【新製品レビュー】キヤノンPowerShot S90

スリムなボディに開放F2の28mmレンズを搭載
Reported by 吉森信哉

 PowerShot S90(以下S90)は、PowerShotシリーズのフラッグシップ機「PowerShot G11」(以下G11)と同時に発表されたモデルである。S90とG11、どちらも高機能がウリのモデルだが、ボリューム感のある重厚な作りのG11に対し、S90はスリムでスマート。だからカメラに詳しくない人の目には、一般的なスリム系デジカメに映るかもしれない。

 だが、機能や仕様は紛れもなく高機能モデル。撮像素子はG11と同様、1/1.7型・1,000万画素の高感度CCDで、画像処理エンジン「DIGIC4」との連携により、高感度撮影時のクリアな描写をうたい文句とする。RAWモード(JPEG同時記録にも対応)撮影も可能である。さらに搭載するズームレンズは、広角端(28mm相当)の開放絞り値でF2を実現。これは開放F2.8のG11に勝るアドバンテージである。

 なお、G11はG10の後継モデルにあたるが、S90にはそういう繋がりはない。現行のSXシリーズには同じようなコンセプトのモデルはなく、以前に発売されていたPowerShot S70やPowerShot S80と比べても、スタイルや雰囲気が大きく違う。一般的なスリム系デジカメのようなスタイルでありながら、G11と同じ“大きめサイズの高感度センサー”を搭載し、Gシリーズよりも明るい高性能ズームレンズを搭載する……。そんな新コンセプトのPowerShot S90は、ある意味「G11以上に注目したいモデル」なのだ。

 

新しい操作感の「コントローラーリング」

 沈胴式のレンズ鏡筒の周囲にある、刻みの入った金属製のリング。これは「コントローラーリング」と呼ばれるもので、回転させることでISO感度や画角の変更など、各種の操作が行なえる。クリックストップを伴うことから、その操作はまるで、MF一眼レフでレンズの絞りを調整してるかのよう。実際の操作フィーリングも、レンズの絞りリング操作を彷彿とさせる。ボクもそうだが、かつてMF一眼レフを使っていた者にとっては、何となく懐かしい感触・感覚である。

レンズ周囲のコントローラーリングを回すことで、様々なパラメーターを調整できるボディ自体はスリムだが、コントローラーリングの出っ張りがやや目立つ。スリムなカメラだが、上着やシャツのポケットから出し入れする際には、少し引っかかるかも

 コントローラーリングよる調整項目は、ボディ上面の「コントローラーリング機能切り換えボタン」で変更できる。まず、「標準」の設定では、撮影モードに応じた値を調整する。たとえば、Tvモードではシャッター速度、AvモードとMモードでは絞り値、PモードではISO感度、といった具合に。そして、ISO感度、露出補正、ピント調整(回転させると自動的にMFに切り換わる)、WB補正、ステップズーム、と調整項目も変更できる。また、コントローラーリングの機能切り換えとは関係ないが、セルフタイマーの秒数切り換えや、ノスタルジックモード時の色味の調整なども、このリングを使って行なう。ちなみに、オート、スペシャルシーンのほぼすべて、動画などの撮影モードでは、機能切り換えはできず、リングを回転させるとステップズームの機能が働く(スペシャルシーンの一部モードに例外あり)。

 ちなみに、ボクはステップズーム(28mm、35mm、50mm、85mm、105mmと段階的に変化)を割り当てることが多かった。というのも、コントローラーリングに割当可能なほかの機能は、別のボタンやダイヤルを使って操作できる。しかしステップズームはコントローラーリングでしか操作できないから。また、ステップズームを使用すれば、電源を切って再び電源を入れた際に、自動的にその画角に調整される利点がある(ズームレバーによる画角調整だと、再び電源を入れると常に広角端になる)。もちろん、ステップズームを使用していても、ズームレバーを操作すれば通常のズーミングが行なえる。

