2009年冬:メーカーインタビュー--ペンタックス編

中判デジタル一眼レフカメラを来年に投入か

 HOYAの一部門となったペンタックスは、不況と新体制での事業推進が重なるという困難をバネとし、他社とは異なる製品開発の方向を模索。見事に自らの進む道を見つけたように見える。K-7は軽量コンパクトながら本格派というペンタックスならではのカメラとして登場。キープコンセプトのK-xも、前モデルから引き続き小型な上に使いやすいカメラに仕上がり、さらには100パターンのカラーバリエーションで話題をさらった。

 HOYA PENTAXイメージング・システム事業部・副事業部長兼開発統括部長の北沢利之氏に今年のペンタックス製品を振り返ってもらうとともに、来年以降にいよいよ期待される最上位モデルについて話を聞いた。(聞き手:本田雅一)

HOYA PENTAXイメージング・システム事業部・副事業部長兼開発統括部長の北沢利之氏小型化と高性能を両立したK-7。6月末に発売

独創的な技術で視野率約100%を実現

――2月のインタビューで予告された通り、今年はそれまでの開発方針とは異なるタイプのカメラを発売しました。ミドルクラスの製品はK10D、K20Dと根強い人気のある製品が続きましたから、かなり思い切りが必要だったのでは?

 K-7に関しては、なんとかして小型の中級機が作りたいという想いから生まれたものです。従来、ミドルクラスには高性能なカメラはありましたが、カメラとしての機能や性能、防塵防滴などのタフネスといった要素を加えていくと、どうしてもサイズが大きく、そして重くなっていました。しかし旅行などに携行するのに、大きさや重さはなるべく抑えたい。我々は風景撮影に向いたカメラを志向しようという明確な意志がありましたので、中級クラスの機能や性能を有しながら小型化という道を選択したのです。

 元々、かつてのオート110に代表されるように、小型・軽量製品の開発は企業アイデンティティ、DNAのようなものです。アウトドアで使いやすい携帯性を高め、さらにファインダー視野率100%という要素も持ち込みました。

――昨今、ライブビューが重視されるようになってくると、風景撮影はライブビューで行なうことで視野率の問題をカバーすればいいという考えも出てきていますよね。しかも100%視野率はコストに直結する。あくまで100%にこだわった理由は?

 100%視野率のファインダーというのは、確かにオールドファッションですよね。ハイテクではなくローテクの世界です。中級機クラスで挑戦しようと思うと、コスト面で完全な対応ができませんでした。しかし、我々にはSRという技術があります。センサーを3点支持でホールドし、ムービングコイルで自由に動かせる。単に動かすだけでなく、回転モーションに対しても追従できるのがSRの最大の利点です。この技術を活かすことで、ファインダー視野率を改善できることに気づいたのです。

 この機能を用いて検査時にファインダー位置を合わせ、メモリしておくのです。すると撮影時には視野率100%で撮影できるようSRがセンサー位置を合わせます。視野率100%といっても、どこからどこまでを100%と言っていいのかといった明確な基準はないため、実際には完全な100%というのはメカ的には難しい。もしSRがなければ、我々もここまでの高精度では視野率100%にはできなかったでしょう。

 視野率100%を目指した課程で、副産物として構図の微調整をSRを用いたセンサー位置調整で行ったり、センサーを回転させて水平を自動的に取るといった風景撮影時に便利な機能を開発することができました。

――小型軽量化に関しては、どのような工夫を施したのでしょう?

 サブミリ単位での部品再配置を何度もやりながらシミュレーションし、それはもう一言では言えば努力を積み重ねました。防塵防滴ボディにするには、スペース的には余白が必要になり、どうしても大きくなりがちですが、なんとか目標をクリアしています。

――少し前のペンタックス製銀塩一眼レフカメラに近いプロポーションになりましたが、これは意図したものでしょうか?

 丸いデザインが流行した後は、角張ったものが新鮮に見えますよね。しばらく丸いものが続いていたので、コンセプトを大きく変えるK-7では、エッジを強調した形にしました。確かに、少し前のテイストに近いですね。デザイナーとしても、少し古めのカメラデザインを意識しているそうです。ペンタックスらしさはペンタの部分にもあり、その形状でペンタックスであることを主張している側面もあります。

――中級機に関して方向性を変えるという話を記事化した際は、もう少しクラシカルなテイストを持った製品を想像している読者も多かったようです。発売後、このコンセプト変更に対するユーザーの声はどうでしょう?

