新製品レビュー

パナソニックLUMIX TX1

ポケットサイズに1型センサー+10倍ズームを凝縮

パナソニックLUMIXのコンパクトに、1型センサーを搭載したLUMIX TX1が登場した。同社の1型センサー搭載機は、これまで一眼レフ風スタイルで光学16倍のズームレンズを搭載するFZ1000や、AndroidベースのコミュニケーションカメラCM1/CM10があるものの、ポケットタイプのコンパクトカメラでは初めてだ。

外観デザインは、高倍率コンパクトのTZシリーズに近い。しかし、どちらかといえばソフトな印象のTZシリーズに対し、TX1はブラック一色の硬派なイメージ。ハイエンドコンパクトらしい重厚感のある仕上がりだ。

ユニークなのが、機種名がどこにも入っていないこと。「LUMIX」の文字と、正面向かって右下に「L」のマーク、ファインダー上部に「Panasonic」の文字があるだけ。底面に小さく「品番 DMC-TX1」と入っているのを見なければ機種名がわからない。実は機種名が入らないのはTZシリーズでも同じ。一見すると新モデルか旧モデルかわからず、ユーザーが長年愛用していても古さを感じさせない。TX1もブラックボディと併せて、シンプルで精悍さが強調されている。

1型センサーを搭載しながら、ボディサイズは1/2.3型センサーのTZ70やTZ85とほぼ同じなのは驚きだ。ちなみに1型センサーは1/2.3型センサーの約4倍の面積を持つ。TX1はズーム倍率を抑えているものの、それでも高倍率で上着のポケットに入る小ささは驚異的だ。

しかし手にすると、ずっしりと重い。バッテリーとSDカードを入れたTZ85は約282g。TZ70は約243g。それに対し、TX1は約310gだ。わずか数十グラムの違いではあるが、コンパクトカメラでは数字以上に差を感じる。とはいえ決して重すぎるのではなく、ハイエンドコンパクトらしい凝縮感が伝わってくる。

左が1/2.3型で30倍ズームのTZ70。TX1は大きさがほとんど同じなのがわかる。さすがにTX1のレンズは10倍ズームだが、面積が1/2.3型の約4倍もある1型センサーを搭載しているとは思えないほど小さい。
真っ黒いボディに、TZシリーズとはまた別の重厚さを感じる。質感も高く、ハイエンドコンパクトらしい仕上がりだ。ライカブランドのレンズとも雰囲気がマッチしている。

有効画素数は2,010万。画像処理エンジンは新開発のヴィーナスエンジン。最高感度は常用ISO12800、拡張でISO25600に設定できる。またベース感度はISO125。拡張でISO80とISO100に設定もできる。

レンズはLEICA DC VARIO-ELMARIT。35mm判換算で25~250mm相当の光学10倍ズームだ。明るさはワイド側がF2.8、テレ側がF5.9になる。レンズ構成は10群12枚。そのうち9面5枚に独自開発の非球面レンズを採用し、輪線ボケや二線ボケのない、素直なボケ味を実現している。また最短撮影距離はワイド側が5cm、テレ側は70cmでクローズアップにも強い。さらに光学式手ブレ補正「POWER O.I.S.」も搭載している。

電源オフ
ワイド側時
テレ側時
クローズアップ撮影の例
ワイド側で最短5cmによるクローズアップ。小さい花もここまで大きく撮れる。また決して明るいレンズではないが、絞り開放で最短だとボケを活かした撮影も可能だ。
アンティークショップに置かれた小さな小瓶を、テレ側の最短70cmで撮影した。街を歩いていて気になったモチーフにすぐ迫れるのは、高倍率ズームの楽しさだ。

TZ70やTZ85と同様に、TX1もEVFを内蔵。スペックもTZ70やTZ85と同じ0.2型の約116万ドットだ。もちろんミラーレスカメラのGH4やGX8が搭載するEVFと比べればファインダー像は小さいものの、ポケットに入るコンパクトカメラのファインダーとしては高精細で視認性が高い。ボディがコンパクトでもファインダーがあるとしっかり構えられ、望遠撮影やスローシャッター時に有効だ。

0.2倍で約116万ドットのEVFを内蔵。コンパクトでも本気で撮るのにファインダーはありがたい。視認性も良く、実際の撮影でも頻繁に使用した。
メカシャッターの最高速は1/2,000秒。電子シャッターも搭載し、1/16,000秒まで対応する。メカシャッター、電子シャッター、自動切り替えの選択が可能。また電子音やシャッター音を消したサイレントモードでは、シャッターは電子シャッターのみになる。

背面モニターはタッチパネル式で、タッチAFやタッチAE、さらにファインダー接眼時のタッチパッドAFも可能。タッチパッドAFはLVFを覗きながら右手の親指で測距位置を変えられる機能で、スムーズなピント合わせが行える。

