インタビュー
プロユースに向けて動き出した「FUJIFILM GFX」
導入のきっかけや使用感をフォトグラファーに聞く
2017年6月30日 18:37
富士フイルムが2月28日に発売した「GFX 50S」は発表当初より注目を集めたが、中判フォーマットを採用していることもあり、コンシューマのハイアマチュアだけでなく、プロユースも視野に入れた展開を打ち出している。
中判デジタルシステム一眼レフカメラやデジタルバックがすでに流通しているが、ミラーレスカメラシステムに関しては数えるほども種類がない。折しもGFX 50Sの発売より約4カ月が経過し、プロユースでの評価も定まってくるタイミングとなった。
そこで本記事ではプロ向けの写真機材・商材イベント「PHOTONEXT 2017」において、プロ市場における中判ミラーレス「Gマウントシステム」の滑り出しや、今後の販売戦略について、富士フイルムの担当者に話を伺った。
今回インタビューにご協力いただいたのは、富士フイルム イメージングシステムズ株式会社 フォトイメージング事業部 プロフェッショナルフォト営業部 マネージャーの平井保則さんと、同社デジタルカメラ事業部 販売支援部プロマーケティングチームマネージャーの木内格志さん、そして実際の業務にGFX 50Sを導入している伊勢丹写真室のフォトグラファーである岩村佳宏さん。GFXシステムを導入した経緯や、現場で運用する上での話を聞いた。
営業写真館にとってもともと近い存在
――GFX 50Sをプロ向けに販売するにあたっては、どのような業種の方をターゲットとしているのでしょうか。
平井さん(以下敬称略):大きく分けて「コマーシャルフォト」と「営業写真館」の2つです。弊社がプロ向けに開催しているセミナーや展示会で実際に触れていただいたり、お客様のところにお持ちして、業務レベルの環境でお試しいただく、といった形で、手広く訴求活動をしています。ありがたいことに現在はお試し用のデモ機もフル回転という状況です。
GFX 50Sについて、プロの方から特に主にご評価いただいているのは、やはり写真のクオリティとコストパフォーマンスですね。特にハイライト部が飛びにくいダイナミックレンジの広さとか彩度が高くても色飽和しにくい色作りなど、いろんな光源・環境条件でタフなあたりが好評です。そのあたりをアピールして、導入をご検討いただけたらいいなと思っています。
PHOTONEXT 2017の会場でもGFX 50Sのセミナーを実施しましたが、特に告知をしなくてもかなりの人数が集まってくださったので、手応えを感じています。
――メインターゲットのひとつ、営業写真館の状況についてご教示ください。
木内:フィルムカメラが主流だった頃、写真館では弊社の中判カメラ「GX680」を多く使っていただいておりました。
画質や色味など写真の総合的なクオリティについて営業写真館の方にお話を聞くと、やはりフィルムを基準に見ている方が多いようなのです。これまではフィルムと比べると、デジタルは見劣りしてしまうと考える方が多かった。
――営業写真館の現場では、中判デジタルの機材を導入するのに慎重だったのでしょうか。
岩村:もちろんデジタル一眼レフカメラやデジタルバックを導入している同業の友人もいましたが、僕の場合は今まで食指が動かなかった、というのが正直なところ。今回、GFX 50Sを導入したのは、写真のクオリティもありますが、導入・運用に関するトータルのコストも考慮して「いけるな」と感じたからです。
GFX 50Sに切り替えるまでは一眼レフカメラを使っていたので、正直いって抵抗はありました。でも機材を切り替えた結果、お客様により高いクオリティの写真がお渡しできるのならば、切り替えによって僕らが抱えるデメリットやリスクは、ある程度まで許容できると考えています。要は僕らが慣れればいいという話なので。
――GFX 50Sのどういったところにメリットを感じて、既存の機材から置き換えを行なったのか、もう少し詳しくお聞かせください。
