特別企画
写真とキャンプとコーヒーと
“ツインリンクもてぎ” でくつろぐ贅沢な時間
2017年5月29日 12:29
山でコーヒーを飲む。それはかつて、アウトドア派アピールであったり、アウトドアに出かけるこじつけであったこともある。僕自身がそうだった。それは何十年か前のことだけれど、1日のごとく思い出され、懐かしくちょっぴり恥ずかしい思い出であったりもする。
しかし、コーヒーをより日常的に楽しむようになった今は、山でコーヒーを飲むと口に出すこともなんら特別のことではなくなった。ここでこんな話をするのもなんだけれど、コンビニで手軽にコーヒーを買えるようになったことで、さらに日常化に拍車がかかったのだろう。
僕も毎日、たくさんのコーヒーを飲んでいる。事務所でドリップコーヒーを淹れるし、出かけるときはポットにコーヒーを入れていく。
そしてもちろん、コンビニでもコーヒーを買う。こうなってくると山でコーヒーを飲むことは特別な意味を持たない。だけれども、コーヒーは嗜好品である。それは心の飲み物であり、その気持ちのありようで味が変わるものだ。何と言っても偉いお坊さんが恋煩いする男に教えた素敵な飲み物なのだから。
だから僕は宣言する。今日は山にコーヒーを飲みに来た。森の空気と夏を感じる日差し受けていつもよりもずっと美味しいコーヒーを飲むために。
コーヒーは豆そのもの、焙煎、挽き方によって味が変わるのはもちろんのこと、淹れ方と道具によっても味が変わる。ざっとあげてみるとサイフォン、ダッチ、エスプレッソマシン、ネルドリップ、ペーパードリップ、カフェプレスなどがある。僕が知らないものもまだあるだろう。それぞれに道具が違い、そこがグッズ心をそそるのだ。
コーヒー好きは男性の方が多いのではないかと思っているのだが、「道具」があまた存在することがその理由ではないかと思っている。いや、決めつけている。なぜなら僕が「道具」好きコーヒー派であるからだ。
早速コーヒータイム!
さて、昼近くツインリンクもてぎの森と星空のキャンプヴィレッジに到着。チェックイン前だが、撮影のためということで、テーブルを使わせていただいた。もちろん、まずすることはコーヒータイムだ。
ここではカリタ ニューカントリーをチョイス。カリタは3つ穴式のペーパードリップで、中庸の抽出速度で、すっきりとバランスの良い誰しもが楽しめる味わいが特徴だ。またニューカントリーはシャワーポットつきで、お湯の注ぎ方や温度に気を使わなくても美味しいコーヒーが入る。手軽さと美味しさが両立している秀逸な「道具」なのだ。
初夏の強い日差しと吹き抜ける風の中で飲むコーヒーは、やっぱりいつもより美味しいのだ。
ツインリンクもてぎはサーキットだけじゃない
到着するなりコーヒーブレイクを楽しんでしまったが、東京から運転して来たのだから良しとしよう。
ここツインリンクもてぎは車なら都内からおよそ2時間の距離だ。ツインリンクもてぎは4輪のSUPER GT や二輪の日本グランプリが開催されるサーキットとして世界的にも著名だが、そこにはサーキットだけでなく、整備された森「ハローウッズ」とキャンプ場「森と星空のキャンプヴィレッジ」がある。
全体で、車と自然との共生がテーマであるが、どのシーンを取り出してもフォトジェニックで、写真好きが遊ぶのにもってこいの場所である。中でも気軽に楽しめるのはハローウッズの散策と風景撮影だ。整備された場内に小さな山と棚田があり、季節ごとの風景が楽しめる。今回は新緑のみずみずしさを楽しむ散策だ。
整備された山「ハローウッズ」
5月。新緑が美しい季節だ。山道を上り降り、山歩きを楽しんでいると、緑の色の違いが楽しくなってくる。緑と一口にいっても様々な緑の色があるものだと関心する。それは植生の豊かさを反映していることだが、適切に人が手を入れるからこそ維持できる森だ。
しかし、写真を撮るに当たって、人工的な嫌味はない。むしろ、山道や柵も入れて絵作りしてしまいたい。自分が歩く道や日差しの変化だけで絵になってしまうものだ。
樹冠タワーで樹と一体になる
