ギター・マガジンが本気で教える こだわりの愛器撮影テクニック
第1回:製品写真のように緻密&メカニカルに撮る
「真正面」からギター本来の姿を捉える【基礎編】
2017年9月5日 12:00
本連載は、インプレスグループのリットーミュージック新刊「ギター・マガジンが本気で教える こだわりの愛器撮影テクニック」の一部内容を紹介します。なお、Webページ化にあたり一部を編集・再構成しています。(デジカメ Watch編集部)
ギター・マガジンの製品紹介記事や広告でもよく見る「真正面」のギター写真は、楽器本来の姿を緻密かつメカニカルに描写する際に有効です。大切な1本を美しくもありのまま記録したり、またオークションに出品したりする時にもこの撮り方は活用できるのではないでしょうか。
製品写真は無機質で面白みに欠ける……なんて思っている人もいるかもしれませんが、実はギター撮影のノウハウが詰まった基本でもあり、ストレートな表現であるがゆえに、こだわると非常に奥深いことも事実。
「手軽に撮れる」という本書のテーマに即し、なるべく自宅などでも再現しやすい簡潔な手法を紹介しますので、ぜひトライしてください。
背景を整理して撮影環境を構築
いわゆる製品写真っぽくギターを撮るためには、まず背景を整理することが大切です。当たり前のことですが、自宅などで撮影する場合もゴチャゴチャした棚や家具の前は避けるべきでしょう。白壁のようなスッキリした部屋壁は許容範囲だと思いますが、柄や装飾入りの壁ではギターの存在感は薄れてしまいます。その場所の雰囲気を生かすことが目的ならそれもアリですが、ギターだけを見せるうえではギター以外の情報を排除できる無地の背景が基本。
むしろ撮影用の背景紙を部屋の一角にセッティングして、理想的な環境を作ってしまうほうが手っ取り早いとも言えます。背景紙はパーマセルやガムテープなどで壁に貼っても良いですが、専用スタンドがあれば自由度の高い製品写真風撮影が行なえるので、本書としては導入をオススメしたいところです。
なお、背景紙の色は汎用性に優れたホワイトかグレーが良いでしょう。サイズはギター1本を撮影するのであれば、幅1.35m×長さ5.5mのものが使いやすいと思います。これより大きい分にはスペースさえ確保できれば問題ありませんが、これより小さいと撮り方によっては背景が足りなくなる可能性があるため、避けたほうが無難です。
上の写真は白の背景紙をセッティングしたところ。ここでは幅1.35m×長さ5.5m、スノーホワイトの背景紙を使いました。スタンドを用いてギター全長の1.5~2倍程度の高さから床へ向かって垂らし、そこから滑らかな曲面を描くようにカメラ側に1.5~2m程度伸ばします。この曲面は撮影スタジオのホリゾントと呼ばれるなだらかな壁を模したもので、これによって壁と床の境を感じさせない背景を作ることができます。
製品写真風の撮影に適したギター・スタンド
製品写真のようにギターだけを見せる場合、一般的なギター・スタンドに立てて撮るのもアリですが、それ自体が目立って少々邪魔かもしれません。そこで役立つのが、通称「三角スタンド」とも呼ばれる小型タイプのスタンドです。ご存じのようにフェンダー・ジャズマスター/ジャガーや、ギブソン・フライングVのような変形ギターは立てられませんが、ストラトキャスターやレス・ポール、セミ・アコースティック系にはだいたい使えます。
さらに裏技として、小型スタンドの前部に設けられたボディをホールドするためのツメを外側に折り曲げてしまう方法があります。これによってギターの前面に被るものが何もなくなり、スタンドの存在感はさらに薄まるというわけです。ただし、ギターの安定感は低下するのであくまで自己責任で! ギター・マガジンの撮影でもツメを折ったスタンドを多用しますが、万が一の転倒に備えて楽器の横にアシスタントがひとり立つなど、万全を期しています。
