トピック

いまこそ問いたい「F2.8ズームレンズ」の価値と意義

「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II」に見る、大口径標準ズームの新たな可能性

今年9月26日に発売されたNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II

いわゆる「大三元ズームレンズ」といえば、高価だが多くの写真愛好家が「いつかは」と願う憧れの存在だ。プロの仕事から趣味の作品撮りまで、なぜ選ばれ続けるのか?

それは、ズームレンズながら「開放F2.8」の明るさがもたらす表現力と、各メーカーがしのぎを削る妥協のない光学性能の両立があるからだ。

そこに今年、ニコンが新世代となる標準ズームレンズ「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II」を投入した。

この1本がF2.8ズームレンズの価値をどう変えるのか? 今回はポートレート写真で活躍している写真家の河野英喜さんに、新しい標準ズームレンズ「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II」で撮り下ろしの撮影をお願いした。その印象を中心に、ニコンZシリーズにおけるF2.8ズームレンズの魅力を語ってもらった。

NIKKOR Zにおける最新のF2.8ズームレンズ。左上から時計回りにNIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S、NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II、NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S

写真家とF2.8ズームレンズ

AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8 G ED

——河野さんにとってのF2.8ズームレンズへの思い入れとは?

「高嶺の花」というイメージが強かったですね。機材をニコンで揃えて最初に購入したF2.8ズームレンズは「AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8 G ED」です。それまで使っていたレンズとは大きく異なるクリアなレンズで、写りも好きだったんです。僕の中でズームレンズそのものの印象が変わったレンズでした。

当時、50mmと85mmの単焦点レンズをメインに使っていて、この24-70mmは「お守り」として使っていました。過酷な状況でも安心して撮れるし、やはり憧れどおりのよい写りをしてくれました。

——ポートレート撮影というと開放F1.4の単焦点レンズも人気ですが、開放F2.8のズームレンズの必要性はどこにあるのでしょうか。

撮影の現場によっては自分の動きたいように動ける場所もあれば、そうでない現場も当然あります。そんなときに自分の理想とするフレーミングを作るうえでは、やはりズームレンズは欠かせない存在になるわけです。

そのうえで、より明るく単焦点レンズに近いズームレンズという意味で、開放F2.8のズームレンズはプロにとっては外せないレンズだと思っています。現場では時間の制約も多く、レンズ交換の暇もないケースもあり、それもズームレンズを用意する理由になっています。

さらにいまのF2.8ズームレンズは、ボケの最大量を除くと単焦点レンズと遜色ないような写りだと思うんですね。利便性がありながら明るいF値を使いたい、という撮影がF2.8ズームレンズならできるわけですね。

——F値が一定であることは重要なのでしょうか。

通常の自然光だけで撮る場合はファインダーで露出も確認できるので大丈夫ですが、スタジオ撮影で大型ストロボを使うことが多い僕にとっては、開放F値が変わると確認や光量の設定が複雑になります。すると、可変F値のズームはちょっと使いづらいのです。ストロボを使わなかったとしても絞りを開けて明るめに撮ることが多く、露出の計算もしやすくて写りのイメージがつかみやすい、F値固定のズームレンズを選んでしまいます。

ニコン Z9/NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II/46mm/マニュアル露出(1/800秒、F2.8)/ISO 160

——F値が一定というなら、F2.8ではなくF4固定のズームレンズもありますよね。

ボケと感度設定の自由度でしょうか。特に感度が1段下げられるのが大きいですね。光量の厳しい室内などでは、この1段が結構効きます。

——河野さんにとって、ニコン純正のレンズであることの魅力は何でしょう?

仕事で使うレンズは全部ニコンで揃えるようにしています。発色が同じ傾向なのは大切なポイントでしょう。特に屋外での逆光時に、色の出方がブランドによって違ってくるのです。

それから僕の写真に向いている点として、すごく繊細なシャープさを持っている点も挙げられます。シャープに写りつつ、硬くないというかちゃんと質感が感じられる描写も良いですね。

それに逆光でもフレアが出にくくしっかり写る。だから商業撮影全般で信頼できるレンズだと考えています。

新標準ズームレンズ「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II」インプレッション

——ここからは9月発売の新しい開放F2.8の標準ズームレンズ「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II」についてうかがいましょう。今回の撮影でこのレンズを使ってみての印象は?

軽い! につきます。僕は手持ちでの撮影が多いので、軽くて疲れにくいのはありがたいですね。

それからズーミングの抵抗が均一で気持ちが良い。抵抗にムラのあるレンズもありますが、滑らかなのが印象的でした。フォーカスリングの幅が広くなり、これも使いやすく感じた一因です。

さらにコントロールリングにクリックを設定できるようになったんですね。僕の場合、現場にもよりますが露出補正を割り当てることがあるので、クリックが備わったことで使い勝手が向上しました。

NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II

——ズーミングで長さが変わらない、インターナルズームについてはどうでしょうか。

いままではズームで伸ばしたその隙間から水が入りそうで、タオルを巻いたりと気にしていたんですね。新レンズからは雨や霧の中での撮影で、そうした心配をしなくてすむようになります。

もちろんズームで重量バランスが変わらないのもメリットです。常に同じバランス感覚で持ち続けられるからです。撮影に集中できるレンズといえるでしょう。

——F2.8ズームレンズの魅力の1つ、ボケの質についてはいかがですか?

