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ファインダーをのぞいてドキドキする感覚は変わらない——大森克己×ライカM EV1インタビュー
2025年11月27日 07:00
M型ライカのトレードマークでもある二重像合致式の光学ファインダーではなく、電子ビューファインダー(EVF)を採用した「ライカM EV1」。発表時、大きな話題を呼んだのは記憶に新しい。
ライカMユーザーの写真家・大森克己さんに「ライカM EV1」を使っていただき、インプレッションを聞いてみたのがこのインタビューになる。聞き手は、同じくライカを愛する写真家、河田一規さんだ。
第9回「キヤノン写真新世紀」優秀賞受賞。主にライカを使用して作られた写真集に『サナヨラ』(愛育社)、『すべては初めて起こる』(マッチアンドカンパニー)など。エッセイ集に『山の音』(プレジデント社)がある
“オフタイムを撮るカメラ”として
——いつから、どのようなきっかけでライカを使い始めたのでしょうか。
2000年代の初め頃に使い始めました。それまで気にはなっていたのですが、きっかけはある雑誌の連載で、休日中の文化人・芸能人を撮るという仕事をいただいたときです。仕事中ではなく、静かにリラックスした状況を撮るということで、そのとき「これはライカで撮るのが良いのでは?」と思い立ち、ライカM3を購入しました。
——その後もライカをお使い続けたのですか?
ポートレート、CDジャケットなどでも本格的に使い出しました。F1.4の絞り開放でもピントは合うし、使いやすかったですね。2011年まではほとんどライカで撮っていました。すべてライカで撮った写真集も出しています。
——最初に導入されたライカレンズは?
ズマリット 50mm F1.5です。ただ、あまりにも味が濃いので(笑)、その後ズミクロンM 35mm F2、ズミルックスM 50mm F1.4と揃えました。一眼レフカメラにビゾ用のエルマーをつけて撮ったりもしていました。
——デジタルのライカMは使われていますか?
一眼レフはデジタルですが、ライカで撮るときはフィルムですね。デジタルのライカを使ったことはありますが、フィルムほど使い込んで撮影したわけではありません。
深い問いを投げかける「ライカM EV1」
——初めてデジタルのライカMを使われたということですが、いかがでしたか?
このサイズのカメラで6,000万画素というところに魅力を覚えました。これにライカレンズの画質が加わるわけです。こんなカメラは他にないでしょう。ライカM EV1でも、解像とボケのつながりなど、ライカらしさはしっかり感じました。絞ったときも開けたときも立体感がありますね。やっぱりライカはライカ。ライカでないと出ないものがあると、改めて感じました。
——画素数を切り換える機能がありますが、使われましたか?
今回は使いませんでしたが、日常的に使うならサイズを下げられるのは良い機能だと思います。
——そしてファインダーが二重像合致式ではありません。ライカ自身、レンジファインダーの重要性は誰よりも知っているわけですし、それを思うとチャレンジングですよね。
ファインダーについては衝撃的でしたし、最初は戸惑いました。同じM型なのに、「ライカM EV1」はそこから変えてきています。そう考えると、ライカは本当にチャレンジャーですよね。すごく挑戦的なカメラです。でも使っているうちに、「これはこれでアリなのでは」という気持ちになりました。ファインダーをのぞいてドキドキする感じはやっぱりあります。
——一眼レフも使われる大森さんにとって、レンジファインダーはどんな存在なのでしょうか。
「ピント合わせは抽象的なことである」と教えてくれるのが、二重像合致式のファインダーだと考えています。一眼レフの直接的なピント合わせの感覚とは違い、ある種の冷静さがあるのがレンジファインダー。それに慣れてくると、自分の眼で見て良いと思うものが、写真で撮れるものと同じではないことがわかってきます。それがレンジファインダーの良さだと思うのです。一眼レフだとファインダーを見て撮る意識が強いのですが、レンジファインダーだとまず現実世界を見てからカメラを向け、そのとき一瞬だけファインダーを確認して撮る感覚です。
——その大森さんの撮影スタイルを考えると、「ライカM EV1」のEVFで、撮り方は大きく変らないのかもしれません。
特に楽しかったのは、料理など被写体が近距離のときです。独特な興奮がありますね。結局どんなカメラでも練習して歩み寄ることが大切で、そこをどうするか考えるのも楽しいところでした。
そもそもオートフォーカスで撮れなかったり、使いやすい・使いにくいという次元の話では語れないのがライカMでしょう。このカメラと電子ビューファインダーは、ライカからの実に深い問いかけだと思います。












