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あの日のライカ Vol.2 岩倉しおり × ライカM11
2022年5月31日 10:30
美しい四季折々の情景をバックに、映画のワンシーンのようにノスタルジックな青春模様を表現している人気写真家の岩倉しおりさん。カメラやレンズは、自身の内にあるイメージを表現するための「道具」。
そんな岩倉さんがライカを手にしたとき、高価な嗜好品ではなく、ライカのあるべき姿である「写真機」として俄然輝きを放つ。岩倉さんが語る先入観や気負いのないインプレッションからは、ライカが脈々と受け継いできた魅力が浮き彫りになった。
岩倉しおり
香川県出身、在住。CDジャケット、書籍の装丁写真、広告写真などを手掛ける。質感や1枚1枚大切に撮れることにひかれ、フィルム撮影にもこだわっている。近著に『さよならは青色』(KADOKAWA)
————ライカについて、これまでの印象は?
いいな、と思った写真が、調べたらライカで撮られていることがわかって、ああライカか、やっぱりいいなあ、と思うことはありました。デザインも素敵ですし、オシャレに持ちたいと思っていました。
——やはり撮影のメインはフィルムカメラでしょうか。
「CONTAX Aria」と「Carl Zeiss Planar T* 50mm F1.4」「Carl Zeiss Distagon T* 28mm F2.8」をメインに使っています。フィルムは富士フイルムの「業務用100」を愛用していましたが、廃版になってしまったのでいろいろとトライし、いまはコダックの「Color Plus 200」で落ち着いています。フィルムは値上がりを続けていて厳しい状況にありますから、これからはデジタルももっと練習していかないとと思っています。
——なぜフィルムがメインなのでしょう。
高校時代は写真部で活動していて、その頃からフィルムで撮っています。とにかくこどもの頃から表現者になりたいと思っていて、自分の中にあるイメージを外に出すことができるなら、それは絵でもよくて、でも表現することだけは大切にしたいという思いが根底にありました。事実、絵もずっと描いてきたんですが、高校時代に写真と出会い、表現する手法としてわたしに合っているのはフィルム写真だなって。
——デジタルカメラを使う場合、フィルム写真に近づけるというアプローチでしょうか。
そうです。ただ、いまだに近づけてないと思っています。日中の写真はデジタルだと強く出てしまいますし、逆光の写真も、やはりフィルムとは違う光の捉え方をするなと感じています。レタッチに関しては、フィルムは現像・データ化をしたらいじることは稀ですが、デジタルの場合はそうはいきません。撮影もレタッチもどちらも試行錯誤している状態ですね。
——ライカM11を使ってみて、フィルム写真とデジタル写真の距離感は縮まった印象はありますか?
「タンバールM f2.2/90mm」というレンズで撮影をした写真をパソコンに取り込んで見たとき、もっとライカで練習をしていけばフィルムに近づけるな、と感じました。光がふわっと写真の中に入り、フィルムで撮ったときの光の捉え方に似ていると思ったんです。デジタルではブラックミストフィルターを使い、わざと彩度を落としたり、映画のような風合いの描写にするようにしています。タンバールは少し変わった仕組みのソフトフォーカスレンズだと伺いましたが、デジタルでこんな描写をすることにとても驚きました。
——タンバールはシングルコートのため、ゴーストにコーティングカラーがのってこないというのも良いのかもしれませんね。レンズ中心部に光を通さないセンタースポットフィルターを装着することでソフト効果を生んでいるという特徴的な仕組みのレンズです。
最初はハイライトや輪郭が滲んで見えるので、失敗なのかと思って提出するのを躊躇ったんです。それはソフト効果だったんですね。キラキラと光輝くような描写をするのでとても気に入っています。
——他に見せていただいた写真は「アポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH.」で撮られたものが多かったです。
画角が馴染んでいるので、ほとんど50mmで撮っていたと思います。撮りながら桜の色がともてキレイに出るなと感じました。再現度がとても高いですよね。いまはレタッチ前の状態をお見せしていますが、元の色にクセがあるわけではないのでレタッチしやすい気がします。
——レタッチでどのような調整をするのが岩倉さんの定石でしょうか。
フィルム調にするという軸はあるものの、写真ごとに変えています。彩度を下げることもあれば、「かすみの除去」をいじることもあれば、シャドウ部に青みをのせたりとか。粒子も追加します。決まったレタッチ方法を確立しているわけではないですが、フィルムもデジタルも気にならないように統一感を出すことを心掛けていますね。
——ライカM11とアポ・ズミクロン50mmの組み合わせの使用感はいかがでしたか。
見た瞬間に、いいなあと思いました。デザインがカッコイイなって。そして手に持ってみると、大きさも重さも女性にありがたいなって。小さい割にはズシリときますが、片手でもシャッターを切ることができるんです。
デジタルカメラの場合、大きくてゴツゴツとしていて、持っていると少し威圧感があるものばかりですが、ライカにはそれが全く感じられませんでした。また、フィルムのライカから続くデザインでありながら使い勝手は現代的で、背面液晶モニターのタッチした部分が拡大表示されてピント合わせができたりします。思った以上に気軽にパシャパシャ撮れるなという印象でした。
——たしかにライブビュー撮影が行えるのはライカM11の良い点ですよね。フィルムのM型ライカへの興味も沸いたのでは?
ぜひ使ってみたいです! それこそ憧れですよね。
——これからもライカを使っていきたいですか?
パソコンに取り込んだデータをモニターで見たときに、撮影時には感じなかった細やかな描写に驚いたんです。もっと使いたいなと素直に思いましたし、もっといろいろなことができるんじゃないかと想像を巡らせました。
わたしはカメラとレンズに、光の美しい捉え方と立体感のある描写を求めていて、このカメラではこう撮ろう、じゃなくて、自分の作風の中に取り込める道具かどうかを基準にしてカメラ選びをしてきました。ライカはそういう側面からも、ぜひ使っていきたいです。ライカを使ってみて、多くの人が憧れ、使いたくなる気持ちがわかった気がします。
制作協力:ライカカメラジャパン株式会社