新製品レビュー

PENTAX 645Z(機能編)

ついにライブビューも。「我慢を強いられない」中判デジタル

この数年、いわゆるフルサイズセンサーを搭載したデジタルカメラが勢力を増している。35mmフィルムサイズと同等面積のセンサーを備え、レンズの豊富さや焦点距離換算の手間のなさ、そしてなにより高画質であるのが人気の理由だ。しかし少しカメラに詳しい人なら「センサーサイズが大きいほど、高画質」と耳にしたことがあるだろう。

今回紹介するPENTAX 645Zは「中判カメラ」と呼ばれ、35mmフルサイズセンサーより、さらに大きな面積を持つ645判に近いフォーマット(センサーサイズは43.8×32.8mm)。こちらもフルサイズセンサー同様に、元々は銀塩フィルムサイズの流れを汲み、ロール状のブローニーフィルムを使う、約6×4.5cmの規格「6×4.5」から端を発している。

中判デジタル市場はまだポピュラーでないが、スタジオユースのプロ向けや大伸ばしを前提としたネイチャー派に欠かせない存在として確立。中判カメラの多くは、後部脱着式のバックタイプで、専用ボディやフィルムカメラに取り付けるタイプになる。

ちなみに製品価格は本体のみで100万円オーバーから。上を見れば高級乗用車並みで、簡単に手を出せるものでないのが通例だ。

本題のペンタックスはフィルムカメラ時代より645判を用意。2010年にデジタルカメラ、ペンタックス645Dを投入したが、有効約4,000万画素の描写力や扱いやすい操作性をはじめ、防塵防滴などフィールドユースも念頭においた作りで評価を得て、2011年には日本カメラグランプリを受賞している。

その血統を受け継ぐのが、PENTAX 645Zだ。

外観上、645Dから一見大きな違いは見られないが、有効5,140万への画素数アップや画像処理エンジンPRIME3への換装。高感度や動画対応などの大幅リニューアルが施され、よりいっそう扱いやすい製品へと進化している。

実勢価格は86万円前後。6月27日に発売されたが、予想以上の人気のため、取り寄せになっている店がほとんどだ。

外観と操作性

外観はご覧のように、一般的な35mmフルサイズ一眼レフタイプよりも大柄。

特に奥行方向に厚い。これはセンサーサイズに伴い、一眼レフに不可欠なレフレックスミラーも大型化。そのミラーが本体内では斜めに置かれるため、結果として厚みが増していくからだ。

センサーの大型化に伴い、ミラーも大きく、必然的にミラーボックスも奥行きが深い。
マウントの約10時の位置が指標。右のシルバーピンは、AFカプラーだ。

またプリズムも同様に大型化が必要で、全てにおいて、よく見る一眼レフのサイズには収まらない。

もちろん、ペンタックスも知恵を絞り、レフレックスミラーを一般的な一眼レフの固定角度である45度よりも4度前方に傾けて、ファインダー光路に工夫を施し、さらにトラピゾイド(台形)プリズムを9度前方に傾けて配置することで、ファインダープリズムの高さを抑えている。これで劇的に小さくなるわけでないが、このような少しずつ積み重ねで小型化を現実にしていくのだ。

必要な情報をシンプルに表示するファインダー。方眼スクリーンなどは交換式で用意。

なお本体はアルミダイキャストのシャーシに、軽量かつ剛性の高いマグネシウム製の外装。76箇所にも渡るシーリングを施した、防塵防滴を誇る。

グリップはボディの大きさに伴って、たっぷりとしたもの。筆者の手は、男性の標準的なサイズに近いと思うが、指がかりが深く、形状もフィットして、撮影時だけでなく持ち運ぶときも安心してホールドできる。

ボタンやダイヤル類も比較的ゆったりとした配置で、小型機にありがちな一度にふたつ押してしまいそうなことも皆無。ダイヤルの要所には滑り止めが設けられたり、ボタン類の表記も明瞭に描かれ、確実な操作を約束してくれる。

グリップ上部にはプレビュー兼務の電源レバー、ISOボタン、露出補正ボタン。ボディ側面はミラーアップダイヤル。
上面左にはモードダイヤルと測光モード切替レバー、AFモード切替ダイヤルを備える。
ファインダー右には、静止画/動画切替レバー。なお接眼部を包むゴムローレットは視度調整リングだ。
ボディ左上部には前からRAW/Fx、露出ブラケット、AFエリア、ロックの各ボタン。RAWボタン下はシンクロソケットだ。
上面の表示パネルは大きく視認性は高い。右のボタンにより、バックライトの点灯が可能。

また背面の主要ボタン類の配置は同社のデジタル一眼レフカメラ、Kシリーズに準拠したもので、適度な段差も設けられ、少し使って慣れれば目を移さなくても主な操作ができるのがうれしい。

起伏に富み、指先で判別しやすい背面ボタンはKシリーズを踏襲。

面白いのはボディ側面にも三脚穴が設けられていること。無論、縦位置用だが、それなりの重さを持つボディのため、三脚雲台への負担を減らすためだと思われるが、切替時に光軸がずれないように、座面からレンズ中心部までの距離が揃えられている。

もし迅速なフレーミング変更を望むなら、クイックシューのシュープレートを両ネジ穴に、あらかじめ取り付けるのがおすすめだ。

底面と左側面の三脚用ネジ穴を用意。装着時はボディの厚みからネジ穴部分を覗き込みにくいので、クイックシューの利用をお勧め。

撮像素子と画像処理エンジン

撮像センサーは有効約5,140万画素のCMOSセンサーを新搭載。フィルム規格の6×4.5よりも若干小さな32.8×43.8mmの面積だが、それでも35mmフルサイズセンサーの約1.7倍もの面積を持つ。

