特別企画

【写真家×マイクロソフト】クリエイター向けPC「Surface Book」放談

ディスプレイの品質は? スペックは十分? 桃井一至がハイエンドモデルの使い勝手を語る

左から、日本マイクロソフト株式会社 三野達也さん、写真家 桃井一至さん

本誌でも注目しているマイクロソフトの2in1 PC「Surface Book」。2016年2月4日の発売から10カ月経ったいま、写真家の桃井一至氏と、日本マイクロソフト株式会社でSurfaceシリーズを担当する三野達也さん(コンシューマー&パトーナーグループマイクロソフトデバイス戦略本部業務執行役員本部長)のお二人をお招きして、「写真家とSurface Book」について、ざっくばらん対談してもらいました。

Surface Bookを持って国内外を飛び回る桃井さんと、Sufaceシリーズを引っ張る立場の国内キーマンである三野さん。さて、どんな話が飛び出すのでしょうか。

Surface Book

Surface Bookの詳細な仕様については、こちらの記事もご覧ください。

なぜ「Surface Book」は写真愛好家におすすめなのか
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/749780.html

三野:今までずっとマイクロソフトは、ノートPCをパートナー様経由でしか出していませんでした。

桃井:確かに、ハードのメーカーではないという意識ですね。

三野:2012年に「2in1」というフォームファクターの「Surface RT」というハードを出させてもらいました。PCとスマートフォンという境目が曖昧になって行く中で、どちらかしか使わないのではないか、PCのニーズが限定されるのではないかという懸念がありました。そういったものを変えていこうと、2in1タブレットのSurfaceという新しいものを作りました。

これまでPCというと、リビングなどに設置したまま使わなくなっていくというものでした。しかし、(2in1という)モバイル性を取り込んだ結果、どこにいっても使えるものになり、ある種のスマートフォン的な使い方もできるし、何かを作り出すクリエイティブな使い方もできるデバイスになりました。

もちろん、これまでハードウェアを作ることが無かったので、最初は大変でした。しかし、Surface RTの登場から今回の2in1ノートPCである「Surface Book」を出すまでの市場をみてみると、2in1というカテゴリの製品が2割近く登場しています。そのことからも、Surfaceの存在が認められてきたのではないかと思います。

今回新しく出した2in1ノートPC「Surface Book」は、PCの新しいカテゴリを作るとまではいきませんが、ハイエンドな部分でクリエイティブな領域をカバーするという意図をもって出した製品です。クリエイティブな部分までカバーできるWindowsデバイスが少なくなっている中で、もう一度活性化させるべくハイエンドな製品を提供するに至りました。

元々Surfaceという製品は、ビジネスパーソンに評価されている製品ですが、ハイパフォーマンスという部分で新しいオーディエンスを引き込みたい、提案できるデバイスになっています。ぜひ、多くのクリエイターの方に使ってほしいですね。

写真家のモバイル環境とは?

桃井:個人的な使い方でいうと、自宅ではMacも使っていますが、持ち運びのノートPCはずっとWindows機でした。仕事柄プレゼンテーションを行うことが多いのですが、Macで作ったプレゼンテーションファイルをWindows機で開くとズレてしまうというトラブルあって、その対策のためです。特に、(Windows機を使っている)クライアントから作成したファイル自体を求められることもあって、Windows機で完結させるようにしています。

三野:Surface Bookはモバイル性が高いデバイスです。キーボードを利用することでの入力パフォーマンス、そして、キーボードを取り外して大型のタブレットとして利用できるというSurfaceのアイデンティティをもっています。特にキーボードの取付部に関してはこだわっており、蛇腹のヒンジを採用することによって、入力パフォーマンスを確保しながら、モバイルの環境を実現しています。実際にSurface Bookを出張先に持っていってますか?

桃井:バンバン持っていってますよ。全く問題ないですね。

三野:出張先でも、編集作業を行ったりしましたか?

桃井:行きの移動中に原稿を書くということはあります。現地でも加工まではほとんどないですが、撮ったものをブラウジングしたり、スタッフと過不足の確認をしたりといった使い方をしました。そういった意味でも、モバイルであることは重要ですね。いまは4,000万画素クラスの画像も多いですから、マシンパワーがあったほうがストレスがなくて安心できます。

三野:ディスプレイを外してタブレットのようにして使用する「クリップボードモード」は使われていますか?

広告などの撮影現場で、撮影のラフのようなものを見ながら打ち合わせをする時はキーボードを取り外します。より身軽になるので、歩き回る時に便利ですね。

三野:私の場合も、デスクではドッキングステーションなどを繋いでいますが、打ち合わせなどで移動が必要な場合は、キーボードを取り外して、ペン(Surface ペン)を持って行くことが多いです。人に見せるという時はクリップボードモードスタイルが使いやすいかもしれません。

桃井:仕事柄、拡大をしてピントの精度をチェックをすることがあるのですが、タッチ操作に慣れると、もうマウスには戻れないですね。マウスを使ってボタンを探すという行為が面倒に感じてしまいます。

三野:タッチパネルに対応したタブレットというものが普及していて、それがPCにフィードバックされている。タッチというのは、新しいインターフェイスとしてなくてはならないものになっているということですね。

我々としては、直感的なインターフェイスとしてペンもチャレンジしていきたいと思っています。そもそも、Surfaceというのは、如何に手で操作させようかといった、ナチュラルなユーザーインターフェイスで操作してもらおうというのがコンセプトでした。実際にペンは使っていただけましたか?

