【新製品レビュー】ニコンD3S
ニコンが発売するFXフォーマット機は、高速連写と高感度性能を売りにするD3と、高画質および高精細を特長とするD3Xの2系統に分かれている。このうち、高速連写、高感度モデルとなるD3がリニューアルされることになった。それがD3Sだ。
D3SはFXフォーマットのCMOSセンサー(撮像素子サイズ36×23.9mm)を搭載し、有効画素数は1,210万画素。この部分だけをみると、従来機となるD3とまったく同一のセンサーサイズ、画素数だが、ニコンからのアナウンスの通り、D3とは違った新開発のセンサーを採用しているようだ。
D300がD300Sにリニューアルされたときは、同じセンサー、同じ画像処理エンジンを採用しているとのアナウンスだったが、今回はセンサーが変わっているということだから、画質にどのような違いを見せるのかという点も興味深い。
■動画撮影に対応。ライブビューは操作性が向上
また、機能、装備面においてもずいぶんと進化が見られる。まず、D300Sにも搭載された動画撮影機能「Dムービー」が搭載されている。Dムービーは1,280×720ピクセル、24fpsのAVI動画で、残念ながら今回も1,920×1,080ピクセルのフルHDではない。私の場合は、今のところムービーを仕事にすることはないので、どうしてもフルHDでなければということはないが、どうせならより高解像度のムービーが撮れてもよかったのではないだろうかと思ったりもした。
また、外部マイクを接続すればステレオ録音も可能ということだが、こちらもできるならステレオマイクを内蔵して欲しかったところだ。とはいえ、D3になかった動画撮影機能が搭載されたことは、D3愛用者の私としてもうらやましいところである。
動画撮影は1,280×720ピクセル/24fpsで、AVI形式の記録となる。ボディ左前面部に動画撮影用のモノラルマイク(写真右)が内蔵される |
HDMI出力端子はD3のType Aから、D3SではHDMIミニ端子(Type C)へと変更された。また、外部マイク入力用のステレオミニジャック端子も装備されている | 動画撮影時の蛍光灯などによるフリッカーを抑える機能。50Hz、60Hzを選択できる |
話が前後してしまったが、D3Sにはライブビュー撮影と動画撮影のためのライブビューボタンが設けられた。D3でライブビュー撮影を行なうためには、ボディ上面左のレリーズモードダイヤルをライブビューポジションにしなければならなかったが、これがボタン一つでできるようになったのは便利だ。D3もファンクションボタンなどにライブビュー機能を割り当てられるようにファームアップして欲しいとリクエストしていたが、残念ながら願いが叶う前にモデルチェンジされてしまった。
ライブビューボタンを押すと、瞬時にミラーアップが行なわれ、背面の液晶モニターに映像が映し出される。そのままシャッターボタンを押せば通常の静止画撮影となるし、マルチセレクターの中央ボタンを押せばDムービーの撮影となる。ライブビューモードにしておけば、静止画と動画の撮り分けもたやすい。
ライブビューモード撮影時に唯一気になるのが、画像の再生手順だ。再生ボタンに画面の明るさなどの機能が割り当てられてしまっているため、再生ボタンを押しても再生が行なわれないのである。このため、一旦ライブビューモードを解除して、それから再生ボタンを押さなくてはならない。ライブビューで撮影したあとにすぐに再生したいと思ったときにとまどってしまうことが多々あった。
ライブビューモードはD3などと同様、手持ち撮影モードと、三脚撮影モードの2種類が用意されている。位相差AFを使う手持ち撮影モードの方がAFは高速だが、やはり液晶モニターを見たままピント合わせから撮影までの一連の流れが行なえる三脚撮影モードのほうを使いたいと感じる。三脚撮影モードでのAFはコントラストAFとなる。コントラストAFは決して高速とは言い難いが、それでもD3よりも速くなっているようだ。具体的に何%速度アップしたかについての正式な発表はないが、体感的にはずいぶんと速くなっていると感じる。
液晶モニター右下部のライブビューボタンを押すと、すぐさまミラーアップが行なわれ、ライブビューモードに切り替わる。動画撮影もライブビューモードから行なう | infoボタンを押すと背面の液晶モニターに撮影情報が表示される。もう一度押すと、ピクチャーコントロールやアクティブDライティングといった各種設定内容の変更モードに移る |
