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2009年冬:メーカーインタビュー−−キヤノン編

ハイアマチュアに訴える「EOS 7D」

 いよいよ年末商戦も本格化してきているが、今年1年を振り返り、また来年に向けて、カメラメーカー各社がどのようなことを考えているのか。シリーズで各メーカーへのインタビューをお届けしたい。

 まず1社目はキヤノン。イメージコミュニケーション事業本部 カメラ事業部長の打土井正憲氏に話を伺った。

開発主導の製品開発から顧客目線の製品開発へ

 本誌でも何度かインタビューを重ねているため、先刻承知という読者もいるだろうが、打土井氏はカメラメーカーのエグゼクティブの中でも、とりわけ捌けた考え方を持つ人物だ。一眼レフカメラの事業を担当しながら、一眼レフは大きくて不便だから旅行に持ち歩きたくないと公言し、あんなに不便なのだから、不便な分だけ長所を持たなければならないと話す。誰もがタブーと思う領域に、堂々と踏み込んでいく。

 そんな打土井氏がこれまでに話してきた"文脈"を追ってきた方には、なるほど、これかと思う製品が登場した。高画素数、高ISO感度という、いかにも"キヤノンらしいスペック"を備えながら、一方では"らしくない"機能指向の製品となったEOS 7Dである。

左からイメージコミュニケーション事業本部カメラ事業部長の打土井正憲氏、同カメラ事業部副部長の笠松厚雄氏 EOS 7D。実勢価格はボディのみ19万円前後、EF-S15-85ISU レンズキットが27万円前後、EF-S15-85ISUレンズキットが26万円前後

――EOS 7Dには、これまでのハイアマチュア向けEOSとは異なる、マニアックな要素が盛り込まれていますね。

 これまでは、カメラの開発エンジニアを中心に、可能な限りよい製品を作れば、それが売り上げに直結するという考え方が社内にありました。このため、販売会社から“こんな製品を作ってくれ”といった声を製品に直接反映させる度合いはあまり大きくなかったのです。販売会社からの声で製品を変えるのではなく、顧客を喜ばせるために何をすべきかを精査することが大切だと考えていたからです。

 しかし、このインタビューシリーズの中でも以前に指摘されましたが、キヤノンの製品は普通でつまらない。趣味性に欠けると指摘されました。これは本当に心に響きました。自覚症状もあったからです。では、そうしたキヤノンのカメラに対するイメージを克服するために何ができるのか。今回は考え方を改め、カメラの販売店各社から人を集め、何がニコンに対して劣っているのか、どんな部分が負けているのか?と大調査をかけたのです。

――それが以前、打土井さんが話していた"感性に訴える性能を研究するプロジェクト”でしょうか?

 そうです。たとえば、ニコンユーザーはニコンのカメラに愛着を持っているのに、キヤノンユーザーはあまり愛着を持っていないのでは? という指摘も受けました。両社のカメラはいずれも製品に対する満足度は高いのですが、愛着というバロメーターで測ると大きく違う。ニコンにはマニアがいるのに、キヤノンにはユーザーしかいない。そんな話がたくさん出てきました。操作性やデザインについても、ニコンとの違いが何かを研究しましたが、もっと突っ込んで全く異なる視点から、フィリングや愛着感に関しても、何がキヤノンに欠けているかを探したのです。

 EOS 7Dに関してはユーザーに愛してもらえるカメラになるように、コストを少々割いてでも満足度を高めるようにと指示しました。たとえば高画素で高速連射が難しいというので、できないならばDiGICを2個搭載すればいいと指示しました。コストを気にして中途半端な製品にするのではなく、自分自身が心の中からこうなってほしいと思うスペックを実現したカメラを作るよう開発陣に徹底させたのです。そうした考え方を開発メンバーの一人づつと共有できたことがよい結果につながったと思います。

――EOS 7Dはすでに発売され、ユーザーや販売店からのフィードバックもあると思います。反応はいかがでしょう?

 EOS 5D Mark IIが好評で、今でも若干のバックオーダーを抱えている状態があり、予想以上にフルサイズセンサーがハイアマチュア層に喜ばれているという印象がありました。このため、APSサイズセンサーにEOS 7Dほどハイエンドな機能満載のカメラは、かえって敬遠されるのではないか? という心配も発売直前にはありました。ところAPSサイズセンサー搭載機には、フルサイズ機とは別の方向でのハイエンド機能を求める声があり、ユーザーは7Dの立ち位置を受け入れてくれました。

――高性能、高機能を目指した一方、サイズと重さはアマチュア向けEOSの中でも、最大、最重量級のカメラになりました。キヤノンはこれまで、中級モデルでもサイズや重さにかなり配慮していましたよね?

