フィルター活用術

秋の紅葉や滝を鮮やかに撮ろう!

写真の印象が激変 基本的なフィルターワークを紹介

今回、紅葉の写真を撮りに出かけたのは栃木県の奥日光だ。奥日光は関東でも紅葉の色づきが早く、竜頭の滝や中禅寺湖、戦場ヶ原といった数多くの紅葉名所がコンパクトにまとまっていて写真撮影には最適な場所といえる。

さらに足を伸ばせば、群馬県側の丸沼や菅沼周辺の紅葉も美しく、奥日光と比べると観光客もそれほど多くないので落ち着いた撮影が楽しめる。

風景を撮るならぜひ使いたい「PLフィルター」

ところで、今までに紅葉を写した時に「見たままの鮮やかさが再現されていない」と感じたことはないだろうか。

そんな経験をお持ちの方には、PLフィルターを使った撮影をお薦めしたい。PLフィルターには「被写体の色を強調する」「水面などの反射を取り除く」という2つの効果があるため、紅葉はもちろん、風景を撮る際には欠かせないフィルターなのである。

PLフィルターで紅葉が俄然美しくなる!

奥日光の湯ノ湖で湖畔を彩る紅葉を写す
PLフィルターを付けずに撮ると黄葉や草の緑色に鮮やかさが感じられず、メリハリのない写真になった。そこでPLフィルターを取り付けると黄葉本来の色が現れて草の緑も鮮やかになり、画面全体のコントラストも高めることができた。湯ノ湖独特の湖の色合いも美しく表現されている。
【フィルター非装着】葉の色が薄くインパクトに欠ける
EOS 5D Mark III / EF 70-200mm F4L IS USM / 1/30秒 / F11 / ISO100 / 絞り優先AE / 165mm
【PLフィルター装着】葉の黄色がグッと出て紅葉らしくなった
EOS 5D Mark III / EF 70-200mm F4L IS USM / 1/25秒 / F11 / ISO100 / 絞り優先AE / 165mm

青空と紅葉の対比が美しい作品に繋がる

PLフィルターは、レンズ先端に装着するだけではその効果は得られない。二重構造になっているフィルターの外枠をゆっくり回転させると、色が濃くなったり薄くなったりする。そのため、ファインダーや液晶モニターを注意深く見ながら操作しよう。

PLフィルターは外枠を回転させて効果を調節する

被写体の色を強調するPLフィルターは、青空を写す場合にも有効だ。青空の澄み切った色を出したい時や空に浮かぶ雲を強調したい時にPLフィルターを効かせると、イメージ通りの写真に仕上げられる。

空もより青く描写でき、紅葉の山肌が一層引き立った

錦秋の山と青空に浮かぶ雲を捉える
PLフィルターを付けずに撮影したカットでは青空の色にコクが感じられず、雲が浮遊している様子があまり感じられない。しかしPLフィルターを装着して撮ると、青空の色が濃くなり雲の存在も強く感じられる写真になった。紅葉した山の色合いも鮮やかに表現されたことで、インパクトのある写真になっている。
【フィルター非装着】雲がのっぺりしている
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4L IS USM / 1/50秒 / F8 / ISO100 / 絞り優先AE / 35mm
【PLフィルター装着】空に青のグラデーションが現れ、雲に厚みが感じられる
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4L IS USM / 1/40秒 / F8 / ISO100 / 絞り優先AE / 35mm

風で揺れる樹木を表現するには「NDフィルター」

この日は朝から強い風がずっと吹き続けていた。晴れていて光量も充分にあったので、ほとんどの場面で風の影響を受けずに写せたが、逆にその風を利用してブラして撮ることで幻想的な写真に仕上げることもできる。そのような時に使用するのがNDフィルターだ。

減光効果をもたらすのがNDフィルター

NDフィルターは減光フィルターとも呼ばれ、文字通り“カメラに入る光を減らす”効果が得られるフィルターである。二重構造のPLフィルターとは違い1枚のガラスで構成されているが、ガラス部分は透明ではなく黒々としている。さらに何種類かの濃度が異なるものが用意されているので、これらを揃えておけばさまざまな状況下で意図通りのシャッター速度が得られる。

ただし、NDフィルターを使った場合はスローシャッターとなるため、三脚を使って撮影しなければならない。さらに僅かなブレも起こさないようにケーブルレリーズも準備しておきたい。

NDフィルターを使う際は三脚が必須。ケーブルレリーズも用意しよう

なお、NDフィルターを取り付けた時には、光学式ファインダーのカメラではファインダーが暗くなるので、NDフィルターの影響を受けないライブビューに切り替えて撮影しよう。

