コラム

機材の即応性とデザイン性を追求――写真家・熊切大輔氏の“現場視点”で開発されたカメラバッグを紐解く

写真家の熊切大輔さんと「K2+メッセンジャーバッグ」

日本写真家協会の会長を務める写真家・熊切大輔さんが監修したカメラバッグ「K2+メッセンジャーバッグ」が登場した。大容量でありながら軽量、かつ即応性に優れたショルダー型のメッセンジャーバッグだ。

写真家のこだわりが詰まったカメラバッグについて、その特徴や開発背景を熊切さん本人に詳しく伺った。

開発の経緯について

「K2+メッセンジャーバッグ」は、ロカユニバーサルデザインから発売された製品だ。

開発のきっかけは、熊切さんが「ちょうどいいカメラバッグがない」と話していたこと。その話を受けたロカユニバーサルデザイン側から「既存のバッグに名前を入れるのではなく、1から完全な熊切仕様を作りましょう」と提案があり企画がスタートしたという。

ターゲットとして見据えているのは、単にカメラ機材を運ぶだけにとどまらない層だ。「いかにもカメラマン」といった雰囲気を避けたい人や、ファッションやデザインに敏感な若い世代、そしてスナップ撮影などで素早くカメラを取り出したい撮影者を想定している。

企画立ち上げから製品化までは、およそ4年という歳月が費やされた。部材や素材の選定、細かなデザインのやり取りを何度も重ねたほか、コスト面との兼ね合いで仕様を調整するなど、激しい物価変動の時期も重なり開発期間が伸びたという。しかし、その分だけ納得がいくまで議論を繰り返し、細部まで作り込まれた製品に仕上がった。

製品デザインの基本設計を担当したのは、大手アパレルでのデザイン実績を持ち、ロカユニバーサルデザイン製品ともゆかりの深かったデザイナーの故・西田TAKAHIRO氏。セレクトショップに置かれていても違和感のないスタイリッシュさと、カメラバッグとしての機能性を高次元で両立させるため、西田氏とともに「機能性と格好よさのバランス」を突き詰めていったという。

開閉機構へのこだわり

バッグの形状にメッセンジャー型を採用した理由は「開口部が大きく開き、カメラを最も取り出しやすいから」だという。撮影現場において、ワンアクションでスピーディーに機材へアクセスできる即応性を最優先にした結果だ。

この製品で1番目を引いたのが、フラップ(蓋)を固定する特徴的なバックル機構だ。

このバックルは磁石とフックが組み合わされた構造になっており、開ける際は軽くスライドさせるだけで外れ、閉める際は近づけるだけで「カチャッ」と吸い付くように勝手に固定される。手元を見ずに片手で素早く確実な操作が可能としている。

片手でスライドさせて開閉できるバックル機構
手を離すだけでバックルが固定される仕組み

熊切さんがこの機構に行き着いた背景には、既存バッグへの課題意識があった。音の大きいマジックテープ式は静かな現場で使いづらく、磁石のみのタイプはバッグが倒れた拍子に中身の重みで蓋が開いてしまう懸念があったという。試行錯誤を重ねた結果、「片手でスムーズに開閉でき、しっかり固定できる」1個留めのマグネットフック構造にたどり着いた。

収納面にも現場のノウハウが凝縮されている。内寸は高さ250mm、横380mm、幅140mmが確保されており、熊切さんが愛用するニコン「Z8」に「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II」のようなズームレンズを装着した状態のまま、縦にすっぽりと収納できる設計になっている。

Z8にNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S IIを装着した状態で、縦方向に収納できる

大容量でありながらバッグ自体の重量は約958gに抑えられており、カメラ2台+交換レンズに加えて、ノートPC(370×130×220mm対応)や各種アクセサリー類まで余裕をもってパッキングできる収納力を持つ。

フラップの構造と使い勝手

サイドを覆う独特な形状のフラップ

フラップ(蓋)の形状にも独特の工夫が施されている。

開閉時のスピード感が失われるためチャックを排除した一方で、上部や側面に水滴が入り込まないよう、フラップが本体のサイドまでしっかり覆いかぶさる立体設計を採用した。これにより、素早いアクセスを保ちつつ日常的な雨から内部を守る構造となっている。

街中やコンビニなどで財布などの小物を出し入れする際、フラップを全開にせずアクセスできるのもポイント。高価なカメラ機材が入っている内部を周囲に見せることなく安全に取り出しが行える

あえて一般的な「インナーバッグ」を採用しなかったのも大きなこだわり。インナーバッグは中で嵩張り収納力を落とすうえ、出し入れの邪魔になることが多い。本製品ではバッグ自体に直接緩衝材を組み込む一体構造とすることで、スペースの無駄を極限まで削ぎ落としたという。

ショルダーベルトには、車のシートベルト並みに幅が広く厚みのあるベルトを採用。重い機材を長時間持ち歩いた際の肩への食い込みやベルトのよじれを防ぎ、安定した背負い心地にこだわった。

幅の広いストラップを採用した

なお、本製品では三脚を外部に固定するベルトなどの機能をあえて削ぎ落としている。ゴツゴツとした外観になる要素を排除し、街になじむシンプルな外観と扱いやすさを徹底的に追求した側面と言える。

素材には撥水性能をもつ生地を使っている
チャックで収納部を拡張できるサイドポケット(右)も装備

カメラをバッグに入れて出かけること

バッグのワンポイントにあしらわれている「K2+」というロゴは、熊切さんの「K2写真研究室」に由来するブランド名だ。熊切さんが個人事務所の枠を超えて新しい取り組みを行う際のブランド名として冠されており、第1弾のギャラリー運営に続く「第2弾」プロジェクトとして今回のメッセンジャーバッグが誕生した。

改めてどんな人に使ってほしいかを熊切さんに尋ねると、「シンプルだからこそ性別や世代を問わず使っていただけます。街でのスナップ写真はモチロン、カメラをバッグに入れて出かけること自体を楽しんでほしいですね」と語ってくれた。

筆者の第一印象としては、立体感のあるしっかりとした形状から一瞬「少し大きめかな?」とも感じたが、実際に手にとってみると、その見た目からは想像できないほどの軽さに驚かされた。

洗練されたデザイン以上に優れた収納力と、計算された開閉ギミックの快適さも相まって、機材とノートPC、日用品をまとめてスマートに持ち運ぶことができる。カメラバッグとしてだけでなく、性別や世代を問わず普段使いや通勤用デイリーバッグとしても良い選択肢になりそうだ。

本誌:宮本義朗