ボディ上面の「コントローラーリング機能切り換えボタン」を押すと表示される画面。ここでコントローラーリングに割り振る機能を決定するコントローラーリングにISO感度を割り当てた状態。リングを回転させると、画面の中央下部にISO感度のスケールが表示される(操作中とその後の数秒)
こちらはコントローラーリングに「WB補正」を割り当てた状態。FUNC.メニューでホワイトバランスを選んだあとリングを回転させると、BとAの補正量が調整できる。DISP.ボタンを押すと、さらに詳細な補正(B、A、M、G)が可能になる

 リングといえば、回転させて操作するパーツがもうひとつある。背面の4方向ボタンの周囲に設けられた「コントローラーホイール」だ。キヤノンのコンパクトデジカメでおなじみの操作パーツだが、いくつかのモデルと同様に、クリックストップがない。表現は悪いが「ダラダラと回転する感じ」なのである。まあ、同様のホイールを搭載した以前のIXY DIGITALのような回転量と変更量のズレは感じないので、操作中のストレスはあまり感じない。だが、操作するつもりはなくても、軽く触れるだけでも露出補正値などが変わりそうでコワイ。しかも、機能呼び出し操作をしなくても、ダイレクトに作動してしまう。S90はコンパクトボディでホールドするのが窮屈なカメラだけに、余計にそう感じてしまうのだ。

 撮影中に気になったのが、ボディ上面に並ぶ「コントローラーリング機能切り換えボタン」と「電源ボタン」の配置。シャッターボタンに近いのは、コントローラーリング機能切り換えボタン。だから、カメラを持つ右手で、とっさに電源のオンオフを行なおうと思うと、ついコントローラーリング機能切り換えボタンの方を押してしまいそうになる。

 なお、コントローラーホイールの左上にある「S」印のボタンは「ショートカットボタン」。登録した機能が迅速に呼び出せる。登録できるのは、顔セレクト、ISO感度、測光方式、ホワイトバランス、マニュアルWB、サーボAF、デジタルテレコン、赤目自動補正、i-コントラスト、AEロック、AFロック、ディスプレイオフ。ちなみに、「AEロック」を登録して呼び出すと、上に絞り値、下にシャッター速度、と2段の露出スケールが表示される。この状態でコントローラーホイールを回転させると、両方の組み合わせを変えることができる。そう、Pモードだと「プログラムシフト」が行なえるのだ。

3型と大きな液晶モニターを搭載する関係で、右手操作部が若干窮屈。また、右手の親指がコントローラーホイールに当たって動きそうでコワイ……。だから、自然と親指の先端で持つようになる。この際、モードダイヤルの下の膨らみがホールドに役立つ上面に並んだ、同じような形状(楕円型)の2つのボタン。長めの形状の右側は「コントローラーリング機能切り換えボタン」で、短めの形状の左側は「電源ボタン」。好みや慣れもあると思うが、個人的には逆の配置の方が使いやすいと思う
背面のコントローラーホイールを使うとPモードでは露出補正が調整でき、Tvモードではシャッター速度、Avモードでは絞り値が調整できる。TvとAvモード時には、上の十字キー(露出ボタン)を押すたびに、優先オートの数値と露出補正とが切り替わるショートカットボタンにAEロックを登録して呼び出した状態。この状態でコントローラーホイールを回転させると、いわゆる「プログラムシフト」が行なえる。レリーズやズームレバー操作を行なうことでシフトを解除可能

 


広角端F2のズームレンズを装備

 搭載するレンズは、28〜105mm相当の光学3.8倍ズーム。平凡だが実用度の高い画角をカバーする。もちろん、レンズシフト式の手ブレ補正「IS」も搭載。しかも、広角端がF2と明るいので、優れた高感度性能との連携により、暗い場所などでの「手持ちで撮影できる領域」を大きく拡大してくれる。また、近接撮影時には、大口径レンズらしいボケ効果も期待できるだろう。

 ちなみにMFのときはコントローラーホイールを回転させながら、拡大表示(設定で表示させないことも可能)の状態でピントを合わせることになる。ただし、キヤノンのコンパクトデジカメにはシャッターボタンを半押しすると、手動で合わせたフォーカス位置の近傍で、最もピントの合う位置に微調整される「セーフティMF」が働く。本当の意味でのMFではないことから、ボク個人はIXY DIGITAL 3000 ISをレポートした時からセーフティMFに疑問に感じていた(もちろん、その機能が役立つ場面も多々あるだろうが)が、今回のS90には、このセーフティMFを回避する方法(設定)がある。撮影タブメニューの「セーフティMF」を切に設定することで、このピント微調整が行なわれなくなるのだ。