■最高ISO102400に達した高感度性能
そして、D3からD3Sへの最大の進化ポイントといえば、高感度撮影機能だろう。D3ではISO200〜6400までを常用感度とし、さらにプラス2段分となるISO25600相当、マイナス1段分となるISO100までの感度を装備していた。今回のD3SではISO200〜12800までを常用感度とし、高感度側にはプラス3段分のISO102400相当、低感度側にはマイナス1段分のISO100の感度設定が可能となった。常用感度だけで見れば、高感度側にプラス1段分の余裕があり、さらに拡張ISOまでを合わせるとトータルで2段分も高感度の選択肢が広がったことになる。
高感度の画質についてだが、ISO200からISO6400までのノイズ量に関してはD3SもD3もそれほど大きな違いはないように見える。若干の違いは各感度においてあるといえばあるし、強いて言えば、D3Sのほうが各感度のノイズは少ないようにも見えるのだが、むしろこの領域の感度比較はほぼ同等といったほうが適切ではないだろうか。
ISO感度はISO200からISO12800まで。これに低感度側に1段分(ISO100)、高感度側に3段分(ISO102400相当)の拡張ISOが用意される |
違いが明確になるのは、やはりISO12800から上だ。ISO12800はすでにD3の拡張感度領域に入ってしまう。この感度になるとさすがにD3は大きくノイズが増え、解像力も低下している。だが、D3Sは、ISO6400よりもノイズが増えることは間違いないが、それでもさすがニコンが常用感度に入れているというだけの画質ではある。つまり、D3からD3Sへの高感度性能のアップ分は実質1段強というところなのではないだろうか。そのうえで、さらにD3は拡張ISOとして3段分となるISO102400相当を搭載してきたということだろう。
ちなみに、拡張ISO1段分となるISO25600に関しては、まだまだノイズも少なめで、解像感もあるため、状況によっては使ってもいいだろう。ただ、そのうえの感度になると、さすがにカラーノイズが目立ち、解像力も低下してくるので、あくまでも緊急用と考えたほうがよいだろう。
ただ、緊急用とは書いたものの、ISO102400という感度がどのような場面で必要なのかと考えてみると、私の撮影シーンの中では思い浮かばない。もちろん、その感度を使いたいという撮影者もいるだろうし、無いよりもあった方がいいという点では、このような画期的な高感度モードが搭載されているのもこのカメラの利点といえるだろう。
高感度撮影に関しては、動画にも対応している。撮影メニューから高感度動画撮影モードを「する」に設定しておけば、ISO6400からHi3の範囲での撮影ができる。
D3からの変更点といえば、もう一つ忘れてはならないのが、イメージセンサークリーニング機能の搭載だ。ローパスフィルターを4種の共振周波数で振動させることでローパスフィルターに付着したゴミをふるい落とすというもの。D90やD3000などの初中級機に当たり前のように搭載されていただけに、やっとプロ用モデルにも搭載されたかというのが率直な感想。今回のレビューではそれほど多くのシャッターを切っていないが、それでも絞り込んだ写真に写ったゴミが気になることはなかった。新しいカメラというのは、概して機械の可動部からゴミが出やすく、とくにゴミの写り込みが気になるものだが、それもなかったので、ゴミ取り性能は優秀といってよいだろう。
フルサイズとなるFXフォーマットのほか、1.2倍、DXフォーマット、5:4の4種類が選べる。1.2倍モードだけはD3になかったモードだ | アクティブD-ライティングは、より強めとオートが加えられている。このあたりの設定内容はD300Sなどと同様といえる |
■まとめ
そのほかにも、D3からは細かな変更点が見られる。infoボタンが独立して設けられ、infoボタンからピクチャーコントロールやアクティブD-ライティングの設定が変えられるようになった。D3もボタンのひとつにinfo機能が割り当てられていたが、これは背面の液晶モニターに撮影情報を表示させるだけのものだった。必須の機能というほどではないが、メニューを介さずにピクチャーコントロールなどを変更できるのはよいだろう。
