ミニレポート

大口径望遠ズーム「HD PENTAX-D FA★ 70-200mmF2.8ED DC AW」を試す

(PENTAX K-1)

量販店での実勢価格は税込約26万円前後。PENTAX K-1(ファームウェア1.00)との組み合わせで試写を行った

HD PENTAX-D FA★ 70-200mmF2.8ED DC AWは、PENTAX K-1のために開発された35mmフルサイズ対応の大口径望遠ズームレンズだ。今回、筆者のPENTAX K-1(ファームウェア1.00)との組み合わせで試写を行った。

新世代PENTAXレンズの反射防止コーティングとしてすでにお馴染みのHDコーティングに加え、より高性能なABC II(エアロ・ブライト・コーティングII)を一部のエレメントに採用し、ベスト・オブ・ザ・ベストの性能を狙ったものだ。

焦点距離は70-200mmで、APS-C機との組み合わせでは35mm判換算107~307mmの画角をカバーするF2.8の望遠ズームとして機能する。

大きさは、最大径91.5mm×長さ203mm。重量は1,755gあり、他社の同クラスが1,500g内外であるのに比べてひとまわり重く、フードと三脚座を合わせると2,030gに達する。従来のイメージとはかけ離れた「大きく重いPENTAX」だが、このレンズが映し出す世界を見てしまうと、高性能のためのリーズナブルな重さとして素直に納得せざるえない。

バッテリーグリップD-BG6付きK-1に取り付けた様子

16群19枚構成の光学系は、4枚の異常低分散ガラスと2枚の特殊分散ガラス(EDガラス)に加え、新開発のスーパーEDガラスも2枚採用するなど、凝りに凝ったものになっている。

開放絞りは全域でF2.8、最小絞りはF22である。絞り羽は9枚の円形絞りを採用し、F2.8からF5.6の範囲で開口部を円形に近く保ち、美しい玉ボケを演出する。さらに絞り込んだ時の光芒も穏やかなものだ。

70mm時
200mm時。ズーミングによる全長の変化はない
最短撮影距離はズーム全域で1.2m

ズーム全域で1.2mという最短撮影距離は同クラスの平均的なスペックで、最大撮影倍率0.13倍というのもそれほど目立つものではない。しかしD FA★ 70-200mmの近接撮影時の画質は非常に高く、テレマクロ的な用途にも魅力的だ。

防塵・防滴性能の高いAW仕様を採用し、のべ13カ所にシーリングを施した作りの良さは悪天候下でも高い信頼性を発揮する。

KAF3マウントの周囲にはシーリングのための赤いOリングが施されている

AFは内蔵のDCモーターで駆動され、リングUSMほど速くはないが実用上遜色はないスピードで動作する。AFカプラーが省略されたKAF3マウント仕様であり、レンズ内モーター用電源接点を持たない古いPENTAXとの組み合わせではMF専用になる。

ズーミングの操作トルクはかなり重く、フレーミングをズームで調整しながら次々にスナップするスような撮影スタイルには向かない。「あるシーンでは100mm。次のシーンでは180mm」という具合に、あらかじめ選んだパースペクティブでじっくり撮るスタイルに適している。

77mmというフィルターサイズはPENTAXの望遠レンズとして標準的で、偏光フィルターをはじめとする高価なフィルターが共用できることはユーザーにとって好都合だろう。

前玉に施されたSPコーティングは表面に付着した水滴や油分の拭きとりを容易にし、光学性能を永く保つ。鏡筒後部のドロップインフィルターホルダーや、シートフィルターホルダーなどの備えはない。

標準付属の花形フードをつけた様子。フードにはPLフィルターを操作するための窓がある

新設計の三脚座はAPS-CのDA★望遠レンズ群に付属のものとは違い、まず固定ノブを緩め、その上でノブを押し込んでセーフティを解除してから、三脚座をスライドして外すという安全性を重視した方式に改められた。

新型三脚座

この三脚座はHD PENTAX-D FA 150-450mmF4.5-5.6ED DC AWと共通のもので、三脚ネジ穴は2つ加工してあり、超望遠レンズ用のロングタイプのアルカスイスプレートの取り付けにも配慮されている。

後端が傾斜して面取りされているデザインだが、フランジで周り止めするタイプのKIRK LP-5レンズプレート(私物)も問題なく使用できた。

望遠レンズとしての操作性向上のためにクイックシフト・フォーカス・システム(QFS)を「QFS/A」「QSF/M」「MF」の3つのモードに切り替える「フォーカスモードレバー」を備えている。この機能は新開発のものだ。

