特別企画
サーキットだけじゃない!「ツインリンクもてぎ」の魅力
併設されたハローウッズの森で撮影を楽しもう
2016年11月28日 07:00
自動車メーカー ホンダは西に鈴鹿サーキット、東にツインリンクもてぎと2つのサーキットを持っている。モータースポーツに力を入れるホンダらしい事業だ。
ツインリンクもてぎでは素晴らしい星の撮影も楽しめます。キャンプやグランピングの施設も充実! その撮影記はこちら。
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/special/1031330.html
ツインリンクもてぎでは自動車やオートバイのレースのほか、熱気球や飛行機レースなど幅広くモータースポーツイベントを行うことで、モータースポーツへの理解を深め、ひいてはモータリゼーション全般への興味や新たな取り組みを触発する役割を担っている。
そうした役割とともに、モータースポーツとは別の魅力を見せているのが、ツインリンクもてぎの中にある森、「ハローウッズ」だ。秋の1日、友人のメイクアップアーティストTOYOさんファミリーとハローウッズの森を歩き、そして写真を撮って来た。
ハローウッズはアトラクションなども楽しめるいわゆる“作られた森”であるが、訪れてみればおどろくほどフォトジェニックなロケーションが多く、朝から晩まで存分に写真撮影を楽しむことができた。作例の多さを見れば、いかに有意義な撮影だったかを感じてもらえるだろう。
ハローウッズのWebサイト
http://www.twinring.jp/hellowoods/
森を歩こう
ファッション誌での外ロケも多いTOYOさんはアウトドア派だが、最近はファミリーでのアウトドアに目覚めたそうだ。小さな子どもも連れてアウトドアを楽しみたい。そのためには本格ネイチャーでなく、人の手の入った森が良い。だからこそ今日は彼を誘ってみたのだ。
きょうTOYOさんは本業ではないのだが、ついつい仕事目線になってくる。「ここは森の中だから、少し赤みの強いメークにしようか。次はストロボ焚くから赤み抑えて」。そんな仕事的な話をしながらTOYOさん一家の記念写真を撮ってゆく。
しっかりと整備された森であるからこそ、ロケ場所を見つけやすい。開けた森で日当たりが良いからだ。太陽の移動とともに、道を歩けば、順光も逆光も思い通りに手に入るのだ。ゆったりと散策しながら、ファミリーで、カップルで、ポートレート撮影を楽しんでもらいたい。
◇ ◇
よく開けた明るい森の中を歩けば、逆光でも順光でも柔らかな光が手に入る。
外周の岩場からはサーキットが見下ろせる。男っぽい風景だ。このシチュエーションには強い順光が似合う。
綺麗にまとめられた落ち葉の山は格好の休憩場所だ。リラックスした家族の表情を撮ることができた。
下草の斜面はすっきりと涼やかな印象だ。ちょっとだけストロボを焚くと肌色が綺麗だ。
溢れる光
ハローウッズは、ツインリンクもてぎの開業当初から大切に育てられてきた森だ。モータリゼーションが人間の社会生活の中にあるものゆえ、やはり社会生活の中にある森との共生は重要である。ハローウッズはその1つの形を見せているのだと思う。
社会生活の中にある森とは原生林ではない。人の手によって維持される森だ。ハローウッズのきちんと間伐された森は、明るく日当たりがいい。しゃがみこんで森の小さな被写体を見つけた時も明るく気持ちのいい写真が撮れる。
◇ ◇
外周の岩場は夜にグッと冷えるのだろう。綿毛をつけた草はフリーズドライのようになっていた。しかし、それでも暖かい光が似合っている。
苔が生えるような場所さえ、木漏れ日がしっかりと入ってくる。マクロレンズに格好の被写体だ。
逆光の落ち葉がランプのように光っていた。広角で背景を多めに取り入れつつ、絞り開放でボカした。
苔やキノコなど菌類のディテールも面白い。日の当たる場所を見つけて手ブレしないよう速いシャッタースピードを使う。
空の色合い
ハローウッズでは1日をゆったりと過ごせる。空だけを見ながら1日を過ごしてもいいのではないかとさえ思える。落ち着いて居られる場所であるからこそそう思えるのだろう。
良い風景を求める場合、厳しい環境であることが多い。そんな時は空を眺めて過ごす時間はごく短いものだ。カラダは居心地のいい場所を求めているもので、空の色をじっくり撮影することはとても贅沢なことだとおもう。この場所ならそんな時間を過ごすこともできるだろう。
◇ ◇
早朝の空、男体山が赤く染まって見える。この時間は活発に雲も空の色も変化してゆく。慌ただしくても三脚はしっかり使おう。
日が昇るに連れ雲も増えて来た。特別なものではないが、雲の重なりとそこから溢れる光はいつも美しい。
昼にはよく晴れた。テラスの枠を入れて、安楽に空を見上げる気持ちを表した。
午後は少し薄曇りだが、西の空が見える斜面のテラスは暖かく居心地が良い。暖かい空の色合いも良い被写体だ。
光と影
