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想像を上回る ソニー「FE 400-800mm F6.3-8 G OSS」の“野鳥撮影力”

望遠端800mmの超望遠ズームレンズ 写真家・山田芳文さんにその実力を聞く

ソニーから35mmフルサイズ対応のEマウントレンズ「FE 400-800mm F6.3-8 G OSS」が発表されました。望遠端800mmを実現した超望遠ズームレンズとあって、注目している読者も多いのではないでしょうか。特に野鳥を撮影をする者にとり、これはゾクゾクするくらいに意欲的な、気になるレンズといえるでしょう。

ソニーの超望遠ズームとしては、すでに2019年7月発売の「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」がありましたが、それよりもさらに望遠端の焦点距離が伸び、αレンズとしては初の800mmを実現した意欲作となっています。

今回は、本レンズをいち早く試用した野鳥写真家・山田芳文さんにお話を伺い、実際の使用感や、野鳥撮影におけるリアルな有効性などをお届けしたいと思います。

山田芳文

「100種類の鳥よりも1種類を100回」をモットーに野鳥を撮り続ける。ライフワークは鳥がいる風景写真。主な著書は『SONY α7 IV 完全活用マニュアル』(技術評論社)、『SONY α6600 基本&応用撮影ガイド』(技術評論社)、『写真は構図でよくなる!すぐに上達する厳選のテクニック23』(エムディエヌコーポレーション)、『やまがら ちょこちょこ』(文一総合出版)など。最新刊は『SONY α7C II 完全撮影マニュアル』(技術評論社)。

本当に800mm? 意外なほどにコンパクトな鏡筒

——望遠端800mmというので、さぞかし大きいだろうと思っていましたが、意外なほどにコンパクトなレンズですね。

山田芳文(以下、山田): そうですよね。「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」のサイズと重さを考えると、小型・軽量化に成功していると思います。実際に初めて見たときは、800mmのレンズなのに随分小さいなと驚きました。

野鳥写真家の山田芳文さん。ボディは愛用するα1 II

——手持ち撮影もできたりするものなのでしょうか?

山田: 野鳥撮影は状況に応じてさまざまな撮影スタイルをとりますが、いざ機動力が欲しいというとき、十分に手持ちで撮影できるほどコンパクトに仕上がっていると思います。また、手ブレ補正も良く効いてくれることも、手持ち撮影には有利ですよね。

——手持ち撮影も可能となると、超望遠ズームレンズであっても敷居の高さを感じず、気軽に使えそうです。

山田: ズームしてもレンズの長さが変わらない、インナーズーム方式が採用されていますので、その意味でも手持ち撮影はやりやすいと思います。また、三脚に固定して撮る場合でも、レンズの重心移動が少ないため、カウンターバランスが大きく変わることなく、扱いやすいところがポイントです。

G Masterに並ぶほどの多彩な機能

——スイッチやボタンなど、操作系も充実している印象です。まるでG Masterのようですね。

山田: はい、「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」と同様に「フォーカスレンジリミッター」や「フォーカスホールドボタン」などを備えています。さらに、フォーカスリングを回すだけで直ぐにMFに移行できる「フルタイムDMFスイッチ」も追加されていますね。α1 IIとこのレンズの場合、僕自身はAFで十分撮れると感じているので、それほど恩恵は感じていませんが(笑)。

——スイッチやボタン以外にも操作性で向上しているところはありますか?

山田: 三脚座がとても扱いやすくなっています。三脚を使って撮ることが多いので、これは嬉しいですね。取り外しができない機構になったこともあり、剛性感もあります。同時に、これはインナーズーム式であることも関係していると思いますけど、レンズ全体の剛性感が高いことから、使っていてしっかりした安定感を覚えますね。

——レンズフードも随分立派です。

山田: Gレンズとしては珍しくロックボタンが付いているので、着脱がしやすいうえに、しっかりと固定することができます。

まるでG Master? 驚くほど優れた描写性能

——肝心なところですが、描写性能はどうでしょう?

山田: 写りの良さこそが、このレンズ最大の特長だと思います。ジョウビタキを撮った作品を見てもらいたいのですが、ピントの合った瞳の付近は非常にシャープに写っていますし、その周りの羽毛の解像感や質感もまったく申し分がありません。

α1 II/FE 400-800mm F6.3-8 G OSS/400mm/マニュアル露出(1/30秒、F8.0)/ISO 800

山田: ちなみに尾がぶれていますけど、これはジョウビタキの尾を振る動作を表現するため、1/30秒で撮影したからです。

——本当にシャープで解像感が高いですね。背景のボケも柔らかくて綺麗です。

山田: 広角端400mmでの撮影になります。2線ボケも見られず素直で柔らかい、綺麗なボケ味ですよね。

——一方、望遠端での描写性能はいかがでしょうか。

山田: こちらが望遠端の作品です。広角端と変わらず、羽毛の細かいところまで緻密に正確に描き分けてくれます。

α1 II/FE 400-800mm F6.3-8 G OSS/800mm/マニュアル露出(1/60秒、F8.0)/ISO 1000

——おお、ものすごくシャープですね。

山田: 広角端、望遠端以外の中間域でも、高い描写性能があると実感しています。仮にこのレンズの600mm付近を600mm F4クラスの単焦点レンズと比べたとしても、並べて説明されなければ分からないのではないでしょうか。とにかく描写性能に優れたレンズですね。

