写真展
佐藤倫子写真展「知のフラグメンツ」レポート
東大構内で行われるインタラクティブ写真展示への挑戦
2016年10月6日 08:20
東京大学本郷キャンパスの中で、ちょっと変わった写真展が開催中だ。「知のフラグメンツ」は、東大キャンパスの内部の建築物や自然を切り取った写真をもとに、短焦点プロジェクターを活用したインタラクティブ展示の要素を含めている。
仕掛け人は、東京大学大学院情報情報学環 ユビキタス情報社会研究基盤研究センターの坂村健センター長。
国産OS「TRON」の生みの親としても知られる坂村氏は、東大構内にあるダイワユビキタス学術研究館での写真展示を実現するにあたり、写真家の佐藤倫子さんに撮影を持ちかける。坂村氏と佐藤さんの出会いは、坂村氏が知人の新築祝いに佐藤さんの写真を購入したことから始まったそうだ。
自身の視点で切り取った都市風景を再構成して見せる作風の佐藤さんにとって、大学キャンパスで作品を撮ることは意外だったという。約2年をかけて、赤門、安田講堂、ベルツ像、三四郎池など、歴史的建造物と自然を撮り貯めた。
坂村氏が総合プロデュースを務めただけに、ITを使った試みが見られるのも特徴だ。
代表的なものが、プロジェクターを使ったインタラクティブ写真展示。一見すると通常の写真だが……
近づくと写真の周囲に撮影地の全景が現れる。
さらに手をかざすと、撮影地に関するテキストが表示された。
この仕組みは、写真の上に配置されたリコーの短焦点プロジェクター「PJ WX4152N」と、ドップラーセンサーで実現している。
ドップラーセンサーは、発振したマイクロ波の反射による周波数の変化を測るもの。これで鑑賞者の接近を感知し、プロジェクターが表示を行う仕組みだ。
プロジェクターの提供をはじめ、この展示には株式会社リコーが協力している。佐藤さんの使用カメラは、リコーイメージングのPENTAX 645Zで、会場にも展示してあった。
ダイワユビキタス学術研究館とリコーの関係は深く、最近では「RICOH THETA x IoTデバロッパーズコンテスト」の記者会見や、クラウドAPIセミナーもここで開かれている。
自身も大の写真好きという株式会社リコー近藤史朗会長も、オープニングレセプションに参加した。
もちろん、通常の写真展示もある。ただしその写真にもARが仕込まれている。スマートフォンアプリ「ココシル」の「ココシルARカメラ」で作品を写すと、撮影場所の情報を表示する仕掛けが施されているのだ。
また、本郷キャンパス内で作品が撮影された場所に近づき、「ココシル」アプリの機能「ココシルツアー」を起動すると、自動的に作品が案内されるという。
写真の解説を行う端末もあった。
この端末のカードリーダーに、SUICAやPASMOなどのISカードをかざすことで解説が受けられる。受付では解説で使われる多数の言語の登録が可能だ。
展示が行われるダイワユビキタス学術研究館は隈研吾氏の設計によるもので、パラメトリック建築を取り入れて作られた。コンピューターで生成したパラメータで形を生成する手法がパラメトリック建築であり、例えばある自然木のフラングメンツ(断片)は、不定なゆらぎに沿って配置されている。複雑なのにシンプルな面も持っており、坂村氏はこれを「俳句的な建築作品」と説明している。
一方、佐藤さんの写真について坂村氏は「俳句のような写真」「ミクロのフラグメント」と表現。実際会場に入ると、一見異色に見える両者の組み合わせに違和感はない。東京大学というキーワードで結びつけられた世界観もユニークな写真展だ。
佐藤倫子写真展「知のフラグメンツ」
- ・会場:東京大学本郷キャンパス 情報学環・ダイワユビキタス学術研究館 地下ギャラリー
- ・住所:東京都文京区本郷7-1-2
- ・2016年10月11日(火)〜10月28日(金)
- ・時間:11時〜18時(最終日は17時まで)
- ・休館:月曜日