新製品レビュー
PENTAX 645Z(実写編)
大型センサーの魅力がストレスなく味わえる中判デジタル
桃井一至(2014/7/18 12:00)
中判デジタルの新製品「PENTAX 645Z」は、有効約5,140万画素にして光学ローパスフィルターレスの大型CMOSセンサーを採用。その面積は35mm判フルサイズ機の約1.7倍だ。
高画素化により画像処理エンジンも強化し、PRIME IIIによるスピーディな処理で、高画質かつストレスのない撮影が楽しめる。
大柄なボディは一見敷居の高さを感じさせるが、チルト式液晶モニターやライブビュー機能も備え、ポピュラーなデジタル一眼レフと大差ない操作性で拍子抜けするほどだ。
それでは、気になる描写を見ていこう。
前編の「新製品レビュー:PENTAX 645Z(機能編)」はこちらから
遠景
遠景は大型センサーの得意とするシーン。森や山、ビル街など解像力を求められるシーンでは、有効約5,140万画素の力に加えて光学ローパスフィルターレス仕様により、細かな部分まで鮮鋭で気持ちのいい描写が中央はもとより、周辺部まで目を楽しませてくれる。クルマの排気量よろしく、やはり面積の大きな高画素機の描写はゆとりがあって、拡大するほど惚れ惚れする。
もちろん、いくら良いセンサーとエンジンであっても、カメラ内に入ってくる情報が優れてなければ高画質には結実しない。
そんなことからレンズチョイスも重要だ。ペンタックスの645レンズ群はロングセラーだけに新旧混在。デジタルに最適化されたD FAシリーズが理想だが、現状3本だけの発展途上で早期ラインナップ拡充に期待したいところだ。
ローパスフィルターレスの弊害であるモアレや偽色も、今回撮影した限りではほとんど見られなかった。あえていうなら、上の写真でバスのルーフにわずかに確認できたくらいだ。
ボケ
ボケを得るには明るいレンズを使うのが早道だが、645レンズ群には開放F値がF2.8までしか用意されていない。ズームでF2.8、単焦点でF1.4が珍しくない35mmデジタル一眼レフカメラのラインナップとは、少し様子が違う。
しかしセンサーサイズが大きいほど、ぼかすには有利と、フルサイズ機の解説などで目にしたことも多いはず。
645判は同一画角、同一絞り値であれば、フルサイズ機に比べて焦点距離が長くなるためにぼけやすく、約2段程度、さらにぼけるとされている。
見てもらえばわかるように、背景や前景から浮き立つような写真が楽しめる。逆に被写界深度を必要とするほうが、絞り込みに伴い、シャッター速度が落ちるため、手ブレのリスクが高まるので注意したい。
ダイナミックレンジ
ダイナミックレンジとは明暗の再現できる範囲を示し、黒としてつぶれず再現できるところから、白としてとばさずに、見分けられるかのこと。
一般的にはセンサーサイズの大きなほうが階調再現に優れ、風景では空と木陰など画面内の明るさの異なる部分を、いかに自然で階調豊かに美しく見せるかが見どころ。この階調の豊かさと画素の持つ精細さやボケなどから、情報豊かな写真となり、吸い込まれそうな立体感あふれる描写が可能になる。
なおD-Range(ダイナミックレンジ)補正は、初期設定通りにハイライト補正、シャドー補正ともにオートで撮影している。
感度
ISO感度設定はISO100-204800までの11段。
ISOオート時はISO100-3200が初期設定。任意による調整範囲設定もできるほか、感度アップのポイントをなるべく感度を上げない「低速側」、「標準」、積極的に感度を上げる「高速側」から選べるきめ細かさだ。
夜景シーンでの高感度性能だが、これを見る限りISO1600なら楽勝。ISO3200ではノイズは気にならないものの、ごくわずかに解像感が低下。その後、徐々に両者目立ちはじめ、10万を越えたあたりから、コントラスト低下も加わり、最高感度のISO204800では、実効感度が少し足りないようにも見受けられる。
総じて高画素機としては、かなり優秀な成績を残したといえるだろう。
動画
※YouTubeのImpressWatchChannelにアップロードしたフルHD動画です。
作品集
風化した壁面やサビ、樹皮などを拡大すると、その質感描写には息を呑む。
渓谷での撮影時は、あいにく雨に見舞われたが、防塵防滴のボディ&レンズは何事もないかのように忠実に写真を刻む。大自然の中だからこそ、頼もしさが心強い。
水流の写真では、光量減光フィルターとして、ケンコー・トキナーのZeta ND8を使用している。
人工物の見える街なか風の写真は手持ち。それ以外は三脚を使用している。
大きな可動部や大型の高画素センサーにも関わらず、電池の持ちの良さにも驚いた。公称は650枚。攻めた使い方でも、うまくすれば一日持ちそうだ。
まとめ
センサーサイズの大きさが、そのまま「写真の厚み」として見えるかのような勢いだ。一般的な使用条件を思えば、超過剰品質とも言える極上の写りだが、つい100%拡大で細部がどれほど描写されているかを見てしまう。
使いやすさが光る645Zだが、やはり中判カメラ。精細な高画質を得るには、それなりの注意や心得が必要だ。
大きなカメラを使う上で、もっとも注意したいのが手ブレ。大半のデジタルカメラで当たり前となった手ブレ補正機能も、中判カメラではまだ発展途上。非搭載が基本で、645Zでも手ブレ補正機能内蔵レンズは、現在90mm F2.8の中望遠マクロレンズがあるだけだ。
ミラーやシャッターショックが高レベルで抑えられた本機では、手持ち撮影も可能だが、物理的に大きなミラーやシャッター機構を持つだけに、条件の許す限りは三脚に固定しての撮影をおすすめする。
なお今回の撮影では、公共交通機関の移動や他の荷物もあるため、三脚はカーボン製のミディアムクラスをチョイスした。ヘビー級ボディを思えば、少しプアな組み合わせだが、ミラーアップ機能やケーブルスイッチを用いて、最大限に留意すれば、特に問題はなかった。トップヘビーになるため、積極的におすすめしないが、旅先ということでご了承願いたい。