桃井:まず、従来のペンデバイスの話ですが、画面と作業スペースのズレを感じてしまって、正直使っていませんでした。Surface Bookでのペン操作というは練習中ですが、画面に向かって直接触れられる分、直感的に操作できるのが良いですね。

Surface Bookではもちろん画像のレタッチでも使用しましたが、PDFの校正なんかでも使っています。今までだと、プリントして赤ペンで書き込み、今度はそれをスキャンして送るという手間がありましたが、Surface Bookだとペンで直接書き込めるのが良いですね。家であれば従来の方法でも問題ありませんが、事実上作業ができない出張先でも簡単にできるのは楽に感じます。

三野:例えば、ビジネスマンだと、ペンと手帳(ノート)をまだまだ使っていると思います。我々としてはそれを、なんとかして(Surface Bookとペンに)置き換えてもらえないかと考えています。

桃井:Surface Bookには、メモアプリを搭載していますよね? 普段はメモ用紙に書き付けるものの、無くすことがあって、そういった意味では、徐々に切り替えていきたいという意識をもっています。

三野:OneNoteのようなノート作成アプリもあります。色々なものが書けますし、貼り付けることができます。そして何より、クラウドで共有することができる。情報というのは自分で管理するだけじゃなく、他の人に広げていくというのも重要です。そういった時に、すぐにコメントなどが書き込めるペンは便利ですね。

あと、クラウドの共有先というのもPCだけじゃなくて、我々はマルチデバイスというのを推進していますから、OSを問わず、利用者がどんな入り口からでもアクセスできるようにしています。

Surface Bookには、1年間の1TBオンラインストレージ利用権が付与されています。一般の方だと中々使い切るものではないと思いますが、フォトグラファーの立場ではどうでしょうか?

桃井:写真や動画を撮ると多すぎるという容量ではないですね。普段、データの保存には外付けHDDを利用していますし、クラウドも一部は利用しています。過去に撮影したデータは手付かずですが、今後のことを考えると、上手くクラウドを活用した方が出張先などで便利であるとは感じています。

どうしても、出先で「こんな写真ない?」と聞かれることが増えてきて、出先なんで家に帰らないとわからないとは言いにくいですよね。そういう時代になってきたのだと思います。

とはいっても、ワークフローの意識改革として、OneNoteでクラウドにアップロードして、みんなと共有する。なんとなく理解していますが、それをすぐに仕事に導入できるかというと難しい問題ですね。

色再現性の高い「3:2」ディスプレイ

三野:我々がこだわったところで、画面の評価はどうでしょうか? 3,000×2,000dpi(267ppi)の解像度もそうですし、カメラと同じ3:2の比率もSurfaceの特徴なのですが。

桃井:まったく、不安も不満もないですね。色再現度という意味では、厳密にいえば、事務所の環境とのズレは感じますが、結局どこまでを許容範囲として割り切るしかないわけで、そういった意味では十分なデキです。基準にして良いレベルです。ただ、贅沢な話ですけど、反射しないモデルはでないですかね?

三野:やっぱり、屋外で利用する場合はノングレアは必要ですよね。防塵や防水といった機能も必要ですか?

桃井:あるならあったで嬉しいですが、それによって、例えばキータッチが悪くなるぐらいなら、現状維持でも良いかなとは思います。もちろん屋外でも使いますが、その場合は映り込みを考慮してモニターフード(テント状のもの)などを使いますから、最悪少し降ったとしても守られていますしね。

三野:屋外撮影でSurface Bookをビューファインダーとして使うようなケースはあり得ますか?

桃井:そこまではないですね。

三野:機能としてあったら便利ですか?

桃井:スタジオ撮影をメインとしている人なら(Surface Bookではないですが)やっている人はいますね。撮影のワークフローとしては、例えば、高いところから商品を俯瞰撮影する場合、高所でライブビューを見ながら、助手に指示を出すといった使い方です。屋外だと、なかなかシャッターを切るために利用する機会はないと思いますよ。

三野:キーボードの使い心地はどうですか?

桃井:原稿を書くのには凄く便利ですね。いつもなら慣れるまでに時間がかかるのですが、お世辞抜きに違和感なく利用できていますね。キータッチ音も静かですし。

三野:インタフェース周りはどうですか?