AFは49点測距。タッチAFで背面モニターのピントを合わせたい部分にタッチしてピントを合わせられる。
背面モニターのタッチパネル機能をオンにすると、タッチタブで機能の呼び出しや、LUMIX GX8やG7にも採用されているタッチパッドAFが使用できる。特にタッチパッドAFはファインダーを覗きながら右手の親指で直感的に測距点が選択できて便利だ。
撮影時のファンクションボタンはタッチタブも含めると9つもあり、自分仕様のTX1にできる。

レンズの付け根にはコントロールリングを装備。MF時のフォーカスリングの他、絞りやシャッタースピード、ステップズームなどの機能が割り当てられる。回してもクリックがないため、背面モニターやLVFで表示を確認しながらの操作になる。またボディ上面の後ダイヤルにも絞りやシャッタースピード、露出補正などが割り当てられ、右手でカメラをホールドしたまま親指で設定できる。クリック感は良好でスムーズな操作が行えた。

アナログ感覚で操作できるコントロールリング。MFでもスムーズなピント合わせが行える。できればクリックのオン/オフが可能になると、より使いやすくなると感じた。
上面はモードダイヤル、シャッターボタン、ズームレバー、後ダイヤル、動画ボタンを備える。後ダイヤルは適度なクリックで確実な操作が可能だ。
コントロールリングと後ダイヤルのカスタマイズも可能。例えば絞り優先AE時、コントロールリングは絞り、後ダイヤルは露出補正、などと割り当てができる。
ポップアップ式のフラッシュを内蔵する。室内撮影や屋外での補助光など、いざというときにあると心強い。

4Kフォト、空間認識AFなどLUMIXの最新トレンド満載

そして4K動画機能を搭載した。LUMIXではお馴染みの4K PHOTOで、動体の一瞬をとらえることも可能だ。また4K PHOTOとタッチ機能を組み合わせて、撮影後にピント位置を選べるフォーカスセレクト機能も装備する。ただし、いくら1型センサーとはいえ、レンズは大口径とはいえないため、大きなボケは得にくい。劇的なピントの変化より、微調整用として活用するのに向いていると感じた。

背面のFn1は標準が4K PHOTO、Fn2はフォーカスセレクト。パナソニック独自の機能がワンタッチで設定できる。ISO感度やホワイトバランスなど、別の機能に変更することも可能だ。

AFは、レンズ交換式のLUMIX Gシリーズに採用例がある空間認識AFを採用。動体追従性に優れているだけでなく、AFSモードでも高速AFを可能にしている。実際に使っていて、狙った測距ポイントに素早くピントが合うのは気持ちいい。テレ側でも、もっさり感が少なく、高倍率ズームのコンパクト機としては高速だ。

4K PHOTOは、シャッターボタンを押している間だけ連写する「4K連写」、シャッターボタンを押すと連写を開始し、もう一度押すと停止する「4K連写(S/S)」、シャッターボタンを押した1秒前から1秒後までの2秒間を連写する「4Kプリ連写」の3モードが選択できる。
4K PHOTOで49エリアを連写し、撮影後にピント位置が変えられるフォーカスセレクト。タッチ操作でピント位置が選べる。
4K/30pの動画機能が搭載された。ポケットに入る小さいカメラで超高画質の動画撮影が楽しめる。

解像とISO感度

画質はズーム全域で絞り開放から安定している。回折補正機能もあり、絞り込んでも解像感は落ちない。しかも高倍率ズームながら周辺光量が落ちず、逆光にも強い。さすがライカブランドのレンズといえ、1型センサーとライカレンズの余裕が堪能できる写りだ。ただ最小絞りはF8までで、日中に滝の流れをスローシャッターで狙うような撮影は苦手だ。また周辺部は中心部と比べるとやや解像力の差を感じた。とはいえ10倍ズームであることを考えれば優秀といえる。

ワイド側25mm相当
テレ側250mm相当

高感度はISO800まではベース感度のISO125とほぼ同じ感覚で使用できる。ISO1600も実用になるが、シャドー部がやや落ちる。ISO3200はシャドー部がさらに落ちて、高感度らしい写り。しかし拡大しなければ気にならないレベルだ。ISO6400以降は、被写体のディテールが潰れ気味になる。ただし色調は大きく崩れることなく安定している。

以下のサムネイルは青枠部分の等倍切り出しです
ISO80(拡張)
ISO100(拡張)
ISO125
ISO200
ISO400
ISO800
ISO1600
ISO3200
ISO6400
ISO12800
ISO25600(拡張)

