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Insta360創業者が語る「Luna Ultra」開発秘話
開発に約5年 画期的な二眼ジンバルカメラはなぜ生まれたのか
2026年6月29日 07:00
ジンバルカメラ市場に彗星のごとく現れたInsta360の最新作「Luna Ultra」。二眼レンズにLeica製Summicronを冠し、着脱式タッチスクリーンというユニークなギミックを搭載したこの初号機は、なぜこのタイミングで誕生したのか?
開発の裏側に迫るべく、Insta360の創業者であるJK氏に、Luna Ultraに込められた設計思想と、彼らが目指す未来の映像体験について伺ってみた。
なぜ今、ジンバルカメラなのか?「Luna Ultra」誕生の背景
Insta360には、360°カメラの「Xシリーズ」、アクションカメラの「Ace Proシリーズ」、そして小型で分離型の「Goシリーズ」があり、それぞれが“尖った個性”をもっている点が魅力。
性能の高さはもちろん、ギミックやデザインも傑出しており、所有欲を満たす製品が多いのもInsta360の特徴といえるだろう。
そして今、新たなシリーズとしてジンバルカメラが登場した。
しかし、シリーズ初号機だからといって“無難なカメラ”で済ませないあたりは、いかにもInsta360らしい。Leica製Summicronレンズを搭載した二眼タイプという、まさに個性の塊のようなカメラに仕上がっている。
気になるのは、なぜ今このタイミングでの登場なのかという点。
DJI社の「Osmo Pocketシリーズ」がほぼ独占している市場だけに、出遅れ感は否めないのだが……。
「実は、約5年前からジンバルカメラの開発に着手していました。当初は『One R』のようなモジュール型を模索しており、レンズも1つでした。私たちは『映像でもっと人々の生活を豊かにしたい』というビジョンを掲げており、360°カメラ以外のバリエーションを増やそうと考えていたのです」(JK氏:以下同)
3,000万元(日本円で約7億円)を投じて注力していた開発は、モジュール化ゆえの熱対策という技術的な壁に直面した。その結果、モジュール化を断念してプロジェクトを立て直し、完成に至ったのが「Luna Ultra」だ。
本来であればもっと早く市場へ投入できたはずだが、JK氏のこだわりである「着脱式」機構の実装により、開発は半年ほど遅れたという。
「着脱式のタッチスクリーンは、ユーザー体験を大きく向上させることができます。たとえば、Vlog撮影時のアングル調整や、カメラを遠方に配置しての望遠撮影などが可能です。多くのカメラのようにスマートフォンとリンクさせる手間がなく、カメラから外して即座に使える点は非常に便利です」
近年のInsta360の製品には、「ステップの簡略化」という設計コンセプトがある。
カメラをスマートフォンと連携する場合、電源を入れてアプリを起動し、接続の完了を待ってから操作を開始するという何段階ものステップが必要だ。これをカメラ本体だけで完結できれば、利便性は飛躍的に向上するということ。
JK氏は設計理念について、「『Insta』――瞬時に(Instant)できて便利に使える――という考えに通じている」と語る。
「この機能の採用により開発が半年遅れ、チーム内での意見対立やコスト増などの困難もありました。しかし、①便利に使えること、②製品独自の強みになること、③ユーザーの撮影バリエーションが広がること、という点が決め手となり、搭載を決定しました」
実装には多大な苦労があったようで、UI設計の難しさや接続の安定性、バッテリー制御に至るまで、詳細に語っていただいた。
その間もJK氏は、この機能の実装でユーザーがどのように楽しめるのか、身振り手振りを交え嬉しそうに語る様子がとても印象的だった。
最新技術と伝統が融合した「Summicron」の描写力
Insta360とLeicaのパートナーシップは6年を超える。
この長年の蓄積が、Luna Ultraの開発においてどのように活かされたのか。具体的なエピソードを伺ってみた。
「全体的にはこれまでと変わりません。1つは、レンズの設計を最適化するサポートをしてくれること、2つ目は色彩についてです。『Leica Natural』や『Leica Vivid』など、豊富な設定を備えています。実は、Leicaの色彩はユーザーが当社を選択する理由の上位3位に入っています。そのため、本製品を開発する際も協力関係を継続し、レンズの設計と色彩の調整を最適化してもらいました」
さらにJK氏は、これまでのInsta360製品にはない「Luna Ultra+Leicaレンズ」の写真的な相乗効果にも言及した。それが、Luna Ultraがカバーするレンズの焦点距離だ。
「Ace Pro 2(アクションカメラ)は35mm判換算で13mmという超広角レンズだったため、写真愛好家がイメージする「Leicaの画」とは少し離れていました。その点、20mmと60mmのレンズを搭載したLuna Ultraは、Leicaカラーが反映されやすい焦点距離になっています。光学的な画角も色も、Leica本来のイメージに近づいたというわけです」
Luna Ultraが搭載するレンズは「Summicron」だ。これはLeicaが認めたレンズに冠される名称であり、コンパクトかつ高性能なレンズの証でもある。