 小型・軽量も重要なポイントですが、ハイアマチュア層に向けた製品では、欲しい機能や性能が手に入ることの方が重要だと考えました。また高画質・高性能に見合うレンズと組み合わせることを考えれば、ボディとレンズのバランスはちょうどよいところでしょう。ここで数100gを削って、実現できる機能や性能を実現できないよりもずっとよいと思います。コストに関してもそうですが、まずはできる限り力を振り絞ってよいものを作り、そこから重量やコストを削って別の新しい製品に反映していけばいいと考えています。

 また、カタログスペックがよいだけではなく、マニアがわくわくドキドキするカメラじゃないと、アマチュア向け上位モデルとして成立しません。機能的な価値と並んで、完成度、モノとして愛でる対象となるだけの魅力ある製品を目指した結果がEOS 7Dです。快適、快速、高画質がEOSシリーズの目指してきた価値ですが、我々の考える価値とユーザーが感じている愛でるべき製品ほ感覚が少しズレていた。そこを修正することに力を入れました。

 できる限りのことを盛り込みましたが、ではニコンの上位モデルと同じくらい、ユーザーに可愛がってもらえる製品になっているだろうか? と考えると、そこはまだ分からない。市場でのユーザーの判断を待ちたいと思います。

――具体的に、どんな部分が“感性に訴えかける部分”なのでしょう?

 研究の成果は多岐に渡っているのですが、たとえば“質感”というと表面の塗装、仕上げの雰囲気を想像しますよね。しかし、ユーザーが質感として考えているのは、単に見た目や素材の感覚だけでなく、レリーズが落ちる際の音であったり、レリーズする瞬間の応答、振る舞いであったり、それ以前の握り心地であったりします。

 グリップを握った時のしっかり感、固さなどにも高級感を感じさせる要素がありますし、動作音が軽快であればスピード感、軽快さを感じさせることができます。このカメラは本物を目指している高級品なのだということを五感で感じてもらえるよう努力しました。従来の、たとえばEOS 50Dにしても、外装そのものはマグネシウム製でした。ところが、金属ボディの質感、良さをユーザーに感じてもらおうというコンセプトではなく、あくまで製品単体の剛性に対するものでした。今回は、もう一歩踏み込んでその先を目指したということです。

EOS 7Dで「ミドルハイクラス」のシェア拡大を目指す。そのためにハイアマチュアの要望を重視し、積極的に取り入れた(EOS 7D製品発表会の資料より)

――もっとも、テーマが“感性”となると、開発プロセスのチェックや開発チーム内でのコンセンサス共有はとても難しいですよね。何か新しい工夫は施したのでしょうか?

 感性に訴える性能はスペック上に現れません。したがって、この部分はコンセプトをしっかりと指示した上で、開発に任せました。自分が使いたくなる、欲しくなる製品を作るという観点で、開発担当者各の感性を最優先して開発させていました。

――EOS Kiss X2、EOS Kiss X3、EOS 5D Mark II、それにEOS 7Dと打土井さんの“出し惜しみしない”全力投球が続いたことで、キヤノンのラインナップも一通り入れ替わりました。これからの市場を考えたとき、どんな分野に新しい可能性を感じていますか?

 高ISO撮影の世界がどんどん進み、撮影領域が広がったことで昔とは考えられないような写真が簡単に撮影できるようになっています。それまで写真に興味を持たなかったユーザーにも、カメラを楽しんでもらえる環境が生まれつつあるのでは。

 一般論で言えば、若い女性に一眼レフカメラのユーザーが増えています。日本の市場を見ると、業界全体で女性比率が35%に達しています。購入者の世代も徐々に下の方へとシフトしてきました。若い女性の中で“一眼レフを持っていることを自己主張である”と考えるグループが生まれ、社会的にも認知されるくらいにまで増えている。こうした市場の変化は決して小さなものではありません。せっかく、そうしたムーブメントがあるのですから、それを活かした製品開発にも取り組む必要があるでしょう。

――エントリークラスの市場が開拓される一方、エントリークラスから中級機へとステップアップするのではなく、買い得感の強いエントリー機を繰り返し買い換えるユーザーも増えているようです。この点はいかがでしょう?

 どこまでをエントリークラスと見るかによって、かなりシェアの数値は変化します。たとえば、ニコンD90をエントリー機ではなくハイアマチュア向けカメラとカウントするならば、市場の3割はハイアマチュア向けカメラということになります。銀塩時代は8割がエントリーモデルで占められていましたから、当時よりも上級機へとステップアップするユーザーは、むしろ増えているという見方もできるでしょう。

 もっとも、より上を目指す、よりカメラを使いこなし、自分の意志で写真を表現したいユーザーを育てなければならないという点はその通りです。そのためのユーザー向けサービスをメーカーとして充実させていきます。ただ、昔に比べて写真を自ら勉強し、作品を発表する場も増えていることは有利にはたらくのでは。ブログや掲示板で写真を発表することも可能ですし、大きなサイズのプリントも以前よりずっと手軽に出力できるようになりました。

――かつて銀塩時代、EOSはプロ機でもなく、エントリー機でもなく、中級機に最新技術が投入され、それがプロ機に導入されたり、あるいはエントリー機へと持ち込まれたりといった技術の流れがありましたが、このところはその逆の流れが多かったように思います。EOS 5D Mark IIやEOS 7Dは、その流れを変えていくでしょうか?

