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写真プリントを“センス良く”部屋に飾るには?写真家に実践してもらった「意外な」テクニック3選
2023年2月20日 07:00
プリントを作るテクニックを磨き、用紙にこだわり、作品プリントを作ったら保存して終わり。そんな方も多いと思いますが、せっかく作ったプリントはコレクションするだけではもったいない。
プリントを作ったら、ぜひとも飾りましょう!
「写真を飾る」というと高尚な趣味に思えるかもしれませんが、特別なことではありません。たとえ道具がなくてもオシャレに飾れるのです。
それを教えてくれたのは、写真家の市ノ川倫子さんです。写真愛好家の自宅を訪問してプリントを飾るという、ライブ感満載の企画を取材させてもらいました。
2013年より写真を撮り始める。どこかで見たことのある遠い記憶、子供の頃の空想や絵本のページの中の世界などのイメージを写真を重ね合わせたりコラージュするスタイルで自身の内面を表現するように作品を制作している。
【個展】“blurs.act2” MONO GRAPHY Camera & Art、東京(2022年)/“blurs.” 金柑画廊、東京(2022年)/“JARDIN” Nine Gallery、東京(2021年)/「しのぶれど」 オリンパスプラザ東京、東京(2020年)など
プリントを飾ることは誰にだってできる
取材の舞台となったのは、写真愛好家でGANREFメンバーのwakowakoさんの自宅です。空間演出や展示の飾り付けを得意とする写真家・市ノ川倫子さんが、wakowakoさんのお宅に写真の展示をしに来ています。
飾る写真はwakowakoさん自らが撮影したもので、ご自宅にあるエプソン「EW-M973A3T」で制作したものです。
wakowakoさんは、普段から大量にプリントを作るプリンターのヘビーユーザーです。プリントを作る主な目的は、保存用とフォトコンテスト応募用とのこと。そして、そのさいに出てしまった“ちょっとだけ失敗”したプリントを飾ることも多いといいます。
写真を飾るというと、そのためのプリントを作る作業や知識、フレームや額を用意する手間や費用などが必要です。この段階で、多くのひとはやる気が失せるかもしれません。
でも大丈夫。wakowakoさんのように「今あるプリントを再利用」したっていいし、市ノ川さんは「特別な道具を使わずに展示」する方法を教えてくれました。
「上手な写真」がなくてもかまいません。今回紹介してくれた展示方法は、「飾り方」でオシャレな雰囲気を作り出すテクニックです。美術館のように1枚の作品を力強く展示するのではなく、複数の作品を組み合わせて「写真のある空間」自体をセンスよく見せるという技です。
労力が要るとしたら、展示に適した場所を探すことくらい。もっとも、それに関しても市ノ川さんがヒントくれました。写真を飾る空間としては、「部屋の入り口」「普段の生活で視界に入る場所」「玄関」を重視するとよいようです。
もし、ご自身の部屋を見渡して「この辺りのことかな?」を思ったのなら、そこに写真を飾ってみましょう!
そのまま貼っちゃうんですか?
プリントを手に、市ノ川さんが展示場所の検討をはじめます。その視線は平面で広い壁というよりは、「角」の辺りに向けられています。そしてwakowakoさんに、普段はどのような生活なのか、どの位置にいることが多いのか、作業はどこで行っているのか、などを確認していきます。
室内を見て回り、ゆっくりと穏やかなトーンでwakowakoさんのリクエストを確認し、そして――、プリントを壁に直貼りしはじめました。「それでいいの?」と思ってしまう展示方法ですが、空間演出のプロが実践すると「それでいいんだ!」と納得できるから不思議です。
市ノ川: 部屋の入り口に写真があると室内が華やかな印象になります。旅の写真なんかがあれば、入るたびに思い出がよみがえりますし、お客様の目にも入るので、飾るにはよい場所だと思います。
扉の付近は展示スペースとして最適とのこと。そして、展示方法に関しては「ランダム性」を提案していました。高さを揃えて等間隔に並べるのではなく、上下にずらして配置したり、プリントの大きさを変えていたりして、規則性が分からないように見せています。プリントを貼る高さの基準は、「目線」の位置を意識していました。
市ノ川: サイズが異なるものを貼るときは、揃っていないランダムさというものを楽しんでもらえればと思います。どこかずれていたりとか、バランスを崩したほうが、いろんなサイズで遊んでいるんだなっていうのが分かるので。
扉の横の壁に貼られたプリントは、大きさや高さはランダムですが、しっかりと水平に貼り付けてあります。傾いていたり斜めのものがあると、その写真だけが気になってしまうので、水平に揃えたたほうが見ていて気持ちがよいといいます。
展示を眺め一同が感想を述べ合っていたとき、「ちょっとだけ、置いてみてもいいですか?」と市ノ川さん。束ねたドライフラワーを手にしています。そして背伸びをして手を伸ばし、それらをプリントの上と下に飾り付けました。
市ノ川: 自作のドライフラワーを麻の紐で束ねたものです。それをピンでひっかけて飾りました。写真だけのときよりも存在感が増しますし、心が華やぐようなゾーンが展開できると思います。
wakowako: ぜんぜん違う。写真だけのときとぜんぜん違う! すごくいい!!