 風景撮影用カメラとしてアクティブに使ってほしいという我々の意図した通りに使ってくださっています。プロの写真家の方々からは、ほぼ完全な100%視野率を提供している点が評価されました。ある雑誌のテストでは実測値として99.9%の視野率と評価され、これはトップの値でした。また、一般ユーザーの方々も、100%のファインダーの方が使いやすいという意見が多数あります。やはり、約12万円という価格枠の中に100%ファインダーを入れたのが良かったのだと思います。コンパクトな中級機として受け入れられています。

 また今回、マグネシウム合金を多用し、剛性もかなり向上させることができています。今のエンジニアリングプラスティックは強度や落とした際の壊れにくさといった面では、実は金属外装とあまり変わりません。しかし持ったときの質感はかなり違う。ここにこだわって作っていますが、そうした部分に満足を感じてらっしゃるお客様も多いようです。

――ただ、正直な話、K-7の良さがうまく伝わっていない気もします。視野率100%という特徴以外にも、構図微調整や自動水平補正といった機能は、他社にはないユニークな機能ですよね。

 視野率100%に関しても、メカ的に行なっている場合に比べて、精度がとても高いことは実測すればわかるのですが、良さを宣伝し切れていないというのは感じます。それは今後の課題でしょう。ほかにも伝わりにくい部分なのですが、絵作りの面でも風景撮影のカメラらしい開発を行っています。RGBの色再現域を広めに取って風景の見栄えをよくしたり、オートホワイトバランスの効き方に工夫をしたりしています。特に木々の緑や空の色などに関しては、一般的なオートホワイトバランスに比べ、明らかな違いを出せるとおもいます。露出計が77分割になったことがカタログでうたわれていますが、実はホワイトバランスを改善するために導入した光源検知センサーも、露出制御に加えています。太陽光か室内光かを判断し、露出判別の参考パラメータとして処理するようにしました。


K-xは白ボディの人気が圧倒的

――エントリークラスに関しては、何より色のバリエーションに驚かされました。

 K-xの基本的なコンセプトは、セグメントで切ることなく、すべての人にとってコンパクトで使いやすく、高画質なカメラというものです。機能面にもそのコンセプトは活きていますが、カラーバリエーションもあらゆる人の好みに合うカラーリングをという考えから企画しました。

 すべての人にとって、というのは当然、ハイアマチュアカメラマンの方々も入っています。カメラマニアの方でも軽量コンパクトなカメラが使いたいことはありますから、中級機にある機能がエントリー機でも使えるよう、中級機のスペックを可能な限りK-xの中に入れています。実際、開発時にベンチマークとしたのは中級機クラスのカメラです。秒4.7コマの連写やISO12800までの高感度撮影、ハイビジョン動画撮影機能などです。これら機能をエントリー機だからといって使えないというのでは、今の時代には合いません。

レギュラーカラーだけでも3色あるK-x。さらにオーダーカラーで100通りのカラーバリエーションを選べる

――エントリークラスのスペックを底上げしようというコンセプトとカラーバリエーション、どちらがユーザーに受け入れられていますか?あるいは両方でしょうか。

 発売当初はカラーバリエーションでした。国内でしかカラーバリエーション展開はやっていないのですが、おかげさまで国内シェア4位に入ることもできました。固定のペンタックスファン以外の方々が、K-xを支持していただいているおかげだと思います。

 実際に発売してみて驚いたのですが、我々が当初想像もしていなかったような買い方をしてくださっています。あるカップルは、女性が各色のモックアップを手にして、男性にどの色が自分のファッションに合うかを話し合っていました。別のリタイア後のご夫婦も、同じように自分たちの姿を鏡に映しながら、どの色が良いかを話していたいました。皆さん、Kマウントのことを全く知らず、ペンタックスのブランドについてもよく知らない方々が、カラーバリエーションという要素をトリガーに興味を持っていただいています。これが結果的に、ペンタックスファンを広げることにつながっているように感じました。裾野は大きく広がっています。

 しかし、一方でネットに感想を積極的に書くような方々は、ISO感度を上げてもノイズっぽさが出にくいだとか、コンパクトかつエントリークラスでありながらコマ速が速いといった部分に満足していただいます。

――100あるカラーバリエーションは、すべての組み合わせについて注文が入っているのでしょうか? 特に人気の組み合わせなどはありますか?

 どの組み合わせにも注文はいただいていますが、人気の組み合わせに関しては企業秘密です。カメラ業界に限らず、いろいろなエレクトロニクス製品の会社から、どの組み合わせが売れているのかといったデータが注目されていますが、これは我々自身のマーケティング戦略の参考データとして大切にしたいと思っています。ただ、白ボディの人気が圧倒的という点は申し上げられます。

オーダーカラーシステム「100 colors, 100 styles.」で選べるカラーバリエーション

――“製品のパーソナル化”という流れの一環として、こうした色のオーダーというのが今後は流行するかもしれないですね。ペンタックスとしては、今後もこのようなパーソナル化の要素を増やしていくつもりなのでしょうか?

 その点に関してはまだ決めていません。


中判デジタルはアマチュアが買える価格に

――今年はかねてから懸案であった中判デジタルカメラは発売されませんでした。来年は期待してもいいでしょうか?

