トピック

ファインダーをのぞいてドキドキする感覚は変わらない——大森克己×ライカM EV1インタビュー

晴れた日のグリーンの自然な発色はライカMレンズならではであり、大好きだ。被写界深度を浅くしてEVF越しに世界を見るという行為は、毎日見慣れている景色が実は驚きに満ちているということを教えてくれる
ライカM EV1/ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH./50mm/絞り優先AE(F2、1/6,400秒、±0EV)/ISO 160/WB:オート

M型ライカのトレードマークでもある二重像合致式の光学ファインダーではなく、電子ビューファインダー(EVF)を採用した「ライカM EV1」。発表時、大きな話題を呼んだのは記憶に新しい。

ライカMユーザーの写真家・大森克己さんに「ライカM EV1」を使っていただき、インプレッションを聞いてみたのがこのインタビューになる。聞き手は、同じくライカを愛する写真家、河田一規さんだ。

大森克己

第9回「キヤノン写真新世紀」優秀賞受賞。主にライカを使用して作られた写真集に『サナヨラ』(愛育社)、『すべては初めて起こる』(マッチアンドカンパニー)など。エッセイ集に『山の音』(プレジデント社)がある

ライカM EV1

“オフタイムを撮るカメラ”として

——いつから、どのようなきっかけでライカを使い始めたのでしょうか。

2000年代の初め頃に使い始めました。それまで気にはなっていたのですが、きっかけはある雑誌の連載で、休日中の文化人・芸能人を撮るという仕事をいただいたときです。仕事中ではなく、静かにリラックスした状況を撮るということで、そのとき「これはライカで撮るのが良いのでは?」と思い立ち、ライカM3を購入しました。

——その後もライカをお使い続けたのですか?

ポートレート、CDジャケットなどでも本格的に使い出しました。F1.4の絞り開放でもピントは合うし、使いやすかったですね。2011年まではほとんどライカで撮っていました。すべてライカで撮った写真集も出しています。

何の変哲もない空や雲を撮ってみたくなるのもライカならでは。ライカで写真を撮ることによって、日々の暮らしのかけがえのなさを改めて確かめられる
ライカM EV1/ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH./50mm/絞り優先AE(F1.8、1/2,000秒、±0EV)/ISO 160/WB:オート

——最初に導入されたライカレンズは?

ズマリット 50mm F1.5です。ただ、あまりにも味が濃いので(笑)、その後ズミクロンM 35mm F2、ズミルックスM 50mm F1.4と揃えました。一眼レフカメラにビゾ用のエルマーをつけて撮ったりもしていました。

——デジタルのライカMは使われていますか?

一眼レフはデジタルですが、ライカで撮るときはフィルムですね。デジタルのライカを使ったことはありますが、フィルムほど使い込んで撮影したわけではありません。

深い問いを投げかける「ライカM EV1」

——初めてデジタルのライカMを使われたということですが、いかがでしたか?

このサイズのカメラで6,000万画素というところに魅力を覚えました。これにライカレンズの画質が加わるわけです。こんなカメラは他にないでしょう。ライカM EV1でも、解像とボケのつながりなど、ライカらしさはしっかり感じました。絞ったときも開けたときも立体感がありますね。やっぱりライカはライカ。ライカでないと出ないものがあると、改めて感じました。

——画素数を切り換える機能がありますが、使われましたか?

今回は使いませんでしたが、日常的に使うならサイズを下げられるのは良い機能だと思います。

集合住宅の自宅玄関を出た廊下から撮影。今回掲載した写真はすべて近所で撮ったものだが、インティメートな(親近感のある)表現に、小型なライカM EV1は適している
ライカM EV1/ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH./50mm/絞り優先AE(F3.4、1/250秒、±0EV)/ISO 800/WB:オート

——そしてファインダーが二重像合致式ではありません。ライカ自身、レンジファインダーの重要性は誰よりも知っているわけですし、それを思うとチャレンジングですよね。

ファインダーについては衝撃的でしたし、最初は戸惑いました。同じM型なのに、「ライカM EV1」はそこから変えてきています。そう考えると、ライカは本当にチャレンジャーですよね。すごく挑戦的なカメラです。でも使っているうちに、「これはこれでアリなのでは」という気持ちになりました。ファインダーをのぞいてドキドキする感じはやっぱりあります。

EVF機で撮影する醍醐味の1つに、絞りを開けて撮るポートレートがある。かなり暗くなってきた夕暮れ時、フォーカスを合わせる際にはフォーカスピーキングの赤色が助けになった
ライカM EV1/ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH./50mm/絞り優先AE(F1.7、1/320秒、-1.7EV)/ISO 800/WB:オート

——一眼レフも使われる大森さんにとって、レンジファインダーはどんな存在なのでしょうか。

「ピント合わせは抽象的なことである」と教えてくれるのが、二重像合致式のファインダーだと考えています。一眼レフの直接的なピント合わせの感覚とは違い、ある種の冷静さがあるのがレンジファインダー。それに慣れてくると、自分の眼で見て良いと思うものが、写真で撮れるものと同じではないことがわかってきます。それがレンジファインダーの良さだと思うのです。一眼レフだとファインダーを見て撮る意識が強いのですが、レンジファインダーだとまず現実世界を見てからカメラを向け、そのとき一瞬だけファインダーを確認して撮る感覚です。

公民館の小さな花壇。細やかではかないものを映像化できるのがライカMシステムの魅力だと思う。EVFをのぞきながらピントを合わせるポイントを探すこと自体が小さな旅のようだ
ライカM EV1/ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH./50mm/絞り優先AE(F2、1/16,000秒、±0EV)/ISO 3200/WB:オート
近所に住む友人アーティストのアトリエから見た景色。35mmを少し絞って遠くにフォーカスを合わせた際の、手前の自然なボケはまさに「普遍性の極み」というべきものだ
ライカM EV1/ライカ ズミクロンM f2/35mm ASPH./35mm/絞り優先AE(F3.4、1/2,000秒、±0EV)/ISO 800/WB:オート

——その大森さんの撮影スタイルを考えると、「ライカM EV1」のEVFで、撮り方は大きく変らないのかもしれません。

特に楽しかったのは、料理など被写体が近距離のときです。独特な興奮がありますね。結局どんなカメラでも練習して歩み寄ることが大切で、そこをどうするか考えるのも楽しいところでした。

そもそもオートフォーカスで撮れなかったり、使いやすい・使いにくいという次元の話では語れないのがライカMでしょう。このカメラと電子ビューファインダーは、ライカからの実に深い問いかけだと思います。

感度をISO 16000まで上げて、大判カメラを愛用した写真家、エドワード・ウェストンをほんの少しだけ思い出しながらキッチンでピーマンを撮る。粒子は目立ってくるが、そのありさまはとても自然だ
ライカM EV1/ライカ ズミルックスMf1.4/50mm ASPH./50mm/絞り優先AE(F2、1/3,000秒、±0EV)/ISO 16000/WB:オート
朝食の目玉焼きを食べている途中に撮影した。EVFをのぞいているとその構造からか、さまざまな近接撮影にトライしたくなる。料理や花、水の表面のような被写体に対しての表現の可能性が広がると感じた
ライカM EV1/ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH./50mm/絞り優先AE(F5.6、1/200秒、±0EV)/ISO 1600/WB:オート
デジカメ Watch編集部