トピック

機動力がアップした超広角ズームでF1に挑む…中心部から四隅の周辺部まで文句のない解像感

RF10-20mm F4 L IS STM

本企画「REAL FOCUS(写真家の眼差し)」は、風景に潜む鮮やかな色や美しい造形を1本のRFレンズで見出すことを目的としている。今回は特別版として、F1レースに合わせて世界中を旅するモータースポーツフォトグラファーの熱田護さんの軌跡を追った。

REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/realfocus2/

RF10-20mm F4 L IS STMで撮影したレースは4つ。レースごとに分けてレンズの使用感をお届けする。

旅人/熱田護

1963年三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。85年ヴェガインターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。92年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行う。主な著書に『500GP』『Champion』(インプレス)、毎年インプレスより『DRAMATIC CIRCUS F1カレンダー』を発行している

※本企画は『デジタルカメラマガジン2023年12月号』の「REAL FOCUS Special—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡」より転載・加筆したものです。

圧倒的な小型化が撮影領域の幅を広げる

F1の現場では金網越しの撮影も多い。広角レンズの場合、金網の間にレンズを入れる以外では金網をぼかすことはできない。EF11-24mm F4L USMは前玉が大きかったのであきらめていたが、金網の種類によってはRF10-20mm F4 L IS STMなら前玉を入れられるので撮影の幅が広がった。

質量もEF11-24mm F4L USMから半減して約610gも軽くなった。レース中はフォトジャケットにレンズを入れて移動しているので、腰の負担も軽減。片手でカメラを保持する安定感も違うし、撮影の自由度はかなり上がった。

キヤノン RF10-20mm F4 L IS STM

国内外のサーキットを5レース撮影して感じたのは、どの焦点距離でも中央はもちろん周辺まで、解像感が素晴らしく、特に抜けの良さは感動ものであること。カメラ側で歪曲収差補正が自動でかかるということで心配していたが、画質はEF11-24mm F4L USMに比べて格段に上がっている。

コントラストはフラットで、線が細く解像感が高いナチュラルな絵は実に僕好み。レンズ駆動がSTMになったが、グリッドの人物撮影や走行シーンでもEF11-24mm F4L USMと比べてあまり違いを感じなかった。軽くて・小さくて画質も良い。僕にとって最高のレンズの登場だ。

SPECIFICATION
レンズ構成:12群16枚
絞り羽根枚数:9枚
最小絞り:F22
最短撮影距離:0.25m
最大撮影倍率:0.12倍(20mm時)
フィルター径:なし(後部ゼラチンフィルターホルダーに差し込み)
最大径×全長:約83.7mm×112.0mm
質量:約570g

発売日/価格:2023年10月27日/オープン
※キヤノンオンラインショップ参考価格:37万6,200円(税込)

広角で手ブレ補正はいるのかと思ったのが、使って見るとかなり便利。片手ノーファインダーでの撮影でもブレしらず。10mmの画角を自分の中に覚え込ませて、自由なアングルで探る楽しみがある
海外取材では持っていける荷物に限りがある、カメラバッグに必要最低限の機材のチョイスになるのだが、RF10-20mm F4 L IS STMが軽くて小さなレンズになったことで旅は楽になった

撮影地01:シンガポールGP(マリーナベイ・ストリート・サーキット)

シンガポールの中心地に設置されたサーキット。決勝レースが夜に始まるナイトレースで行われる。一般道路をサーキットのコースとして使用するため、金網越しの撮影が多い。ナイトレースならではのきらびやかな写真が撮れる。