ちなみに、Luna Ultraのメインレンズの開放F値は1.8。伝統的にSummicronは「開放F値2.0」のレンズに用いられる名称であるため、写真愛好家の中には不思議に思う者もいるかもしれない。
そこで、Leica側とこの名称についてどのような議論を経て決断に至ったのか、その背景を尋ねてみた。
「私たちが目指したのは、Leicaの「Summicron」がもたらすような、非常にコンパクトで最高レベルの画質と色彩を実現することでした。そして、色収差を高精度に抑えつつ、Summicronらしいボケ味を得るために、あえて従来のF2.0ではなく「F1.8」を採用したのです。伝統的なF2.0という命名規則を守ることよりも、ユーザーにとっては描写性能こそが重要であるという点でLeicaと意見が一致しました」
「Luna Ultraのセンサーは1インチであり、(フルサイズカメラと比較すれば)小さいため、このセンサーにおいてはF1.8の方がSummicronの描写力を最大限に引き出せるというわけです」
Leica製レンズを単にOEMで搭載するのではなく、レンズ設計や色彩、階調、ボケ味、色収差、さらにはLeicaの思想や伝統に至るまで、Luna UltraはLeicaと深く関わって開発されたカメラであることがよく分かる。
JK氏が語るとおり、標準域というSummicronらしい焦点距離をカバーしたレンズを搭載しているため、同社ラインナップの中で、これまで以上にLeicaの画作りが楽しめる一台に仕上がっているといえるだろう。
強烈な個性を生む「二眼レンズ」とデザインの矜持
Luna Ultraの機能およびデザイン面における最大の特徴は「二眼レンズ」である。そして、このレンズ構成がLuna Ultraの強烈な個性ともなっている。
それぞれのレンズとセンサーの組み合わせは下記の表のとおりで、20mmから120mmまではロスレスズームに対応しており、最大240mm(12倍)までの撮影が可能。
12倍ズーム時の画質については今後も継続してチューニングを行うとのことで、さらなる品質向上に期待したい。
| 広角レンズ | 望遠レンズ | |
|---|---|---|
| 35mm判換算焦点距離 | 20mm | 60mm |
| 開放F値 | F1.8 | F2.0 |
| センサーサイズ | 1インチ | 1/1.3インチ |
「2つのレンズはロスレスズーム機能を持っていて、35mm換算で60mm、あるいは120mm相当の焦点距離になります。この2つを合わせることで、20mmから120mmまで高画質に撮影が可能になります。1つのレンズで撮影するよりも、表現力がより豊かになるということです」
「だから私たちは、二眼レンズを採用しました。望遠レンズを搭載したおかげで人物と背景を圧縮して写せるようになり、撮影できる被写体の幅が大きく広がりました」
二眼レンズを採用するにあたり、横並びと縦並びの2つの選択肢がある。
Luna Ultraが横並びを選択したからには、光学や空間認識、あるいは写真的な優位性があるのではないだろうか。
「実は設計段階で、横型と縦型という2つの異なる案を検討しました。最終的に横型を採用した理由は、第1に『収納時にスティック状になる』という点です。横型であれば突起が少なく、一体感のある形状を実現できます」
「第2に、収納時にレンズを内側に回転させることで、『レンズの保護性能を高められる』点です。どちらも持ち運びにおいては大きなメリットとなります」
JK氏によれば、光学や空間認識の面で大きな差はなく、それならば収納性や本体保護、携帯性といった利便性が確保できる方式が望ましいとの判断だったようだ。
Insta360の製品はギミックやデザインに凝っているが、デザインのために性能を犠牲にすることは決してない、と同氏は断言していた。
「ですが、性能が確保できるのであれば、可能な限りカメラを可愛らしく作りたいと考えています。現在、多くのユーザーが私たちのカメラを単なる「道具」としてではなく、身につける「アクセサリー」のように扱ってくれているからです」
「GO 3S レトロキットをご存じかと思いますが、多くの人がステッカーを貼って身につけており、とても可愛らしかったです。カメラをカスタマイズしてアクセサリーにする、それはとても大切なことです」
Luna Ultraも同様で、2つのレンズが人の顔のようで非常に可愛らしい。多くのユーザーがDIYで猫やウサギの耳を付けて着飾ってくれており、もはや単なる『道具』には見えません」
JK氏に見せていただいたLuna Ultraユーザーによるカスタムのイメージは、下の画像のような感じ。可動部があるので過度なカスタムには注意が必要だが、ユーザーは自己責任で楽しんでもらいたい。
3つのAIが2つのレンズの性能を引き出す
昨今のデジタルカメラにおいて、AI機能の搭載は当たり前になりつつある。
当然、Luna UltraにもAIが搭載されており、3つのAIが協調して画像処理を行う構成だ。
それぞれの役割は、メイン処理を担当するAIが1つと、残りの2つが各レンズを個別に担当する仕組みとなっている。
「3つのAIを採用した主な理由は、暗所での画質性能を向上させるためです。しかし、実は日中の撮影においても大きなメリットがあります」
「メインチップに加え、2つの補助チップが各レンズを担当することで、1倍から12倍の全ズーム域において、AIがノイズや画質をリアルタイムで補正し、表現力を強化します」