ニコン Z9/NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II/70mm/マニュアル露出(1/400秒、F2.8)/ISO 800

この作品では奥行きのある背景を選び、望遠端の70mmで撮影しました。このレンズはつながり良くボケていって、本当に美しいと思いましたね。自然でクセがないという……。絞りは開放といえども、合焦部分のシャープさはちゃんと保たれています。だから焦点距離とモデルとの距離感で、好きな絞りを自由に使えるんです。

ボケが良いから奥行を意識した作画をすると、このレンズの良さがより発揮できると思います。背景と主題を分離できるからモデルが引き立つ写真が撮れるということです。

——肌の質感表現も特徴的に感じます。旧型(NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S)と比べて、描写傾向は変わっていますか?

旧型のほうが少し柔らかいと感じます。それはそれで良いのですが、その点、新型はそこがスッキリした。何というか、より現実に近く写る印象です。それでいてシャープなだけでなく肌にもちもち感がある。絶妙なあんばいに感じます。

——標準ズームレンズということで、広角表現も得意かと思います。

この作品は35mmで撮ったものですね。モデルに寄ったとき、どんなふうに歪むかを確認しました。

ニコン Z9/NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II/35mm/マニュアル露出(1/200秒、F2.8)/ISO 1600

モデルの顔に不自然さが生まれるか生まれないかの境界ですが、それほど違和感は無い。とにかく変な歪み方をしないのですね。画面中心から外れている手も、広角の画角がもつ自然な伸び方になっています。

さらに広角側、24mmの画角を生かした例です。

ニコン Z9/NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II/24mm/マニュアル露出(1/500秒、F2.8)/ISO 100

広角側にすることで躍動感や動きを感じられる絵作りができ、瞬時に画角が変えられるズームレンズだからこそ、色々なアプローチに挑める。自分の位置とのコントロールでスピーディーにバリエーションを稼げるわけです。これにF値一定の自由度も加わり、撮影の幅が広がるのがF2.8ズームレンズの良さといえますね。

——これはかなり暗そうなシーンです。

ニコン Z9/NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II/55mm/マニュアル露出(1/80秒、F2.8)/ISO 2000

千葉県・富津公園にある戦時中につくられた射入窖(しゃにゅうこう)での撮影です。かなり暗い中での撮影なのですが、開放F2.8が生きた場面でもあります。違和感のない自然なボケが良いですね。髪の毛をよく見ると、非常に線が細い描写になっています。シャドウの描き方も素晴らしいですね。

——続いては夕景でシルエット気味の作品です。

ニコン Z9/NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S II/48mm/マニュアル露出(1/500秒、F9.0)/ISO 160

夕方に見えますがそれほど時間は遅くなくて、イメージとしてこのように仕上げてみました。F9にして奥の陸地までしっかり見せているのがポイントです。単焦点レンズならボカすのも良いですが、ズームレンズなので、むしろ絞り込んた表現をして見ました。こうした画面の前後をしっかり見せるのもありですね。

そしてこういう逆光でも画面がいつもクリーン。気持ちの良い写真になるというレンズ、それはイコール抜けの良さなんだろうなと思います。

——AFも高速化しているそうですね。

今回はすべて瞳認識で撮影していますが、どんなに人物が小さくてもピントを外しているカットはほとんどありませんでした。僕は普段AF-Sで撮影しているのですが、AFの高速化は実感していて、これならAF-Cの連写で動く人物を狙う撮り方もできると思います。撮り方の可能性も広がりますね。カメラを構えていないときにモデルが良い表情をすることがありますが、そんな場合もすぐにピントが合ってシャッターが切れるというのもありがたいです。

まとめ

——このレンズを使う上でアドバイスがあればお願いします。

ズームレンズといえども、28mmや35mm、50mm、70mmといった単焦点レンズと同じ焦点距離を意識して撮影したほうがうまくいくことを伝えたいですね。僕の場合、撮影スタートの時点で例えば35mmや50mmに決めて、その位置にズームしてから撮るようにしています。

その上で、そこから微調整できるのがズームレンズの強み。足場の悪い場所などでも、自分の好みのフレーミングができるところがズームレンズの大きな利点ですね。

——新しい標準ズームレンズを手にされたことで、改めて新しい使い方も考えられそうでしょうか

そうですね。これまでにない、より躍動感のある撮影が期待できると思いました。やはりピントを合わせる時間が速くなったというのは、スポーツほどではないにしろ人物撮影には重要です。

止まっているようでも人物は意外と動いていますし、ジャンプしてもらうとか、前後に動いてもらうことで、躍動感のある作品が作れます。描写性能だけでなく、動きを捉えるという点でもこのレンズは適している気がしています。

——ニコンのF2.8ズームレンズが新世代に突入したわけですが、これからの時代、F2.8ズームレンズに求められることとは何でしょうか?

軽く、小さく、画質を良くということですね。今回のレンズがそうした流れの足がかりになると想像しています。性能を維持したままでの軽量化はありがたいところで、広角ズームレンズや望遠ズームレンズでも実現できるとうれしいですね。

モデル:窪田蘭
製品撮影:曽根原昇

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。