最後になったが、絵作りの傾向はD3から大きな変更はないように感じる。今回もピクチャーコントロールはスタンダード、ビビッド、ニュートラル、モノクロの4種類しかなく、風景やポートレートといったモードのダウンロードもまだ用意されていなかったので、ほとんどのシーンはスタンダードで撮影した。厳密な発色テストなどはおこなってないが、日頃使っているD3との発色やコントラストに違和感を感じることはなかった。
ゴミ取り機能と動画撮影機能が搭載され、ライブビュー撮影がやりやすくなり、さらに高感度に強くなったD3Sというカメラ。さて、D3からの買い換えをおこなうかどうか、それが悩みどころである。
D3およびD3Xと同様、CFダブルスロットを備える | バッテリーは引き続きEN-EL4a/EN-EL41個を装着可能。EN-EL4a使用時の撮影可能枚数は約2,400コマ |
新しくなったとアナウンスされる「ニコン Fマウント」誕生50周年を記念したボディキャップが装着されていた |
D3(右)との比較 | 同じくD3との比較 |
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。
・D3との比較(晴天)
AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8G EDを装着し、絞り優先オートにて撮影した。三脚に取り付ける際、クイックシューを使っているが、若干位置がずれてしまったため、厳密に同じ構図ではなくなってしまった。このため、2台のシャッター速度が1/3段違っているのは、センサーの違いからか、それとも構図の違いからかは判断できない。
だが、2枚の写真を見比べてみると、遠景の解像力、オートホワイトバランスにおける青空の発色はほとんど同じということが分かる。強いて違いを見つければ、ビルの壁の色が若干違うということだろうか。
・D3との感度比較(暗所)
画像を見てもらえば分かるが、ISO200からISO6400まではD3Sが飛び抜けて高画質というほどではない。若干、ノイズの粒子が細かくなっているが、ほとんどD3と同じといってもよいレベルだ。一方、ISO6400を見ると、D3Sの方はまだ解像感も高く、ノイズも少ないが、D3のほうは急にノイズが増え、解像感も低下している。そこから上の感度はやはりD3Sの優位性を感じる。
ちなみに、低感度側の拡張感度となるISO100では、どちらもISO200に比べると階調再現性が悪く、ダイナミックレンジも狭い。
※共通データ:AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約5.8〜6.8MB / 4,256×2,832 / F8 / 0EV / WB:オート / 70mm
D3S / ISO100相当(拡張感度) | (D3S拡大画像) | D3 / ISO100相当(拡張感度) | (D3拡大画像) |
D3S / ISO200 | (D3S拡大画像) | D3 / ISO200 | (D3拡大画像) |
D3S / ISO400 | (D3S拡大画像) | D3 / ISO400 | (D3拡大画像) |
D3S / ISO800 | (D3S拡大画像) | D3 / ISO800 | (D3拡大画像) |
D3S / ISO1600 | (D3S拡大画像) | D3 / ISO1600 | (D3拡大画像) |
D3S / ISO3200 | (D3S拡大画像) | D3 / ISO3200 | (D3拡大画像) |
D3S / ISO6400 | (D3S拡大画像) | D3 / ISO6400 | (D3拡大画像) |
D3S / ISO12800 | (D3S拡大画像) | D3 / ISO12800相当(拡張感度) | (D3拡大画像) |
D3S / ISO25600相当(拡張感度) | (D3S拡大画像) | D3 / ISO25600相当(拡張感度) | (D3拡大画像) |
D3S / ISO51200相当(拡張感度) | (D3S拡大画像) |
D3S / ISO102400相当(拡張感度) | (D3S拡大画像) |
・高感度(D3S単体)
ISO102400という超高感度がどのような場面で使えるのかということを想定して、真っ暗なスタジオ内での撮影を行なった。まったく明かりがないとなにも見えないので、小型のLEDライト1灯をカメラの後方から2mくらい離れたところから、白い紙にバウンスさせてわずかな明かりを作った。見た目のイメージは、雲間からわずかに月明かりがでている山の中といった感じだ。