個人の感覚にもよるが、ISO1600までは常用域で、ISO3200でも実用レベル。ISO6400以降は非常用という印象だ。なお拡張のISO80とISO100はダイナミックレンジが狭くなると思いきや、意外なほどISO125と変わらない。明るい場所で絞り開放にしたい場合や、三脚に据えてスローシャッターで撮影する場合に活用できる。

まとめ:1型センサーに進化した“元祖・旅カメラ”

TZシリーズ並みの小ささに1型センサーと光学10倍ズームレンズ、さらにEVFやフラッシュも内蔵。他社の1型コンパクトはズーム比を抑えて明るさに振ったものが多いのに対し、TX1は便利さを重視した仕上がりで性格が異なる。

デジタル一眼レフやミラーレス機のサブカメラとしても活躍でき、元祖“旅カメラ”TZシリーズのように何でも撮れて、しかも1型の画質が得られる万能コンパクトとしても活躍できる。日常の記録から作品撮りまで、幅広く楽しめるカメラだ。携帯性を重視しながら、ワンランク上の性能を求める人におすすめしたい。

バッテリーはUSB充電が可能。家庭用コンセントだけでなく、パソコンなどのUSB端子に接続しても充電できる。
底面にバッテリーとSDカードを装填する。SDカードはUHS-Iだが、4K動画や4K PHOTOではUHSスピードクラス3(U3)が必要。
右側面にHDMI端子とUSB端子を備える。
付属のストラップはハンドストラップだが、同梱のストラップアダプターを使用すると2点吊りが可能になる。ここではLUMIX Gシリーズのストラップを装着してみた。

クリエイティブコントロール

フィルター効果はレトロやハイキー、トイポップ、クロスフィルターなど22種類。JPEGモードのみフィルター効果ありと効果なしの同時記録も可能だ(RAW+JPEGは不可)。
狭い通りを歩いていると、頭上に鳥が飛んでいた。「ラフモノクローム」に設定し、荒々しい雰囲気の写真にした。
街を見下ろす位置から「ジオラマ」で撮影。建ち並ぶ家々がまるで模型のようだ。
花を「トイポップ」で狙った。ビビッドな色になり、トイカメラのように周辺も暗く落ちて、インパクトの強い写真になった。
トイポップのフィルター効果なしも同時記録した。見た目に近いのはこちら。フィルター効果ありとは印象が全く異なるのがわかる。
「クロスフィルター」は、光芒の数や大きさ、角度が変更できる。これは数と大きさを最大にしている。

作品

小型のTX1は気軽に持ち歩いて、撮りたいシーンにすぐ反応できる。

ISO125 / F5.6 / 1/100秒 / -0.3EV / 23.7mm(65mm相当)

120mm相当で撮影。屋根が重なりあって、望遠らしい写真になった。解像力も申し分なく、質感の再現性も高い。

ISO400 / F8 / 1/250秒 / -1.3EV / 43.8mm(120mm相当)

ワイド側25mm相当は超広角とはいえないものの、遠近感を誇張したダイナミックな写真が十分楽しめる。ここでは海と雲を強調した。薄曇りはフレアが出やすいが、メリハリのある仕上がりがえられた。

ISO125 / F8 / 1/500秒 / ±0EV / 9.1mm(25mm相当)

100mm相当で絞り開放。大きなボケは得意ではないが、形が崩れない自然なボケ味だ。ピントを合わせた像もシャープで立体感がある。

ISO125 / F5.2 / 1/80秒 / ±0EV / 36.6mm(100mm相当)

走る江ノ電を4K PHOTOで撮影した。通常ではここまで車体が切れないギリギリのフレーミングで狙うのは難しいが、4K PHOTOなら動体撮影が苦手な人でも確実にとらえられる。

ISO800 / F5.6 / 1/800秒 / -0.3EV / 9.1mm(37mm相当)

背景のボケに注目。非球面レンズを使用すると、ボケに輪線(オニオンリング)が出やすく、非球面レンズのウィークポイントと言われていた。しかしTX1のレンズには輪線がほとんど見られない。非球面レンズを内製するパナソニックらしさが感じられる優れたボケ味だ。

ISO125 / F5.9 / 1/50秒 / -0.7EV / 64.4mm(177mm相当)

テレ側250mm相当。船が重なりあって、望遠らしい写真になった。ワイド側の写真と比べると、10倍ズームの画角の違いが感じられる。

ISO125 / F5.9 / 1/80秒 / -0.3EV / 91mm(250mm相当)

日没直後に、ビルのガラス窓に反射する景色をISO3200で狙った。高感度らしさはあるが、不自然な仕上がりではない。A4サイズ程度のプリントやWeb用なら実用的だ。

ISO3200 / F5.6 / 1/30秒 / -0.7EV / 17.8mm(49mm相当)

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になる。現在はカメラ雑誌での撮影、執筆を中心に、国内や海外の街のスナップを撮影。公益社団法人日本写真家協会会員。