絞り機構は内蔵NDフィルターによる「絞りモドキ」ではなく、絞り羽根の重なり具合によって光量が制御される本格派だ4方向ボタンの左を押して「MF」を選ぶと、フォーカスモードは「マニュアルフォーカス」になる。その後は拡大表示を見ながらピントを合わせる

 ISO感度は80〜3200と広く、しかも1/3段ごとに手動で設定できる。フラッグシップ機のG11ですら1段刻みなのに。これには、ちょっと感心した。モードダイヤル上のロウソクのアイコンは「ローライトモード」。このモードに設定すると、記録画素数を約250万画素に固定したうえで、撮影状況に合わせて、ISO320〜12800の間に自動調整される。これにより、これまでは「ノンストロボ撮影は不可能」と諦めていた極端に暗い場所でも、手持ちで撮影できるようになった。ただし、このモードでは、露出補正、ホワイトバランス、手動によるISO感度設定、といった操作は行なえない。

 そして、スペシャルシーンモード(モードダイヤル「SCN」で、コントローラーホイールで選択)では、新しく搭載された「ノスタルジックモード」が目を引く。ノスタルジックな雰囲気の写真が撮れるようになり、しかもコントローラーリングを操作することで、退色具合(?)などを調整することも可能。なおノスタルジックモードはG11に搭載されていない。現在のところ、S90だけの「スペシャルなモード」である。

スペシャルシーンモード(モードダイヤルはSCN)に新しく加わった「ノスタルジックモード」。画像の色を薄くしたり粗くすることで、経年変化した写真のように演出できる。その効果は5段階で、コントローラーリングを使って設定する


優秀なレンズ性能と高感度画質

 実は「S90」という型番を見聞きして、少しだけ根拠のない不安がよぎった。型番上では兄弟機にあたる、S70(2004年9月発売の710万画素機)や、S80(2005年10月発売の800万画素機)のレンズ性能を思い出したからである。どちらのモデルも、S90と同様に広角28mmをカバーするズームレンズを搭載していたが(28〜100mm相当と、わずかに望遠側が短い)、その広角域の描写は、お世辞にも「良好」とは言いがたいモノだった。画面の中央付近はシャープで問題ないのだが、画面の四隅に近づくと像の流れが目立ったからだ。今回のS90は格段にコンパクトなボディであり、しかも広角側の開放絞りがF2と欲張っているところに不安を覚えたわけだ。

 ちょっとドキドキしながら等倍表示で画像をチェックしたが、S90に搭載されるズームレンズに、そうした不満は見当たらない。さすがに開放あたりだと、周辺部ではそれなりにアマさはある。だが、S70やS80のような嫌な描写ではない。しかも広角側だけでなく、ズーム全域でシャープで安定した描写が得られている。

 注目の高感度センサーから生み出される画像は、前評判どおりのモノ。ISO800やISO1600といった高感度でも、さほどノイズ感は気にならない。もちろん、現行のデジタル一眼レフほど低ノイズではないし、ノイズは目立たなくても細部の描写をチェックすると、それなりに難点が見られる。だが、同じように高感度低ノイズを謳う、裏面照射型CMOSセンサーを採用したソニー「サイバーショットDSC-WX1」や、スーパーCCDハニカムEXRを搭載する富士フイルム「FinePix F200EXR」などに負けない描写性能を持っているのは立派だ。

キヤノン機でお馴染みのFUNC.メニュー。RAWモードもここから選べるが、JPEG画像の同時記録設定は、MENUボタンを押すと表示される撮影メニューから行なう。ちなみに、設定メニュー内の「機能ガイド」をオンにすると、画面内に各機能の説明が表示されるようになる「★」印のタブは「マイメニュー」。よく使う撮影メニューの項目をここに登録しておくと、迅速に呼び出せる。メニュー内をスクロールさせないとたどりつけない項目などは、ここに登録しておくと便利。MENUボタンを押した際に、マイメニューを優先的に表示させることも可能だ
凝った仕掛けのセルフタイマー。まず、4方向ボタン下ででセルフタイマーに切り替える。そして、タイマー風のダイヤル表示を見ながらコントローラーリングで作動までの時間を、4方向ボタン左右で撮影枚数を選ぶシャッターボタン全押し後に顔認識(検出)が行なわれるとシャッターが切れる「顔セルフタイマー」。集合写真で撮影者が後から入る場合や、自分ひとりで記念撮影する場合に便利