鏡筒側面にフォーカスモードレバーとフォーカスレンジリミッターを備える
上がフォーカスモードレバー。下がフォーカスレンジリミッター

フォーカスモードレバーについて

フォーカスモードレバーが「QFS/A」ポジションにあるときは、まずAFで合焦した後に、切り替えなしでMFに移行できる。つまり、従来からおなじみのクイックシフト・フォーカス・システムと同じ動作だ。

一方「QSF/M」ポジションにあるときは、AF-Sの合焦前、あるいはAF-C動作中(つまりAFモーターが駆動中)にも、フォーカスリング操作によって瞬時にMFで割り込むことができる。

ユーザーマニュアルの内容を解釈すると「QSF/MにしておけばAF動作が間に合わないときにとっさにMFで対応できるけれども、通常はQSF/Aを推奨」ということのようだが、テストを通じての私の感想は、つねにQSF/Mにしておくほうが使いやすかった。

なぜならQSF/Mにしておけば、ボディがAF-Cモードで動作しているときにも、切り替えなしでMFの割り込みが可能になるからだ。これは従来のレンズとボディの組み合わせでは不可能な機能だ。

フォーカスモードレバーの隣には、AFの作動範囲を制限してレスポンスを改善するフォーカスレンジリミッターも備えている。ただ。動きものを撮るようなレンズでもないので実効性は正直なところ微妙。それよりなぜ、ボディのエプロンにある「AFモードボタン」と同じ機能のボタンを鏡筒に設けなかったのかが気になった。

スポーツ撮影のように1つのフィールドで被写体を追い続けるなら別として、スナップ的な撮影、あるいは短い時間で設定を変えた多数のカットを撮らなければならないポートレート撮影では、AFモードを切り替える機会が少なくない。

その際にボディのAFモードボタンに手を運ばなければならない仕様は、この重さのレンズだといささか不合理に感じる。もしもファームウェアで解決できるなら是非とも改善してもらいたい点だ。

 ◇           ◇

※実写テストは回折補正、色収差補正をON。歪曲補正、周辺光量補正、フリンジ補正をOFFで撮影しています。

解像力

描写は開放から非常にシャープであり、解像力を補うために絞るという考えはこのレンズには無用だ。

ただし、開放絞りの被写界深度は極めて浅いので、やたらと開放絞りばかりで撮るとせっかくのシャープネスをうまく生かせないこともあり、ボケの美しさに溺れてしまうと絵作りも単調になりやすい。

ときには積極的に絞り込み、高コントラストを生かしたカッチリした描写を求めてみるのもいいだろう。最小絞りF22では回折補正ONでも少し結像が甘くなるが、比較してはじめてわかる程度であり「非常用」と考える必要はない。

アラ探しのようなことを言えば。近接撮影時に限って前ボケに縁取りがつきやすい傾向があり、少しボケがざわつく。F4程度まで絞ってやればこの傾向は弱くなり、F5.6では気にならない程度になるので、前ボケを使う場合は少し絞ってやるか、逆に大きくぼけるような構図にするといいだろう。

※共通設定:K-1 / 絞り優先AE

70mm(広角側)

F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
F22

200mm(望遠側)

F2.8
F4
F5.6
F8
F11
F16
F22

ボケ

後ボケは撮影距離によらず開放から至極素直で、被写体を美しく引き立ててくれる。

K-1 / 1/800秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 200mm
K-1 / 1/250秒 / F4.5 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 200mm
K-1 / 1/250秒 / F4.5 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 200mm

ディストーション

ディストーションは70mmではタル型。100mmから135mmあたりでは、単焦点レンズに匹敵するレベルのほぼ完全な補正であり、200mmではわずかに糸巻型を示す。

全域を通じてよく補正され、一般の撮影ではまず気にならないし、厳密な用途ならば歪曲収差補正機能を使って打ち消すこともできる(歪曲収差補正を使うとファインダーで見えている部分がわずかにトリミングされることに注意が必要)。

70mm。K-1 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 70mm
100mm。K-1 / 1/100秒 / F11 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 100mm
135mm。K-1 / 1/100秒 / F11 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 130mm
200mm。K-1 / 1/100秒 / F11 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 200mm

周辺減光と口径食

開放絞りの周辺光量落ちも画面に適度な締まりが出る程度のもので、実写を通じて気になるようなことはなかった。

K-1 / 1/8,000秒 / F2.8 / -1EV / ISO125 / 絞り優先AE / 130mm(開放絞りのため手前の石組みの建物はアウトフォーカスになっている)

絞りを開放にすると周辺の玉ボケはレモン型になってしまうが、これはすべての写真用レンズで不可避なので仕方ない。口径食を嫌う場合は少し絞ってやるといいだろう。クロップと併用するのもアリだ。

