キヤノン「EOS 5D Mark II」のマニュアル露出動画を試す

Reported by上田晃司

EF 200mm F2 L IS USMを装着したEOS 5D Mark II

 最近のトレンドとして、レンズ交換式デジタルカメラに動画撮影機能が搭載されることが多くなってきた。大きなイメージセンサーから得られるボケやノイズの少ない絵、また豊富な交換レンズにより、まるで映画のようなクオリティーの映像を撮影することができることで話題だ。

 そのなかでも注目を浴びているのが、発売以来、動画機能がプロの映像クリエーターの間でも話題になっている「EOS 5D Mark II」だろう。35mmフルサイズのセンサーを搭載するデジタル一眼レフカメラのなかで唯一動画の撮影ができる上、ムービーでも多種多様のEFレンズ群を使用することが可能。さらに、フルハイビジョン動画(1,920×1,080ピクセル)に対応しているので、動画機能をメインに使用するために購入を考えたユーザーも多かったようだ。

 しかし、発売当時のEOS 5D Mark IIでは、使える撮影モードがプログラムモードのみという縛りがあり、せっかくのフルサイズのボケや明るいレンズを活かすことが難しかった。例えば、「EF 85mm F1.2 L II USM」などの明るいレンズを装着しても、被写体が明るいとすぐにF16やF22などに自動的に絞られてしまうので、大きなボケなどを活かすことができないという欠点もあった。ボケを活かす方法としては、マウントアダプターを使い他社のレンズで撮影するなどしかなかったが、6月2日のファームウェアバージョンアップ(Version 1.1.0)で待ちに待ったマニュアル動画撮影モードに対応した。それにより、明るいEFレンズが活きるようになり、自由な映像表現が可能になったわけだ。

 今回のバージョンアップでは、動画撮影でのマニュアル露出の設定が可能になったことにより、シャッター速度、絞値、ISO感度の設定を自由に変更できるようになった。設定できるシャッター速度は1/30秒~1/4,000秒、絞り値は、レンズによるが開放から最小まで対応。また、ISO感度は[ISO-AUTO]の場合ISO100~6400の間で自動設定され、マニュアル感度の設定ではISO100からH1(ISO12800相当)まで対応している。

EOSシリーズでは唯一、30fpsで1,920×1,080ピクセルの動画撮影が可能なEOS 5D Mark IIマニュアル露出で動画を撮影する場合は、モードダイヤルを[M]にする

 マニュアル露出で動画撮影を行なうには、いくつかの設定が必要になる。バージョンアップ前は、[LV機能設定]が[静止画+動画]、[画面表示設定]が[動画用]、[静止画用]、[露出シュミレーション]になっていても[SET]ボタンをおせば動画を録画できた。だが、バージョンアップ後にマニュアル露出を使用したい場合は、必ず[LV機能設定]を[静止画+動画]、[画面表示設定]を[動画用]に設定しなければ、モードダイヤルを[M]にしても自動露出になってしまうので注意が必要だ。

 今回、マニュアル露出が可能になったことにより、昼間でも開放に近い絞りでの撮影が可能になったのは大きい。今まで、プログラムモードで撮影した場合は、カメラが絞り値を深く絞りこむ癖があり、どんなに明るいレンズをつけても最小絞りに近いところまで絞り込んでしまい、せっかくのボケを体感できない場合があったが、マニュアル露出のおかげで解消された。

 しかし、開放に近い値に設定するとシャッター速度を上げる必要があるので、動く被写体を撮影した場合やパンした場合に少しカクカクした印象になる場合がある。動画に最適なシャッター速度は、1/30秒~1/125秒程度なので可能であればNDフィルターを使ってシャッター速度を調整するのもありだろう。

 またこれまでは、プログラムモードで撮影した場合に絞りこむ癖があったせいで、シャッター速度を稼ぐために、感度が日中でもISO3200になることが多く、画像がのっぺりとした印象になることがあった。これも感度を手動調整できるようになったので解消され、イメージ通りのムービー撮影が可能になった。

動画の設定はメニュー画面の[ライブビュー機能/動画機能設定]から行なう同設定に入ったところ
マニュアルで動画を撮影する場合は[静止画+動画]を選び、さらに次の画面で[動画用」を選ぶ必要がある
プログラムモードの撮影画面マニュアルモードの撮影画面
動画時はISO感度も手動で設定可能。最高ISO12800相当(H1)まで増感できる