有効約5,140万画素のCMOSセンサー。この前面にフォーカルプレーンシャッターが配備される。
ライブビューも可能になった。好みで表示を切り替えられる。

ローパスフィルターレスであると共に、読み出し速度のアップにより、本モデルよりフルHD動画撮影とライブビュー撮影にも対応。ISO感度設定範囲も従来機のISO200-1600(拡張時)よりも大幅拡大し、ISO100-204800での撮影も可能にした。

ISOボタンを押しながら背面の電子ダイヤルを廻せば、ISO感度の変更が可能。最大はISO204800。

画像処理エンジンもPRIMEIIIへと進化。センサーから届けられた信号を645Dの最大約5倍ものスピードで処理して、高解像かつ、なめらかな階調再現で目を楽しませてくれるとともに、レスポンスのよい撮影を実現してくれる。

著しく絞り込んだ際の画質劣化(回折)を画像処理時に改善する回折処理補正。ON/OFFが選択できる。
通常撮影時の情報表示。配列の区分も整理されて、スッキリ見やすいものだ。
カスタムイメージは11種類から選択。詳細設定も行えて、K-3などと同様だ。
メニューより、電子水準器表示の任意選択が可能。
infoボタンより、コントロールパネル表示に切り替えて、設定変更ができる。
画像再生時にもグリッド表示ができる。視野角も広く、確認しやすいモニターだ。
再生時に後電子ダイヤルで、表示倍率を変更できる。100%時には右下にアイコンを表示。

AF

AFには新モジュールSAFOX11を採用。27点(内クロス25点)のAFポイントを持ち、F2.8対応と-3EVの低輝度対応を備える。

動く被写体を追うのは得意としないが、それ以外のシーンでのストレスは感じないはず。特に超音波モーター(SDM)搭載レンズでは、静音化とスムーズな動きが気持ちよい。

ただ惜しむらくはファインダー画面に対して、中央部にAFポイントが集中しているため、正直なところ使い勝手は芳しくない。

その代わりというわけではないが、ライブビュー時には精度の高いコントラストAFに対応。画面内の大半の位置で測距できる。もちろんピント拡大機能なども備えており、チルト式液晶モニターの機動性と合わせて、ミラーレス機風の撮影も楽しめる。製品の性格を思えば、コントラストAFの搭載は歓迎だ。

ライブビュー時に測距点移動ボタンを押すと十字キーにて、移動可能。グリッド表示にも対応している。
最新のDFA 55mmレンズでは、スライドスイッチでAF/MFを切り替える。

連写性能

連写速度を35mmカメラと比べるのは酷だが、最高約3コマ/秒。連続撮影枚数は、JPEG(L・★★★・連続H)で約30コマ、RAWで約10コマまでが公称値だ。

実写では露出ブラケット(3コマ)を多用したが、RAW+JPEG(L・★★★)で、おおむね2セットを連続できる程度。またバッファフルからの書き込み時間は、高速タイプのSDXCカード(95MB/秒・UHS-1)で16〜17秒であった。

露出ブラケットは2/3/5/7コマ、0.3EVから2.0EVの間で利用可能。

1コマあたりのファイルサイズは、JPEG(L・★★★)で30MB超えはあたりまえ。RAWに至っては60〜70MBも珍しくない。それを瞬時に処理していることを思えば、十分納得の行く数値だろう。当然、被写体やカード性能などでも左右されるので、あくまでも目安として、理解してほしい。

左側面にはカードスロットと端子類が上下に並ぶ。いずれも防滴を考慮した作りだ。
端子カバーの下はUSB3.0(microB)、外部電源端子、HDMI出力端子(タイプD)、ステレオマイク入力端子。
カードスロットはダブル仕様。保存方式も並列、振り分けなど選択できる。別売のFLUCARDにて、リモートライブビューや画像転送にも対応。
リチウムイオンバッテリーはK-3等と共通。今回は電池の持ちの良さも光った。

ファインダー

冒頭でも少しファインダーについて解説したが、光学式ファインダーの見え具合は、大きく気持ちのいいものだ。接眼部の真ん中を覗かないとすぐケラレ気味になるのと、標準アイカップでは額で固定できないのが玉にキズだが、ピントピークも取りやすい。

なおファインダースクリーンは交換式。オプションとして、黄金分割マットと方眼マットが用意される。

ライブビューと液晶モニター

本モデルではライブビューとチルト式液晶モニターの新設も大きなトピックだ。

3.2型、約107.3万ドットの液晶パネルは、屋外でも見やすく、ホワイトバランス等を反映した確認も可能。

上に125度、下に35度に可動するチルト機構で、撮影アングルを選ばない。

まとめ

フィルムの頃より、中判カメラといえば、画質ありきで使い勝手や内容は二の次。ポピュラーな35mmカメラと比べて、進化の度合いも遅く、なにかにつけて我慢して使うものというのが常識だった。

そんな常識に意気天を衝く勢いで投じられたのが先代で、さらにブラッシュアップされたのが本機だと言えるだろう。サイズを別にすれば、一般的なデジタル一眼カメラレフとほとんど変わらない感覚で扱える。

次回は645Zのポテンシャルを見るべく、実写編をお届けしたい。

桃井一至

(ももいかずし)写真家・長友健二氏に師事の後、フリーランスフォトグラファー。撮影は人物・海外風景を中心に、カメラ関係書籍の執筆も行なう。NHK「趣味悠々/デジタル一眼レフ撮影術入門(2006)」「趣味悠々/シーン別デジタルカメラ撮影術入門(2008)」 など、テレビ、イベント出演も多数。公益社団法人日本写真家協会会員。

http://www.gizmomo.com