日本未発売の「Lytro」を使ってみた

〜フォーカス自在のライトフィールドカメラを試す
Reported by 本誌:鈴木誠

 Lytroは、2011年10月に米Lytro社が「ライトフィールドカメラ」として発表したデジタルカメラだ。レンズと撮像素子の間に特殊なマイクロレンズを配し、光線の色と強さに加えて光の向きも記録することで視野(light field)を取り込めるとしている。インターネット上などでは「後からピント合わせ自由なカメラ」としてもお馴染みだろう。

 本稿執筆時点では日本の代理店がなく、インターネット上で並行輸入品が5万円〜7万円で販売されているなど、購入までのハードルは多少高いかもしれない(本国での価格は399ドルと499ドル)。今回は実際にLytroを購入した方から実機をお借りすることができたため、それを使って簡単なインプレッションをお届けしたい。

 Lytroを初めて手にした印象は「写真で見るより大きい」だった。外形寸法は約4×4×11cm。並べてはいないが、11cm厚のiPod nanoといった印象だろうか。公式Webサイトの断面図を見ると、アルミ外装の部分がレンズ鏡筒で、ラバーの部分に撮像素子などを搭載しているようだ。グリップとなるラバー部分の側面には、電源ボタン、シャッターボタン、タッチ式のズームスライダー、USBケーブル端子を備えている。

手に持ったところ。グリップ部の丸いくぼみがシャッターボタンで、その手前の微妙にパターンが異なる部分がズームスライダー裏側のUSB端子と電源ボタン
レンズキャップはマグネット式

 電源ボタンもしくはシャッターボタンを押すと、カメラはすぐに起動する。ピント調整が撮影後に行なえることも含め、Lytroが速写性としてアピールしているポイントだ。撮影設定やメニュー操作はタッチパネル式のモニターから行なう。

撮影画面。解像度は高くなく、視野角も狭め被写体をタッチしたところ。AFというよりAE枠のような使い方
ズーム動作をしているところ。左上の白い点がズーム位置画面を下からスワイプし、メニューを引き出したところ
一番左のボタンを押すとクリエイティブモードに切り替わり、ズーム域が望遠側に広がる中央はストレージの残容量を確認するボタン。右はバッテリー残量

 ライブビュー画面で被写体にタッチすると、タッチAFのようにマークが出てピントが動く。しかし先にも述べたようにフォーカスは後から調整できるので、どちらかというと露出を合わせる感覚だ。シャッターボタンを押すと瞬きのようなアニメーションが表示され、プレビュー表示などもなく撮影画面に戻る。撮影間隔は約1コマ/秒程度と、特殊なカメラであることを感じさせないレスポンスだ。

再生画面をダプルタップで拡大表示したところ。背面モニターだとピント調整の視覚効果が少々わかりづらいズームスライダーの操作で9枚サムネイル表示も可能

 Lytroのスペックを通常のカメラの感覚で推し量るのは難しい。記録画素数に相当する部分が「1,100 megarays」(1,100万光線)と表記されている。おそらくワンショットで記録するデータは1,100万画素分で、再生時はその中から指定した被写体にピントがきている部分を読み出して表示しているのだろう。

 撮影画像を2次元映像として通常のデジカメと比べれば厳しさを感じる部分もあるが、暗所撮影において、最高感度と見られるISO3200の状態でも割とディテールがしっかりとしている印象だった。メカシャッターが採用されており、いわゆるトイデジカメよりはカメラとして扱いやすい。

 Lytroの醍醐味はやはり、撮影後のピント調整だろう。撮影時の意識に関わらず、フレーム内のすべての被写体が主役になり得るのは面白い。広角で被写体に近づき、遠景と一緒に写すと撮影後の視覚効果を狙いやすい。SNSでよく見るような、手に持ったものと周りの風景を一緒に写し込むような構図だと手軽に楽しめるはずだ。

 以下に撮影したサンプルを掲載する。表示されている画像内のピントを合わせたい部分をクリックすると、ピントがそこに合うはずだ。



 ピント調整の効果は、大柄な開放F2レンズのおかげか思ったより実感しやすい。逆に、現状ではズーム全域でF2の開放固定となっているため、被写界深度を調節してパンフォーカス的に撮影するようなことはできない(現状では後処理でも不可能)。

 撮影後はパソコンにUSB接続し、画像バックアップと充電を行なう。クライアントソフト「Lytro」はMac OS X 10.6.6以降に対応しており、筆者のMountain Lion環境でも動いた。また、つい先日Windows用のクライアントソフトもリリースされ、Windows 7の64bitに限るが、Mac以外の環境でも使えるようになった。

クライアントソフトの初回インストール時サムネイル表示の画面。スターを付けた画像のみ絞り込み表示している
撮影データを表示したところWindows版。基本的にはMac OS X用と同じ

 クライアントソフトをインストールした後は、Lytroをパソコンに接続すると自動でソフトが起動し、画像のバックアップと充電が行なわれる。パソコンからは撮影画像の共有も可能だ。JPEGのような汎用フォーマットで書き出す機能はなく、Lytroの用意するクラウドにアップロードし、それをWebサイトにタグで埋め込んだり、SNSでURLを共有したり、Facebookのウォールに投稿するスタイルとなっている。

画像を選んで「Share」ボタンから投稿するダイアログ共有後、Webブラウザで共有画像の一覧を表示したところ
共有した画像の埋め込みタグを表示Facebookのウォールに投稿した

 共有時は「データの最適化」が行なわれているそうで、パソコンのWebブラウザのほか、iPhoneからも専用アプリを使うことなく閲覧できた。Lytroの8GBモデルで350枚、16GBモデルで700枚という公称の撮影可能枚数から計算すると、ワンショットの撮影データは20MB強になるので、圧縮のような最適化作業がパソコンもしくはクラウド上で行なわれているのだろう。

 今のところフォーカス調整以外の機能は提供されていないが、例えば撮影画像を3Dで表示するなど、被写体までの距離情報を持っていることの可能性は大きいだろう。Lytro社にどのような計画があるのか、今後が楽しみだ。









本誌:鈴木誠

2012/8/9 00:00