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ストックフォトの最新事情をゲッティイメージズが解説
“普通の人”の写真が人気。「自然な様子が好まれる」
Reported by 関根慎一(2015/5/21 07:00)
ストックフォトエージェンシーのゲッティイメージズは、ストックフォト契約希望者向け講習プログラム「iStockalypse Tokyo」を5月15日(金)~17日(日)の3日間にわたって開催した。
iStockalypseは、フォトグラファーの発掘と高品質なコンテンツの供給を目的として世界各国で実施しているセミナーイベント。同社のアートディレクターがストックフォトとして売れる写真を撮影するにあたって重要なポイントをレクチャーするほか、現在の写真マーケット動向や法的に留意するべきポイントなどの講習を行なう。2010年と2013年に開催しており、今回で3回目の開催となる。
同社では、本イベントの初日にあたる15日に報道機関向けの説明会を実施。イベント開催の狙いとストックフォト市場のトレンドについて解説した。
ゲッティイメージズでは、2015年1月より国内においてアマチュア向けストックフォトサービス「iStock」のビジネスを本格化させており、これまで英語のみだったインターフェイスなどの日本語化を進めている。
ゲッティイメージズジャパン代表取締役社長の島本久美子氏は、グローバルにおけるビジュアルコンテンツ(ここでは写真・動画を指す)市場の現状とローカライズ本格化の経緯について説明した。
「これまでは英語圏を中心にビジネスを展開していましたが、アジアにおいてはスマートフォンやSNSの普及を背景として、ビジュアルコンテンツの市場が伸びてきており、アジアローカルの生活をリアルに表現するようなコンテンツが求められています。日本のコンテンツ需要も増加傾向で、日本のアマチュアカメラマンにもビジネスチャンスが増えている状況です」
iStockのコンテンツ登録者は全世界で17万人を超え、日本でも年々増加しているという。今回のローカライズでは日本からの応募に十分対応できるよう、iStockのWebサイトをはじめとして写真の応募・登録フローを日本語化し、15日より運用を開始した。具体的には、これまで日本からの応募でも、登録や応募作品に関する品評などをすべて英語で行なっていたところを日本語で対応するようにしたことで、より利用しやすくしたとのことだ。
文字情報より視覚情報の方が記憶に留まりやすい
ゲッティイメージズクリエイティブコンテンツ部門ディレクターのアンドリュー・デラニー氏は、ストックフォトが活用されるシーンについて、事例を交えながら説明した。
「ビジュアルに対するニーズは多様であり、ユーザーがストックフォトを使う動機はさまざまですが、当社のコンテンツはコマーシャルなどのグラフィックデザイン素材に使われることが多いです。それだけに、ストックフォトは専門家やデザイナーたちだけが活用するものと思われがちですが、基本的に料金を払えば誰でも使えるものです」
ストックフォトや動画をコンテンツ素材として用いた場合のメリットについては、Webサイトでの調査結果を挙げた。これによると、コンテンツ内に画像を用いたWebサイトは、テキストだけで同じ内容を記述したWebサイトよりも20%程度閲覧数が増え、SNSなどにシェアされる数も、画像を使わない場合と比べて40%以上多くなるという。
「コンテンツの消費者は、視覚情報を記憶に留めやすいという統計データが出ています。つまり、文字情報だけではコンテンツを通して伝えたいことが消費者に対して十分に伝わらないおそれがあるのです。実際、私たちは言葉以外の情報でコミュニケーションを図ることも多いですよね。コマーシャルなどのコンテンツにおいて、ビジュアルによってコンテンツのイメージを補完することは、ストックフォトや動画を用いる大きな理由の1つなのです」
ローカライズ実施以降、日本でのビジュアルコンテンツ提供者は2,000人を超え、今も増加傾向にあるという。コンテンツのライセンス購入も増えてきており、同社が取り扱うコンテンツのダウンロード数は対前年比で2倍を記録している。
