インタビュー
ニコン渾身のアクションカメラ「KeyMission」インタビュー
3製品を用意する意図は? 新しい映像体験の提供を目指して
2016年9月28日 12:26
ニコンは、世界最大級の写真関連展示会「フォトキナ2016」で、360度カメラの「KeyMission 360」など、画角が異なる3つのアクションカメラを発表した。
それぞれ独自の使い方を提案するカメラとなっており、その狙いについて、映像事業部マーケティング統括部第一マーケティング部長の北岡直樹氏と映像事業部マーケティング統括部第一マーケティング部第二マーケティンググループマネジャーの井上雅彦氏に話を聞いた。
KeyMissionシリーズは、全天球画像の撮影ができる「KeyMission 360」、画角170度の「KeyMission 170」、同80度の「KeyMission 80」の3モデルが用意される。
それぞれの特徴はあるが、井上氏は、「性能の高低でラインナップを作るのではなく、横に広げてラインナップを作った」と話し、ユーザーの表現したい画像に合わせて選択できるようにしたという。
自分が主体になるカメラ
「スポーツ、アクティブでスリリングな体験、アウトドアで活躍する人の信頼に足るパートナーとなる機材を提供して新しい映像体験をシェアしてもらう」(井上氏)ことが、KeyMissionシリーズ投入の意図だ。
通常、カメラには被写体があり、それを写す人がいて成り立つ。被写体が主になるが、KeyMissionでの関係性は「自分の体験が主になる」(北岡氏)。「強いミッションを持って、勇敢に、果敢に挑戦する人たちに向けたカメラ」(同)がKeyMissionだという。
そのため、すべてのモデルに防塵・防滴・耐衝撃性能を備え、360と170は防水性能も装備。さまざまなシーンに対応するため画角に応じてカメラを選べるようにした。
自分の体験が主体になるとはいえ、「何でもかんでもセルフィー(自分撮り)ではない」と井上氏。アクティブに活動している途中に「脇を締めてカメラを構える」という従来の撮影スタイルではなく、「それとは違うパターンの撮影スタイルを提案したかった」(井上氏)という。
360度カメラやアクションカメラはGoPro、THETAといったライバルのいるジャンルでもあるが、まだニッチな市場ともいえる。
井上氏は、一眼レフカメラもコンパクトデジタルカメラも、それぞれが異なる映像表現のためのツールと指摘し、それに加え、KeyMissionも新たな映像表現のためのツールとして位置づける。
例えばKeyMission 360は、全天球撮影が可能でありながら防水、耐衝撃といった性能を備え、アウトドアシーンにマッチした堅牢性と新しい映像表現の提案ができるモデルとなっており、「ニコンならでは」と井上氏は強調する。
もちろん画質にも配慮
「ニコンである」ということは画質にも期待されている、と北岡氏。KeyMission 360は、画角190度ずつのレンズを2つ利用しているが、これだけ広角のレンズでF2の明るさを確保しながらコンパクトサイズにまとめた。「明るい広角レンズを小さくしたことにニコンの技術が生かされている」と井上氏。
さらに、タフネス性能のためにレンズ前にカバーガラスが配置されており、この部分も画質に影響するため、特に内面反射の処理に苦労したという。「ニコンとして恥ずかしいものは出せない」と北岡氏は話す。
今回の製品は「アクションカメラ」というカテゴリーだが、ニコン自身は「体験価値を想定して作っている」(井上氏)ため、アクションカメラを作ったというよりも「新しい映像体験を提供する」(北岡氏)のが目的だとする。
レンズには苦労したと北岡氏は強調しつつ、その結果「ニコンのレンズクオリティを提供することで、他社にはない付加価値が生まれるのではないか」としている。
アクションカメラ市場は成長が鈍化しているという声もあり、GoProも新たにドローンに参入するなど、新たな動きが必要になってきている。とはいえ、欧州自体、アクションカメラ市場はまだ大きくはない。KeyMissionによる新たな価値の提供で「市場拡大に繋がるのでは」と北岡氏。さらに、ユーザーが新しい使い方を生み出すことで、新たな市場拡大に繋がることを期待する。KeyMission自体は「ほかのアクションカメラと被らない」「アクションカメラ市場を広げたい」(同)と意気込む。
