特別企画
タムロン「16-300mm F/3.5-6.3 Di II VC PZD MACRO」
リレーレビューその3(風景・ネイチャー編)
マクロから遠景までを1本で!18.8倍ズームの実力を探る
Reported by 萩原史郎(2014/9/29 16:58)
タムロン「16-300mm F/3.5-6.3 Di II VC PZD MACRO」リレーレビューその2(旅行・スナップ編)
タムロン「16-300mm F/3.5-6.3 Di II VC PZD MACRO」リレーレビューその1(子ども・ペット編)
高倍率ズームレンズと言えば、タムロンのお家芸と言っても過言ではないでしょう。1本のレンズだけで軽快に撮影したいときや機材を減らしたいときなどには大変重宝するレンズで、筆者もこれまで多くのレンズを使ってきました。ただ、高倍率ズームの宿命として画質面にいくばくかの不満があったことも事実です。そのため機能と画質を勘案して、どこで折り合いをつけるかを意識し、取材のためのレンズチョイスをしてきました。
しかし昨今の高倍率ズームは高画質化が徐々に進みつつある中で、さらに倍率も向上しています。その代表格がタムロンの16-300mm F/3.5-6.3 Di II VC PZD MACROです。
小型軽量を維持しつつ、世界最高倍率を獲得した本レンズは、従来レンズのレベルを超え、さらに取材の効率が高まると予想できます。そこで風景撮影の現場でいかなる働きを見せてくれるのか、期待を胸に夏から秋へ変わりつつある山野を巡りました。
サイズと操作性
キヤノン用は長さ102mm、最大径75mm、質量540gというスペックを持ちます。数字では実感が伴わないと思いますが、今回使用したキヤノンEOS 70Dとのバランスは良く、適度な重量感が手ブレを抑えてくれる味方になります。
望遠端300mmへズーミングしたときは、さすがに約18.8倍のズーム比を持つレンズらしく長さを感じますが、手のひらに乗せるイメージで構えると、扱いやすくなります。
AF使用がメインのレンズなので、あまり出番のないピントリングはゴム幅が狭い設計ですが、実際に300mmにしてマクロ域の撮影で使ってみるとデリケートな調整もスムーズに行えて、好感触を得ました。
焦点距離
今回はキヤノンのAPS-Cサイズセンサーを搭載したカメラ(EOS 70D)を使ったので、広角端は25.6mm、望遠端は480mm相当として使えます。広角端は28mmより広いので相応のワイド感が得られます。35mmフルサイズ換算で20mm相当を切るような超広角を期待すると物足りないかもしれませんが、極端なデフォルメ表現を求めない限りは必要十分と言えます。
圧巻は望遠端で使える480mm相当の画角です。風景写真の現場では35mmフルサイズ換算で300mm相当の画角があれば不満はないのですが、それが480mmまで使えるわけですから、思い切った切り取りが可能になるわけです。しかも強力な手ブレ補正機構VCが搭載されているため、手持ち撮影を敢行してもブレにくいのは嬉しい限りです。“望遠の目”を持ったフォトグラファーにはこの上ないメリットとなることは間違いないでしょう。
解像力
すでに述べたように、高倍率ズーム唯一の弱点は画質でした。高倍率を得るために解像力が損なわれたわけですが、本レンズに関して言えば明らかな改善が見られます。
細かい要素が多い風景を撮影したときの解像力は満足のいくもので、今回撮影したいくつかの画像をご覧いただければ確認できると思います。カメラ自体の解像力が高ければ、それを素直に伝えてくれる力が本レンズにはあります。
また、高倍率ズームはテレ端を開放絞りで使うと像が甘くなる傾向がありますが、本レンズでは気になるレベルではありません。積極的に開放絞りが使えるのはメリットです。とはいえ、レンズはある程度絞ると収差が解消し、最高の解像力が発揮できる性質があるので、F8やF11などに絞って使うのも賢い方法です。
ボケ
筆者の経験では、高倍率ズームは玉ボケを出すには向いていると感じていますが、本レンズでもまったく同じ感触を得ました。背景に木漏れ日がある場合、綺麗な玉ボケを出すことができるので、画面を華やかに飾ることができます。
テレ端の開放F値は6.3なので玉ボケ自体は小さいのですが、望遠側の焦点距離が長いので、画面にたくさんの玉ボケを散りばめることができるため好結果を生みます。
また、通常のボケ味も硬くはないので、前ボケや後ボケを使って主役を美しく見せることができます。大口径タイプではありませんが、ボケを積極的に使うことができるレンズです。
AF速度、静粛性など
AFがいかに気持ちよく決まるか、これをレンズの善し悪しを計る目安の1つととらえている方もいらっしゃるでしょう。軽快に決まるAFは撮影にリズムを与えてくれるし、自然の雰囲気を損なわないからです。
そういう観点からすると、本レンズのAFは超音波モーターPZDの搭載によって高速化と静粛化を実現しているため至極快適です。マクロ域から遠景へ、あるいはその逆の場面でも迷うことなくスッと決まるAFは、使っていて楽しくなります。
またAF後にダイレクトにピント操作ができるのは、とくにマクロ域において効果的で、マクロ撮影が捗るという感触を得ました。
最短撮影距離
本レンズの大きな特徴の1つは、本格的なマクロレンズに迫る近接撮影能力を持っているということです。最短撮影距離はズームの全域で39cmですから、望遠端ならクローズアップ撮影が、広角端なら背景をたっぷり見せたワイドマクロ撮影が可能になります。
本レンズはもともと高倍率ズームですから、ほぼレンズ交換の必要性はありませんが、マクロ撮影に関しても本レンズでこなせてしまうとなれば、まさにこれ1本ですべての撮影がこなせてしまうことになります。
いささか極端ではありますが、これほどの性能を持ったレンズであるという認識は持ってもいいのではないかと思います。
逆光
風景写真では、逆光を積極的に狙うことが多いので、逆光の性能は気になるところでしょう。ダイレクトに太陽を入れるような場面では、多少のゴーストが発生する場合もありますが、水面の反射光だったり、太陽が入らない逆光撮影なら、光を上手く取り入れることができます。約18.8倍という驚異的な高倍率ズームを誇るレンズとしては優秀な部類ではないかと感じました。
まとめ:体力を温存しつつシャッターチャンスの機会を増やす
広角から望遠、そしてマクロまで、たった一本のレンズで撮れてしまう魅力、もっと言えば魔力がこのレンズには潜んでいる、そんな実感を得た撮影旅になりました。
レンズ交換の手間がないのでリズムが崩れず、加えてセンサーにもゴミが付着しないメリットは、風景撮影の現場では計り知れません。また、ついレンズ交換が億劫になって撮影をあきらめてしまうというようなこともありません。手ブレ補正機構VCが強力なので、手持ちでも積極的に撮影に挑めるため、シャッターチャンスの機会も増えます。
さらに、機材が減ることで行動範囲が広がったり、体力を無駄に削ることがないため安全に撮影が楽しめることも、実は大きなメリットなのです。
これほどのメリットを満載した16-300mm F/3.5-6.3 Di II VC PZD MACROを、是非使って見てください。作品が変わるかもしれませんよ。