日本人の写真は需要がある
現在よく売れている写真のトレンドについては、iStockクリエイティブプランニング部門ディレクターのレベッカ・スィフト氏が説明した。
日本語へのローカライズを行ない本格展開を開始したiStockだが、日本のビジュアルコンテンツはまだ少ない状態。同社の調査によれば、iStockにおける日本のビジュアルコンテンツ需要は従来の4倍に達しており、今後3~4年間は増加する傾向にあるという。
「当社で取り扱うビジュアルコンテンツを増やすことで、日本の顧客を増やすとともに、海外のニーズに応えることを目指します。英語圏からの検索ワードとしては、日本を象徴するアイコンになるような典型的な言葉が多い傾向があり、例えば東京タワーやスカイツリー、浅草寺、秋葉原、渋谷、新宿、原宿といった都内の地名が上位に入ってくることから、世界から日本を見たとき、真っ先にイメージするのは東京だということがわかりました」
ゲッティイメージズでは、iStockにアクセスする顧客の購買行動や検索ワードなどから新たなカテゴリーを見出したり、売れ筋作品の分析などを通して、トレンドを掴んでいる。スィフト氏はトレンドの一例として、iStockの検索ワードで「Selfie」(自撮り)が際立って増えていることを挙げた。
「日本のサイトでは、人、ビジネス、女性、ライフスタイル、ネイチャーといった一般的な単語を入れて検索し、そこからコンセプトを絞り込んで探すことが多いようです。世界的なトレンドとして、実際にビジュアルのマーケットで売れている写真の傾向は大きく4つに分けられます」
1つ目は「Perfectly Imperfect」(完成された未完成)。技術的には未熟でも、親近感やストーリーを感じさせるような写真、いわゆるSNSで共有するような写真を指している。
「学校などで体系的に写真を勉強すると、何が写真をダメにするか、その要素としてのGlitch Aesthetic(美学的欠陥)が判別できるようになりますが、そうした要素を排除しない写真の需要が増えています。簡単に言えばインスタグラムにアップロードされるような写真ですね。これらは意図的に撮ることが難しい写真であり、プロのモデルではなかなか出せない味のある写真です。人間の感情を感じさせ、未完成な中に本物らしさがあるところが魅力です」
2つ目は「Point Of View」(個人的な視点)。アクションカムやスマートグラスといったデバイスによって撮影者の主観視点をとらえた作品が多く、ウェアラブルなテクノロジーに由来し、これまでは撮影が難しかった写真と定義した。フィルタされていない、今その瞬間に起こった出来事をとらえた躍動感が求められる。
3つ目は「Sensory Immersion」(引き込まれる感覚)。人の感覚に訴える作品で、人々の体験を想起させるビジュアルや、物体の質感を表現した作品がこれに分類される。具体的には、スマートデバイスを使って微笑む人物や、ビビッドな色合いの風景、生々しい質感をとらえたマクロフォトグラフィなど。一例としては、レンズのCMで目をイメージした画像が紹介された。
スィフト氏は、活き活きとした、ビビッドな色彩を感じさせるものは、特にスマートデバイスの小さな画面では魅力的に映るということで、トレンドになっていると話した。
物体の質感を表現したマクロ写真も人気のあるカテゴリーの1つ
4つ目は「All Kind Of People」(多種多様な人々)。その名の通り世界中の様々な人々の様子をとらえた写真であり、昔から人気のあるカテゴリーの1つ。その中でも売れ筋は変遷しており、現在は"普通の人たち"のニーズが高いという。
「かつてはプロのモデルを起用した美しい写真の需要が高かったのですが、いまはローカルな、体型もまちまちで、そこにいる人々の多種多様性を感じさせる作品が強く求められています。また、年齢から滲みだすキャラクター性を感じさせるような高齢者の写真も人気があります。見る者に"こんな風に歳を取りたい"と思わせる写真が売れますね。同じコンセプトの写真は以前もありましたが、より自然な様子が好まれているようです」