 なお、今回はClass6のSDHCメモリーカードを使用したが、RAW+JPEG(L)でも書き込み待ちによるストレスは感じなかった。

 

まとめ

 キヤノンには以前より、PowerShot Gシリーズというフラッグシップモデルが存在する。多くのユーザーに支持され続ける高機能モデルだ(途絶えたこともあったが)。しかし、Gシリーズは割と大柄な部類に属する。そこがGシリーズの魅力でもあるが、リコーのGR DIGITALやGXシリーズ、パナソニックのLXシリーズのような「小さな本格派モデル」も捨てがたい。ボク自身、少し前までG9を使っていて、そういう思いを持ち続けていた。

 だから、スタイリッシュなコンパクトボディに、Gシリーズ並の高度な機能を搭載したS90の登場には、久しぶりに心が躍った。同時発表のG11と同様、これまでの高画素タイプとは異なる「画素数を抑えた高感度センサー」の搭載には驚いたし、広角28mm相当で「F2」の大口径を実現したレンズの仕様や実写性能にも感心した。「コントローラーリング」も実に便利で使いやすい。このように、フラッグシップモデルのG11にもない特長を備えたS90は、ハイエンドユーザーの熱い想いに応えてくれる「新感覚の小さな本格派モデル」と言えるだろう。

バッテリー「NB-6L」は約220枚の撮影が可能。ほかのカメラのサブ機として使用するなら別だが、気合を入れて使うつもりなら、予備バッテリーは用意したい。記録メディアはSDHC系を使用できる
内蔵ストロボはポップアップ方式で、撮影時の明るさに応じて自動昇降する。そして、電源を切ると自動収納される。ストロボボタン(十字キーの右側)で発光モードを切り換えた際にも自動昇降する

 


作例

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。

 
・画角

広角端
PowerShot S90 / 約1.9MB / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F4.5 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 6mm
望遠端
PowerShot S90 / 約2.0MB / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F4.9 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 22.5mm

 


・歪曲収差

 28mm相当の広角端では、画面周辺でタル型の歪曲収差が見られる。が、ズームレンズの広角域としては一般的なレベルで、さほど気にはならない(もちろん、絵柄にもよるが)。105mm相当の望遠端では、特に問題は感じなかった。

広角端
PowerShot S90 / 約4.4MB / 3,648×2,736 / 1/320秒 / F4 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 6mm
望遠端
PowerShot S90 / 約4.1MB / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F4.9 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 22.5mm

 


・絞りによる変化

 画角と絞り値を変えながらレンズ描写をチェックしてみた。画角はステップズームを使って変更している。

 いずれの画角も画面の中央付近は問題なくシャープ。あえて言えば、105mm相当でのF8がわずかにソフトに感じる。だが、画面の周辺部に目を向けると、いずれの画角も絞り開放時の描写にアマさが見られる。その中では広角端の開放F2の健闘ぶりが光る。中域の開放F3.2では、周辺部でわずかに流れたような乱れが見られるが、1段くらい絞るだけでかなり解消される。望遠端の開放F4.9は中域よりも安定した(周辺でも乱れが少ない)描写が得られるようだ。

(28mm相当)

PowerShot S90 / 約4.1MB / 3,648×2,736 / 1/1,250秒 / F2 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 6mmPowerShot S90 / 約4.3MB / 3,648×2,736 / 1/640秒 / F2.8 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 6mmPowerShot S90 / 約4.3MB / 3,648×2,736 / 1/320秒 / F4 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 6mm
PowerShot S90 / 約4.2MB / 3,648×2,736 / 1/160秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 6mmPowerShot S90 / 約4.0MB / 3,648×2,736 / 1/80秒 / F8 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 6mm 

