いささか旧聞に属するが、リコーは5月19日、GXRにおける機能拡張ファームウェア第1弾を公開した。これまでGR DIGITALシリーズのみに許されていた機能拡張ファームウェアが、いよいよGXRでも登場したわけだ。ちなみにリコーは、GR DIGITAL III向けの機能拡張ファームウェアも同時に公開した。GR DIGITALとGXRの2枚看板を並列して注力していこうとの意思を感じたのだが、本当のところはどうなのだろうか。
今回のファームウェアは、カメラユニット「GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO」と、「RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VC」が対象になっている。バージョン番号はどちらも1.17だ。ただしアップデートするとボディのGXRのファームウェアも同時に更新され、バージョン1.17Bという表記になった。
機能拡張ファームウェアの内容は多岐に渡る。ここでは代表的な項目に絞って紹介したい。
■ノイズリダクションに「MAX」が
これまで、GXR(A12 50mm F2.5 MACRO、S10 24-72mm F2.5-4.4 VCともに)のノイズリダクションメニューは、「OFF」、「弱」、「強」の3段階だった。今回のアップデートで、「強」を上回るリダクション効果の「MAX」が加わった。CX3にも同名の設定があり、これまでCX3独自の機能だったMAXを、GXRに展開したという見方もできる。
MAXは、A12 50mm F2.5 MACRO、S10 24-72mm F2.5-4.4 VCの両方とも利用可能。また、これまでの「弱」、「強」と同じく、適用範囲を「すべて」、「ISO201以上」、「ISO401以上」、「ISO801以上」、「ISO1601以上」、「ISO3200」から選べる。MAXをISO感度「AUTO」や「AUTO-HI」と組み合わせることも可能だ。
ノイズリダクションの設定に「MAX」が加わった。CX3にも同じ名称の設定がある |
MAXのノイズリダクション効果は確かに高く、OFFや弱に比べてSNの向上が感じられる。ただし従来の「強」以上に、感度を上げるにつれて細部の再現性が悪くなり、ディテールが怪しくなる。今まで通り、ノイズの低減と質感の再現性はトレードオフの関係にある。それがより極端になった印象だ。結局、シーンや被写体に合わせて、自分なりの基準を探っていくしかないだろう。GXRではノイズリダクション発動の下限を決められるので、上手く組み合わせて設定を考えようと思う。オート設定があれば……とも思うが、それはそれで使いどころを悩むことになりそうだ。
もちろん品質にこだわるのなら、RAWで撮って現像時に適宜ノイズ処理を行なう手もある。ただし、S10 24-72mm F2.5-4.4のような小サイズセンサーの場合、カメラが生成するJPEG以上にうまくノイズリダクションを適用するには、それなりに技術が必要だろう。しかも面倒だ。
いまのところ、個人的にはS10 24-72mm F2.5-4.4でのISO800以上は非常用、あるいはメモ用なので、MAXでいいかなと感じた。何よりもこの機能は、さらにセンサーサイズが小さいRICOH LENS P10 28-300mm F3.5-5.6 VC(6月上旬発売予定)で本領を発揮するのだろう。
サンプルは完全に日が落ちてからの夜景で遠景、露出を暗めにしていることもあり条件は厳しい。わざとノイズを目立たせるような環境でもあるので、屋内での撮影が多い人なら、もう少しノイズ量やディテールの喪失具合が緩やかなはずだ。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像(JPEG)を別ウィンドウで表示します。
- サムネルはいずれも撮影画像を等倍で切り出したものです。
- カッコ内はノイズリダクションの設定です。
・GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO
※共通設定:GXR / GR LENS A12 50mm F2.5 MACRO / 約3.1MB〜約4.6MB / 4,288×2,848 / F4.5 / -0.7EV / WB:マルチパターンAUTO / 33mmISO200(OFF) | ISO200(弱) | ISO200(強) | ISO200(MAX) |
ISO400(OFF) | ISO400(弱) | ISO400(強) | ISO400(MAX) |
ISO800(OFF) | ISO800(弱) | ISO800(強) | ISO800(MAX) |
ISO1600(OFF) | ISO1600(弱) | ISO1600(強) | ISO1600(MAX) |
ISO3200(OFF) | ISO3200(弱) | ISO3200(強) | ISO3200(MAX) |
ISO200(OFF) | ISO200(弱) | ISO200(強) | ISO200(MAX) |
ISO400(OFF) | ISO400(弱) | ISO400(強) | ISO400(MAX) |
ISO800(OFF) | ISO800(弱) | ISO800(強) | ISO800(MAX) |
ISO1600(OFF) | ISO1600(弱) | ISO1600(強) | ISO1600(MAX) |
ISO3200(OFF) | ISO3200(弱) | ISO3200(強) | ISO3200(MAX) |
・RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VC
※共通設定:GXR S10 / RICOH LENS S10 24-72mm F2.5-4.4 VC / 約3.1MB〜約3.7MB / 3,648×2,736 / F4.4 / -0.7EV〜0EV / WB:マルチパターンAUTO / 10.5mmISO100(OFF) | ISO100(弱) | ISO100(強) | ISO100(MAX) |