ストックフォトは一般人にこそチャンスがある
ゲッティイメージズジャパン シニアアートディレクターの小林正明氏は、フォトグラファーの藤田祥司氏を交えての対談形式でセッションを展開。ストックフォトというプラットフォームの今までとこれからについて話し合った。
小林氏「私がゲッティイメージズに入社したのは12年前ですが、その頃の写真はまだアナログ。ロンドンの事務所が24時間体制で写真をデジタル化していたのをよく憶えています。藤田さんは四半世紀にわたってストックフォトをビジネスの中心に据えてきたということですが、ストックフォトを始めたきっかけはどういったものだったのですか?」
藤田氏「学生の頃にストックフォトという仕事があることを知って、就職はせずにこれ一本で行こうと決めました。始めた当時は4×5判で撮影していましたね。大判フィルムは取り扱いが難しかったし、世の中にストックフォトが知られていなかったこともあって、エージェンシーに登録して、写真を2万点ほど入れれば生活できました。そういう時代があったのです」
小林氏「25年のキャリアの中で、藤田さんにとってのマイルストーンと言えるような変化はどのようなものでしたか?」
藤田氏「やはりフィルムからデジタルに切り替わった時ですね。2万点入れていたフィルムがほとんど返却されてきて、一度は失業したような状態になりました。それまではライツマネージメントで1枚の単価がとても高い仕事をしていましたが、それらが一旦すべてロイヤリティフリーになって、それ以降どんどん単価が落ちていったというのが大きな変化といえます」
小林氏「写真がデジタル化して以来、写真の撮られ方、配信のされ方、見られ方が変わりましたよね。特に見られ方という点では、昔はプリントで見るものだった写真がオンラインのモニター上で見るものに変わり、やがてスマートデバイスの画面上で消費されるものになっていった。世の中がどんどん変わっていることを肌で感じます」
小林氏「藤田さんとは何度も一緒に仕事をさせていただいていますが、技術的にとても洗練されたイメージの写真を撮影されているように思っています。ストックフォトに関して、最近の変化についてどう感じていますか?」
藤田氏「もともとストックフォトの写真は、きれいで、美しく、使いやすくを基本としていました。先ほどのプレゼンにもありましたが、ここにきて作品性のある、単に素材的ではない凝った写真が求められるようになってきましたよね。最近のトレンドを見ると、これまでとは確実に違う世界になったなと感じています。とはいえ、今から大きく路線変更をするのもなかなか難しいので、自分のやりたいことをやっていくしかないのかなとは思っています」
小林氏「藤田さんはiStockのビデオグラファーとしてもご活躍されていますが、動画の売れ行きはいかがでしょうか」
藤田氏「最近はほとんど動画の仕事に力を入れているような状態なので、それなりに動いてはいますね。静止画を1枚撮るのに比べて、動画は編集作業などの工数がかかりますから、安く、たくさん売るというスタイルには向いていないように思います。いまのところ手間がかかる分単価は高いので、トータルで言えばトントンかな、という感じです」
小林氏「我々ライセンサーとしては市場の求めるコンテンツを供給する必要があります。ひとりひとりの特性を活かすというのは大切な話だと思うのですが、市場の真ん中にあるニーズは人物です。藤田さんにも人物の写真をお願いすることがあるのですが、なかなか写真をいただけないこともあります」
藤田氏「単純に人が苦手というのはあるのですが、私が撮らなくても、ほかに撮れる人はたくさんいるかなと考えています。ストックフォトは世間的には職業というより、空いた時間に写真を撮ってお小遣い稼ぎができます、というイメージがありますよね。もしスマートフォンで撮った写真が売れるとなれば、それこそ主婦の方がお子さんを撮影して、その写真が爆発的に売れる可能性だってある。人物写真に関して、これからは、プロよりもむしろアマチュアの方にチャンスがある状況になっていくのではないかと思います」