K-1 / 1/640秒 / F2.8 / -1EV / ISO800 / 絞り優先AE / 170mm
K-1 / 1/250秒 / F4.5 / -1EV / ISO800 / 絞り優先AE / 160mm

逆光

太陽の強い反射が水面にいくつも映る構図でフレアが発生しやすい状況だが、回折による光芒が出ている以外に、だらしないコントラストの崩れはない。HDコーティングとABC IIをコンビネーションで採用した効果がよく表れている。

K-1 / 1/1,600秒 / F7 / -1.3EV / ISO500 / 絞り優先AE / 200mm
K-1 / 1/640秒 / F7 / 0EV / ISO500 / 絞り優先AE / 200mm

作品

K-1の登場までは、smc PENTAX-DA★60-250mmF4 ED[IF]SDMとK-3IIでISO2500、F4.5、1/100秒で撮っていたシーンだが、高感度に強いK-1と、このレンズを使えばISO12800、F2.8、1/500秒で、弦の震えまで克明に写し止めることができる。

K-1 / 1/500秒 / F2.8 / 0EV / ISO12800 / マニュアル / 200mm

光源のフィラメントが写り込む条件でも、電球の刻印はもちろん、ガラスの質感や表面の埃まで克明に捉える。

K-1 / 1/640秒 / F2.8 / 0EV / ISO3200 / マニュアル / 180mm

ほぼ最短撮影距離でヒメジョオンの花を撮った。感度を上げて少し絞り、高速シャッターで連写したなかの1枚。

K-1 / 1/1,600秒 / F5 / -1EV / ISO500 / 絞り優先AE / 200mm

絞り開放だと描写が柔らかくなりすぎるので1/3段絞って、蓮のつぼみを象徴的に捉える構図を狙った。

K-1 / 1/1,000秒 / F3.5 / -1EV / ISO200 / 絞り優先AE / 200mm

ペンギンは水中を飛ぶように泳ぐ。大口径を生かして高速シャッターを切ることで不思議な感じを写し止めることができた。

K-1 / 1/1,000秒 / F2.8 / +1EV / ISO200 / 絞り優先AE / 200mm

コントラストの高さを生かすために絞り込み、硬質な質感表現を狙った。

K-1 / 1/400秒 / F10 / -1EV / ISO1600 / 絞り優先AE / 180mm

影の中の黒のディテールや立体感まで表現できている。これが本当の意味での「抜けの良さ」だ。

K-1 / 1/250秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 150mm

抽象化された馬の表現がおもしろかったので、馬の頭を中心に人物像までシャープに描写するように少し絞った。

K-1 / 1/320秒 / F9 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 200mm

オジロワシの瞳の透明感も見事に再現している。「せっかくの大口径を」という考えもあると思うが、これくらい絞った時の描写も好ましい。

K-1 / 1/250秒 / F5.6 / -2.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 200mm

平凡なレンズなら完全なシルエットになってしまう露出条件だが、影になっている顔のディテールも潰れていない。

K-1 / 1/1,000秒 / F5.6 / -3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 200mm

夕暮れの淡い光の中で、被写界深度とシャッタースピードを両立させるためにF5.6、1/1,000秒を選んだ。背景のボケが崩れたり、不自然な多角形が現れたりしないのは円形絞りの賜物だろう。

K-1 / 1/1,000秒 / F5.6 / -1.7EV / ISO1250 / マニュアル / 200mm

まとめ

K-1が目指すところの「APS-Cでは達成できなかった画質」を具現化するために、APS-CのDA★シリーズに匹敵する優れた光学性能とフルフレームをカバーするイメージサークルを備えたレンズとした開発されたのがこのD FA★70-200mmだ。

近距離撮影時の前ボケにわずかな癖が認められる以外に指摘すべき問題はなく、実に素晴らしい描写を見せてくれる。

操作性を少し改善して欲しい点も見受けられたが不都合というほどではなく、高級レンズを使っているという満足感は終始感じられた。難点は何と言っても重さだが、それを許容できるなら、決して手ごろとは言えない価格を押してでも手に入れる価値は十分にある。

フルフレームPENTAX時代の新しい「スターレンズ」の象徴としてふさわしい1本だ。

大高隆

1964年東京生まれ。多摩美大グラフィック卒業後、メディアアート/サブカル系から堅い背広のおじさんまで幅広く撮影して四半世紀に。最近は、レンズシステムにFAレンズやD FAレンズを追加していくためのテストをしたり、建築写真絡みの仕事が増えてきたのでNikonのシステムも細々と増強中。日本荒れ地学会正会員。

http://dannnao.net/