ハローウッズの山にはそこここに展望台がある。山自体は小さなものだが、独立しているので四方の展望が楽しめるのだ。富士山や筑波山、那須の山々の遠望を楽しむことができる。山頂には「樹冠タワー」があり、木立を越える高さに登ることができる。
高いところが苦手な人にはちょっと怖い体験かもしれないが、ここに立って、風を受けるとそこには木々の香りが乗って来ている。山の上を吹き抜ける風と眺望は贅沢な時間を実感させてくれるものだ。樹冠タワーは、ガイドウォーク(有料)開催時に上がることができるのでWebサイトなどで確認しておきたい。また、気象条件によっては、タワーに登れないこともあるので受付で確認しよう。
このほかにもいくつもの展望、見晴らし場所があるのでゆっくり時間をかけて回ってみよう。決して大きな森ではないかれど、1つ1つ展望台を訪ねて歩くと実際以上に大きさを感じるはずだ。それは時間をかけた証であり、豊かにのんびりと時間を楽しんだことなのだと僕は思う。
火を使わなくても本格コーヒーが楽しめる
午後の日差しをいっぱいに受ける西の斜面の展望台でコーヒーブレイクだ。お茶菓子はない。コーヒーのみだ。
僕のマイブームは、カフェプレス。深いコクそして苦味と甘みが心地いい。プレスポットにコーヒーを入れ、直接お湯を注ぐ。しばらく蒸らしたら金網のピストンでゆっくりプレスするから、コーヒープレス、フレンチプレスとも呼ばれる。粉の大部分は金網で漉し取られるが、やはり細かな粉末は溶けて口に入る。これがプレス独特の味わいだ。そしてギアも楽しい。
最もお気に入りのカフェプレスはスタンレー 真空コーヒーシステムだ。名前がご大層なので誤解されるかも知れないのでいっておくが、真空で何かスゴイことをするわけではない。真空断熱ポットとカフェプレスポットがセットになったものだ。真空断熱ポットにお湯を入れておき、お気に入りの場所でカフェプレスを飲もうというものだ。
アウトドアとはいえ、森の中で迂闊に火を使うわけにはいかない。それはここハローウッズでも一緒だ。お湯で持って来ればスマートである。これなら近所の公園や河原でもOKだ。だからマイブーム。
グランピングとBBQ
夕暮れ時、キャンプサイトを散策する。少し涼しくなって過ごしやすい時間だ。森と星空のキャンプヴィレッジには、テントでありながら、ホテルに近いサービスを楽しむグランピングのエリア、ログキャビンのエリア、そして持ち込みテントなどに対応するテントサイトのエリアに別れている。
夕暮れ時のログキャビンエリアはどこか海外のような雰囲気。テントサイトエリアは最もキャンプ場らしい、懐かしくさえ感じる空気感だ。そして、今夜はグランピングテントに泊まるが、灯りの灯ったテントが集まるグランピングエリアはとても華やかだ。
夕食はBBQ。散策を終えて戻る頃には、キャストの方々がすっかり準備を整えておいてくれる。あとは自分で焼いて食すだけ。
そして残った燠火でまたしてもコーヒータイムだ。夜は軽めのコーヒーにした。針金細工のようなアウトドア用コーヒーペーパーホルダーだ。ペーパーは三角形のものを選んだ。このやり方だと、お湯の滴下速度が早いので軽く甘めの味わいだ。通りがいいからカフェインは強くなってしまうかも知れないが。
ウイスキーを1杯だけ。ちびちびやりながら、コーヒーも飲む。静けさと星空、そして人の談笑の音を楽しむ時間だ。ちょっとのウイスキーがさらに遠い空に連れて行ってくれるようだ。
夜は星空の撮影に挑戦
天気に恵まれ夜も晴れた。北の空に向かい、15分間の比較明合成を行った。時計が回るように光跡を引いていく仕上がりを想像しながら、静かに過ぎる時間の中に昔の色々なことを思い出した。
ウイスキーが効いて来たので、外周道路を歩いてグランピングサイトを見下ろした。西の空にはしし座が沈んでゆくところだ。今夜の泊まり客たちの談笑する声が密やかに響いてくる。密やかに響く人の声は、時に心休まる音楽のようである。
ウイスキーもそこそこに夜は早く寝た。外気と薄膜で隔たっているだけなのだが、グランピングのテントはとても居心地よく、あっという間に眠りに落ちてしまった。普段は寝つきが悪く、いつまでももそもそしているタイプなのだが、自然の中の深い眠りもキャンプの喜びの1つだ。
朝、雲海が出現!
