新製品レビュー
キヤノンPowerShot G16
高速処理のDIGIC 6とWi-Fi機能を新搭載
Reported by 大浦タケシ(2013/10/1 08:00)
キヤノンのコンパクトデジタルカメラのなかで、いわゆる“通好み”といえばPowerShot Gシリーズがその筆頭であることに異論はないだろう。今や同社のみならずコンパクトデジタルカメラでは少なくなった光学ファインダーを搭載し、アナログ操作も多用する。デジタル一眼レフユーザーのサブカメラとして愛好家からの支持も高い。そのGシリーズが「PowerShot G16」(以下G16)としてリニューアルされたので、詳細をチェックしてみたい。なお、本稿執筆時点での実勢価格は5万5,800円前後である。
新しいG16は、スペックを見る限り先代「PowerShot G15」(以下G15)から大きく変わったようには一見思えない。しかし、よくよくその内容を見てみると確実に進化していることが分かる。
まずはキーデバイスであるイメージセンサーと映像エンジンだが、前者は1/1.7型、有効1,210万画素と数値的には従来と同じだ。ただしG16では、高感度特性、階調再現性により優れた裏面照射タイプとしている。このセンサーについてはよく語られている通りで、通常はカラーフィルターとフォトダイオードの受光面の間に配線部を、受光面の裏に置くことで効率よく光を取り入れられるというものだ。
従来タイプのイメージセンサーとの描写の違いは明確といってよく、今やコンパクトデジタルカメラに用いられているものとしては1/2.3型のイメージセンサーも含めデファクトスタンダードといってよい。G16の感度についてはISO80からISO12800までとG15と同じとしているが、高感度でのノイズレベル、階調再現性の違いはあらためて述べるまでもないだろう。
さらにG16では、映像エンジンをそれまでのDIGIC 5から最新のDIGIC 6へとパワーアップ。解像感など描写の向上を図るとともに、より高速の画像処理を行なう。ちなみに連続撮影コマ速は最初の5枚目までが最大12.2コマ/秒、それ以降は9.3コマ/秒となる。最大10コマ/秒であった先代モデルと比較すると6コマ目以降のコマ速が弱いように思えるが、メモリーカードに空きがある限り撮り続けることを可能としており、10コマ目で撮影を停止し処理を行なうG15とは大きく異なるところである。
AF合焦速度のアップも特筆すべきところだ。メーカーの公表する数値を見ると、G15の0.17秒から0.1秒に短縮している。わずかな違いのように思えるかもしれないが、実際の撮影では決して小さくなく、これまで以上にストレスのない撮影が楽しめる。ちなみにシャッターボタンの押し始めから、AFを行ない実際にシャッターが切れるまでの撮影タイムラグは、同じくメーカーの発表値で0.12秒を実現しており、シャッターチャンスを見逃したくないようスナップ撮影などでは活躍してくれそうだ。
Wi-Fi機能の搭載もPowerShot Gシリーズとしては初となる。Wi-Fi対応のプリンターとではケーブルレスでダイレクトにプリントを楽しめるほか、スマートフォンやタブレットとの連携を考慮すると搭載は当たり前ともいえるだろう。IXYやPowerShot Sシリーズでは以前より搭載されていただけに、嬉しく思うユーザーも少なくないはずだ。
さらに、撮影した画像をFacebookやTwitter、YouTube 、FlickrなどにCANON iMAGE GATEWAY経由でアップすることも可能としている。こちらもPowerShot S120と同様のアップデートだ。
搭載するレンズについては従来モデルを踏襲する。35mm判換算で28m相当から140mm相当の画角を持つ5倍ズーム。角度ブレのほかシフトブレに対応するハイブリッドISも搭載しているので近接撮影でも心強い。開放F値はF1.8-2.8。イメージセンサーの仕様などを同等とする「PowerShot S120」もワイド端はF1.8で同じだが、テレ端はF5.7。G16は望遠端まで明るい。
さらに、G16には焦点距離を1.4倍とするテレコンバーター「TC-DC58E」での撮影が楽しめるほか、フィルターアダプター「FA-DC58D」により58mm径のレンズフィルターの装着も可能としている。
操作性については、G15を踏襲する。モードダイヤルと露出補正ダイヤルが重なったカメラ上部の2段ダイヤルやカメラ背面のコントローラーホイール、電子ダイヤルなどいずれも直感的な操作を可能とする。操作感なども上々で、PowerShot Gシリーズがカメラ上級者から愛される理由のひとつがここにあるといってよい。実像式ズームファインダーには視度調整機能が備わっているのも便利に思えるところだ。
液晶モニターは3型92万ドット。G15同様の固定式する。メーカーとしてはボディの軽量化や薄さを優先させたわけであるが、この部分については可動式と賛否の分かれるところとなるだろう。実際、可動タイプとしていた「PowerShot G12」にくらべればスッキリとした印象で、ボディ厚も薄くスマートだ。なお、液晶モニターはPowerShot S120と異なりタッチパネル式ではない。
一眼レフユーザーには、EOSのアクセサリーが流用できるのも見逃せない部分である。各クリップオンストロボ、トランスミッター「ST-E2」、リモートスイッチ「RS-60E3」などの装着が可能。本格的なライティングも楽しめる。操作感とともに、まさに一眼レフのサブ機に相応しいカメラといえるだろう。
その他のトピックとしては、星空モードと背景ぼかしモードの搭載とハイダイナミックレンジモード(HDR)の進化だろう。同時に販売の開始されたS120にも搭載されており、ひと味違った撮影を容易に楽しめるモードだ。
星空モードには、星空と夜景を適切な明るさで写す「星空夜景」、連続撮影を行ない星の軌跡を1枚の画像とする「星空軌跡」、1分間隔で撮影した静止画を繋ぎ合わせて動画とする「星空インターバル動画」の3つを搭載する。これまで初心者には撮影の難しい被写体であるが、それをカメラ任せで可能とする。いずれも三脚は必要だが、G16ではフィルターアダプターを介せば市販のソフトフィルターも装着可能なので、星の輝きにメリハリを持たせた本格的な星空の撮影も挑戦できそうだ。
APS-Cサイズやフルサイズなど大型のイメージセンサーを搭載するカメラで撮影したかのような背景のボケをつくりだすのが背景ぼかしモード。ボケの強さを3段階の中から任意で選ぶことができるほか、撮影シーンに対し最適となるボケをつくるオートも搭載される。マクロ撮影以外では大きなボケをつくりにくいコンパクトデジタルでは重宝する機能といえる。HDRは、従来からのナチュラルに加え、絵画調標準、グラフィック調、油彩調。ビンテージ調からも選択ができる。いずれも独特の風合いのHDRが楽しめる。
G15からG16への今回のリニューアルは、一見マイナーチェンジに近いものだ。外観の違いはほとんどなく、スペックの数字もほぼこれまで通り。しかし、その内容をよく見れば、細かな部分に意外なほど手が入っており、時代により即したものとしている。さらに撮影モードの進化も見逃すことのできない部分である。先頃リニューアルしたライバル機種ともいえるニコン「COOLPIX P7800」は電子ビューファインダーを搭載してきた。そろそろ本シリーズもファインダーに手が入ると、ハイエンドコンパクトとしての輝きは一段と増すように思える。