よく晴れた強い日差しの魅力は、被写体となるものの存在感を強めてくれるものだが、もう1つ、強い影を作り出すことで、物体としては存在しない影という被写体を与えてくれることだ。石や枯葉など自然物に限らず、家具やオブジェのような人の手を経たものも、太陽が作る別のものへと変わってしまう。それは魅力的な何かであるが、ハローウッズの中でそれを見つけることは容易いことだ。
強い光と影は、さらに高いコントラストで強調しよう。カメラのピクチャーコントロールやRAW現像の時に、コントラストを高く設定する。可能であれば、同時に彩度をグッと下げる。すると現実とは違う色合いとなり、物体として存在してはいないということを表す表現となる。さらにホワイトバランスを変更してその被写体にマッチした色合いを作るといい。
◇ ◇
石に落ちた枯れ草の影。なにやら人の顔のようにも見える。
枯葉に開いた穴が面白い。テキスタイルの教科書を見ているみたいだ。色温度を低くして黄色味を足し、温かみを加えた。
椅子の影が長く伸びた。赤みを加えたらむしろ寂しげになった。
ユーモラスなロバのオブジェが影になったら、凛と居住まいを正して見えた。
森で見つけたもの
ハローウッズの森は穏やかに控えめに、整備される。それは観光地の公園のような整備ではない。しかし、控えめなのはその見た目であり、とても手のかかる丁寧な整備が行われている。
例えば、小道の柵や遊具も木製としたり、間伐材のチップで遊歩道を舗装したりと、材料そのものが自然に変える方法で行われている。そんな手間のかかる整備の合間の息抜きと森を訪れるものへのもてなしだろう、小さなオブジェがあちらこちらに配置されている。
そうしたオブジェたちは容易に発見できるものから、意識しないと見つからないものまで、様々だ。しかし、そのどれもが美しい森という背景の中にあり、とてもフォトジェニックだ。その雰囲気を心地よく拾い上げるには、明るい単焦点レンズやマクロレンズがいい。ズームレンズを置いて、単焦点レンズ1本で森を散策するのも、一興である。
◇ ◇
コンクリートの踊り場には、葉っぱのレリーフ。F1.4のレンズをF2に絞って撮影した。明るいレンズは1段絞るとシャープさとボケ感が両立する。
木のテーブルに、赤い枯れ葉が落ちていた。日差しが当たるだけで嬉しくなる被写体だ。マクロレンズなら近い被写体もシャープに、ボケも生かして撮影できる。
間伐材のオブジェ。彼はいずれ帰ってゆく。朽ちてゆく様が愛おしい。ハローウッズいちの人気者だそうだ。
雨が当たるような場所でも、良い細工の木製の椅子が置かれている。そこに刻まれた時間がハローウッズの特徴であり、撮るべき被写体である。
森の色
風景は天気や季節によって、その色合いを変えてゆく。しかし、それはよく見ると1日のうちにも変わっているのだ。光の変化は色合いの変化に結びついているのだ。ハローウッズは独立した小さい山なので、東西南北があり、そこに尾根と谷がある。それゆえ、日の傾きと日の当たり方が大きく変化する。
時間を変えて同じ場所を訪れてみるとその場所の色合いが全く変わっていることに気づくはずだ。同様に同じ時間帯で東西南北を巡るのも色合いの変化に結びつく。都会にいては気づきにくい事ばかりだ。
色合いの変化を写真にするなら、それは少し強調した方が良い。ホワイトバランスを変更するのが有効だ。色温度を高くすれば青く冷たく、低くすれば赤く暖かく、色かぶり補正を緑にすれば、森をみずみずしく、マゼンタに補正すれば紅葉を強調したり、秋らしい色合いに整えてくれる。それにしても、元の色合いを違ったものに変えるのではなく、元からある色を強調するのがコツだ。
◇ ◇
午前、東の尾根。葉の落ちた枝の影は季節の寂しさを伝えるが、朝の清々しく強い光はそれを打ち消し、小春日和の暖かさを伝えた。色かぶり補正を少し緑にして森の緑を生き生きとさせた。
午後西の谷で。直接光の当たらない場所であるからかえって柔らかい光で、秋の温かい色合いを表現できた。色温度を赤くし、色かぶり補正を少しだけマゼンタにした。
午後南の尾根で。曇ってしまったので、少し肌寒い。その感じをコントラストを低く柔らかい色合いで表した。色温度を青く、色かぶりを少し緑に補正すると、冷たいけれど柔らかい色合いになる。
午後東の谷、開けた場所。ここは日が当たらないけれど常緑の下草が柔らかく青々としている。色温度を青く、色かぶりを緑に補正し、草の色合いを強調するとみずみずしい緑が現れた。
溶け合うものたち
ハローウッズの森は人の手を感じさせない控えめさだが、メインゲートはちょっと違う。大きなメイン棟と巨大な樽のようにも見える2つの建物が存在している。しかし、それらは木造で隙間を生かした構造であり、この場所とよく調和している。もっと直裁に言えば、環境に馴染むのではなく、この風景に調和する事でハローウッズという環境を作り出している。