さて、早寝したのにはわけがある。夜明けの雲海を見るためだ。ツインリンクもてぎは雲海ができやすい地形なのだそうだ。とはいえ、雲海が毎日現れるわけではない。特に春夏の時期は少ないそうだ。それでも、早く起きて様子を見て見ることにした。
結果は、僥倖である。運に恵まれ、雲海を見ることができた。マゼンタに染まった夜明けの空の下、静かにうねる雲海の動きはとても幻想的だ。山並みなど自然風景だけでなく、サーキットのグランドスタンドや、照明塔など人工物も雲海に埋もれる姿も面白い。まるでSF映画のワンシーンのようだ。一瞬たりとも目を離すことが勿体ないことに思える。
撮影はハローウッズの山頂展望台からだが、残念ながら通常は早朝に立ち入ることはできない。今回は撮影のために許可されたものだ。しかし、年に何度かは森に泊まるプログラムがあるそうなので、そうした時に雲海を期待してもいいだろう。
雲海を十分に堪能し、雲海が薄れ始めたので下山する。しかし、下界はまだ霧の中だった。下界といっても高低差は50~60mといったところだが、雲海が地表の霧を上から見下ろしているのだとはっきりと理解できる瞬間だ。日が昇るとともにみるみる霧が薄れてゆく。
樹間を射抜くような朝日の光条が美しい。強い日差しを見ると心も浮かれてくるように思う。それは人間が昼間に活動するようにできているからと思うのは考え過ぎだろうか。
朝食はホテルで
ともあれ、キャンプ場に戻るとまだうっすらと霧が残り、空を反映した青みが朝の静けさを強調しているように見える。そして樹間から溢れる光はさらに強い光条となった。早起きは三文の徳と言うけれど、今朝はたくさんの美しい景色に出会え、もっと多くの得をした。いや、美しいものに触れることで徳を積んだかも知れない。
さて、グランピングの朝、朝食もまた格別である。少し移動は必要だが、ツインリンクもてぎ内のホテルツインリンクでの朝食バイキングなのだ。キャンプの朝、朝食の準備は楽しいものだが帰ることを考えると片付けがちょっとめんどくさい。テント泊プラスホテルでの朝食は、ちょっとの驚きと便利さに納得するばかりなのだ。
朝食を食べる頃には、霧もすっかり晴れ上がり夏を思わせる空になった。今年の夏は猛暑になるとの予想だが、すでに夏の暑さを予感させる。しかし、今日はより強い日差しだけれど爽やかな空気で、年に幾度とない美しい晴れ間であると実感できる。
美しい棚田に子どもの頃を思い出す
帰途につく前のひととき、棚田への散策に出かけた。棚田へは谷あいを降りてゆくのだが、細い林間の道に木漏れ日がさざめく。しかし、その木漏れ日は激しく強く、木漏れ日という言葉が全く似合わないほどだ。強い日差しに晒されるせいか杉の香りがはっきりと谷間に満ちているのが印象的だ。道に撒かれた間伐材チップの香りなのだろう。
間伐材チップは柔らかく山歩きの膝を守ってくれるが、さらには香りで心を癒す効果もあったのだなあ……とつくづく感心したのだった。
谷間を抜けると、急激に視界が広がりそこには棚田がある。ちょうど田植えをしたばかりだ。青いい空に白い雲が浮かび、強い日差しの中で虫の声と風の吹き渡る音だけが聞こえる様は少年の日の時間を思い出させた。
僕は東京出身だが、それでもそうした体験はあるものだ。それは鼻の奥に少しばかりの痛みを感じさせる効果を持っていた。特に今日は爽やかで汗も出てこない。それゆえ、どこか遠く、絵空事のようにものを感じるのにちょうどよかったのだろう。
棚田には大きな縁台がある。そこに腰掛けて眺める空と田んぼは、間違いなく1つの絶景であった。東京へ帰る前のひとときをゆったりと過ごそう。もう一度コーヒーブレイクだ。ちなみに僕は真夏もホットコーヒーだ。次は夏の盛りにコーヒーを飲みにくることにしよう。