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LTE内蔵デジカメ「LUMIX CM1」インプレッション
フランスで発売日に購入 カメラとスマホの融合は何をもたらすのか
Reported by 小山安博(2014/11/18 07:00)
パナソニックのAndroid搭載デジタルカメラ「LUMIX DMC-CM1」がドイツとフランスで11月13日(現地時間)に発売された。
外観はスマートフォンに近く、機能としてもLTE通信や音声通話もできるAndroidスマートフォンのようだが、カメラ機能を重視し、「カメラ」として作られた注目製品だ。フォトキナ2014で発表され、話題になったのは記憶に新しい。
国内では発売のアナウンスがまだのCM1。フランスまで購入しに行き、いち早くゲットしたので、ファーストインプレッションをお届けしたい。
日本でも使えるSIMフリー端末
CM1は、薄型ボディに大型のレンズを搭載し、背面全体が液晶モニターとなっており、縦にして持つとスマートフォンのよう。OSにAndroid 4.4を搭載し、LTEや無線LANを使って通常のスマートフォンのようにWebサイトにアクセスしたり、SNSやメールを使ったり、アプリをダウンロードしてゲームをしたり、といったスマートフォンと全く同じ使い方ができる。
チップセットはQualcommのSnapdragon MSM8974AB、メモリはROM 16GB、RAM 2GB、OSとしてはAndroid 4.4.4を搭載。スマートフォンとしてはシンプルで、オリジナルアプリもカメラ関連のみで、背景に革風の画像が使われている以外は素のAndroidといってもいいだろう。
LTEは7バンドに対応しており、日本の周波数帯も対応。技術基準適合証明(技適)も取得されているうえに、デフォルトで日本語フォントや日本語IMEも入っているので、日本での利用にも問題がない。
SIMフリーとなっているので、今盛り上がっているMVNOの格安SIMやドコモ、ソフトバンクのSIMを挿せば、そのまま日本でもLTE通信が利用できる。ドコモのSIMを挿すと、IIJや日本通信といった一部のMVNOのAPNもプリインストールされていたので、使い方もそう難しくない。
と、ここまでスマートフォンのスペックを書いてきたが、CM1はあくまで「デジタルカメラ」である。
フランスでも家電量販店fnacのカメラコーナーで販売されていたし、パリで開催された写真展示会「Salon de la Photo」のパナソニックブースで展示・販売されていたように、パナソニック自身も「カメラ」として製品を開発している。
「デジカメ」として十分な機能性
というわけでカメラ機能である。
撮像素子に1インチ2,010万画素MOSセンサーを搭載。レンズには35mm判換算28mm F2.8の単焦点Leica DC Elmaritレンズを採用しており、メカニカルシャッター、3枚羽根の絞りを搭載するなど、スマートフォンのカメラ機能とはひと味違うスペックを備えている。スペックだけ並べると、まるで高級コンパクトデジカメのようだ。
※記事の公開当初、絞り羽根の枚数を6枚としていましたが、正しくは3枚になります。
カメラとしては、縦ではなく横に持って撮影するのが基本スタイル。その状態で構えると、本体上部にはシャッターボタンとカメラスイッチを搭載。画面オフの状態や、スマートフォンとしてアプリを使っている場合でも、スイッチを動かせばカメラが起動する。
スマートフォンの場合、セキュリティのために画面ロックを解除するとPINコードを入力するようにしている人も多いだろうが、このカメラスイッチはセキュリティロックの画面をバイパスして、すぐにカメラが起動する。そのため、普通のカメラと全く同じように利用できる。
ちなみに、そこから撮影画像の再生画面やスマートフォン機能に移動しようとすると、改めてロック画面が表示される仕組みだ。
カメラでいう背面モニターは、4.7インチフルHD液晶となっており、もちろんボタン類は何もなく、すべてタッチパネルで操作する。
画面設計はLUMIXシリーズと共通しており、Q.MENUアイコンから基本的な撮影設定を変更できる。
画面上にはモードアイコンから撮影モードの変更、MENUアイコンからカメラ設定の変更も可能。
