トピック

あこがれのカメラで自分の色を確かめながら——「岩倉しおり×ライカM EV1」

そのまま使える素直な色再現と、電子ビューファインダーの相乗効果

夕暮れの防波堤で静かに海を見つめると穏やかな瀬戸内海の島々と、澄んだ空が広がっていた。ライカM EV1は世界が動き始める時間、世界が静まっていく時間のグラデーションを表現するのにぴったりだ
ライカM EV1/ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH./50mm/マニュアル露出(F4.8、 1/90秒)/ ISO 4000/ WB:白熱灯

今年10月、新しいM型ライカの発表がカメラファンに衝撃を与えた。歴史ある二重像合致式のレンジファインダーではなく、約576万ドットの電子ビューファインダー(EVF)を搭載したからだ。これまでにない路線を打ち出した「ライカM EV1」の登場だった。

ライカM EV1。装着レンズはライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.

一方で「ライカ=レンジファインダー」という固定概念が比較的薄い若い世代の目に「ライカM EV1」はどう写るのか。

前回の大森克己さんへのインタビューに続き、今回は若手写真家の代表として、岩倉しおりさんに「ライカM EV1」を使った感想を聞いてみた。

岩倉しおり

香川県在住の写真家。地元、香川県で撮影した写真を中心に発表。CDジャケットや書籍のカバー、広告写真などを手掛ける。2025年10月には最新の写真集『crescent』(ミツバチワークス)を出版。

岩倉さんには以前、別の企画で「ライカM11」を使っていただいた。そのときはファインダーと背面モニターの両方を利用していたという。

今回、ファインダーがEVFになったことで、どのような心境の変化がもたらされたのだろうか。(聞き手:河田一規)

ライカは“あこがれ”のカメラ

——普段はフィルムカメラでの撮影がメインなのでしょうか。

もともとフィルムの一眼レフカメラを愛用しています。徐々にデジタルカメラも使い始め、現在は両方で撮影しています。フィルムは懇意にしているお店で現像・デジタル化してもらっていますが、そのとき自分の好みの色になるよう配慮してもらっています。デジタルではフィルムに近い色や光の感じになるよう、ホワイトバランスなどで調整することがあります。

朝日を受けて雲がやわらかくほどけていく。遠くからウミドリがやって来て、新しい1日が静かに息をし始めるような景色。まだ浅くてほのかな色づきの空に浮かび上がる立体感はライカMシステムならではの描写だ。薄明かりに照らされる被写体の描かれ方が好みだと思った
ライカM EV1/ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH./50mm/マニュアル露出(F4.8、 1/500秒)/ISO 64/WB:白熱灯

——M型ライカにどのようなイメージを持っていますか?

あこがれのカメラ、ですね。理由は圧倒的にデザインです。ゴツゴツしていなくてかわいらしくて……。レンズも一眼レフカメラより小ぶりでおしゃれですよね。

——そのレンズですが、今回は単焦点レンズ2本を使っていただきました。普段からズームレンズは使っていないのですか?

はい。単焦点レンズしか使っていません。ピント合わせもAF(オートフォーカス)ではなくMF(マニュアルフォーカス)です。1枚1枚をしっかり撮りたいですし、その操作も好きです。だからでしょうか、このカメラで不便に感じることはありませんでした。レンズのフォーカスリングも回しやすくて、操作しやすい印象です。それに私の普段の撮り方だと、最短撮影距離も気にかかりません。

ライカM EV1にライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.を装着。右はライカ ズミルックスM f1.4/28mm ASPH.

M型ライカとそのレンズは、女性が持つにはちょうど良い大きさだと感じます。今回、水面ぎりぎりに近づけて撮るようなシーンでも苦になりませんでした。

夕暮れの淡い空の下、波が描いた模様の間に小さな水たまりが残り、そこがきらきらと光を集めて輝いていた。逆光の中のMFというシビアな条件だったが、EVFの中に集中できた
ライカM EV1/ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH./50mm /マニュアル露出(F1.4、1/2,000秒)/ISO 64/WB:白熱灯

イメージをつかみやすいのはメリット

——70年くらい大きく方式を変えていなかったM型ライカのファインダーですが、岩倉さんにとってEVFでの撮影はいかがでしたか?

約576万ドットのEVFを搭載

色を重視して作品制作しているので、ファインダーの中の画像と実際の写真が同じなのは、シンプルに良いと感じました。ファインダーをのぞいたときも自然で、いつもの出したい色を確認できてイメージをつかみやすかったです。

波の音が静かに響く海辺。シルエットとして描いた人物は影絵のよう。淡い夕暮れの空を背景にして透明の傘に映る空のソフトなグラデーションは、ズミルックスレンズならでは
ライカM EV1/ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH. /50mm /マニュアル露出(F1.7、 1/90秒)/ ISO 1000/ WB:白熱灯
雨粒をまとった透明な傘の向こうで、夕暮れの空が静かに溶け合う。ピーキングを頼りに、傘の細い骨にピントを合わせる。開放F値によるボケのグラデーションが美しい。心までそっと和らぐ瞬間だった
ライカM EV1/ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH./50mm/マニュアル露出(F1.4、1/90秒)/ISO 3200/WB:白熱灯

——ファインダー内の映像を拡大できるようになりました。ピントリングを回すと自動で拡大する方式と、FNボタンを押して拡大する方式の2種類がありますが、どちらを使われましたか?

FNボタンを押す方ですね。私の場合、自分で拡大するタイミングを決める方が使いやすかったです。薄暗い朝やけ・夕暮れでの撮影だったので、白いピーキングも役立ちました。

——画質に関してはいかがですか?

細かいところまで写っていて、解像度が高い印象です。そこが他のカメラと違う点だと感じました。それに撮って出しがきれいで、ほとんどレタッチなしで仕上げられました。ホワイトバランスを操作しただけでいつもの画が出ていますね。デジタル写真の場合、色合いや光の雰囲気などをフィルムに合わせていますが、このカメラはそうした違和感がないように見えます。

——M型ライカは最新機能を誇るカメラというより、あえて機能を少なくしたようなシンプルなカメラです。お聞きしたところ、岩倉さんにはぴったりなのかもしれませんね。

はい、使っていてとても楽しかったです。

夕暮れの遠浅の海。穏やかな風の中、大きな水たまりに映る空のグラデーションを少しでも広く写し撮ろうと、ライカ ズミルックスM f1.4/28mm ASPH.を選択。Mレンズの描写を思い切り楽しめるのがライカM EV1の魅力の1つだと思う
ライカM EV1/ライカ ズミルックスM f1.4/28mm ASPH./28mm/マニュアル露出(F4.8、 1/60秒)/ ISO 64/ WB:白熱灯

主な仕様

  • イメージセンサー:35mmフルサイズ、裏面照射型(BSI)CMOSセンサー、9,528×6,328(6,030万画素)
  • プロセッサー:ライカ マエストロ シリーズ(Maestro III)
  • EVF:576万ドット、60fps、倍率0.76倍、視野率100%
  • 背面モニター:2.95型、233万2,800ドット
  • シャッター速度:フォーカルプレーン60分~1/4,000秒、電子60秒~1/16,000秒
  • 感度:ISO 64~ISO 50000
  • フラッシュ同調速度:1/180秒
  • バッテリー:ライカ BP-SCL7
  • 撮影可能枚数:約244枚(モニター使用時)、約237枚(EVF使用時)
  • 外形寸法:約139×80×38.5mm
  • 質量:約484g(バッテリーあり)、約402g(バッテリーなし)
デジカメ Watch編集部