伊達淳一のレンズが欲しいッ!
SIGMA 500mm F4 DG OS HSM | Sports
優秀な描写性能でコストパフォーマンスに優れる“ゴーヨン”
2017年1月6日 07:00
最近は、焦点距離400mm以上をカバーする超望遠ズームの進化がめざましく、5年ほど前に比べ、コントラストや解像性能は驚くほど向上し、しかも、(超望遠ズームとしては)かなり手ごろな価格で手に入れられるようになった。
また、APS-Cであれば70-300mmズームでも450mm相当の超望遠の画角で撮影できるが、35mmフルサイズに移行すると300mmは300mmの画角しか撮影できない。そのため、超望遠の画角を必要とする野鳥や野生生物、ヒコーキなどの撮影シーンでは70-300mm程度の望遠ズームでは飽き足らなくなって、価格的にも手ごろな超望遠ズームを購入する人が増えていると思われる。
ただ、超望遠ズームはテレ端の開放F値がF5.6~6.3とさほど明るくなく、手ブレ、被写体ブレを抑えるため、少しでも高速シャッターを切りたい超望遠撮影では、光量が豊富なシーンでもない限り、感度的に厳しくなってくる。
それに、最新の超望遠ズームの解像性能が向上しているとはいえ、さすがにズームテレ端・絞り開放では多少画質は緩くなってくるので、できれば2/3段から1段は絞って撮影したい。
となると、ますます高感度で撮影する必要があり、高感度ノイズリダクションによるディテール描写の低下も気になってくる。となると、次に欲しくなるのが、単焦点の大口径超望遠レンズだ。
500mm F4とは?
大口径超望遠レンズで人気があるのが「500mm F4」、通称“ゴーヨン”と呼ばれる大砲レンズだ。焦点距離400mm以上の大口径超望遠レンズの中では軽量で、短時間であればなんとか手持ち撮影することができ、(大砲レンズの中では)価格も手ごろ。
開放F4の明るさがあるので、1.4倍テレコンを装着して700mm F5.6相当にしても、ほとんどのカメラで制約なくAF撮影ができる。最新一眼レフは開放F8測距に対応した機種も増えてきているので、こうした機種と組み合わせれば、2倍テレコンを併用して1000mm F8相当にしてもAF撮影が可能だ。
そんな人気のゴーヨンに新たな選択肢が加わった。SIGMA 500mm F4 DG OS HSM | Sportsだ。希望小売価格は税込で86万4,000円、実売価格はポイント還元なしの販売店で65万円前後といったところだ。
超望遠ズームに比べるとかなり高価ではあるが、キヤノンやニコン、ソニーのゴーヨンは実売でも100万円前後とさらに高価。最近のシグマは、カメラメーカー純正にひけを取らない高性能なレンズを発売しているだけに、その描写性能次第では超お買い得といえるだろう。
フードはカーボン製で軽量化
ところで、前述したようにゴーヨンの魅力は、大口径超望遠レンズのなかでは軽量で、手持ち撮影が可能という点にある。
最近のシグマのレンズは確かに高性能ではあるが、大きく重いのが難。同じSportsラインの120-300mm F2.8 DG OS HSM | Sportsは3,390g、150-600mm F5-6.3 DG OS HSM | Sportsは2,860gとスペックの割には重く、さらにフードも金属製なのでフード込みの重量はさらに重くなる。
しかし、今度の500mm F4 DG OS HSM | Sportsは、レンズ鏡筒の素材にマグネシウム合金を、フードも金属ではなくカーボン素材を採用することで、レンズ重量は3,310g、フード込みでも約3,600gとゴーヨンとしては軽量に仕上がっている。
ちなみに、キヤノンのEF500mm F4L IS II USMは約3,190g、ニコンのAF-S NIKKOR 500mm f/4E FL ED VRは約3,090g(いずれもフードなしの重量)でシグマよりもさらに軽量だが、これまでのArtライン、Sportsラインに比べると、驚くほど機動性は高まっている。