レーススタート直前、グリッド上の角田裕毅選手。引きのない状況でも超広角ズームで背景を大きく撮れるのは武器になる
EOS R3/10mm/絞り優先AE(F4.5、1/640秒、+0.7EV)/ISO 10000/WB:太陽光
ガレージに収まっているマックス・フェルスタッペン選手のマシンを縦位置でフロントウイングを横いっぱいに配置。自分の足が写らないように気を付ける
EOS R3/10mm/絞り優先AE(F5.6、1/320秒、+0.3EV)/ISO 2000/WB:太陽光
斜光の時間帯にシンガポールフライヤーと呼ばれる大観覧車の中から撮影した。観覧車が回転する位置によって刻々と変化する景色に対応できるズームレンズはとても助かる
EOS R3/13mm/マニュアル露出(F7.1、1/1,000秒)/ISO 500/WB:太陽光

撮影地02:日本GP(鈴鹿サーキット)

みなさんご存じの鈴鹿サーキット。F1で唯一、立体交差があるサーキットでその下で撮ると明暗差のある独特の表現ができる。鈴鹿生まれの僕に取って我が家のようなもの。10月開催は今年で最後となり、来年から4月開催となる。桜とF1が撮れるかもしれない。

コンストラクターズチャンピオンを決定した日本GPのパルクフェルメ。喜びの瞬間を収められたのはこのレンズのおかげだ
EOS R3/16mm/絞り優先AE(F5.6、1/1,250秒、+0.7EV)/ISO 1250/WB:太陽光
<POINT>10mmは引きがない場所でも広く写せる

背景を大きく撮りたいときに10mmの画角は威力を発揮する。F1の撮影現場は狭く混雑している。ガレージや表彰台などはまさに10mmの活躍の場だ。これを持っていないと手前が切れてしまうので、撮れる絵が大きく変わる。

10mm
20mm
大好きなフェルナンド・アロンソ選手のマシンから降りる瞬間を下からあおって撮影。写真より見た目はかなり近いのでアロンソ選手にぶつからないように注意した
EOS R3/10mm/絞り優先AE(F5.6、1/2,500秒、+0.3EV)/ISO 500/WB:太陽光
<POINT>人物は画面の中心に配置して広角のゆがみを抑える

10mmはダイナミックに非現実を表現できる強みがあるが、人物を撮るときは被写体の形を見ながらより繊細に絵作りする必要がある。ゆがみが気になる場合は少し離れて撮ると良い。

画面端に人物がいるとパースでゆがんでしまい、違和感がでる
引いて撮ると周辺でもゆがみは気にならない

撮影地03:アメリカGP(サーキット・オブ・ジ・アメリカズ)

アメリカでのF1人気を受けて2023年はマイアミGP、アメリカGP、ラスベガスGPと3戦開催される。恐竜のような形をしたタワーがシンボル。カメラマンは無料で登ることができる。

超広角を使うと空を大きく使いたくなるし、そこに太陽を入れたくなる。ゴーストはEF11-24mm F4L USMに比べて格段に小さくなった
EOS R3/20mm/マニュアル露出(F6.3、1/6,400秒)/ISO 400/WB:太陽光

撮影地04:メキシコGP(エルマノス・ロドリゲス・サーキット)

2,300mと標高が高く、ホンダPUが得意とするサーキット。ホンダF1が1965年に初優勝したのもメキシコGPだ。毎回、元野球場のスタンドを利用した観客席からお客さんを入れた写真を撮っている。いつもは35mmくらいで流し撮りをしているが、今年は10mmで挑んでみた。

メキシコGPの名物コーナー「フォロ・ソル」。元野球場のスタンドをそのまま観客席として利用している。10mmという画角で、このスタート時の大興奮を撮りたいと最初から決めていた
EOS R3/10mm/マニュアル露出(F8、1/2,500秒)/ISO 1250/WB:太陽光
20mmの画角で少し流し撮り。小さく軽くなったこのレンズのおかげで、中腰の撮影姿勢を続けていても苦にならない
EOS R3/20mm/マニュアル露出(F6.3、1/400秒)/ISO 100/WB:太陽光
熱田護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。85年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。92年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行う。 広告のほか、雑誌「カーグラフィック」(カーグラフィック社)、「Number」(文藝春秋)、「デジタルカメラマガジン」(インプレス)などに作品を発表している。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集『500GP』(インプレス)を発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。