(50mm相当)

PowerShot S90 / 約4.1MB / 3,648×2,736 / 1/320秒 / F3.2 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 10.7mmPowerShot S90 / 約4.3MB / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F4 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 10.7mmPowerShot S90 / 約4.4MB / 3,648×2,736 / 1/100秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 10.7mm
PowerShot S90 / 約4.3MB / 3,648×2,736 / 1/50秒 / F8 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 10.7mm  

(105mm相当)

PowerShot S90 / 約4.7MB / 3,648×2,736 / 1/160秒 / F4.9 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 22.5mmPowerShot S90 / 約4.7MB / 3,648×2,736 / 1/125秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 22.5mmPowerShot S90 / 約4.7MB / 3,648×2,736 / 1/60秒 / F8 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 22.5mm

 お堂の周囲を取り囲むように、小さい石像がずらりと並ぶ。その中の一体に接近しつつ、50mm相当の画角で、開放絞りのF3.2と最小絞りのF8とで描写を見比べてみた。撮像素子が小さいコンパクトデジカメは「ボケ効果が期待できない」と言われているが、こういった小さめの被写体では、接近して絞りを開放側に設定することで、それなりのボケ効果を得ることができる。

PowerShot S90 / 約1.9MB / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F3.2 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 10.7mmPowerShot S90 / 約2.6MB / 3,648×2,736 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 10.7mm

 


・最短撮影距離

 ステップズームの各画角における最短撮影距離を比較してみた。同時に、各画角での絞り開放時のボケ具合もチェックしてみよう。いずれもマクロモードでの撮影となる。こうした撮影で厳密な最短距離を見極めるのは困難なので、あくまでも参考として見ていただきたい。

 一番クローズアップ度が高いのは35mm相当。28mm相当での最短撮影距離(5cm)と変わらない距離でピントが合う。開放絞りがF2.5と十分に明るいのも魅力的である。

 50mm相当もまずまずのクローズアップ度だが、28mm相当と比べると撮影倍率が低い。望遠域は広角域ほどアップにならないが、クローズアップ度よりもワーキングディスタンス(レンズ先端から被写体までの距離)を優先する場合に使うことになるだろう。その場合でも、85mm相当よりも望遠端105mm相当の方が大きめに撮れるので有利。

28mm相当
PowerShot S90 / 約1.9MB / 3,648×2,736 / 1/400秒 / F2 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 6mm
35mm相当
PowerShot S90 / 約1.8MB / 3,648×2,736 / 1/250秒 / F2.5 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 7.5mm
50mm相当
PowerShot S90 / 約1.8MB / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F3.2 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 10.7mm
85mm相当
PowerShot S90 / 約2.0MB / 3,648×2,736 / 1/100秒 / F4.5 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 18.2mm
105mm相当
PowerShot S90 / 約2.0MB / 3,648×2,736 / 1/80秒 / F4.9 / 0EV / ISO200 / WB:太陽光 / 22.5mm
 

・感度

 画素数を1,000万画に抑えるなど高感度画質を重視したCCDを搭載するだけあって、一般的なコンパクトデジカメよりも高感度ノイズは目立ちにくい。といってもさすがにデジタル一眼レフカメラ並とはいかないのは仕方がないところだろう。

 ISO1600くらいまで感度アップすると、細部描写の粗さからくるシャープ感の低下が気になる場合も出てくる。絵柄にもよるが、ボクの評価は「細部の描写にこだわるならISO400まで、ほどほどの画質でイイならISO800まで」といったところだ。

ISO80
PowerShot S90 / 約2.1MB / 3,648×2,736 / 1/40秒 / F4 / -0.3EV / WB:オート / 7.5mm
ISO100
PowerShot S90 / 約2.2MB / 3,648×2,736 / 1/60秒 / F4 / -0.3EV / WB:オート / 7.5mm
ISO200
PowerShot S90 / 約2.2MB / 3,648×2,736 / 1/125秒 / F4 / -0.3EV / WB:オート / 7.5mm
ISO400
PowerShot S90 / 約2.3MB / 3,648×2,736 / 1/250秒 / F4 / -0.3EV / WB:オート / 7.5mm
ISO800
PowerShot S90 / 約2.1MB / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F4 / -0.3EV / WB:オート / 7.5mm
ISO1600
PowerShot S90 / 約2.2MB / 3,648×2,736 / 1/1,000秒 / F4 / -0.3EV / WB:オート / 7.5mm
ISO3200
PowerShot S90 / 約2.4MB / 3,648×2,736 / 1/1,600秒 / F4 / -0.3EV / WB:オート / 7.5mm
  

