば、この原稿をアンドラという国に滞在しながら執筆しています。毎日、狭いホテルの部屋ですし、朝ごはんにも飽きてきました。明日にはポルトガルまで陸路1,400kmの旅に出ます。じっとしているより、動いていた方がいいですね。

熱田護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。85年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。92年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行う。 広告のほか、雑誌「カーグラフィック」(カーグラフィック社)、「Number」(文藝春秋)、「デジタルカメラマガジン」(インプレス)などに作品を発表している。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集『500GP』(インプレス)を発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。