ファーストインプレッション:キヤノンEOS 5D Mark III β機(実写画像あり)


 3月下旬に発売予定の「EOS 5D Mark III」をお借りできたので、実機を手にした印象を簡単にまとめた。スペックなどについては、製品発表時に掲載したこちらの記事を参照いただきたい。

※試用したのは実写サンプルの掲載が許可されているベータ機です。実際の製品とは異なる可能性があります。

EOS 5D Mark III。EF 24-105mm F4 L IS USMを装着したところ

 EOS 5D Mark IIIは、同社ハイアマチュア向けモデル「EOS 5D Mark II」の3年4カ月ぶりとなる後継機。連写、高感度、AFなど基本性能を進化させた。

 同社でのポジションとしてはプロ機「EOS-1D X」(4月下旬発売)に次ぐナンバー2だが、画素数はEOS-1D Xの1,810万画素に対して2,230万画素と、キヤノンの最多画素モデルとなっている。

 まず外観だが、EOS 5D Mark IIに比べて全体的にふっくらしたデザインになりボタン配置なども含めて「EOS 7D」の流れを組むものになった。ぱっと見にはEOS 7Dと見紛う程だ。また従来機に比べてグリップ部の深さを増しており、持っていて安心感がある。今回、短時間ではあるが撮影に持ち出したところ持っていて疲れるようなことはなかった。

 ホールディングの良さという点では、EOS 5D Mark IIには無かった記録メディアスロットのフタ部分にもラバーがあることが貢献しているのかもしれない。これはEOS 7Dにも無かったものだ。さらに右手親指をサポートする背面の盛り上がりが大きくなったことも効いていると思われる。

 従来機に比べて丸みを帯びたデザインのため、一見、EOS 5D Mark IIよりも大きく見えるが、高さが2.9mm、奥行きが1.4mm増えたに過ぎない(幅は同じ)。視野率約100%のファインダーを奢ったためか、重量は約50g増えている。

シャッターボタン周りのボタン配置はEOS 7Dと同じになった。シャッターボタンは2段目の感触がないタイプ。高級感のある触感

 EOS 5D Mark IIではメーカーでの改造で対応していた「モードダイヤルロック」が標準装備になった。不意に回ってしまうことがなく安心できる。

電源レバーは左肩に移動。節度ある堅さだ。モードダイヤルロック付きになった

 ボタン類もEOS 7Dに近く、上面は電源レバーが左肩にあることも含めて同じだ。背面もEOS 7Dに近いが大きく変更された部分もある。それが、「クリエイティブフォトボタン」だ。撮影時にこれを押すと、ピクチャースタイル、多重露出、HDRの3つから機能を選ぶ画面が出る。多重露出とHDRは新搭載の機能とあって、ワンタッチでこれらの撮影を楽しめるのは歓迎だ。ピクチャースタイル設定はこれまで専用ボタンがあったが、今回なくなったためにクリエイティブフォトボタンで呼び出す形にしたのだろう。

クリエイティブフォトボタン(筆とキャンバス)を新設
クリエイティブフォトボタンを押すと、ピクチャースタイル設定、多重露出撮影、HDR撮影に移れる

 クリエイティブフォトボタンは、再生中に押すと新機能の「2画面再生」モードになる。これは、撮影画像を左右に分けて表示するもの。片方の画像を固定したまま、もう片方の画像を送って比較していき、新搭載の「RATE」ボタンで1~5までのレーティングを付けられる。写真を並べて画像を比較できるため、これまでより圧倒的に取捨選択がやりやすくなった。“右側を固定して左を送る”がデフォルトだが、その逆にすることも可能。もちろん拡大表示やヒストグラムを双方に表示することもできる。

2画面再生を行なったところ。設定したレーティングも表示される

 もう1つ、従来のEOSと大きく変わったのが再生時の拡大・縮小の方法だ。これまでは、再生画面で背面右上の拡大ボタンを親指で数回押して画像を拡大・縮小していた。それが今回から、背面右側の拡大ボタンを押してからメイン電子ダイヤル(シャッターボタンすぐ上のダイヤル)を回して拡大率を変えるようになった。

背面右上に割り当ててあった拡大縮小機能(虫眼鏡アイコン)は無くなった

 従来機に慣れていると、再生モードで拡大しようと思って以前の拡大ボタンを押しても何も起こらないので一瞬戸惑う。しかし、この新方式は実は理にかなっている。EOSの場合、拡大時の表示範囲移動はマルチコントローラーと呼ばれるジョイスティックで行なうが、従来方式だと画像チェック時に右手親指が拡大・縮小ボタンとマルチコントローラーを行ったり来たりする。新方式では右手親指は常にマルチコントローラーに載せて置ける一方、拡大・縮小は右手人差し指になるという“指の役割分担”ができる。慣れればより使いやすくなるのではないかと感じた。

 また、従来機では撮影後のプレビュー画面をすぐに拡大することはできず、一旦再生ボタンを押さなければならなかった。その点EOS 5D Mark IIIは、撮影後すぐに拡大ボタンとメイン電子ダイヤルで拡大できるように改善されている。なお、各操作のレスポンスも問題ないものだ。

 連写はEOS 5D Mark IIの約3.9コマ/秒から約6コマ/秒に向上している。従来機と比べてもシャッター音で早さを体感できる違いとなっている。

シャッター耐久は15万回連写速度が向上しているので、ブラケティングもより短時間で撮影できる。枚数も7枚までに増えた

 シャッター音はEOS 5D Mark IIに比べるとやや甲高く切れのある印象。小気味よく使っていて気持ちがいい。キヤノンによればEOS 7Dで積み上げた“快音ノウハウ”を展開したものだという。シャッター音といえば、今回から「静音・低振動」モードが加わった。ファインダー撮影時にミラーを低速で駆動するもので、これまではEOS-1D系にしか無かった機能。甲高い音が消えるため静かな場所での撮影に適するだろう。同モードでも3コマ/秒の連写が可能なのもうれしい。