「もしAIが1つしかなければ、レンズを切り替えた瞬間に画面の明るさや色味が急激に変化してしまいます。これはメインカメラと望遠レンズを同時に制御できないことが原因です」
「それを防ぎ、撮影体験をシームレスにするために、複数のAIで同時処理を行う環境が必要だったのです」
JK氏は「予告」として、AI処理の強化により、12倍ズーム時の画質をさらに向上させると明かした。また、かつては4倍ズームになると画質が低下し満足のいく結果が得られなかったが、最新のAIによって4倍ズームでも4K相当の画質が維持できるようになったため、「単レンズ版も作れるかもしれない」と展望を語った。
カメラとAIの関係性はメーカーによって異なる。画質向上に留めるメーカーもあれば、表現や演出の領域にまで踏み込むメーカーもある。
一般的にミラーレスカメラ系は前者、スマートフォン系は後者の傾向が強い。Insta360はおおむね後者のタイプであり、AIチップの性能とソフトウェアの強化により、AIが生成処理まで行い、視覚的効果を強調する方向を目指しているようだ。
本来は編集作業で行うべき処理を、撮影直後にカメラ内で完結させるべく、AIチップメーカーへ投資を行うなど開発を続けている。
「撮影した後、カメラ側でAIを使って光や雰囲気を大幅に変更できるとしたら、ユーザーの体験がさらに充実すると思いませんか? 単に画質を改善するだけでなく、より印象的な仕上がりにするため、AIやソフトウェアに磨きをかけていきます」
ユーザーの熱量がInsta360のカメラを進化させていく
最近、様々なメーカーが提案する概念に「エコシステム」がある。
これは同社の製品で揃えることで使い勝手やサービスが向上するという提案であり、Insta360も当然、カメラやマイク、クラウド、SNSなどと連携したサービスを展開している。
中でも力を入れているのが「コミュニティの醸成」であり、社内外を問わず、優良なコンテンツは積極的に支援していく方針だ。
「私たちは(コミュニティ機能に関して)2つの柱を持っています。1つは私たちのアプリ内にあり、もう1つは現時点では日本で公開しておらず、中国国内向けとなります。そちらでは、ユーザー自身が多くの撮影手法やテンプレートを開発・公開しています」
中国国内のコミュニティについて伺うと、Insta360のツールを用いてユーザーがエフェクトやテンプレートを開発し、公開するSNSのようなものらしい。
優れたアイデアがあればInsta360が買い取ることもあり、それをカメラやアプリの機能として搭載することもあるという。興味深いコミュニティであり、日本での展開も期待したい。
「TikTokなども注視しています。多くのユーザーが投稿するコンテンツが(アルゴリズムを通じて)他のユーザーにレコメンドされるため、Insta360製品の主要なコミュニティとして機能していると感じています。TikTokからインスピレーションを受けて動画を作ったり、Luna Ultraに興味を抱いて購入に繋がる可能性もありますから。なにより、潜在的なユーザーにInsta360の情報を伝えることができます」
JK氏が語る、Insta360がクリエイターに対して掲げる目標は次の3点だ。
- 使いやすさ(撮影から編集まで)を追求する
- 他者の作品からインスピレーションを受けやすくする
- ユーザーが開発した優れたテンプレートやエフェクトを製品に取り入れ、創作のハードルを低くする
JK氏は頻繁に「ユーザー本位」「ユーザー体験」という言葉を用いるが、それがそのままInsta360の製品開発やサービスに対する思想につながっている。
またInsta360では、同社のカメラで撮影され、ソーシャルメディアに投稿された優れたコンテンツに対して、広告費を投じて拡散支援も行っているという。
JK氏曰く「クリエイターとの関係はあくまでも“力添え”であり、創造性をほかのユーザーに広める手助けを目指す」とのこと。
一般ユーザーに向けた製品であるため、仕事としてシビアに収益化を追求するスタイルではなく、エンターテイメントや創作コンテンツの拡散に重きを置いている。
JK氏(Insta360)が目指しているのは、撮影から編集までを自動で行える環境だ。これは氏が360°カメラの開発を始めた当初、「カメラを置くだけで誰でもプロのような映像が撮れる」と掲げた理念から一貫している。
カメラが被写体を捉え、シーンを理解して撮影し、制作者の意図を汲んで自動で編集するシステム。それを実現するために、AIチップ、ハードウェア、ソフトウェアへ多大な開発費と時間を投じている。
そして今回、「性能が保たれるならば、ユーザーが楽しめる(ユーザー体験が豊かになる)デザインにする」という考えも伺うことができた。
Insta360のカメラに個性的なモデルが多い背景には、JK氏の強い思いが込められているためなのだろう。
最後に、インタビューを通じて特に印象的だったJK氏の言葉を紹介し、この記事を締めくくりたい。
「いつか皆さんに、カメラの存在を忘れてほしいと願っています。カメラがプロのカメラマンのように、あなたが運動していたり、インタビューを受けているときに自動で撮影してくれる。Vlogを作る際も同様で、将来はカメラの存在を意識せず、カメラが自動的に撮影を行ってくれるような環境を目指しています」