 現在、開発はガンガン進めているところです。時期に関してははっきりと申し上げられませんが、来年中にはマーケットインしたいとと考えています。以前にもお話ししましたが、我々にとっては135フォーマットフルサイズのセンサーを搭載したカメラを開発するよりも、中判一眼レフカメラの方が優先順位として圧倒的に高い。

 すでに35mmフルサイズのデジタル一眼レフカメラは他社が何機種も出していますから、それをいまさらやってもペンタックスとしての特徴は出せません。それならば中判をやるべきだと考えています。もちろん、645レンズにもデジタル専用レンズを開発する必要がありますが、現在、我々はデジタル専用のフルサイズ対応レンズを持っていませんから、新たに開発していかなければならないのは同じです。他社のフォロワーになるよりも、中判の世界に飛び込んで、画質の面で市場に風穴を開けたいと思います。

2008年に開発の中断を発表、2009年3月に開発再開を告知。レンズ交換式の中判デジタルカメラ「645 Digital」(写真はフォトイメージングエキスポ2008での参考出品)。

――来年はフォトキナが開催される年ですが、その頃には我々も実物を見ることができるでしょうか? また中判デジタルの開発によって、現在の2ラインナップの開発がお休みになるということはありませんか?

 フォトキナでは、実際のカメラをお目にかけることができるはずです。現行の主流2機種はきちんと開発しながら、平行して中判デジタルに取り組んでいるので、既存2機種の後継モデルのスケジュールに影響はありません。

――高画質で市場に風穴をとのことですが、従来の中判デジタルカメラは、どれもセンサーの性能やノイズ処理などの面に難点を抱えていましたよね。開発を一時中断する前と後では、技術トレンドも様変わりしましたが、以前に開発していたものを再開したということでしょうか? それとも全く新たに練り直しているのでしょうか?

 センサーや筐体デザインなどはやり直しています。ほとんどすべてのパートをやり直していると言った方がいいでしょう。もちろん、流用できる部分は使っていますが、外観デザインやセンサーといった目立つところはすべて新規開発です。見た目に関しては全く違うものではありませんが、より高級感のあるデザインにリファインしており、使う部品の素材も高級感のあるものを選定して使っています。

――製品の位置付けは?

 基本的にアマチュア向けで、スタジオ品質のスペックをフィールドに持ち出して使ってもらうことを念頭に開発しています。写真スタジオで使っていただけるかどうかはわかりませんが、フィールド写真中心の使い方の人なら"このスペック、この機能なら中判を使いたい"という方が出てくるでしょう。K-7と同じくアウトドアが基本コンセプトなので、そうした使い方をする人に向けて開発をしています。

――価格面はアマチュアカメラマンが手にできる価格に収まりそうでしょうか?

 機能に関してはご想像にお任せしますが、価格に関してはアマチュアの方が購入できないようなものにはならないでしょう。デジタル専用レンズも数本を開発していますが、それらと一緒に購入していただけるものになります。

――K-7にあるようなファインダー視野率約100%や構図微調整などの機能を考えると、中判センサーにもSRを導入できるのかな? という期待も出てきます。三脚がなくとも使いこなせるフィールド向け中判カメラとなると、なかなかユニークな製品になりそうです。

 それについてはノーコメントです。スペックについては話せませんが、画質に関しては“フルサイズより良い”ものにならないとダメという意識で開発をしているとは申し上げておきたいと思います。おっしゃるように従来、大型センサーを搭載したカメラには、いくつかの画質面での問題がありましたが、一方で大型センサーならではのダイナミックレンジの深さもあり、これは小さなフォーマットには真似できません。そうした大型センサーならではの利点を画質に活かしたカメラになります。

――従来の2ラインナップを合わせて3ラインナップ構成が定番になっていくのでしょうか?

 来年、上位モデルとして中判デジタル一眼レフカメラを投入することで、三つのユーザー層に対して、それぞれ特徴のある製品を提供できるようになります。このラインナップ構成は、当面は維持していきたいと考えています。

――最後に、今年大きく存在感を増してきたEVF搭載、あるいはライブビュー専用のレンズ交換式カメラをどのように見てらっしゃいますか?

 社内では私はEVF嫌いとして通っているのですが、決して“アンチEVF”というわけではありません。しかし、"あ、これはいいな"と思うEVFを搭載したカメラを見たことがありません。現在、市場に出ているEVFユニットだけで言えば、まだ製品化を本気で考える段階とは思いません。ただし、良いEVF用液晶も登場しているということですから、今後はあらためて評価したいと思います。

 一方、会社全体の取り組みという点では、もちろんEVF搭載の一眼レフカメラは検討はしています。しかし、社内の企画会議で話題になる、というレベルで、具体的に何かを始めようという空気はありません。もし取り組むのであれば、光学ファインダーを超える要素を持つ本格派でなければなりません。中途半端なものは作れません。将来性という面も考慮した上で、どこで線引きをして開発を始めるかという判断は、まだ下していません。

【2009年12月24日】中見出しで用いた「白ボディ+白グリップ」はK-xに存在しません。「白ボディ」に改めました。



(本田雅一)

2009/12/24 00:00