NDフィルター使用時はライブビューを活用したい

NDフィルターを使えば枝が揺れる幻想的な写真が撮れる

黄色く色づいた銀杏の紅葉を狙う
フィルターを付けずにそのまま写すと、銀杏の葉が太陽の光に美しく浮かび上がった。ある程度完成した写真になっているが、画面の中で風を表現するためにNDフィルターを装着すると、非装着時には1/20秒だったシャッター速度が2秒になった。風が強く吹いた瞬間を見計らってシャッターを押し、紅葉した葉がブレて幻想的に写るように撮影している。

被写体をブラして写す時のコツは、画面の中にブレないものも取り入れることである。画面の中のすべてのものがブレていると見ていて落ち着かず、何が写っているのかよくわからない写真になってしまう。ここでは銀杏の静止した幹を取り入れてブレた葉と対比させることで、よりいっそう動きを感じさせている。
【フィルター非装着】このままでも良いが、何かをプラスしたい……
EOS 5D Mark III / EF 16-35mm F4L IS USM / 1/20秒 / F14 / ISO100 / 絞り優先AE / 20mm
【ND64装着】スローシャッターによるブレでさわやかな秋の風を表現できた
EOS 5D Mark III / EF 16-35mm F4L IS USM / 2秒 / F14 / ISO100 / 絞り優先AE / 20mm

日光の名瀑でもPLフィルターが大活躍

さて、日光の滝といえば華厳の滝が有名だが、戦場ヶ原の近くでは華厳の滝とともに“奥日光三名瀑”として知られている竜頭の滝や湯滝もある。

今回訪れた竜頭の滝は“渓流瀑”と呼ばれるタイプの滝で、落差のある斜面を水が流れている。滝の左岸には遊歩道が設けられていて間近で撮影できるが、上流部にある竜頭の橋から眺める姿も美しく、滝と一緒に中禅寺湖も写せる。

滝を撮影する時にもPLフィルターは欠かせない。川岸を彩る紅葉を鮮やかにする効果もあるが、冒頭でも述べたように「水面の反射を取る」という効果が得られるからだ。水のある風景の撮影では、水の描写が表現上の大きなポイントとなる。

水面の反射を取り除くと清らかな渓流の流れを描写できた

竜頭の橋から下流方向にカメラを向ける
PLフィルターを装着しないで写すと、光が反射して水の表情があまり感じられない。そこでPLフィルターを効かせて写すと、川面の余計な反射が取れて黒々とした河床が現れ画面にメリハリがついた。さらに両岸の紅葉の色が鮮やかになり、コントラストも高まっている。
【フィルター非装着】水面が反射して真っ白に。ここはPLフィルターの出番
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4L IS USM / 1/80秒 / F13 / ISO100 / 絞り優先AE / 32mm
【PLフィルター装着】紅葉の鮮やかさもさることながら、より渓流らしい水面の描写になった
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4L IS USM / 1/40秒 / F13 / ISO100 / 絞り優先AE / 32mm

これは便利! PLとNDが合体した「CREATION」

上記の場面でPLフィルターを効かせれば美しい写真になるが、さらに写真の完成度を高めるのであればマルミ光機の「CREATION」(クリエイション)というフィルターを使おう。

PLフィルターとNDフィルターを1枚にしたのがマルミ光機の「CREATION」だ

CREATIONはPLフィルターとNDフィルターが1枚にまとめられた製品で、水風景を撮る時には非常に便利なフィルターだ。

CREATIONで水の描写に変化を付ければ完成度が高まる

PLフィルターだけでも美しい写真になるものの、シャッター速度が速く水の流れの描写にやや不満が残る。そこで水をスローシャッターで美しく表現するために「CREATION」を使用する。レンズに取り付け、PLフィルターと同じように回転枠を回すと川面の反射が取れて紅葉も鮮やかになった。シャッター速度は1/5秒になるので水流が滑らかに表現されて、水の美しさが感じられる写真に仕上げることができた。
【CREATION装着】水面にブレが加わることで、一気に雰囲気が増す
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4L IS USM / 1/5秒 / F13 / ISO100 / 絞り優先AE / 32mm

