トピック

ZEISS SFLシリーズではじめる双眼鏡のすすめ

中野耕志さんが解説する双眼鏡を使うメリットと選び方

カメラやレンズなどの撮影機材を重要視しがちだが、双眼鏡もまた、野鳥撮影で重要な役割を担っている。双眼鏡を使い、撮影対象をしっかり観察することで、適切に被写体へアプローチすることで、撮影結果も向上する。野鳥写真家として活躍する中野耕志さんに、双眼鏡の選び方と、高性能とコンパクトさを兼ね備えた最新双眼鏡ZEISS SFLシリーズの魅力を解説してもらった。

※本企画は『デジタルカメラマガジン2025年9月号』より転載・加筆したものです。

なぜ双眼鏡があると野鳥撮影に有利なのか

野鳥撮影ではいかに早く野鳥を発見し識別できるかが撮影成果を左右するため、双眼鏡は必需品だ。野鳥をよく観察することで動きを先読みできたり、警戒心を与えない距離感をつかんで自然な表情を撮影できるため、作品の完成度も上がる。何より透明感と立体感にあふれる高級双眼鏡の見え味は、野鳥との出合いの感動を大きくしてくれる。

素早く野鳥を発見・識別できる
野鳥撮影はまず野鳥を発見して識別することから。双眼鏡を使えば肉眼の何倍もの素早さで鳥を発見でき、事前に撮影の準備ができる。また不用意に野鳥に近づいて、逃げられてしまうことも少なくなる
観察して野鳥の動きを先読みする
野鳥に限らず、野生生物の撮影は撮影技術よりも観察力が重要だ。観察を通じて種ごとの基本生態や個体ごとの性格の違いを知れることはもちろん、動きを先読みできるようになることで、撮影がしやすくなる

双眼鏡選びのPOINT

双眼鏡を導入するにあたり、いくつか確認しておきたい項目がある。ここでは特に野鳥撮影用途で用いる際に、チェックすべき部分を解説する。

倍率

双眼鏡は6~20倍程度までさまざまな倍率の製品が発売されているが、8倍と10倍が主流。野鳥観察用としても視野が広く対象を導入しやすい8倍と、より大きく見える10倍が人気だ。倍率が上がるにつれて視野への導入が難しくなり、同口径モデルでは視野が暗くなる(詳細は後述)。

8倍
高倍率モデルに比べて視野が広く明るいので、野鳥を導入しやすいのが特徴。そのため初心者でも扱いやすく、初めての1台におすすめだ
10倍
適度な倍率と重量で、双眼鏡としてバランスが良い。筆者は対物レンズ径が異なる10×42、10×32、10×25の10倍双眼鏡を使い分けている
12倍
双眼鏡で野鳥を少しでも大きく見たい場合に最適。泥濘地や船上など、三脚を立てられず地上望遠鏡を使えない場所で威力を発揮する

対物レンズ径

一般に対物レンズ径が大きいほど明るく、小さいほど暗くなる。もちろん明るい方が良く見えるのだが、そのぶん大きく重くなるのはカメラレンズと同じだ。30mm径と40mm径が主流で、50mmとなるとかなり明るい部類だ。

前方のレンズの直径を差す

フォーカス操作部

野鳥観察時の野鳥との距離感は、10mであったり50mであったりと環境やタイミングにより大きな幅がある。特に森林での探鳥では野鳥が突然至近距離に現れることもあり、フォーカスダイヤルの操作性の良さが極めて重要となる。

サイズと質量

倍率は8~10倍、対物レンズ径は30~40mmクラスが扱いやすい。一般に倍率が上がるほど鏡筒は長くなり、口径が大きいモデルほど明るく見やすいぶん大きく重くなる。撮影機材と併用できる最大の双眼鏡を選ぶと良い。

防水性能

フィールドでは雨にさらされることも多く、海岸や船からの観察では波しぶきもかかる。光学系にひとたび水が入ると曇りやカビの原因になるため、多くの高級双眼鏡では窒素ガス充填により完全防水仕様になっている。