岩村:大きく2つあります。ひとつは「高い解像力」。確かに、六切や四切でお客様に見せる分には35mmフルサイズのカメラでもいいかもしれません。でも、僕らがきちんとこだわりを持って撮影に臨んでいるかどうかは、機材選びの段階からお客様に伝わるものだと考えています。例えば大きく伸ばしたいというリクエストをいただいたときにも、きちんと対応できる機材で撮影したいのです。
もうひとつは「プロサポート体制」です。僕らは商売でカメラを使っているので、基本的に失敗は許されない。だからサポート面において、メーカーさんと距離が近く、安心感があるというのは大きいです。
平井:このあたりは、長年培ってきた営業写真館さんとの信頼関係の賜物なのかなと思います。
――商業写真館の現場からの率直な意見として、GFX 50Sの印象はいかがでしょうか。
岩村:実感として、GFX 50Sは「撮って出しのJPEGの質が高い」印象が強くて、これはすごく素晴らしいことだと思うのです。
いま、デジタルカメラでは撮影後にRAWデータを調整するのが主流ですが、これはフィルムとは全く異なるフローなので、かつてこの変化に追従できず、プロの業務から振り落とされてしまったベテランの方々もかなりいたのです。
GFX 50Sではシャッターを押した時点でイメージが完成していて、これはフィルムで撮っている感覚に近く、デジタルの後処理をほとんど必要しないということでもあるので、かつてフィルムカメラを使っていた年配の方にも扱いやすいのではないかと思います。
僕の周りには、技術はあるのにデジタル化の波に乗り遅れて写真業界から去ってしまった人や、スタッフではあるがカメラマンとしては在籍していない人がたくさんいるのですが、ある時、その中の何人かにGFX 50Sを使っていただく機会があったので、試用してもらったら、とてもいきいきとしていたのが強く印象に残っています。
そういった出来事があったので、本来、写真は好きなのに、時代に取り残されて撮影から離れてしまった人たちが、再び写真に戻ってくるきっかけになりうる製品なのかもしれない、と思いました。それはある意味では、デジタルカメラの技術が中判フィルムと遜色ないイメージを作り出すまでに成熟したといえるのかもしれません。
業界に信頼されてきた「記憶色」が武器
――富士フイルムはGFX 50Sで中判ミラーレスカメラというカテゴリに参入したわけですが、ことプロユースに関していえば、他社製品と比べての優位点はどのあたりにあるのでしょうか。
木内:「色作り」ですね。我々は事業としてずっとフィルムやプリントをやっているので、最終的にどんな色を作ったらいいのかについてノウハウの蓄積があります。例えば人が見た色の印象、いわゆる「記憶色」と実際の色は違いますよね。そのギャップをどう埋めるかについて、かつて競合のフィルムメーカーとしのぎを削ってきた過去があるわけで、その頃研究してきた「最終的なゴールを知っている」ことが我々の強みかなと考えています。
――プロユースも想定するカメラの開発にあたって"中判ミラーレスカメラ"を決断したのはなぜですか。
木内:私たちは「ファインダー像」と「撮影画像」を同じように見ることが理想と考えているので、私たちにとって、中判デジタルでもミラーレスを選択するのは、ごく自然な流れでした。
これはフィルムカメラの時代はもちろん、デジタルカメラが主流になっても、EVFの性能の問題もあって、なかなか実現できなかった課題でした。でも近年になって、高性能な画像処理エンジンやEVFが登場したことによって、十分実用に堪えるようになったという判断で、中判でもミラーレスという選択をしました。
もちろん、被写体によって得手不得手はありますが、そこは用途によって使い分けるポイントかなと思います。
――現場からのフィードバックを受けて、今後解決すべき課題と認識している点はありますか。
木内:レンズラインナップの拡大は急ぎたいですね。求められる用途に対してカバーできていない焦点距離はまだまだあるので、まずは望遠レンズの充実と、テレコンバーターの開発にリソースを使いたいと思っています。
平井:ボディに関しては、AFの速度や撮影機能をはじめ、ファームウェアで解決できる部分はできる限り対応していきたいです。撮影データについても、純正以外のソフトとの連携性を向上していきたいと考えています。