SnapBridgeとの連動も完成
KeyMission 360では、2つのカメラで撮影した画像を360度の全天球画像として合成する「スティッチング」と呼ばれる処理を、カメラ内で行っている。THETAも同様だが、比較的重い処理のため、スマートフォンなど外部で合成するカメラも多い。特に動画のスティッチングには高負荷の処理が必要になるが、KeyMission 360では4K動画のスティッチングをカメラ内で行う。
2つのカメラから得られた動画をそれぞれ処理するパフォーマンスも必要だが、さらにそれによって発生する熱を処理するのが難しい。
特にKeyMission 360はタフネス性能のために放熱がさらに困難になる。そのため、熱源となる画像処理エンジン、センサー、バッテリーの3つをできるだけ離し、それぞれアルミダイキャストで分離。そこへさらに熱伝導シートを使って熱を効率よく逃がす設計にしたという。
KeyMission 360は今年1月のCESで発表された。その時にデモ映像が流れていたが、「スティッチングや2つのカメラがそれぞれ異なる露出の時の絵作りのバランスが煮詰められていなかった」と井上氏は認める。それに対して、今回の製品版ではスティッチングのアルゴリズムを最適化し、絵作りのバランスをチューンナップしたということで、「進化を見ていただけるのではないか」と井上氏は自信を見せる。
また、2016年1月のCESでは春に発売する予定という発表だったが、秋まで延期になってしまったのは、「SnapBridgeとKeyMissionとの連動に苦労した」(北岡氏)ことが影響した。SnapBridgeそのものには問題はないが、KeyMissionとの連係の為のカメラ側のファームウェアの調整に時間がかかってしまい、結果として半年の延期を余儀なくされたそうだ。
このSnapBridgeは、ニコンが提供する映像体験の新機軸として必要な機能であった。BLE(Bluetooth Low Energy)を使ってスマートフォンとカメラを常時接続し、撮影後にBluetoothを自動的にオンにして画像を自動転送する、ニコンがD500から導入した機能だ。これまで、無線LANを搭載したカメラは同社にもあったが、Bluetoothを併用する仕組みは初めてだったため、ここでの苦労も多かったという。
しかし、これを搭載したことで、撮影した画像や動画をすぐにスマートフォンで確認し、SNSに投稿したり家族に送信したりといったインターネットとの親和性が高くなった。ニコンは「Internet of Cameras」と呼んで、カメラとインターネットの接続性を強化する方針を示しているが、それを実現するためには、SnapBridgeが不可欠な機能という認識だ。
SnapBridgeは単に自動転送するだけではなく、同社のクラウドストレージの「Nikon Image Space」にも同時にアップロードする。2Mの画像であれば容量無制限で保存できるため、「撮影したらすぐにインターネット上に画像がある」という状況を作った。こうしたワークフローをすべて自動化することで、あたかもカメラがネットに繋がっているという環境を構築するのが狙い。
これは、カメラを使ったコミュニケーションの一環という位置づけだ。ケータイカメラの登場で静止画によるコミュニケーションが普及し、それが最近は動画にも波及しているが、まだ2次元ではある。これを「空間全体によるコミュニケーションの進化としてのVR」(井上氏)というのがニコンの考え方であり、あくまでカメラを経由したコミュニケーションの手段としてのVRであり、KeyMissionなのだという。
KeyMissionシリーズはまだ発売されていないが、今後の商品展開について北岡氏は、まずユーザーの動向や市場の傾向を見て、特にユーザーがどんな使い方をするかを丁寧に確認していくことで、次の世代のKeyMissionの開発に繋げていきたい考えを示している。