 ISO12800という超高感度での撮影が可能な「ローライトモード」。だが、ISO感度を手動で設定できる訳ではなく、ISO320〜12800の間で自動設定されるのだ。下の写真を撮った場所は、肉眼でもよく見えないほど暗かったため、最高感度のISO12800に設定された。当然、画質的にはかなりキビシくなるが、「ノンストロボ撮影は不可能」と思われるシーンでも、手持ち撮影が可能になる意義は大きい。

PowerShot S90 / 約617K / 1824x1368 / 1/15秒 / F3.2 / 0EV / ISO12800 / WB:オート / 10.7mm

 ISOオート設定の場合、周囲の暗さに応じて最高ISO1600まで感度アップする。ただし開放絞りがF2と明るいため、広角側で撮影すれば、そこまで感度アップしないことも多い。この場面でも、望遠端ではISO1600までアップしているが、広角端ではISO400で止まっている。そのぶん、画質劣化も抑えることができるのだ。やっぱり明るいレンズはいい。

PowerShot S90 / 約2.2MB / 3,648×2,736 / 1/30秒 / F2 / 0EV / ISO400 / WB:蛍光灯 / 6mmPowerShot S90 / 約2.4MB / 3,648×2,736 / 1/20秒 / F4.9 / 0EV / ISO1600 / WB:蛍光灯 / 22.5mm

・マイカラー

共通データ:※PowerShot S90 / 約1.8MB〜約2.1MB / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F4.5 / 0EV / ISO80 / 15.0mm

マイカラー切くっきりカラーすっきりカラー
セピア白黒ポジフィルムカラー
色白肌褐色肌あざやかブルー
あざやかグリーンあざやかレッド 

 自然風景や花の撮影などでは、より鮮やな色再現で、画面にメリハリをつけたくなることが多い。そういう場合に有効なマイカラー設定は「くっきりカラー」や「ポジフィルムカラー」だろう。どちらも鮮やかな色再現が得られるモードだが、空の青色や植物の緑色などに違いが感じられる。ちなみに、画質モードが「RAW」や「RAW+L」の時には設定できない。撮影後に「レタッチマイカラー」機能で対応することは可能。

共通データ:PowerShot S90 / 約3.4MB〜約3.5MB / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F4.9 / -0.3EV / ISO125 / 22.5mm

マイカラー切くっきりカラーポジフィルムカラー

 


・i-コントラスト

 暗部補正とダイナミックレンジの調整(拡大や縮小)を連携させ、幅広い階調再現を可能にする「i-コントラスト」。ハイライト部の白トビや、シャドー部の黒つぶれを抑制する機能である。設定は撮影タブメニュー内で行なうが、けっこう奥まった場所にあるので、頻繁に設定するならマイメニューに登録しておいたほうがいい。ちなみに、この機能も画質モードが「RAW」や「RAW+L」の時には設定できない。

i-コントラスト切
PowerShot S90 / 約1.6MB / 3,648×2,736 / 1/100秒 / F4 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 6mm
i-コントラスト自動
PowerShot S90 / 約1.8MB / 3,648×2,736 / 1/200秒 / F4 / 0EV / ISO160 / WB:オート / 6mm

 i-コントラストは撮影時だけでなく、撮影後の画像加工でも対応できる。撮影時には「切」と「自動」しか選べないが、撮影後の加工では「自動」、「強」、「中」、「弱」と効果の度合いを選べるのが魅力だ。適用後の写真は新規保存されるので、何度でもトライできる。さらに撮影後の加工なら、画質モードが「RAW+L」でも対応できる(RAWのみは不可)。