ISO200(OFF) | ISO200(弱) | ISO200(強) | ISO200(MAX) |
ISO400(OFF) | ISO400(弱) | ISO400(強) | ISO400(MAX) |
ISO800(OFF) | ISO800(弱) | ISO800(強) | ISO800(MAX) |
ISO1600(OFF) | ISO1600(弱) | ISO1600(強) | ISO1600(MAX) |
ISO3200(OFF) | ISO3200(弱) | ISO3200(強) | ISO3200(MAX) |
ISO100(OFF) | ISO100(弱) | ISO100(強) | ISO100(MAX) |
ISO200(OFF) | ISO200(弱) | ISO200(強) | ISO200(MAX) |
ISO400(OFF) | ISO400(弱) | ISO400(強) | ISO400(MAX) |
ISO800(OFF) | ISO800(弱) | ISO800(強) | ISO800(MAX) |
ISO1600(OFF) | ISO1600(弱) | ISO1600(強) | ISO1600(MAX) |
ISO3200(OFF) | ISO3200(弱) | ISO3200(強) | ISO3200(MAX) |
■ADJ.レバーでISO感度の変更が可能に
背面右手側の操作部。ADJ.レバーは上側に位置する。再生ボタンの下にあるのがマクロボタン |
GXRでISO感度を変更する方法としては、すでに「撮影設定メニューから変更する」、「Fn1に割り当てる」、「Fn2に割り当てる」、「ADJ.レバー設定に機能を割り当てる」の4種類が存在する。ただしいずれもISO感度メニューを表示するもので、最短でも「メニューを表示」→「感度を変更」の2アクションが必要だった。
今回のアップデートのひとつ「ADJ. ISOダイレクト変更」は、撮影中にADJ.レバーの左右を倒すことで、ISO感度を変えられるという機能。これがすこぶる快適で、特にプログラムシフトモードと絞り優先モードでの使い勝手は素晴らしい。というのも、通常GXRではシャッターボタンの半押し中、画面下に絞り値、シャッター速度、ISO感度が表示される。このときADJ. ISOダイレクト変更をONにしておけば、シャッターボタンを半押ししたまま、ADJ.レバーで感度を1段ずつ変えることが可能。合わせてシャッター速度や絞り値もシフトするので、ペンタックスの感度優先モードのような操作が可能になるわけだ。GXRのADJ.レバーはGX200よりも操作性が良くなっていることもあり、とにかくとっさの感度変更に強くなる。ISO AUTOからの変更も可能なので、想定外の感度やシャッター速度になった場合のフォローとしても使いやすい。
この機能を常用すると、Fn1設定、Fn2設定、ADJ.レバー設定1〜4に、ISO感度を割り当てなくてすむようになる。これまでFn2にISO感度を割り当てていたが、ADJ.ISOダイレクト変更を使うようになってからは、Fn2に「カラー→白黒」を割り当てている。こうしたカスタマイズの自由度は、リコー製品の醍醐味といったところだろう。
■フォーカスリングの高速移動
A12 50mm F2.5 MACROの泣き所のひとつが近距離撮影時のAFの弱さであり、MFに変えると今度は電子フォーカスリングによるリニア感に欠けた操作性が気になる。特にMF時のフォーカス移動速度は近距離用の調整なので、撮影距離をを大きく変えようとすると移動速度が遅くてイライラすることがある。
そうした声にこたえてか、今回のアップデートでは、MF時のフォーカス移動を高速にする機能が盛り込まれた。MF時にマクロボタンを押すと撮影距離と被写界深度を示すフォーカスバーが黄色になり、小さな回転角で大きくフォーカスを移動できるようになる。覚えておけば、何らかの理由で近距離から無限遠、あるいはその逆にフォーカスを移動させたいときなどに便利だ。MF派にはうれしいアップデートといえる。
ちなみにこの機能は、A12 50mm F2.5 MACROだけで利用できる。S10 24-72mm F2.5-4.4 VCは、そもそもフォーカスリングを備えていないので使用不可。また、フォーカス操作をアップダウンダイヤル+マクロボタンで行なうため、フォーカス移動速度を変えるために改めてマクロボタンを押す余地はない。
■マクロモードの距離設定が2段階に
マクロAF距離制限をONにすると、フォーカスリミッターが7〜10cmと10〜30cmの2段階になる |
これもA12 50mm F2.5 MACROでのみ利用可能になった機能。AF時にマクロボタンを押すと、「マクロオン10-30cm」、「マクロオン7-10cm」、「マクロオフ」の順に、合焦範囲を設定できる。いわゆるフォーカスリミッターで、フォーカス範囲を制限することで、AF速度向上につなげる機能だ。A12 50mm F2.5 MACROは最初からマクロモードを設定できたが、今回のアップデートでさらに細かくフォーカス範囲の指定が可能になる。
確かにこのアップデートのおかげで、コントラストAFにおける合焦距離範囲のスキャン動作が短縮され、ピントが合うまでの時間はぐっと短くなった。その代わり、撮影者が被写体までの距離を見極めなければならない。切り換えの境目は10cm。目測で瞬時に判別するには難しく、もう少し修行してみようと思う。結局あきらめて、近距離はMFに頼ることになりそうだが……
A12 50mm F2.5 MACROのAF速度と合焦成功率の低さについて、各所で不満が語られているのは周知の通りだ。少々イレギュラーな方法とはいえ、AFでの使い勝手を向上させようというリコーの姿勢は支持したい。また、フォーカスリングの速度を可変にするという、電子フォーカスリングならではの試みも面白い。今後の機能追加にも期待したい。
2010/6/1 00:00