なお、小型スタンドの注意点としては、普通にギターを置くと後方へ反り気味の状態になるため、真正面から撮影するうえではやや角度が付き過ぎてしまうことです。これを解消するには、スタンド後方のボディ・バックが接触する部分に布やスポンジなどをかませると良いでしょう。ギターを立て気味にすることができ、真正面からの撮影に適した角度が得られます。
ギターとカメラの配置
前項を踏まえて、次はギターとカメラの配置を見てみましょう。まずギターですが、当然ながらカメラから見た時にビシッと垂直になるように置くのが基本です。これが左右どちらかに傾いていたりすると、それだけで見栄えが悪くなります。
それと同時に、ボディ・トップとカメラが平行に正対するように置くことも重要です。例えばカメラから見て1弦側が後方へ下がった状態だったり、その逆だったりすると、ギターの形まで何だか歪んだように見えてしまいます。基本中の基本とも言える事柄ですが、製品写真のように緻密な写真を撮るうえではギターの置き方は非常に大事。逆に言えば、カメラに対してギターが完璧に垂直・平行に設置されているだけで写真が締まってきます。
なお、ギターと背景紙の距離は撮りたい写真のイメージや光源によっても変わってくるのですが、ストロボ光で撮る場合を基準に考えると、背景の白を生かしつつ影も出にくい位置としては約1〜1.5m程度が妥当でしょうか。
ギターが正しく置かれていない状態
ギターを真っ直ぐ立てたら、カメラを三脚にセットして配置します。ギターをきちんと置いていてもカメラがいい加減では元も子もありませんから、細心の注意を払いましょう。なお、製品写真のように撮る際は正確な位置決めと緻密な構図設定が求められるので、三脚は必須です。
カメラとギターの距離はレンズの焦点距離に応じて変わりますが、ギターの形を忠実に写すならレンズの焦点距離は50~85mm程度の中望遠域が理想的。特に製品写真ではシェイプを正確に捉えることは大切なので、見た目に近い形で撮れる70mm~それ以上を確保したほうが良いかもしれません。カメラとギターの距離は、それに応じて決まってきます。部屋の広さや奥行きなどの撮影環境に制限される部分もあるかと思いますが、状況が許せば90mmのマクロレンズを使うのもアリです。
カメラの位置が決まったら、次はカメラの高さを調整します。ギターの形を忠実に捉えるにはカメラ(=レンズの中心)がボディ・トップ面と平行に正対したうえで、かつファインダー内に表示されるフォーカスポイントの中心が12フレットと重なる位置にセットするとちょうど良いでしょう。ストラトやレス・ポールの場合、こうすると1弦側カッタウェイ内側のボディ・サイドが少しだけ見えるはずですから、それを目安にしてください。
「真正面」から撮るための実践的ライティング
というわけで、実際に「真正面」からギターを撮る際の基本ライティングを説明していきますが、まずはお手本カットを見てください。
Fender Custom Shop / 2005 '56 Stratocaster NOS(Black)
楽器提供:Nico-Nico Guitars
全体にしっかり光が回って細部まで緻密に描写できているうえに、単にフラットなだけではない「質感」も表われています。それに貢献しているのは、6弦側ボディ・エッジと1弦側ホーンの内側に写り込んだハイライトや、ボディの立体感が伝わるコンター部分、ギラリと光る金属の表現などではないでしょうか。
製品写真というと、どこか無機質なイメージもあるかもしれませんが、ギターに関してはさにあらず。その楽器が持つムードまで捉えることが大切なのです。
お手本写真にいたる手順をチェック!