 ファインダーも見やすい。視野率が約100%になったもの厳密なフレーミングをするユーザーには安心のポイントだろう。アイポイントも十分で、メガネを掛けて使ったが不都合は感じなかった。

ファインダー視野率は約100%に。アイポイントも十分あるファインダーに使用したガラスペンタプリズム

 液晶モニターが3:2になったことで、再生画像が画面に無駄なく全画面表示されるようになったのもありがたい点だ。パネルは見やすく高精細といえる。

撮影画像を再生したところ。3:2の画像を画面いっぱいに表示できるメニュー画面も3:2にフィットしたものになった。四角のアイコンでページを表す方式になっている

 AFがEOS-1D Xと同等のシステムになっているのも大きなポイント。

EOS 5D Mark IIIのAFセンサー

 測距点が61点と大幅に増加したことなどに加えて、AFの動作も細かく設定できるようになった。AIサーボAF(コンティニュアス)はEOS-1D Xと同じく「被写体追従性」、「速度変化に対する追従性」、「測距点乗り移り特性」のパラメーターを設定できるようになるなど、従来よりも動体撮影を強化したことがうかがえる。これらの設定は組み合わせパターンが膨大で、これまではセッティングの追い込みが難しいとの声もあったが、今回は6つのプリセットが用意してあり簡単に使えるようになっている。シングルAFも速く、コントラストの低い雲でも速やかに合焦する。

AIサーボAFのプリセット。Case1Case2
Case3Case4
Case5Case6

 あくまでもベータ機なので本当の実力は不明ながら実写したところ、高感度画質は確かに向上している。ISの効きの良さとあわせて、屋内や夜間での撮影はかなり強力になった印象だ。

画素数は約120万画素のアップと微増だが、広い画素ピッチで高感度に強くなった。画質は作例でご確認頂きたい画像処理エンジン「DIGIC 5+」の低ノイズ化に寄与している
感度は常用で最高ISO25600、拡張設定で最高ISO102400に設定可能ISOオートの下限と上限も設定可能。より実用性が高まった

 今回から多重露出とHDR撮影機能も追加された。今回はこれらの作例は掲載していないが、後日掲載するレビュー記事では作例を掲載する予定だ。

多重露出の設定画面。最大9枚まで重ねることができる
HDRの設定画面。レンジの調節なども可能

 動画撮影時に、操作音をほとんど出さずにパラメーターを変更できる「動画サイレント設定」も新設。

動画サイレント機能では、サブ電子ダイヤルに軽く触れるだけでシャッター速度などを変更できる
サブ電子ダイヤルの表面にタッチセンサーを搭載したことで、動画サイレント設定を実現した
動画撮影中に音声を確認するためのヘッドフォン端子も新搭載バッテリーは従来機と同じLP-E6。ライブビューを多用したせいか、フル充電から384枚で電池残量が残り1目盛りに。気温が低かったせいもあるだろう
今回は試すことができなかったが、新型ストロボ「600EX-RT」などの電波通信にも対応している

 本体は引き続きマグネシウム合金製。使用していても剛性を高く感じた。防塵防滴仕様となっている。

専用バッテリーグリップも含めてマグネシウム合金製とした
外装パーツ。右から塗装前、塗装後
防塵防滴のためのシーリングも施した
デザイン検討スケッチ
製品版(手前)とデザイン検討用モックアップ(2列目以降)

・EOS 5D Mark II(右)との比較

※比較用のEOS 5D Mark IIは、モードダイヤルロックボタン追加の改造を行なった個体です。

・EOS 7D(右)との比較

実写サンプル(ベータ機で撮影)

・感度別

EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 30秒 / F8 / -0.3EV / ISO50(拡張設定) / WB:オート / 55mmEOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 20秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 55mmEOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 10秒 / F8 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / 55mm
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 6秒 / F8 / -0.3EV / ISO400 / WB:オート / 55mmEOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 3秒 / F8 / -0.3EV / ISO800 / WB:オート / 55mmEOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 1.6秒 / F8 / -0.3EV / ISO1600 / WB:オート / 55mm
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 1/1.2秒 / F8 / -0.3EV / ISO3200 / WB:オート / 55mmEOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 1/2.5秒 / F8 / -0.3EV / ISO6400 / WB:オート / 55mmEOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 1/5秒 / F8 / -0.3EV / ISO12800 / WB:オート / 55mm
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 1/10秒 / F8 / -0.3EV / ISO25600 / WB:オート / 55mmEOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 1/20秒 / F8 / -0.3EV / ISO51200(拡張設定) / WB:オート / 55mmEOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 1/40秒 / F8 / -0.3EV / ISO102400(拡張設定) / WB:オート / 55mm

・そのほか

EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 5,760×3,840 / 1/400秒 / F7 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 105mmEOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 5,760×3,840 / 1/500秒 / F16 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 24mm
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 1/80秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 65mmEOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 1/50秒 / F11 / 0.0EV / ISO100 / WB:太陽光 / 35mm
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 5,760×3,840 / 1/60秒 / F11 / -0.7EV / ISO100 / WB:オート / 47mmEOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 1/80秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO100 / WB:太陽光 / 45mm
EOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 3,840×5,760 / 1/320秒 / F8 / -0.7EV / ISO100 / WB:太陽光 / 47mmEOS 5D Mark III / EF 24-105mm F4 L IS USM / 5,760×3,840 / 1/800秒 / F8 / +0.7EV / ISO100 / WB:太陽光 / 35mm






(本誌:武石修/本誌:折本幸治)

2012/3/7 00:00