余白の大きさを揃えましょう
直貼りするプリントは、上下左右の余白のバランスが悪くならないように整えておくときれいに展示できます。余白のバランスを取る自信がないときは、広さを揃えておくとよいようです。今回のプリントは、A4サイズ、A4サイズの用紙にスクエアでプリント、ポストカードサイズ、を使用していますが、それぞれ上下左右の余白の広さを揃えていました。
やり方は単純で、カッターで切るだけです。そして余白を揃えたら、プリント裏面の四隅に両面テープを貼れば準備は完了。市ノ川さんは「GUDY DOT TAPE」というテープノリを使っていましたが、壁を傷めない「貼って剥がせるタイプ」の両面テープなら大丈夫でしょうとのことでした。
ちなみに、両面テープを貼るのは「四隅」だけです。プリントの中央や辺の中央に貼ると、壁に飾ったときによれが出てしまうと教えてくれました。A3ノビサイズのような大きなプリントの場合は、四隅に貼るテープの面積を広くして、しっかりと支えられるようにするのがベストだそうです。
プリントは「額やフレームに入れて飾るもの」という固定概念がありましたが、そのまま貼ってもよいということを教わり、目から鱗です。これならすぐにはじめられますし、複数の写真を配置するので、“画力のある写真”でなくても大丈夫そうです。ザックリと「写真のある空間」を作って、花や旅のチケットなど、ゆかりのあるものを一緒に飾ればよいのですから。
展示を見て、「もうこれだけでいいよね!」とwakowakoさんをはじめ、スタッフ一同が大満足。その反応に、「最初にこれをやっちゃったのはアレでしたかね?」と市ノ川さんは戸惑い気味。あと2つ、テクニックを紹介してもらうことになっています。
市ノ川: 私は壁に絵を描くような感覚で、ここにこの色があったらどうかなとか、このバランスならどうかなって楽しみながら探っていくので、自由な発想で楽しんで飾ってもらえればなと思います。
「ブックマット」で少しフォーマルに飾る
「気張らずにはじめられそう」と感じた飾り方が、「ブックマット」と呼ばれる「窓の開いた厚紙」で挟んだプリントを飾る方法です。ブックマットを用意する必要はありますが、額装するよりも手軽ですし、簡単に展示できる点が魅力です。
wakowako: ブックマットははじめて見ました。オシャレな感じがします。
市ノ川: 私は好きで、よく使っています。このまま飾ることもできますし、保管にも使えて、プリント面を合わせて重ねておくと安心です。
市ノ川: ブックマットを買って来たら、窓に合わせてプリントの位置を決めて角を貼ります。四隅すべてを貼る必要はなくて、対角線の2か所か、3か所で十分です。「フォトコーナー」があるとプリントの入れ替えがしやすいのですが、マスキングテープで留めてもいいと思います。プリントを挟んだら、ブックマットが浮かないように下の部分を軽くマスキングテープで押さえれば完成です。
ブックマットを展示する方法は、「ハンガーでつるす」です。wakowakoさんのお宅には玄関にピクチャーレールがあるので、そこに吊るすようにして展示しました。ピクチャーレールがなくても、プッシュピンでハンガーを留めればよいそうです。ちなみにプッシュピンは、次の「額装」で紹介する便利グッズをおススメしていました。
市ノ川: ブックマットにクリップ型のハンガーで2か所固定して、ワイヤーレールにかけてランダムにつるせば完成です。ブックマットを使う展示は、余白があってのびやかな雰囲気になります。額装するよりも「飾っている」というボリュームが少な目で、スッキリ見せられると思います。
楽しくなってきたら額装に挑戦