桃井:SDカードリーダーは重要ですね。スマートフォンなどの充電用にUSBがもう1つあれば便利に思いましたけど、ACアダプターにUSB給電端子があるので、大抵は事足りています。それに、ACアダプターの大きさにはビックリしました。ノートPCとしては小さいですし、出張族には最高です。

特にカメラ一式、例えばボディに、広角レンズ、標準レンズ、望遠レンズ、マクロレンズなどを持っていくと計10kgぐらいになりますから、飛行機の持込みを考慮すると、やはり軽い方が嬉しい。PC自体の性能であったり、使い勝手であったりも重要ですが、軽量であることもPC選びの重要な要素ですね。

三野:軽量化を考えて、ノートPCはだいたいアルミニウムかマグネシウム合金を採用しています。Surface Bookの場合は、マグネシウム合金で作られていますが、実は1つの塊をくり抜いて形を成型しています。CNCマシンを使って極限まで薄くするのですが、強度を保つためにうねりの模様を入れたり、穴を開けることで軽量化したりと工夫しています。ちなみに、1台作るのに上側が80分、蓋で100分の3時間くらいかかります。

桃井:薄くて丈夫って大変なんですね。

三野:そうなんですよ。しかも、(キーボードの)ヒンジ部分にはワイヤーが入っていまして、通電するとワイヤーが縮み、それによってロックが外れるようになっています。普通のPCでは見ないような仕組みになっていますね。そうすることで、安定しますし、振り回しても外れない構造になっています。特にヒンジ部分は、開発のために100サンプルぐらい作っているほどこだわっています。

あと、元々ブリーフケースを鞄から持ち出すというところをイメージして作っていますので、造形的にはフォルムから入っています。なので、重心の関係から鞄から取り出した時の重みをあまり感じなくなっています。さらに、持った時に軽く感じるように計算されています。加えて、鞄から取り出した時に、自慢できる美しいデザインになっていると思います。

桃井:華奢な感じも全くしませんね。カメラバッグの隙間に入れて、ダメだとわかりつつも、大きなレンズをグイグイと押し込むわけですが、過去に使用していたノートPCだと、蓋部分が反り返ってしまったり、凹んでしまったりとあったわけですが、今のところそんな心配はない。消耗品といえば消耗品ですが、人前で使うものだし、物として愛着がもてるのは大事ですね。

デジタルカメラを使うならPCにも目を向けて!

三野:Surface Bookは、プロの方はもちろんですが、一般の方にもカメラとPCの組み合わせで使ってもらいたいと考えています。しかし、カメラに投資することはあっても、PCに投資する人は案外少ないですよね。

桃井:家で使うPCについては、目にする機会がないのでなんともいえないですが、一般のカメラ利用者と話をしてみると、カメラの色味だとかなんだとかについては話を聞くものの、PCの環境についてはそこまでではない印象ですね。

もちろん、こだわる人はこだわっていると思います。ですが、限られた予算の中で、優先順位が低いということだと思います。

一方で、彼らは良い物だと認めると高くても購入する人が多いですね。SDカードやカメラバッグに数万円払っていますから、良い物だとしっかり伝えれば、そこは理解してもらえると思います。

桃井:(我々の業界で)超ベテランであっても、デジタル黎明期、特に40代半ば以降で少なくとも50歳オーバーでデジタルに詳しい人なら、Photoshopの兼ね合いからMacを利用している人が多くいますね。あと、iPhoneを持っている。だからPCもMacといった強さもありますよね。

三野:そこを変えていかないといけないですね。

桃井:Windows Phoneに頑張ってもらって……(笑)。ちょっと時間がかかると思いますけど。

三野:写真を趣味にしている人にメッセージはありますか?

桃井:カメラにお金をかけるだけでなく、PCにもしっかりかけましょう。例えば、風景撮影を趣味にしている人がプリントを考えた時に悩むのが、カメラのモニター、PC、そしてプリントで色が合わないということ。PCのモニターはRGBで、プリンタはCMYKなので、どうしてもズレてしまう。そのズレを如何に狭めるか、自分の中の許容範囲に落とし込めるかということになりますが、現状では乖離している人があまりにも多い。

そんな時、良いPCを使うことで、根本的な解決策にはならないけども、それでもギュッと望んだ範囲での近道にはなるはず。今までは、キャリブレーションに対応した家の環境でしか期待できなかったものが、Surface Bookによって、モバイルでも近しいことができるようになってきたと思う。

あと、そこまでヘビーではない、街歩きのような撮影会のアテンドを行った際に感じたことですが、休憩時間に撮った写真をスマートフォンやタブレットで確認している人が珍しくなくなっている印象ですね。

今までだと、カメラを持ち寄って背面モニターで確認しあっていたのが、今やスマートフォンやタブレットに切り替わっている。特に年配層は画面サイズの大きなタブレットが多い。ライトなユーザーでも当たり前のようになっているので、Surface Bookの大きな画面サイズは勝ちですね。

画像データについても、専用アプリをダウンロードしたうえで、Wi-Fiを使ってタブレットなり、スマートフォンなりに転送するので、Surface Bookでもそうした機能がほしいところです。

三野:写真家の視点で有意義なお話をありがとうございました。Suface Bookを今後もご活用ください。

制作協力:日本マイクロソフト株式会社

デジカメ Watch編集部