スマートフォンライクな部分としては、カメラ変更アイコンがあり、正面のカメラに加え、液晶側にあるいわゆるインカメラを使った自分撮りもできる。
画面上にシャッターアイコンもあり、スマートフォンのようにタッチしてシャッターを切る、という動作もできる。
レンズ周囲にはコントロールリングがあり、これを回すとデジタルズームが動作し、2倍までは「超解像iAズーム」、4倍までは通常のデジタルズームとなる。
画面上のコントロールリングアイコンをタッチすると、撮影モードによってはズーム以外に露出補正、絞り、シャッタースピード、ISO感度、ホワイトバランスの選択画面になり、ダイヤルを回すことで、それぞれの設定を変更できるようになる。
ダイヤルを使って回すカメラライクな操作以外にも、直接画面をタッチしても設定は変更可能。
ダイヤルは金属素材で、カチカチと段階的に動作する。適度な重みがあって高級感もある。操作性としても悪くないし、ちゃんと「カメラを使っている気」になる。
ちなみに、Q.MENUやコントロールリングアイコンにタッチしなくても、画面上部にタッチするとQ.MENU、画面下部にタッチすると、モードによって絞りやシャッター速度の変更画面になる。この当たり、操作性はよく練られていると思う。
MENUの設定画面からは、ドライブモード、フォトスタイル、画像の縦横比、記録画素数、クオリティ、AFモード、測光モードなど、一般的なLUMIXの設定画面が並ぶ。このあたりは、いわゆるスマホカメラではなく、デジタルカメラならではの部分だ。
ヒストグラムやガイドラインといった画面表示、画面上のタッチで任意の場所にAFを合わせるか、そのままシャッターを切るか、AFL/AELの設定などもできるし、もちろんデジカメなのでシャッター音やAF音を無音にすることもできる。
外観はスマートフォンライクだし、機能としてもスマートフォンに見えるが、こと撮影するだけなら完全にデジカメの感覚といっていい。
1インチセンサー搭載デジカメの画質
実際に撮影してみよう。AFはカメラを被写体に向けると自動的に動作し、シャッターボタン半押しで最終的にAF合わせを行なう。速度は十分で、遠景からマクロまで素早くピントが合う。
MFの操作やMFアシスト、ピーキングといった機能もLUMIXシリーズ共通だし、AFモードも顔認識、追尾AF、23点AF、1点AFも同じ。電子水準器も搭載されている。
カメラを構えると、背面が全面液晶、薄型、グリップなしと、持ちにくい条件がそろっている。
ただ、通常のスマートフォンに比べるとあえて厚みが残されており、コントローラーリングを持つように構えれると、それなりに安定する。単なるスマートフォンを横向きに構えてシャッターボタンを押すよりは、ちゃんと構えられるようになっているのは好感が持てる。
広角レンズでF2.8の開放で撮影すれば手ブレはしにくくはなるが、それでも手ブレ補正がないのはちょっと厳しい。高感度にして気をつけて撮れば手ブレしにくいが、このあたりはデジタルカメラよりも気を使う必要があるだろう。
そして肝心の画質だ。1インチと大型のセンサーを搭載しており、さらにLUMIXシリーズと同じヴィーナスエンジンがハードウェアとして実装されており、画質としてはコンパクトデジカメのLUMIXシリーズ並みが期待できる。
最新機能の4Kフォト機能も搭載されているので、最新世代のLUMIXと同等と言ってもいいだろう。
同じ1インチセンサーを搭載するパナソニックのデジカメだとDMC-FZ1000があるが、画質的には少々劣る印象もある。特に高感度画質で差を感じるところだが、晴天の屋外でピッタリはまるとしっかりとした画質に見える。
まだ数日の利用のため傾向は分からないが、「1インチセンサー搭載コンパクトデジカメ」の画質は実現していそうだ。
大型センサーとF2.8の開放F値を生かしたボケもスマートフォンにはないレベルで、6枚羽根の絞りによってきちんと背景がボケてくれる。
マクロ性能も十分で、スマートフォンのようにサッと取り出してサッと撮影して、しかも高級コンデジ並みの画質となるので、今まで以上に撮影が楽しくなる。
これまで、あまりスマートフォンで撮影することがなかったのだが、これなら常に持ち歩いて撮影したくなった。ストラップホールがないので、気軽に首からかけておく、という使い方ができないのが残念なところだ。