焦点距離500mmのレンズなのでそれなりの全長はあるが、400mm F2.8や600mm F4よりも径は小さく、重量も軽い。マウント近くには46mm径のドロップ・イン・フィルターポケットが装備されている。別売でドロップインWR CIRCULAR PLフィルターRCP-11も用意されている。
三脚座には独自の工夫が
今回の撮影では、比較作例、月の撮影以外はすべて手持ちで撮影しているが、レンズの重さも短時間なら全然気にならなかった。手ブレ補正の効きもまずまずで、静止した被写体を撮影するのであれば、500mmで1/125秒でもまずブレる心配はなかった。
レンズとフードの先端は保護ラバーで覆われていて、フード装着状態、逆付け収納状態でレンズを立てて地面に置いても鏡筒が傷つきにくいように配慮されている。
三脚座は90度ごとにクリックストップがかかるが、三脚座背面のスイッチ切り換えでクリックストップをキャンセルすることもできる。
また、別売でアルカスタイルタイプの溝が刻まれた長めのレンズフットTS-81も用意されているが、TS-81に換装すると重量が増すので、できれば標準装備の三脚座もアルカスタイル対応にして欲しかったところだ。
リュックタイプのかなり大きめのレンズケースが付属する。カメラボディを装着したままで収納できる容量で、レンズを固定するクッション材も付属。内側には特にポケット類はなく、シンプルな作りだ。
ケース上部にも収納スペースはあるが、残念ながらテレコンやカメラボディを収納できるほどの厚みはない。WRプロテクターLPT-11やドロップインWR CIRCULAR PLフィルターRCP-11を入れることを想定しているという。また、バッテリーやメモリカードなども収納可能だ。
純正レンズを越える機能性の高さも魅力
撮影者から見てレンズ左側面には、フォーカス(AF/MO/MF)、フォーカスリミッター(FULL/10m-∞/3.5-10m)、OS(OFF/1/2)、CUSTOM(OFF/1/2)の切り換えスイッチが配置されているほか、マウント寄りの部分には、AFファンクションスイッチが配置されていて、レンズ先端4カ所のボタンを押すことで、あらかじめ記憶させたフォーカス位置に移動する「フォーカスリコール」や、ボタンを押している間だけ一時的にAFを動作、もしくは停止させることもできる。
ちなみに、フォーカスモードのMOポジションは「マニュアルオーバーライド」というモードで、コンティニアスAF中にフォーカスリングをある一定角度回転させるとマニュアルフォーカスに切り替わるという機能。ニコンのM/Aモードに相当する機能だが、キヤノンEOSボディでもこれと同じことができるという点では、ある意味、純正以上の魅力がある。
また、別売のUSB DOCKを使えば、4つの撮影距離域ごとのAF微調整、フォーカスリミッターの範囲、OSの動作をカスタマイズし、CUSTOMモードの1と2に登録することもできる。
さらに、有償ではあるが、マウント交換サービスも行われているので、カメラボディを違うメーカーに乗り換えたとしても、最小限の投資でこれまで使っていたレンズを異なるマウントのボディで使い続けることができる点も、カメラメーカー純正にはない魅力だ。
一方、カメラメーカー純正でないデメリットとして、ボディ側の「レンズ補正」が期待できない点が挙げられる。
ニコンボディであれば、レンズメーカー製レンズでも自動的に倍率色収差補正が効くが、キヤノンEOSボディでは無補正のまま。それどころか、レンズIDが被っていると、意図しない周辺光量補正が施され、ドーナッツ状の光量ムラが生じてしまう恐れもある。
幸い500mm F4 DG OS HSM | Sports は、既存のEF/EF-SレンズとレンズIDは被っていないようで、レンズ補正をONにしたままでもおかしな描写に陥ることはないが、周辺光量補正は効かないので、絞り開放では多少周辺光量落ちが気になるケースもある。ただ、それほど周辺光量低下は大きくないので、フォトレタッチの後処理で十分リカバー可能な範囲だ。
高い描写力だがAF微調整はしておきたい
Sportsラインのフラッグシップを謳っているだけあって描写性能は文句なしだ。ピンぼけやブレ、それと大気の揺らぎの影響さえなければ、多少の周辺光量落ちはあるものの、絞り開放からビシッとシャープな像を結ぶ。