共通データ:PowerShot S90 / 約1.5MB〜約1.8MB / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F4.5 / -1.3EV / ISO80 / WB:オート / 12.8mm

i-コントラスト切i-コントラスト自動i-コントラスト強
i-コントラスト中i-コントラスト弱 

 


・ノスタルジックモード

 色褪せた写真を思わせる「ノスタルジックモード」。コントローラーリングで1〜5段階の調整が行なえるのだが、単純に彩度が変化するだけではない。いったんセピアっぽくなり、そこから色褪せた(色が抜けた)ようになる。そして、最終的にはコントラストが強く、ざらつき感のある白黒になる。

PowerShot S90 / 約2.4MB〜約3.0MB / 2,736×3,648 / 1/500秒 / F3.5〜F4 / -1EV / ISO80 / WB:オート / 6mm

通常撮影ノスタルジックモード1段階目ノスタルジックモード2段階目
ノスタルジックモード3段階目ノスタルジックモード4段階目ノスタルジックモード5段階目

 


・自由作例

PowerShot S90 / 約3.2MB / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F4.5 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 6mmPowerShot S90 / 約1.9MB / 2,736×3,648 / 1/500秒 / F5.6 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 6mm
PowerShot S90 / 約2.0MB / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F7.1 / +0.7EV / ISO80 / WB:オート / 22.5mmPowerShot S90 / 約1.8MB / 3,648×2,736 / 1/250秒 / F4 / -1.3EV / ISO80 / WB:オート / 6mm / ストロボ調光補正-0.7
PowerShot S90 / 約2.0MB / 3,648×2,736 / 1/1,250秒 / F2.8 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 6mmPowerShot S90 / 約2.2MB / 3,648×2,736 / 1/30秒 / F2 / -0.3EV / ISO800 / WB:蛍光灯(WB補正を使用) / 6mm
PowerShot S90 / 約1.9MB / 3,648×2,736 / 1/30秒 / F2 / 0EV / ISO320 / WB:オート / 6mm / MF(セーフティMF切)PowerShot S90 / 約2.3MB / 2,736×3,648 / 1/400秒 / F4 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 6mm
PowerShot S90 / 約3.1MB / 3,648×2,736 / 1/100秒 / F2.2 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 6.9mm / ノスタルジックモード2段階目PowerShot S90 / 約2.9MB / 3,648×2,736 / 1/30秒 / F4 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 6mm / i-コントラスト自動
PowerShot S90 / 約2.3MB / 3,648×2,736 / 1/30秒 / F2.8 / -0.3EV / ISO80 / WB:オート / 6mmPowerShot S90 / 約2.1MB / 3,648×2,736 / 1/30秒 / F2.5 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 6mm
PowerShot S90 / 約1.5MB / 3,648×2,736 / 1/640秒 / F2.5 / +0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 6mmPowerShot S90 / 約1.8MB / 3,648×2,736 / 1/160秒 / F2 / 0EV / ISO80 / WB:太陽光 / 6mm
PowerShot S90 / 約1.9MB / 3,648×2,736 / 1/30秒 / F2 / -0.7EV / ISO500 / WB:オート / 6mmPowerShot S90 / 約1.8MB / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F5 / +0.3EV / ISO80 / WB:オート / 6mm
PowerShot S90 / 約2.5MB / 2,736×3,648 / 1/400秒 / F4.9 / +1EV / ISO80 / WB:オート / 22.5mmPowerShot S90 / 約2.2MB / 3,648×2,736 / 1/8秒 / F2 / 0EV / ISO640 / WB:蛍光灯 / 6mm
PowerShot S90 / 約1.8MB / 3,648×2,736 / 1/4秒 / F2 / 0EV / ISO800 / WB:蛍光灯 / 6mm




吉森信哉
(よしもりしんや)1962年広島県庄原市出身。東京写真専門学校を卒業後、フリー。1990年からカメラ誌を中心に撮影&執筆を開始。得意ジャンルは花や旅。1970年代はカラーネガ、1980年代はモノクロ、1990年代はリバーサル、そして2000年代はデジタル。…と、ほぼ10年周期で記録媒体が変化。でも、これから先はデジタル一直線!? 自他とも認める“無類のコンデジ好き”

2009/11/6 00:00