切り貼りデジカメ実験室

OLYMPUS TG-2とiPhone 5が合体する
「透過光マクロ撮影ユニット」

「OLYMPUS STYLUS TG-2 Tough」の強力なマクロ機能を活かした「透過光マクロ撮影ユニット」を制作してみた。光源にはiPhone 5のLEDライトを利用しているのがミソである。ご覧の通り、千円札の野口英世の目が画面いっぱいに写るほどの拡大率だ。透過光なので、印刷の裏が透けて面白い写真が撮れる。

iPhone 5の内蔵LEDライトを利用したユニット

 前回に引き続き「OLYMPUS STYLUS TG-2 Tough」である。このカメラは水中写真も撮れる防水デジカメであり、なおかつ強力なマクロ機能を備えるユニークな存在だ。

 TG-2はスーパーマクロモードにすると、ズームはライカ判換算30mm相当から100mm相当の範囲に限定されるが、そのどこでもレンズ先端約1cmまでの被写体にピントが合う。

 カタログによると100mm相当の望遠端でライカ判換算約7倍相当のマクロ撮影ができるというのだから、恐れ入る。ちなみに、一眼レフ用マクロレンズで現在随一の倍率を誇るキヤノン「MP-E 65mm F2.8 1-5×マクロフォト」はその名の通り最大撮影倍率5倍で、スペックはTG-2の方が上回っているのだ。

 しかし、TG-2のスーパーマクロモードを十全に活用するのはなかなかに難しい。1つは照明の問題で、TG-2はボディーにレンズが埋め込まれたような屈曲型光学系を採用しており、被写体に1cmまで近づくとどうしても陰で暗くなってしまうのだ。もちろん、TG-2には内蔵ストロボも装備されているし、さらにLEDライトも装備されている。しかしそれらの照明は至近距離のマクロでは光が回らず不自然な写りになりがちだ。

 こうした場合、内蔵ストロボに工夫を凝らす記事をぼくはこれまで何度か書いてきた。しかし今回は発想を変えて、透過光によるマクロ撮影ユニットを考えてみた。

 さらにひらめいたのだが、光源にiPhone 5の内蔵LEDを利用してみることにした。iPhone 5に内蔵されたLEDライトは本来は内蔵カメラの照明用だが、iOS 7になってからLEDだけを発光させ懐中電灯として使えるようになった。

 構造的にはiPhone 5を仕込んだライトボックスなのだが、これを「透過光マクロ撮影ユニット」としてTG-2と合体させようという寸法である。

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TG-2をスーパーマクロモードにするのは簡単で、モードセレクトダイヤルで選ぶだけだ。ズームはライカ判換算30-100mm相当のレンジに限定されるが、そのどこでも“1cmマクロ”が可能になる。
試しに千円札を撮影してみたが、スーパーマクロモードの広角30mm相当にて、約1cmまで接近すると野口英世の顔がこの大きさに写る。カメラの内蔵ストロボを使用したが、不均一な照明になってしまう。
スーパーマクロモードで望遠100mm相当にズームすると、千円札の野口英世の目がこの大きさに写る。撮影範囲が狭いのでストロボの光は回っているように見えるが、感度をISO400まで上げなければ露出不足になってしまう。
ということで今回は、iPhone 5の内蔵LEDライトを光源にした「透過光マクロ撮影ユニット」を作ってみることにした。本来は内蔵カメラの照明用だが、iOS 7からLEDライトの単独発光が容易に可能になったのだ。
制作するのは暗箱に透過光スクリーンと光源を備えたいわゆるライトボックスなのだが、サイズをコンパクトに押さえるためと、間接照明で光を和らげる効果を狙って“Z光路”の反射板を内蔵することにした。というわけで工作の前にパソコンで図面を描いてみた。
図面をもとに材料を切り出した。素材となったのはイラストボード(黒と白)、ケント紙、乳白色アクリル板である。
内蔵する反射板は、ケント紙の裏面にアルミホイルをスプレーのりで貼付け、反射効率を上げている。手前は透過光スクリーンのパーツで、乳白色アクリル板(2mm厚)をカッターで切り出した。
白と黒のイラストボードのパーツを。二重箱の構造に組み立てると、透過光撮影ユニットのボディになる。底板にはiPhone 5のLEDライト用に穴があけられている。接着にはボンドGクリヤーを使用したが、紙はもちろんアクリルなどの樹脂も強力に接着できて重宝する。
ボディ内に、Z光路の反射板を仕込む。ちなみにアルミホイルの面を表にすると、反射効率は良くなるが拡散効果がなくなり照明ムラが起きてしまう。そのように試行錯誤しながら作るのも切り貼り工作(ブリコラージュ)の醍醐味だ。
ボディ上面パーツと、透過光スクリーンを接着すると「透過光マクロ撮影ユニット」が完成する。正方形と基調とした端正なデザインを心がけてみた(笑)。
「透過光マクロ撮影ユニット」の裏面にはiPhone 5をセットするスペースと、LEDライト用の穴がある。
iPhone 5をセットするとこのようになる。LEDライトの単独発光はiOS 7に搭載された新機能の1つで、ホーム画面を上にスワイプして現れる「コントロールセンター」からON/OFFの操作ができる。
「透過光マクロ撮影ユニット」を発光させたところ。内蔵された拡散版のおかげで、スクリーン全体がほぼ均質に発光している。iPhoneを利用してるの「iLightbox」とでも名付けたくなる(笑)。
TG-2にもちょっと工夫が必要なのだが、レンズ周囲に装着されているリングを外し(左)、純正のアダプターリング(中)と40.5→43mmのステップアップリング(右)を装着する。
リングを装着すると、レンズ先端からちょうど約1cmの厚みとなる。この部分を透過光スクリーンに押し当てると、撮影距離も約1cmに固定され、常にスーパーマクロモードの最大倍率で撮影できるようになる。
「透過光マクロ撮影ユニット」にTG-2をセットして千円札を撮影していているところ。何か犯罪的な複製装置にも見えてしまうが、そんなことはありません(笑)。