ちなみに、4Kフォトを利用しようとすると、まずGoogle Playからアプリをダウンロードするよう求められるのだが、エリア制限がかけられており、日本からはダウンロードできない状態だった。
Googleアカウントの国を見ているのか、IPアドレスから判別しているのかは定かではないが、おかげで現時点で4Kフォトの機能は試せていない(4K動画の撮影はできるが、画像切り出しやプリ連写といった機能が利用できない)。ダウンロードできるようになったら試してみたい。
カメラとスマホが融合。使っていて楽しいデバイスに
パナソニックは、CM1を「コミニュケーションカメラ」という位置づけにしている。スマートフォン機能を取り込んだことで、インターネットを通じた画像のやりとりが非常に簡単にできる。
スマートフォンの機能はすべてをカバーしているので、例えば画像に位置情報を埋め込む場合も、GPS、携帯基地局、無線LANアクセスポイントの3種類を使うので、これまでのデジカメのGPSのように測位に時間がかかることもない。
画像の転送も、今までの無線LAN搭載デジカメのように、「無線LANを起動してスマートフォンと接続して画像を選んで転送してスマートフォンでSNSに投稿」といった手順は必要ない。SNSアプリを起動して画像を選んで投稿すればいい。無線LANだけでなくLTEにも対応しているので、何も考えずにそのまま転送できる。
プリインストールされた独自のアルバムアプリは、カメラ撮影時に再生ボタンを押すと立ち上がるように設定されており、使い方はAndroidスマートフォンのアルバムアプリと大差ない。違いとしては「自動バックアップ設定」と「ピクチャジャンプ」を搭載している点。
自動バックアップは、オンラインストレージの「Googleドライブ」に撮影画像を自動的にアップロードする機能。Androidは基本的にGoogleアカウントが必要なので、ほぼすべての人がGoogleドライブは利用できる状態にある。容量は標準では15GB。無線LAN接続のみ、さらに充電時のみ、といったバックアップのタイミングも設定できる。
Googleドライブにアップロードされたら、あとはPCや他のスマートフォン、タブレットとも同期されるので、どの端末を使っていても画像をすぐに確認できる。PCに転送されたら、それを普段の画像を管理しているフォルダに移動させれば、Googleドライブの容量を食いつぶすこともない。
RAWや動画ファイルも転送できるので、すべての撮影ファイルを自動的にクラウドにバックアップすることが可能だ。これまでのように、いちいちメモリーカードを取り出してPCにつないで画像を吸い出す、といった作業も不要。
ピクチャジャンプ機能は、パナソニックの携帯電話にも搭載されていた機能。現在は無線LAN搭載デジカメとスマートフォンを接続するアプリ「Image App」にも採用されており、再生画面で画像をロングタップすると、4方向にショートカットが現れ、画像をドラッグ&ドロップすると任意の機能が実行できるというもの。
壁紙に設定する「登録」や「削除」、「リサイズ」に加え、TwitterやGmailなどのアプリを指定することもできる。パナソニックのデジカメで慣れている人は簡単に使えるだろうし、手早く画像を処理できる点はいい。
とにかく、いつでもネットに繋がっているというのは、このCM1の最大の特徴だ。コモディティ化したコンパクトデジカメと、同じくコモディティ化したスマートフォン。この2つを組み合わせたら、新たな世界が見えてきた。単に「スマートフォンのデジカメを強化した」のではなく、「デジカメに通信機能を入れただけ」でもない。「写真はコミニュケーション手段」という根本的な考え方が、カメラとスマートフォンをうまく融合させた製品を生み出したのだろう。
世界でも、デジカメとスマートフォンの両方を作っている会社は多くはない、というより、ソニー、サムスンとパナソニックしかない。パナソニックはコンシューマ向けスマートフォン事業からは撤退したが、今も法人向けはあり、もともと携帯電話の蓄積はある。そのパナソニックだからこそ作れたのが、今回のCM1だ。
久しぶりに使っていて楽しいデジカメに出会った気分になったのが、とにかく嬉しい限りだ。現時点で日本での発売は公式にはアナウンスされていないが、日本語環境にも対応していることもあり、早期の発売を期待したいところだ。