交換レンズレビュー
AT-X 11-20 PRO DX
ズーム比が拡大したハイコストパフォーマンスレンズ
Reported by萩原俊哉(2015/4/27 09:00)
APS-Cサイズの開放F2.8クラスの超広角レンズとして、定評のあるAT-X 116 PRO DX IIのテレ側焦点距離を、それまでの16mmから20mmへと伸ばしたズームレンズ。
AT-X 116 PRO DX IIでは望遠側に不満を感じたユーザーも多かっただろう。数値でみれば4mmほどだが、超広角域での4mmの違いは画角に大きな差を生む。これにより、ズームレンズとしての扱いやすさは飛躍的に向上することとなった。
デザインと操作性
艶消しのブラックボディに、ゴールドのラインとモデル名が高級感を漂わせている。所有欲を満たせてくれる外観だ。今回はニコンD7100に装着してテストを行っているが、カメラボディとの質感も良好でとてもマッチしている。
大口径ズームレンズということもあり、カメラボディに対して若干大きめの印象があるものの、560gほどの重量はカメラとのバランスは良好であると感じた。
ズーム倍率1.8倍でありながら全域でF2.8を達成しているため、結果的にフィルターサイズが82mm径となってしまっているが、CP-Lフィルターをはじめ、NDフィルターなどでフィルターワークが可能な点は、風景写真を撮るものにとってはとてもありがたい。
ズームリングはややトルク感が強いが、それが画角を確実に決めてくれることにつながると感じられる。一方、フォーカスリングは心地よいトルク感でシビアなピント位置もピタリと決めやすい。
AFとMFの切り替えはピントリングを前後に動かして切り替えるフォーカスクラッチ機構を採用。カメラをホールディングしたまま素早く切り替えることができるため、手持ちでの撮影ではとても操作性が良いと感じた。
だが、AFは超音波モーター非搭載ということもあり応答性は今一つ。またAF動作時にギア音が発生してしまうのも若干マイナスだ。
フードは大型の花型フードが付属するが、画角が広い超広角レンズの宿命でとても浅い。逆光に近い状態ではフードを装着していても有害光が入り込みやすいので、注意は怠らないようにしたい。
遠景の描写は?
後群に配置したガラスモールド非球面レンズおよび、前群に配置したP-MO非球面レンズを採用。これにより歪曲収差を抑え込んでいるが、広角側では樽型の歪曲収差が発生している。
レンズ構成は12群14枚で、そのうち超低分散ガラスが3枚採用されている。ひどく気になるレベルではないものの、若干の色収差が認められるシーンもあった。
絞り開放では周辺減光が認められるが不自然に四隅だけが暗くなることもない。むしろ画像の中心部分に視線を自然に誘導させるための効果としても利用できそうだ。ちなみに、この周辺減光は2段程度絞ると大幅に改善される。
画像の中心部分の解像感は良好で、絞りこんだときの画像周辺部分も広角側および望遠側ともに好ましい。絞り開放でのピント位置はピントの芯はしっかりあるものの、わずかながら描写が甘く感じられる。
1段ほど絞ったF4ではシャープ感が向上し、F5.6、F8あたりでは解像感がピークとなる。さらに絞り込み、F11を超えると回折現象の影響が出はじめ、F22では解像感も低下する。パンフォーカス的な表現をするならば、F8あたりをうまく使うとピリッとした解像が得られると感じた。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
ボケ味は?
なんといっても超広角レンズだ。ワイド側104.34度(ニコンカメラ使用時)の画角から繰り出される深い被写界深度は伊達ではない。それでも開放F値F2.8という大口径レンズらしく、近接撮影ではそれなりにボケるから面白い。
主題に対して背景や前景の風景をそれとなく伝えるにはほどよいボケ味だ。被写体との距離感によってはF5.6でも十分パンフォーカス的な表現にもなる。なお、強い光源をボケに選ぶようなシーンでは、若干色収差がでているようだが、ひどく気になることはない。
超広角レンズの醍醐味の1つがワイドマクロ撮影だ。最短撮影距離は28cm。AT-X 116 PRO DX IIと比べると2cmほど被写体に近寄ることができる。そのため、前ボケを画面に取り込むとレンズ前数cmとなってしまうこともしばしば。
また、開放絞りF2.8でるメリットも加わり、ある程度背景との距離が得られれば玉ボケも作り出すことができる。なお、最近接撮影では前ボケにフードの影が入り込む場合もあるので十分に注意したい。
逆光耐性は?
広角端
広角側、望遠側ともに、太陽を直接入れたシーンも画面外に外したシーンも、角度や位置によってはゴーストが発生する。だが、いずれもひどく目立つようなことはない。いや、どちらかといえば、超広角レンズとしての逆光耐性は高い方だ。
絞り羽根は9枚でレンズには多層膜コーティングが施されている。また、絞り込んだときの光条もきれいな形で好ましく感じられる。
なお、画面外に太陽を外して撮影する際、太陽の位置によっては花型フードの切れ込みから光がレンズに入り込む場合がある。その際には手をかざすなどの対処を行えば有害光の侵入を防ぐことができる。
作品集
11mmでは画面の隅に余計なものが入ったため、16mmにズーミングして撮影。ズームレンジが広がっているので最適な画角を選びながら撮影しやすい。
最大のシャープネスが得られるようF8で撮影。花のしべ、細かな枝先に至るまで心地よい解像感が得られている。
最短撮影距離で撮影したもの。開放絞りを選択しているがピント位置のシャープ感は十分に得られている。
輝度差のある被写体だが、ハイライトが白飛びを起こすことなく、シャドウの階調も十分に得られている。
太陽を直接入れて撮影したもの。ゴーストは若干発生しているが、気になるレベルではない。また、F22まで絞り込むと美しい光条が引き出せる。
伸びやかな竹林を撮影したもの。11mmの焦点距離は、狭い場所でワイド感を存分に引き出すことができる。
1mほど離れた位置の落ち椿を地面すれすれで撮影しいている。F4を選択しているが、背景には玉ボケが得られている。
最短撮影距離、F5.6で撮影。ピント位置はとてもシャープ感が得られている。また、背景の枝先もボケながらも描写されている。
まとめ
なんといっても11mmという焦点距離でありがなら開放F値F2.8という大口径を達成していることがこのレンズの長所だ。
最短撮影距離付近を利用してのワイドマクロ表現が使っていても特に楽しい。垂直、水平線がある被写体では若干ワイド側での歪曲収差は気になるものの、一般的な風景撮影では問題ないレベルだ。
それでいて十分な逆光性能が得られている点も考慮すればコストパフォーマンスは高いといえるだろう。