最短撮影距離付近の近景でもニジミはほとんどなく、軸上色収差によるボケの色づきも感じない。公開されているMTFを見てもほぼ真横の一直線で、S(サジタル)とM(メリジオナル)方向の周辺での乖離も少ないだけあって、前後のボケも非常に素直だ。
ただ、大口径の超望遠撮影において、“ピンぼけやブレ、それと大気の揺らぎの影響さえなければ”という前提条件を満たすのは結構むずかしい。
晴れると被写体のコントラストは高くなるが、大気の揺らぎでユラユラと像が歪み、本来の解像性能は得られないし、正確なピントを得るにはできればライブビューでピントを追い込みたいところだが、500mmの超望遠撮影、それも手持ち撮影ではまず不可能だ。そのため、別売のUSB DOCKとSIGMA Optimization Proを使ってAF微調整を行い、カメラとレンズの最適化を図るのが鉄則だ。
ちなみに、ボクのキヤノンEOS 5D Mark IVは若干前ピン傾向になりやすく、できれば点検・調整に出したいところではあるが、注目度の高い旬のカメラなので、チャンスがあれば少しでも多くの作例を撮りためておく必要があり、仕方なくマイクロアジャストメントで凌いでいる。
当初、500mm F4 DG OS HSM | Sportsも、現場でボディ側のマイクロアジャストメント調整を試行錯誤しつつ試行錯誤を繰り返していたが、SIGMA Optimization Proのほうが4カ所の撮影距離域ごとにAF微調整が行えるので、より精度の高いピント調整が期待できる。
そこで、少々手間ではあるが、ファインダー撮影とライブビュー撮影の差異を確認しながら、何度もテスト撮影を繰り返し、ファインダー撮影時のピント精度を追い込んでいった。
ただ、中央の測距点に対し最適化はできるものの、周辺の測距点に対しては少しピントの甘さも残るので、やはり最終的にはボディを点検に出し、フランジバックのチェックとAFセンサーの中央、周辺の最適化をしてもらうしかないようだ。
純正テレコンの画質も良好
AF性能についてちょっと気になったのが、大きく像がボケた状態ではシャッターボタンを押してもAFが動作せず、手動である程度ピントを送ってから半押しするケースがあった点。
キヤノン純正レンズでも、デフォーカス(ピントが合っていない状態)が大きすぎると、似たような状況に陥ることはあるが、500mm F4 DG OS HSM | Sportsの場合、それがちょっとナーバスな印象を受けた。
また、動体に対するAF追従性能については、旅客機程度であればまったく問題なし。飛んでくるカラスに咄嗟にレンズを向けて撮影したカットも、少し後ピン気味になってしまったものの、なんとか捉えることができた。
ただ、カメラ側の問題か、レンズ側の問題か、それとも撮影者であるボク自身の技量の問題かは不明だが、高速連写し続けると、ピントが合った後、1~2コマ微妙にピントを外し、その後、ピントが合って、また微妙なピンぼけとなるケースがあるのが気になった。
シグマ純正の1.4倍、2倍テレコンが用意されているのも本レンズの魅力で、テレコン装着時のAF微調整もSIGMA Optimization Proでしっかり行って撮影に臨んだが、さすがにAFの挙動は多少鈍感になるものの、描写のキレは損なわれることなく、1.4倍テレコン装着時はもちろん、2倍テレコン装着時でも、絞り開放からキレの良い描写が得られる。
ただ、空気の揺らぎの影響を多々受けるのと、さすがに700mm、1,000mmの手持ちで、動体を安定して追うのはかなり難易度が高くなってくる。手持ち撮影時には、あまり画角を欲張らずテレコンなしで撮影して、トリミングしたほうが歩留まりは向上すると思う。
どちらのレンズを選ぶかは悩みどころ
野鳥やヒコーキ撮影ファン憧れのゴーヨン。ボクもカワセミを高精細に撮りたくて、キヤノンEF500mm F4L IS USM(現行品の1つ前)を24回払いで買ったのだが、その頃のゴーヨンは重量はフード込みで4Kg以上あった。