 今でもEOSの伝統は生きていると思います。EOS 7Dが発売されたから変わったということではありません。EOS 5D Mark IIの動画撮影機能はしかり、高感度撮影対応などもシリーズの"真ん中"からEOS全体に広がっています。設計者が自由に自分の好きなカメラ、欲しいカメラをミドルクラスで開発し、それをシャワー効果で下のモデルに入れていきます。EOS 7Dでの変化は技術的な面よりも、モノ作りの考え方の面ですね。

まずは一眼レフカメラとしての完成度を高めることに注力

――キヤノンのカメラは、その形や構造をデジタル化されてからほとんど変えてきませんでした。もちろん、スペックや細かな意匠は変化していますが、基本構造は同じ。ところがEOS 7Dでは、ボタンの配置を含め、製造時の行程に大きな変化があるような設計変更が入っています。設計側だけではなく、生産現場の考え方にも変化があるのでしょうか?

 生産工場も大きく変わりました。単に効率よく生産するだけでなく、よいものを高品質で生産しようという意識が高まっています。生産現場から、自分たちのできることを上流の設計に対して提案し、自己改革も進めるようになってきました。そうしたことが製品にも変化を与えています。

EOS 7Dには、従来のEOS DIGITALにない操作部材を配置。M-fn(マニュアルファンクション)ボタンをはじめ、カスタマイズ性能の向上が目立つ

――インタビューでは“キヤノンは変わった”というテーマで話を進めてきましたが、実際の顧客はどのように評価していますか?

 期待以上に我々の意図を汲んでくれているという印象です。キヤノン側で悩んで、より深く考えて作った部分は、お客さん側でも理解して評価してくれています。カメラマニアにこそ見てほしかった、という部分をストレートに評価してもらってい、これまでの取り組みが間違っていなかったと胸をなで下ろしています。

 先日、オーストラリアでカメラディーラーを集め、半日ツアーで新製品を使った撮影会を催しました。EOS 7Dを貸し出して使ってもらい、気に入った方にはそのまま特別価格で購入できるようにしたのですが、かなりの割合の方が自腹での購入を決めてくれましたカメラ販売のプロに気に入っていただけたことは自信にもなっています。

――できることはすべて遣り切ったという印象ですが、これで次のエントリーモデルをはじめ、各製品の後継モデルへの期待度も高まるでしょう。次の製品に要求されるハードルも高くなったのでは?

 さらに高い目標を掲げるまでです。エンジニアは皆、優秀な人物ばかりですから、高い目標を与えれば、それをクリアする力を持っていると思っています。私がしなければならないのは、目標とすべきテーマを見極め、正しい目標を開発陣に与えることです。

――そうした意味では、ミラーレス一眼についてはいかがでしょう。レンズ交換式カメラの中でミラーレスのモデルが占める割合は2割に達し、市場での認知も日々進んできています。

 さらに市場が増え、レンズ交換式カメラ市場が拡大することを期待しています。

――キヤノンとしてミラーレス一眼に取り組むとすれば、どのような形がベストだと思いますか?EOSシステムとの互換性はある程度意識する必要があるでしょうか? それとも全くの新規システムの方がよいと考えますか?

 どのような手法が、顧客にとっても我々にとってもベストなのか、もう少し動向を見極めないと判断ができない状況だと思います。レンズシステムの互換性も含め、キヤノンとしてどんな価値を提供できるかを考えなければなりません。さまざまな選択肢があり、進む方向に関してまだ判断していません。ただし、ひとつ言えることは“他社が得意な土俵で勝負をすれば負ける”ということです。たとえば、我々はアマチュア向けのフルサイズセンサー搭載機で大きなシェアを持てたのは、センサー開発と製造に大きな強みがあったからです。同様にミラーレス一眼をやるならば、我々独自の強みがなければならない」

 現時点ではミラーレス一眼に向けて新しい何かをするよりも、まずは一眼レフカメラとしての完成度を高めることに注力すべきでしょう。まだまだ完成度を高める余地はあると思います。

――来年以降に向けての目標は?

 昨年の金融危機以来、カメラメーカーにもさまざまな影響がありました。実際、今年の年初には大幅に一眼レフカメラの出荷が落ちました。しかし、これは昨年末に商品が予想ほど売れなかったことで膨れた在庫レベルを正常化するための動きで、実際には今年4月までの間、一眼レフカメラの売り上げそのものは落ちていなかったのです。実販売は例年と大きな変化なく、金融危機の直撃を受けた昨年でさえ前年対比+30%の販売台数でした。今年はおそらく前年の+7から8%になると予想しています。さらにアクセルを踏み込んで行く状況ではありませんが、さりとて後退期ということはありません。国別ではアメリカが多少前年を下回る可能性がありますが、その分、中国での一眼レフカメラの需要が凄く多くなってきています。安いカメラではなく、高機能、高性能のカメラに人気が集まってきました。

 こうした背景もあり、来年以降も積極的に製品を開発します。EOS 7Dはサイズや重量面で厳しいという方もいるでしょうから、EOS 7Dの機能をより小型・軽量な機種にも展開していきたい。どういうサイズと機能・性能のバランスがよいのか、よく見極めて製品を開発していきます。



(本田雅一)

2009/11/24 01:39


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