α1 II/FE 400-800mm F6.3-8 G OSS/597mm/マニュアル露出(1/125秒、F8.0)/ISO 640

素早い被写体認識で動く野鳥をしっかり捕捉

——飛んでいる鳥を撮ることも多いと思うのですが、AF性能はいかがでしょうか?

山田: 最新のレンズらしく優秀です。リニアモーターを2基搭載しているということで、応答速度や追随性能が素晴らしく、飛翔中の鳥はもちろん、飛び出す瞬間や着水する瞬間の鳥でも、素早く正確にピントを合わせ続けてくれます。

α1 II/FE 400-800mm F6.3-8 G OSS/500mm/マニュアル露出(1/2,500秒、F8.0)/ISO 250

——被写体認識の「鳥」を利用されていますか?

山田: はい、現在「α1 II」をメインで使っていますが、ほとんどの場合まったく問題なく正確にピントを合わせることができています。認識対象に「鳥」があるαでしたら、問題なくピント合わせを任せられるのではないでしょうか。カメラを固定して遠隔操作で撮影することも多い私にとって、本当にありがたい機能です。

α1 II/FE 400-800mm F6.3-8 G OSS/600mm/マニュアル露出(1/2,000秒、F8.0)/ISO 500

トリミングなしで大きく写せる「800mm」

——それにしても、望遠端800mmのズームレンズというのは心ときめくものがあります。実際の野鳥撮影ではどのくらい有効なものなのでしょうか?

山田: 私の場合、観察して行動が読めるようになった後、機材を持って行って、ブラインドに入って隠れて待つというのが基本になります。そのため200〜400mmくらいで事足りています。ただし一般的には身体をさらして、鳥に警戒されないくらい離れたところから撮ることになるでしょう。その場合800mmという焦点距離は、カバーできるシーンが多くなり有利だと思います。

——恥ずかしながら、「もっと鳥を大きく撮りたい」と思って、自分から近づいてしまいたくなることは確かにありますね。

山田: そうですね。撮影位置が決まっていてそれ以上はどうしても近づけないという場合、本レンズの望遠端800mmというのはやはり強い味方になってくれるはずです。岸から離れたアオサギの営巣を撮り比べてみましたが、800mmだとかなり大きく写せることがわかると思います。

400mm
α1 II/FE 400-800mm F6.3-8 G OSS/400mm/マニュアル露出(1/1,000秒、F8.0)/ISO 250
800mm
α1 II/FE 400-800mm F6.3-8 G OSS/800mm/マニュアル露出(1/1,000秒、F8.0)/ISO 200

——このレンズはテレコンバーターにも対応していますか?

山田: はい、「SEL14TC(1.4倍)」と「SEL20TC(2.0倍)」に対応しています。画質が落ちるといわれるテレコンバーターですが、それを感じさせないのが素晴らしい。「SEL20TC(2.0倍)」を使ってみましたが、もとのレンズ性能と遜色ないくらいに解像感の高い写真が撮れて驚きました。

α1 II/FE 400-800mm F6.3-8 G OSS+SEL20TC/1,600mm/マニュアル露出(1/250秒、F16)/ISO 320

山田: 「SEL20TC(2.0倍)」を装着すると、1,600mmでの撮影が可能になります。ズームレンズの機動力をそのままに、1,600mmもの超望遠撮影ができるというのは驚きですね。

SEL20TC(2.0倍)。FE 400-800mm F6.3-8 G OSSと組み合わせることで、最大1,600mmでの撮影で行えるようになる

まとめ:高画質・高速AFのズームレンズで「800mm」が身近に

筆者自身、何度か「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」を使っていますが、そのつど利便性と画質の良さに感心したものです。

そして「FE 400-800mm F6.3-8 G OSS」の登場。「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」の使い勝手や画質を損なうことなく、800mmまで焦点距離を伸ばしたこのレンズの存在は、「FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS」で物足りなかった撮影者にとって、画質・AF・サイズ感ともに決定版ともいえるレンズではないでしょうか。

とはいえ、野鳥にこちらから無理に近づいて追いかけまわすような行為は、周りの撮影者に対しても、そして野鳥保護の観点からも重大なマナー違反です。「FE 400-800mm F6.3-8 G OSS」ならほどよく距離をとれますので、そうした問題もいくらか軽減できそうですね。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。