なぜならメイン棟はここを訪れるゲストと迎えるキャストのコミュニケーションと学びの場であるし、樽のような構造物は螺旋階段であり、ジップラインというアトラクションの入り口であるとともに、ハローウッズの森山頂への連絡道となっている。つまり、この建物そのものがハローウッズの機能部品なのである。
こうした魅力的な建築物はそれそのものが被写体となる。建築写真という表現分野もあるくらいだ。建物の機能を良く理解し、魅力的なアングルを探してみよう。建物の存在感を強く表現するなら、順光から斜光が良い。また、モノクロで撮って見ることも興味深い。色が排除され、形だけを抽出できるので、風景と調和する様子をより感じ取れるだろう。
◇ ◇
螺旋階段を取り巻くように木の縦通材が通っており、魅力的なオブジェにも見える。斜光では大きな構造をはっきりと捉えることができる。
メイン棟のテラス。モノクロスナップの風情だが、この場所の特徴を取り入れ、置かれた椅子や東屋が風景と調和する様子を写しとめた。
螺旋階段の上にはつり橋があり、山頂へと連絡する。シンメトリックな構図として、機能美を強調した。
メイン棟。曇りの日、順光。柔らかい光の方が細やかなディテールを表現しやすい。風通しがよく繊細なラインのメイン棟は柔らかい光がいいだろう。
光と遊ぶ
光を加える、照明を積極的にするということは、その場所から与えられるものを受け止めるだけでなく、受け取ったものに返答するコミュニケーションである。この森をまずはたっぷりと楽しんだら、自分の感じた森を演出して見るのも良いだろう。
人の手の見えない森の中で、自分という人の存在を見せて見るのだ。自分が見つけた風景はそのままではカメラに写るとは限らない。見つけた風景を写す努力が手法であり、それに費やす時間を楽しむこともまた写真を撮る楽しみになるのだ。
積極的な照明として、今回は長時間露光、ライトペインティングを用い、主要被写体の強調を行った。ライトペインティングは日暮れ後に行わなければ良い効果が得られない。通常は夜間に森に立ち入れないので、特別なプログラムがある時を利用すると良いだろう。
見たい、あるいは見せたいと思う場所だけを明るく照らし出せば良いのだ。長時間露光では、太陽が長い線を描くことで、視線を誘導したり、日差しそのものを強く感じさせたりすることができるのだ。
◇ ◇
日暮れ直後に間伐材を寄せ集めた小屋を照明して目立たせた。小屋に至る小道も照明すると視線は自然と小屋に向かう。
午後の森、10万倍のNDフィルターを使って1時間の露光をした。太陽が長く伸びて強い日差しであることが強調された。
日が傾き赤みが増した頃、およそ40分間の露光とした。やはり太陽の軌跡が長く伸び、面積が大きくなるので視線が誘導され、下の岩と繋がるラインが生まれ、安定した構図となった。
こちらは日暮れ直後のライトペインティング。バルブ露光にして、懐中電灯を手に持って歩けば、歩いたところが明るくなるのだ。
風景写真とアウトドア
以上のようにハローウッズの森で1日を過ごした。小さいとは言え、1つの山である。登り、下りを1日のうちに何度も繰り返した。しかし、全く疲れを感じていない。そのわけは遊歩道に敷かれた間伐材チップのおかげだ。細かく柔らかい木で舗装されていると言って良いだろう。そのクッション性のおかげで足が疲れないのだ。
同行してくれたTOYOさん一家のように乳幼児を抱いていても、危なげなく山歩きを楽しめる。ハイヒールは無理にしても重いアウトドアシューズもいらない。気軽に入れて安全な森だからこそ価値があるのだ。
風景写真を撮るということは多かれ少なかれアウトドアに接することを意味している。筆者も特にアウトドア派を標榜しているわけでないが、風景や星を撮りに行くために、無人島や川の源流、深い原生林や雪山など相応のアウトドアで多くの日数を過ごしている。そこは気軽に行ける場所ではないし、一歩間違えば生命に危険が及ぶ場所だ。
そうした場所ではストイックさを要求され、楽しさを求める場所ではない。そうしてでも撮りに行きたい写真があるにしても、日常がそれでは疲れ果ててしまう。本来、外遊びは楽しく、楽しむべきものなのだ。そこが安全であるなら、家族でも、カップルでも、友人同士でも気楽にアウトドアを楽しめる。風景写真を楽しみながら、山歩きも楽しみたい。そうした価値ある森がハローウッズなのである。
小さなものだが、私が山梨県の山林に土地を借りて20年が経つ。天体観測所として使っているのだが、定期的に手を入れないとすぐに原生林に帰ってしまう。山を維持することの大変さをほんのすこし知っている。それだけにハローウッズの森が思いつきで生まれたものではなく、環境を作って行くことの試みとして強い意思の元に生まれてきたものであることがわかる。
身近でありつつ尊い森であり続けて欲しい。ところで、ぼくの名前は茂手木だが遠いご先祖様はここ茂木の出身だそうな。僕もバイクは好きだし、大叔母は60年代後半にラリーをやっていた。きらびやかなトロフィーを見て育った身としては、ほんのすこしのご縁だけれども、茂木にサーキットができて嬉しく感じたものだ。
制作協力:株式会社モビリティランド