では次に「PLフィルターとCREATIONの比較」および、「CREATIONの効き具合を変えた場合」の写真を見てみよう。

CREATIONのPL効果を調整して最適な仕上がりに

湯ノ湖の手前に流れる湯滝を撮影
PLフィルターを装着して写したカットは、非装着の写真に比べて紅葉の色や青空が鮮やかになっているのがわかる。さらに「CREATION」を使えば、低速シャッターによって水流が滑らかに描写された。この時に青空の上部の色が濃くなりすぎたので、少しだけPLフィルターの効き具合を弱めて撮影している。
【フィルター非装着】全体に色のりが足りない印象
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4L IS USM / 1/50秒 / F11 / ISO100 / 絞り優先AE / 32mm
【PLフィルター装着】空の青、滝の白、紅葉という鮮やかな色の対比が生まれた
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4L IS USM / 1/40秒 / F11 / ISO100 / 絞り優先AE / 32mm
【CREATION装着/効果最大】NDの効果が加わるため、滝の流れを糸のように描写できる
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4L IS USM / 1/6秒 / F11 / ISO100 / 絞り優先AE / 32mm
【CREATION装着/効果をやや弱めて】濃すぎた空の青を弱めて完成
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4L IS USM / 1/6秒 / F11 / ISO100 / 絞り優先AE / 32mm

CREATIONで秋の風景を印象的に写す

CREATIONは水風景だけでなく、紅葉や花などを写す時にも使用できる。このフィルターは「スローシャッターで色鮮やかに表現したい」場面で使うと効果が上がる。ここでは路傍に咲いていた野菊を「CREATION」を使って捉えてみた。

NDフィルターと同じようにCREATIONを装着した場合もカメラのファインダーは暗くなるので、その影響を受けないライブビュー撮影に切り替えよう。

風に揺れる野菊をブラして撮ることで情緒的な作品になった

湖畔に群生していた野菊を写す
フィルター非装着時は花や草の鮮やかさが感じられないが、PLフィルターを使うと鮮やかに表現できた。さらにこの場面で「CREATION」を使うと風によって花がブレて、個性的な写真に仕上げることができる。この時もNDフィルターを使った撮影と同じように、一部の草がブレないタイミングを見計らってシャッターを押している。
【フィルター非装着】やはり色のりが弱く、平凡なカットになった
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4L IS USM / 1/30秒 / F14 / ISO100 / 絞り優先AE / 73mm
【PLフィルター装着】発色が濃くなったことで同じ被写体でもだい引き締まった印象になる
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4L IS USM / 1/5秒 / F14 / ISO100 / 絞り優先AE / 73mm
【CREATION装着】ブレを加えたことで画面に動きのある作品になった
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4L IS USM / 1/4秒 / F14 / ISO100 / 絞り優先AE / 73mm

さあ秋本番! フィルターを持って撮影に出かけよう

僕が愛用しているフィルターはいずれもマルミ光機製のもので、PLフィルターは「EXUS」、NDフィルターは「DHG」シリーズを使っている。

「EXUS」のPLフィルターには明るい偏光膜が採用されているため、従来製品よりもカメラのファインダーが明るく見えやすいのが特徴だ。また、フィルター表面に撥水加工や防汚コートも施されているので、雨の日や滝の側などフィルター表面に水滴が付きやすい場面では非常に重宝する。

今回使用したマルミ光機のEXUS PLフィルター

マルミ光機のPLフィルターには価格を抑えた「DHGスーパー」シリーズや「DHG」シリーズもあるので自分に合った製品を選びたい。

一方、NDフィルターは暗さの度合いが異なるND8からND64までの4種類のタイプが、「CREATION」にはND8、ND16の2種類がそれぞれラインナップされている。非装着時と比べてND8は光量を1/8に落とせて、ND64では1/64になる。前述したようにどちらのフィルターも低速シャッターでの撮影となるため、三脚とケーブルレリーズは必需品だ。

今回使用したマルミ光機のDHG NDフィルター

暑かった夏も終わり、まもなく秋本番の季節を迎える。カメラやレンズだけでなくフィルター類もしっかりと用意して、日本の秋の表情を美しく切り取ろう。

制作協力:マルミ光機

伊藤亮介

(いとうりょうすけ)1972年新潟県生まれ。東京電機大学卒。中学生から写真を始め、大学生の時から本格的に自然風景を撮り始める。写真誌編集部の勤務を経てフリーランスとなり、現在は各写真雑誌に作品・記事を数多く寄稿している。「ニコンDf WORLD」「ニコンD750マニュアル」「キヤノンEOS 5Ds/5Ds R WORLD」(いずれも日本カメラ社)で口絵ページをはじめ、レンズ紹介ページなども担当。2015年より月刊「日本カメラ」(日本カメラ社)で「一撃必撮! 風景撮影ワザのすべて」を連載中。