額装時のポイントは、「写真の大きさ」です。「マット」と呼ばれる窓の開いた台紙に写真を貼り額に入れるのですが、窓の大きさに対する写真の大きさで印象が変わってくると市ノ川さんはいいます。つまり、どのように見せたいのかによって、プリントする写真の大きさを決めるということです。
市ノ川: 見ているひとが作品の世界にグッと入っていけるような奥行き感のある雰囲気を出すときは、マットから1mm程度の余白があるプリントサイズにします。華やかな雰囲気を出すなら、全面できちんと作品が見えるようにプリントを作ります。
マットの色や額の色、額のフチの大きさもプリントの展示には重要な要素です。
マットの色は「白」や「生成り」を基本として、力強さや格好よく見せたいときは黒やグレー、インパクトを出すときは窓の切り口にゴールドの色を引いたりします。最初のうちは、額装屋さんに足を運んで相談するとよいそうです。ちなみに市ノ川さんは、「生成り」が白過ぎずに使いやすいだろうと話していました。
フレームの色もマットと同じ考え方で、明るくて淡い色だとかわいらしさや優しい雰囲気、色が濃く、黒くなるほど引き締まった格好よさが出てきます。基本的には、写真の雰囲気に合わせて色を決めるとのことです。
そして、フレームが細いものは上品に、幅のあるタイプだと力強く作品の存在感が出せるといい、フレームのボリューム感でどのように見せたいのかを決めるのもよいそうです。
市ノ川: 今回は同じタイプ、同じサイズで3色のフレームを用意しました。優しい雰囲気の菜の花はナチュラルなフレーム、ビビッドな赤と印象的なシルエットが格好いい写真は、キリっと引き締まるブラックのフレームに入れています。ブルーが印象的な写真は中間の明るさに当たるブラウンのフレームです。
額装作品の飾り方は難しいのだろうと思ったのですが、とても簡単でした。壁にプッシュピンを刺して、飾って、水平を確認して、次のプッシュピンを刺して……、と繰り返すだけです。そのさい、市ノ川さんが気を付けていたのは「水平」で、それ以外はランダムな感じに展示していました。
まずは、メインとなる作品をもっとも視界に入る位置に決めます。今回の例なら、wakowakoさんの作業机からよく見える位置です。椅子に座った正面の上部に当たります。
そして、もっとも力強くてインパクトのある作品はメインの作品から少し離して、視線の中央に来ない位置に配置します。今回はL字の壁の左側、メインよりも少し上に配置していました。横並びに展示するときは、高さを合わせずにランダムに配置するのがポイントです。
額の固定方法は、壁に釘やピンを打ってそこにかけるのですが、普通のプッシュピンだと壁に穴が開いてしまいます。市ノ川さんは、穴の目立たないタイプのプッシュピンを使っていました。いくつかの製品があるので、壁に穴を開けたくないときは入手しやすいものを探してみましょう。
取材後記
今回の取材はかなりの長丁場でした。動画を見ると端的に解説しているように思えますが、その裏には、リハーサル、スチル用の撮影、そして動画の収録と、市ノ川さんは同じようなことを3度も繰り返していただいています。
そして、3度の解説を拝聴した結果、「プリントを飾る」ということが当たり前のように思えてきました。自宅の壁を眺め、「なぜここにプリントを貼っていないんだ?」とモノ足りなさを感じるほどです。
まずは、作業机の前に貼っている予定表を剥がして、手持ちのプリントを貼ってみようかと思います。プリントはたくさんありますので。
みなさんも、プリントを貼ることからはじめてみてはいかがでしょうか。両面テープがあればよいので、簡単です。
文・状況写真:桐生彩希
制作協力:エプソン販売株式会社