 実際に撮影してみて感じたことは、やはりマニュアル露出が可能になったことで、35mmフルサイズセンサーならではのボケを得られるようになったのはとても大きいという点だ。ただし、被写界深度がとても浅いのでピント合わせは至難の業になる。また、夜景撮影もレンズの明るさを活かして撮影できるようになった上、マニュアル露出を使うことで感度をできるだけ低く設定できるので、ノイズの少ないしっかりしたディテールの夜景を撮影できるのはうれしいポイントだ。

 今回は、動画をスムーズに撮影するために写真用の三脚ではなく、動画専用の三脚を使用した。雲台はボーゲンイメージングが扱うマンフロットの「プロフリュードビデオ雲台519」を使用した。カウンターバランススプリングを変更することで、正確なカウンターバランスをとることができる本格的な雲台だ。1~9kgまでの幅広いカメラで使用できる。おかげで、「EF 200mm F2 L IS USM」から「EF 85mm 1.2 L II USM」など重さに幅があるレンズを使用してもスムーズな撮影ができた。また、7段階のフリュードドラッグによりトルクの微調整が可能だ。良いムービーを撮影するには、雲台も重要になる。

 三脚部は、「525MVB」を使用。全高は169.3cmで、最低高は45.3cmとローアングルも得意。ムービー用の三脚ということもあり、短い時間でセットアップ可能だ。

今回は、雲台と三脚がセットになったマンフロットの「519,525PKIT」(26万6,700円)を使用した雲台部のダイヤルで、カウンターバランスとフリュードドラッグを調整可能

動画作例


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●シャッター速度効果

使用レンズ:EF 200mm F2 L IS USM

マニュアルモード
1,920×1,080 / 30fps / 81MB /1/3,200秒 / F2 / ISO100
プログラムモード
1,920×1,080 / 30fps / 75MB /1/160秒 / F32 / ISO100
マニュアルモード
1,920×1,080 / 30fps / 78MB /1/250秒 / F7.1 / ISO100

 絞り開放で撮影した場合、線路が綺麗にぼけて電車に立体感がでた。しかし、シャッター速度が速いためLEDで表示されている行先表示器に出ている文字がちゃんとした文字になっていない。プログラムモードで撮影したムービーは、絞りがF32まで絞られており感度もISO1250に設定されている。シャッター速度が遅いため、行先表示器の文字はちゃんと読み取れ、電車の動きもスムーズ。3つめの動画は、マニュアル露出を使って行先表示器の文字が見えるように調整して絞りとシャッター速度を決定した。動きもスムーズである程度のボケも得られている。

●ボケ&シャッター速度

使用レンズ:EF 85mm F1.2 L II USM

マニュアルモード
1,920×1,080 / 30fps / 73MB /1/4,000秒 / F2 / ISO100
プログラムモード
1,920×1,080 / 30fps / 73MB /1/80秒 / F16 / ISO200

 マニュアルモードでF2に設定して撮影したムービーは大きなボケを得ることができた上、シャッター速度が高速になったので、噴水の水の粒々まできっちりと確認できる。が、あまりスムーズではない。プログラムモードで撮影したムービーは、被写界深度が深いのであまり大きなボケを得ることはできないが、噴水の水の流れはスムーズ。

●夜景低感度

使用レンズ:EF 200mm F2 L IS USM

マニュアルモード
1,920×1,080 / 30fps / 52MB /1/30秒 / F2 / ISO400
プログラムモード
1,920×1,080 / 30fps / 51MB /1/160秒 / F2 / ISO3200

 プログラムで撮影した方はISO3200まで感度が上がるので少しディテールが潰れているのがわかるが、マニュアル露出を使えばレンズの開放を使うことによりISO400で撮影することが可能。ノイズの少ないシャープな映像を得ることができる。

音声関連機能の充実を

 今回のアップデートにより、EOS 5D Mark IIの良さを最大限に生かしたムービー撮影が可能になった。今後EOS 5D Mark IIやそれ以降の機種に期待したいのは、音声のマニュアルレベル調整とレベルメーター。また外部音声出力端子搭載やXLR端子を備え、本格的なマイクの使 用が可能なアクセサリーなど音声関連が充実するとありがたい。さらに、1,920×1,080以外にも「EOS Kiss X3」で採用している720P(1,280×720ピクセル)も搭載されれば使い勝手が向上するだろう。贅沢をいえば、可変フレームレートでの24fpsやスローモーション (高速度撮影)なども欲しいところ。あとは、実用的なコントラストAFなどを期待したい。




(うえだこうじ)1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして世界中の街や風景を撮影している。現在は、カメラ誌やWebに寄稿している。
ブログ:http://www.koji-ueda.com/

2009/8/19 00:00