では、このお手本カットに至るライティングの過程を追ってみましょう。作例を手がけた菊地氏はギター撮影のエキスパートですから、実際には一発で完成形のセットを組みますが、あえて手順を分解してお見せすることでライティングのポイントをわかりやすく説明していきます。
また、ここではモノブロック・ストロボを使っていますが、クリップオン・ストロボや定常光ライトでも基本的な考え方は同じです。
なお、ギター全体をシャープに見せるため、絞りはF8〜F11程度かそれ以上に設定します。ただ、カメラやレンズの特性によってはあまり絞り込むと解像力が落ちる傾向もあるため(回折現象)適度にとどめましょう。ストロボ撮影においてはシャッタースピードは1/60〜1/125秒で固定。そのうえで露出計や背面モニターで確認しながらストロボの光量を決定し、露出が不足する場合はISO感度を上げることで補います。
01:まずは手軽な「天井バウンス」を試してみる
撮影環境が白い天井であることが条件ですが、ストロボ・ライティングの中でも汎用性が高く手軽なのが天井バウンスです。この時のストロボはソフトボックスやアンブレラといった光の拡散器具は付けないリフレクター(本体前方に装着するフード。これが付いている状態がストロボのデフォルトと考えて良いでしょう)のみで、それを被写体よりも高い位置から真上の天井に当てて反射させることで広い範囲に光を落とす、という手法です。
まずは、通称「天バン」とも呼ばれるそのライティングで撮ってみました。光が均等に回っている点と、床まで伸ばした背景紙の白が写ることでコンターがある程度は表現できた点は悪くないですが、室内全体が明るくなることで光沢のある黒いボディに余計なものもいろいろ写り込んでしまいました。光沢の少ないギターであれば天バンでも問題ないかもしれませんが、このギターには向いていないようです。
02:左斜め前からのアンブレラ・ライト
次は、大幅にライティングを変えてみましょう。内側が白い傘にリフレクター付きのストロボを当てることで、光を反射(バウンス)させて柔らかくするアンブレラというアイテムを使います。このアンブレラ・ライトをギターから約2mほど離れた左斜め前から光らせて撮ってみたのが、上の例です。
写真を見てみると、サイド方向からの光によって6弦側ボディ・エッジにハイライトが入ったことがわかります。また、天井バウンスの時のように部屋全体に光が回りすぎないこともあって、ボディ・トップに嫌な写り込みも出ていません。
ただ、左からの光の影響でペグ・ポストやコントロール・ノブの右に強めの影が出てしまいました。
03:左斜め前からのアンブレラ+レフ板
02で気になったペグ・ポストやコントロール・ノブのシャドーを抑えるために、ストロボとは逆サイドに白いレフ板を置いてみます。ここでは、ヘッドからボディ・エンドまでカバーできる180cm×90cmの大きなものを使いました。これによってシャドーが弱まると同時に、1弦側ボディ・エッジにうっすらと白が映り込んで立体感が出てきました。
なお、レフ板はギターの側面から約60~70cm程度に配置しましたが、近づけたり離したりすることで効果が変わるので、ほど良い距離を探ってみると良いでしょう。
04:左斜め前からのソフトボックス・ライト+レフ板
続いては、アンブレラからソフトボックス・ライトに変更してみます。こちらはアンブレラよりも光の指向性を狭められるため、さらに写り込みなどを少なくすることができます。また、アンブレラは白い傘に光を反射させるバウンス光であるのに対して、ソフトボックスは前面に張られた白幕で光を拡散させるディフューズ光であり、似て非なるものです。
この例では03と比べて大きな違いは出ませんでしたが、ボディ・エッジのハイライトは太くなり、それと同時に長さは少々短くなっています。このハイライトがもっと長くなり、ホーンからコンターあたりまでつながると、より美しくなりそうです。
05:左斜め前からのソフトボックス+ディフューザー+レフ板
そこで、ソフトボックスの前にブームスタンドで垂らしたディフューザーを置いてみることにしました。いかがでしょう? 6弦側ボディ・エッジのハイライトが見事につながり、ストラトならではの曲線美が一挙に強調されました。
また、ソフトボックスで拡散させた光をディフューザーによってさらに拡散させることで光質が柔らかくなり、ヘッドからボディ・エンドまで均一かつキレイに光を回すことができました。ペグ・ポストやコントロール・ノブ類のシャドーがほど良く弱まっている点にも注目です。
06:左斜め前からのソフトボックス+ディフューザー+レフ板+グレーカポック(お手本)
05の状態から、さらにギターの手前にグレーのカポックを置いて金属パーツに写し込み、メタリックな質感を強調したのが、冒頭にも掲載したお手本カットです。黒っぽく沈んでいた金属の色合いが、より自然な見え方になりました。
告知:出版記念イベントを開催
本書の出版を記念して、9月24日(日)に「ギター・マガジン presents ギター撮影セミナー&撮影会」が開催されます。セミナー講師は、本書ほかサンバースト・レスポールの研究書として有名な「ザ・ビューティ・オブ・ザ・バースト」の撮影も手がけた菊地英二さん。撮影会では、クロサワ楽器G-CLUB TOKYOに入荷した1959年製レスポールが被写体になります。
詳細はこちら→エレキ・ギターの最高峰、1959年製ギブソン・レス・ポールが撮れる! 『ギター・マガジン』の"ギター撮影セミナー&撮影会"を9月24日に開催。