写真を巡る、今日の読書
第101回:写真集と向き合う静かな時間
2026年1月7日 07:00
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
慌ただしい日常から少し距離を置き……
新年あけましておめでとうございます。2026年最初の連載となります。1年を新たな気持ちで歩み出すにあたって、本連載では毎年、初回に写真集を取り上げることにしています。
正月には、慌ただしい日常から少し距離を置き、書棚の奥からさまざまな写真集を引っ張り出しては、初心に戻るような気持ちでゆっくりページを繰るのが、私なりの長年の決まり事になっています。1年の抱負や目標をあれこれ言葉にする前に、写真集と向き合う静かな時間を持つことが、結果的にその年の制作や仕事を支える大切な準備になっているのかもしれません。
そこで本稿では、今年手に取った写真集の中から3冊を紹介したいと思います。
『GARRY WINOGRAND:WINOGRAND COLOR(H)』MICHAEL WINOGRAND, GARRY/ALMEREYDA 著(D.A.P./2024年)
1冊目は、『GARRY WINOGRAND: WINOGRAND COLOR』です。ゲイリー・ウィノグランドといえば、モノクローム作品を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
1967年に開催された「ニュー・ドキュメンツ」展で、リー・フリードランダーやダイアン・アーバスと共に紹介され、ストリートスナップの新しいあり方を提示したことで知られるウィノグランドの作品は、写真史の文脈でもモノクロームが多く取り上げられてきました。しかし実際にはウィノグランドは、2台のカメラの一方にカラーフィルムを、もう一方にモノクロフィルムを詰めて撮影することが多かったと言われています。
本書は、1950年代から60年代後半にかけて撮影された貴重なカラー作品を収録した1冊です。広角レンズによる躍動感あふれる幾何学的な構図はモノクローム作品と共通しつつ、カラーでは色の配置やコントラストによる表現の違いが際立ちます。
モノクロで撮ることとカラーで撮ることの違いやその意義について考えるうえで、ウィノグランドの作品群は格好の参考書になるでしょう。
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『スティーヴ・マッカリーの「読む時間」』スティーヴ・マッカリー 著(創元社/2017年)
2冊目は、『On Reading』です。タイトルからまず思い浮かぶのは、読書する人々を収めた不朽の名作、アンドレ・ケルテスの『ON READING』かもしれません。しかし今回紹介するのは、「アフガニスタンの少女」で知られるスティーブ・マッカリーによる同名の1冊です。時代や場所が変わっても、読書がもたらす豊かな時間と、その姿の魅力がいかに普遍的であるかが伝わってきます。
ケルテスへの敬意の表れでもある本書には、世界各地のさまざまな場所と状況で読書をする人々の姿が捉えられています。紛争地域や貧困地域、寺院や学校、美術館、地下鉄などの風景からは、それぞれの環境と時代が鮮明に映し出されると同時に、本の持つ娯楽性や教育的な力が改めて象徴されているように感じられます。
また、ケルテスのモノクロームに対し、マッカリーのカラーによるアプローチを比較することは、こちらも写真表現の違いを読み解くために適した資料になるのではないでしょうか。
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『Photographs(1978-1985)』Christine Furuya-Goessler 写真(Chose Commune/2025年)
最後は、『Photographs(1978–1985)』です。『メモワール』に代表される古屋誠一の写真集を、どこかで目にしたことがある方は多いでしょう。妻クリスティーネと過ごした日々を編み続けてきた古屋の作品は、国内外を問わず高く評価されてきました。本書は、古屋の側からの視点ではなく、クリスティーネのまなざしによって写された日々の写真をまとめた1冊です。
これまで古屋の写真集を数多く見てきましたが、そのイメージの向こう側から投げかけられる視線は、きわめて興味深く、従来の前提や解釈を揺さぶるパースペクティブを備えているように思われます。そこには、クリスティーネが撮影した古屋の肖像が、まるで立場を入れ替えるように配置されていることも大きく影響しているのでしょう。
見る側と見られる側が反転するその感覚が、これまで自分が見ていた世界を押し広げ、あるいはわずかに歪めるような効果を生んでいるのかもしれません。
いずれにせよ、本書を通して古屋作品に向き合うことは、それまでの見え方を変える契機となるはずです。それが、ある種の「答え合わせ」として働くのか、まったく新しい物語へと誘う入口となるのかは、見る人それぞれに委ねられていると言えるでしょう。