倍率とレンズ径で射出瞳径=明るさが決まる

双眼鏡を少し離したときに見える明るい円を射出瞳径と言い、この直径が大きいほど明るく見える。射出瞳径は倍率と口径から算出でき、8倍×30mmの双眼鏡では30÷8=3.75mm、10倍×40mmの双眼鏡では40÷10=4mmとなり、数値の大きい後者の方が明るく見える。

(例)
8倍×30mm→30÷8=3.75mm
10倍×40mm→40÷10=4mm
数値が大きいほど明るい

野鳥撮影で使いたいZEISS SFL

双眼鏡の名門ZEISSの最新モデルであるSFLシリーズ。最上位機種Victory SFシリーズの高級感と見え味をそのままに、軽量コンパクト化を実現した。50mm口径の明るさを42mmクラスのボディに、40mm口径の明るさを32mmクラスのボディにコンパクト化したことで、同サイズでワンランク上の口径を選べるのが魅力。UHD(Ultra-High Definition)コンセプトの光学系は、高い光透過率による明るい視界と優れた色再現性を誇る。

ZEISS SFL 10×50

POINT 1|スムーズに扱えるSmartFocus機構

シリーズ名にもなっているSmartFocusコンセプトは、人間工学に基づく操作性を追求。双眼鏡を保持したときに指が自然に触れる位置に大きなフォーカスホイールを装備し、滑らかで正確なフォーカスが可能だ

POINT 2|ZEISSの技術を生かした光学設計

UHD(Ultra-High Definition)コンセプトの高性能光学系は、高い光透過率による明るさと高い解像力、そして優れた色再現性を実現。30mmと40mmモデルは1.5m、50mmモデルは1.8mという驚異的な最短合焦距離も魅力

POINT 3|カメラと併用しやすい軽量・コンパクトな設計

レンズ素材を薄くして軽量化、レンズ間の距離を最小化、シュミット・ペッヒャー・プリズムによる光学系の合理化など、光学設計の見直しで軽量化を実現。超望遠レンズなどで重くなりがちな撮影機材と併用しやすくなっている

SFLシリーズのラインアップ

2022年に8×40と10×40、2023年に8×30、10×30が発売され、今夏8×50、10×50、12×50が加わった。「50mm口径の明るさを42mmクラスのボディで」のうたい文句は大げさではない。上位機種Victory SF 10×42の全長が173mmあるのに対しSFL 10×50は160mmと13mmも短く、SFL 10×40では144mmと29mmも短い。

30mm口径モデル

モデル8×3010×30
倍率8倍10倍
射出瞳径3.75mm3.00mm
最短合焦距離1.5m
長さ120mm
幅(PD65mm時)107mm
質量460g
希望小売価格(税込)237,600円247,500円

軽くて扱いやすく入門に最適な「8×30」

8倍で野鳥を導入しやすく、30mm口径で十分な明るさを持つ8×30は、初心者はもちろんベテランにも人気がある扱いやすい双眼鏡だ。一般的な8×30は600g近い質量があるが、SFL 8×30は460gと驚異的な軽さ。それでいて見え味に妥協はない(写真上と右はSFL 10×30)。

40mm口径モデル

モデル8×4010×40
倍率8倍10倍
射出瞳径5.0mm4.0mm
最短合焦距離1.5m
長さ144mm
幅(PD65mm時)114mm
質量640g
希望小売価格(税込)280,500円291,500円

倍率と明るさのバランスが良い「10×40」

撮影機材と併用するなら軽量な口径30mmクラスが定番だが、SFLならワンランク上の40mm径でも640gと一般的な30mm径クラスと大差ない。それでいて30mm径よりはるかに明るいのでよりきめ細かな野鳥観察が可能。倍率と明るさのバランスが最適だ。

50mm口径モデル

モデル8×5010×5012×50
倍率8倍10倍12倍
射出瞳径6.25mm5.0mm4.2mm
最短合焦距離1.8m
長さ160mm
幅(PD65mm時)133mm
質量855g872g
希望小売価格(税込)319,000円324,500円330,000円

距離のある野鳥を観察するなら「12×50」

干潟や海上など、鳥との距離があるときは倍率が高い方が有利だ。倍率が大きくなるとそのぶん手ブレしやすくなるものだが、SFL 12×50はほかの50mmモデルと同じく長さは160mmに抑えられているので、重量バランスが良好で像の安定度が高い。

中野耕志