そのゴーヨンの中古は約40~50万円で買えるものの、2017年11月で修理対応期間が終了することを考えるとちょっと微妙。II型(現行品)の中古は75万円前後なので、新品のシグマを買うか、中古でも純正にこだわるか、ちょっと判断に迷ってしまうところ。もちろん、カメラメーカー純正の新品をドーンと買える財力があるのなら、さっさと純正を買ってしまったほうが無難ではある。
やはりカメラメーカーとスペックがまったく同じレンズとなると、よほど劇的に性能に違いがない限り、信頼性(安心感)とコストパフォーマンスを天秤にかけざるを得ない。
そういう観点では、画質性能的にはカメラメーカー純正もシグマ500mm F4 DG OS HSM | Sportsも極めて高い水準にあるが、AFの安定性や追従性、レンズ補正の支援といった面では、やはりカメラメーカー純正に分がある。
一方、シグマは有償でマウント交換サービスも実施しているので、カメラのマウントを変えても資産が無駄にならないのは魅力。USB DOCKで撮影距離ごとに細かくAF微調整できたり、フォーカスリミッターの範囲を変えられるのもアドバンテージだ。
ただ、個人的には、カメラメーカー純正と丸っきり被るスペックのレンズは、よほど純正の性能が悪くない限り、純正を選んでしまうことが多い。できれば、純正にないスペック、例えば、400mm F4で、より軽量コンパクトで低価格、2倍テレコン使用時も素晴らしい解像が得られるレンズがあれば、迷わず飛びついてしまうところだが……。
解像力
晴れた日は大気の揺らぎが大きいので、気温の変化が少ない曇りの日を狙ってテスト撮影。
大気は安定していて、風も穏やかでブレの心配は少なかったものの、視程はあまり良くなく、被写体自身のコントラストはかなり低めだ。
ただ、こうした低コントラストのシーンこそ、レンズのコントラストや解像性能が如実に表れる。Sportsラインのフラッグシップを謳うだけあって、絞り開放から周辺まで安定して乱れのない解像が得られている。
※共通設定:EOS 5D Mark IV / SIGMA 500mm F4 DG OS HSM | Sports / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 500mm
1.4倍、2倍テレコン使用時も周辺の解像は良好だが、さすがに少し絞った方がキレはよく見える。とはいえ、実写作例では絞り開放でも特に不満のない描写が得られている。
※共通設定:EOS 5D Mark IV / SIGMA 500mm F4 DG OS HSM | Sports / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 700mm
※共通設定:EOS 5D Mark IV / SIGMA 500mm F4 DG OS HSM | Sports / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 1,000mm
周辺光量
下弦の月が残っていたので、月がどのくらいの大きさで写せるかの目安も兼ねて、周辺光量をチェック。
さすがに、絞り開放ではそれなりに周辺光量低下があり、四隅が急激に暗くなっているのはちょっと気になる。空ヌケのヒコーキ写真を撮るなら1段絞って撮影したいところだ。
※共通設定:EOS 5D Mark IV / SIGMA 500mm F4 DG OS HSM | Sports / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 500mm
テレコン使用時も基本的に似たような傾向だが、2倍テレコン使用時は絞り開放でも周辺光量低下はさほど気にならない。
※共通設定:EOS 5D Mark IV / SIGMA 500mm F4 DG OS HSM | Sports / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 700mm
※共通設定:EOS 5D Mark IV / SIGMA 500mm F4 DG OS HSM | Sports / 0EV / ISO400 / 絞り優先AE / 1,000mm