絞り値をF4に固定すると、ISO200でのシャッター速度は25秒。感度を上げていくごとにシャッター速度は速くなり、HiとなるISO102400相当では1/20秒となった。どこまでが使える画質かということは各人の判断にお任せするが、ISO200で25秒もの長秒露光が必要な明るさでも、ISO102400では手持ち撮影も可能なほどのシャッター速度になるということだ。9段分のシャッター速度の変化というものはまったく別次元の撮影だと感じた。野生動物の撮影など、長秒露光ができないものを撮るにはやはり有効といえるだろう。
※共通データ:D3S / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約2.0〜6.2MB / 4,256×2,832 / F4 / 0EV / WB:オート / 70mm
ISO200 | ISO400 | ISO800 | ISO1600 |
ISO3200 | ISO6400 | ISO12800 | ISO25600相当 |
ISO51200相当 | ISO102400相当 |
・ピクチャーコントロール
ピクチャーコントロールは、初期設定でスタンダード、ビビッド、ニュートラル、モノクロの4種類のみ。いずれ、Webサイトで風景やポートレートといったモードもダウンロードできるようになるはずだ。
※共通データ:D3S / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約4.2〜5.6MB / 4,256×2,832 / 1/320秒 / F9 / 0EV / ISO200 / WB:晴天 / 48mmスタンダード | ビビッド |
ニュートラル | モノクロ |
・アクティブD-ライティング
絞り優先オートでの撮影だが、「しない」と「弱め」に関してはシャッター速度が1/80秒、「標準」では1/100秒、「強め」と「より強め」は1/125秒となっている。このことから、アクティブD-ライティングの効果を強めるほど、露出時に白トビを抑える傾向となり、その分シャドーを大きく持ち上げるというセッティングになることが分かる。また、今回のシーンでは、オートは標準と同じ露出になっているが、標準の画像に比べると、少し明るめの仕上がりとなっている。
・そのほか
D3S / AF 50mm f/1.4D / 約3.6MB / 2,832×4,256 / 1/800秒 / F2 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 50mm | D3S / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約4.9MB / 4,256×2,832 / 1/50秒 / F2.8 / 0EV / ISO800 / WB:晴天 / 24mm |
D3S / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約6.6MB / 4,256×2,832 / 1/160秒 / F4 / 0EV / ISO3200 / WB:晴天 / 70mm | D3S / AF 50mm f/1.4D / 約5.6MB / 2,832×4,256 / 1/10秒 / F2 / 0EV / ISO3200 / WB:オート / 50mm |
D3S / AF 50mm f/1.4D / 約5.5MB / 4,256×2,832 / 1/30秒 / F4 / 0EV / ISO6400 / WB:オート / 50mm | D3S / AF 50mm f/1.4D / 約5.2MB / 2,832×4,256 / 1/200秒 / F2 / 0EV / ISO3200 / WB:オート / 50mm |
D3S / AF 50mm f/1.4D / 約5.9MB / 4,256×2,832 / 1/40秒 / F2.8 / 0EV / ISO3200 / WB:オート / 50mm | D3S / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約6.2MB / 4,256×2,832 / 1/30秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO12800 / WB:オート / 24mm |
2009/11/17 18:13