カメラの使用感と実写作品

 テストのつもりで撮影した千円札の写りがなかなか面白かったため、今回は千円札のさまざまな部分を撮影した作品をご覧いただこうと思う。ついでながら、友人から5カナダドル札を借りることができたので、これも同じように各部の部分撮影をしてみた。

 前途のようにTG-2のスーパーマクロモードでは30-100mm相当の範囲内でズームすることができる。なので撮影の際は、ズームで撮影倍率を変えながら構図を調整した。

 TG-2のセッティングだが、まずはモードダイヤルで「スーパーマクロ」を選択する。ピントはオートのみでマニュアル調整はできないが、撮影距離約1cm付近でもオートで確実にピントが合うから安心だ。

 ホワイトバランスはマニュアルで、ライトボックスの色温度に合わせてセッティングする。感度はマニュアルでISO100に設定し、暗い場合は感度を少し上げて撮影した。

 この撮影ではシャッター速度がどうしても遅くなるため、手ブレを防ぐために「2秒セルフタイマー」をセットしシャッターを切る。内蔵ストロボとLEDは当然のことながらオフである。

 これらの設定は「カスタムモード」に登録すれば、モードダイヤルの「C1」もしくは「C2」から素早く呼び出すことができて便利だ。このたぐいのカスタムモード機能は、オリンパスのデジカメにはなかなか搭載されなかったので、素直に歓迎したい。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

・千円札

まずは表の野口英世の目の部分を、最大倍率で撮影してみた。先にTG-2の内蔵ストロボで撮影した目の拡大写真を掲載したが、比較するとその描写の違いがわかるだろう。
野口英世の顔を、スーパーマクロモードの広角端で撮影。裏に印刷された富士山が透けて、シュルレアリスム絵画のようだ。中心の描写がシャープなのに対し、画面周辺がぼけているが、かえって不思議な立体感が感じられる。
この連載のマクロ関連記事でたびたび撮影した「NIPPONGINKO」のマイクロ文字を最大倍率(ズームの100mm相当)で撮影。裏の印刷がぼやけて透けて見え、妙な奥行き間がある。
裏面右上の「1000」の一部だが、これは最大倍率ではなく、ズームを調整しながら構図を決めている(以下、同じ)。
野口英世の右肩あたりだが、波間のようなタッチの裏にさくらの花が透けていて、その組み合わせが実に美しい。
裏面に印刷された渦巻きのような模様と、表面に押された印鑑(総裁之印)の重なり。
表面右下付近だが「NIPPONGINKO」のマイクロ文字の他、実に精密な模様が印刷されている。
波間を漂うウニ? の用な模様は裏面の右下付近で発見。「NIPPONGINKO」や「1000」のマイクロ文字も漂っている。

・5カナダドル札

5カナダドル札に印刷された人物はサー・ウィルフリッド・ローリエ(Sir Wilfrid Laurier)という人なのだそうだが、その右目を最大倍率で撮影。日本のお札に比べ人物画のタッチが荒く、スカスカした印象だ。
同じくサー・ウィルフリッド・ローリエの肖像を、広角にズームして裏面から撮影。鼻のあたりに見える人影は、アイスポッケーをする子供である。
再び最大倍率での撮影だが、5カナダドル札にもマイクロ文字は印刷されている。これは肖像画の下部で、人物名冒頭の「SIR」が見える。
裏面の右上あたり。金網のような模様は、実はもみの木のイラストの一部で、その裏に反転したアルファベットが透けている。日本のお札に比べ印刷は荒いが、独特の色使いはなかなかきれいで魅力的だ。
裏面右上のスケートをする子供の姿。拡大すると鼻か雪の結晶のような編み目模様で描かれていて、色彩も美しい。
肖像画の襟あたりだが、タッチが交差する向こうに「45」の字が反転しているのが見える。
カナダのお札は美しいホログラムが刷り込まれているのが特徴。表面右側の帯だが、メイプルの葉っぱと「5」の字が確認できる。
表面右下の「5」はよく見ると小さなメイプルの葉がたくさん印刷されている。裏側にはホログラムの帯が陰となって写っている。

 さて、TG-2と「透過光マクロ撮影ユニット」との組み合わせだが、撮影時はカメラが安定し操作性は良好だ。また、被写体のお札を動かして位置をずらすのも簡単で、ズーム操作と相まって自在に構図を決めることができる。

 お札は身近にあって見慣れているからこそ、逆にろくに見もしないものであって、あらためて仔細にマクロ撮影すると、さまざまな発見があってまことに面白い。こうしたことも写真の楽しさの1つだと思うが、実は高倍率マクロをはじめとする自分の作品シリーズのいくつかを、東京都写真美術館で開催される企画展「日本の新進作家vol.12 路上から世界を変えていく」に出品するので(2014年1月21日まで)、読者の皆さんにもぜひご覧いただければと思う。

糸崎公朗

1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。「非人称芸術」というコンセプトのもと、独自の写真技法により作品制作する。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ ミノルタフォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。ホームページはhttp://itozaki.fc2web.com/ Twitterは@itozaki 「前衛実験NETART」所属。