写真家が監修したフォトグラファー向けPCが登場!

TSUKUMOの写真家向けPCに中原一雄さん監修モデルが登場

高画素機のRAWも快適に編集 厳選したパーツで良コスパを実現

TSUKUMOの写真家向けスタンダードPCを監修した写真家の中原一雄さん。

フルサイズミラーレスカメラの話題が盛り上がる昨今、カメラの画素数は2,000万画素は当たり前、3,000〜4,000万画素といった高画素機を手にしていたり、近々導入予定という人も多いことだろう。

また、RAW画像を扱うソフトウェアも充実し、WEBや書籍などにも関連する情報が豊富になった事で、一般ユーザーがRAW現像を前提とした写真を撮るハードルもグッと下がってきた。

そうなると次の問題はそれを扱うPCのパワーだ。なにせ高画素機の"RAW現像における快適さ"は、マシンのパワーによって左右されるといって良い。じっくり時間をかけて調整する忍耐力と時間的余裕があるのなら、スペックが低めのPCでも作業は可能だが、1日夢中になって撮影した数百枚のRAW画像をサクサク快適に編集するなら、それなりのスペックのPCが必要だ。

では快適に編集作業を進めるには、どこまでスペックを盛る必要があるだろうか? そんな疑問を持つ読者も多いと思う。そこで今回はBTOブランド「eX.computer」を展開するTSUKUMOからお話をいただき、「今の時代にあったちょうど良いRAW現像向きPC」を写真家向けスタンダードPCとして監修させて頂くこととなった。

今回監修したPCのポイントは「できるだけ予算を抑えながら、RAW現像が快適に行えるPC」に仕上げたことだ。パソコンのスペックもカメラと同じで上を見ればキリがない。かといって中途半端なパーツを選んでしまうと、そこがボトルネックになり全体のパフォーマンスに影響してしまう。

私自身かれこれ10年近く自作PCで写真編集を行ってきた経験と、これまでも写真編集PCを手がけてきたeX.computerの経験を融合させて作り上げたPCについて、これから詳しく説明していこうと思う。

スペック

今回のPCのポイントである「できるだけ予算を抑えながら、RAW現像が快適に行えるPC」を実現するために作り上げた構成は以下の通り。

なおBTOモデルのため、ここからさらにスペックを増強することも可能だ。

パーツ構成

CPU:インテル Core i7-8700 プロセッサー
メモリー:16GB DDR4
グラフィックカード:NVIDIA GeForce GTX 1050Ti(ビデオメモリ4GB)
マザーボード:インテル B360 Express チップセット
システム用ストレージ:250GB SSD(SATAIII)
データ用ストレージ:1TB HDD(3.5インチ)
光学ドライブ:DVDスーパーマルチドライブ
カードリーダー:CF対応前面マルチリーダー
ケース:MicroATXミニタワーケース

実際のベンチマーク結果などはこの後紹介するが、標準構成の状態でもキヤノンEOS 5D MarkIVの約3,040万画素のRAWよりも画素数の多いソニーα7R IIIの4,240万画素のRAWデータを快適に現像出来る仕上がりとなっている。

それぞれの項目について選定した理由をもう少し掘り下げてみたい。

CPU

採用したのは第8世代のインテルCore i7-8700プロセッサーだ。現在コンシューマー向けハイスペック機で使われているCore i7-8700Kの"K"なし版だ。"K"ありなしの最も大きな違いは、ユーザーがCPUをオーバークロックできるかどうかとなる。他にもCPU動作周波数が多少異なるといった点はあるもののオーバークロックしない状態での性能差はさほど大きくない。

そのため、最上を狙わないのであれば、このCore i7-8700は非常にコストパフォーマンスに優れた選択になる。ちなみに、もしオーバークロックをするならば高価な"K"付きCPUだけでなく、マザーボードやマシンの冷却も対応させなければならず、大変なコストアップにつながってしまうのだ。

メモリー

今回の写真編集PCで最大のポイントとなるのがメモリーを標準で16GBとしたことだ。これまでeX.computerのスタンダードモデルの標準構成では8GBであったが、容量を倍増させた。

例えば、多くの人が使うAdobe Lightroomでは使用するメモリー量が多く、高画素機のRAW現像を行うと、システムが使用するメモリーが8GBを超えてしまうことがよくあるのだ。PCはメモリー不足に陥ると極端にパフォーマンスが落ちてしまう。

メモリーは価格が高く、コストに直接響く項目だが、ここをケチると全体のパフォーマンス低下に大きく影響しかねない所でもあるので、標準構成で豊富に搭載することにした。

グラフィックカード

高いレベルの編集を行うには高機能なグラフィックカードが必要だと考えている人も多いと思うが、グラフィックカードが効くかどうかは使用するアプリケーションによるところが大きい。

Lightroomをはじめ、写真編集向けのアプリケーションではグラフィックカードよりもCPUの性能の方がパフォーマンスに大きく響くことから、今回はコストパフォーマンスに優れるGeForce GTX 1050Tiの採用となった。

コスパに優れるとはいえ、4Kやマルチディスプレイ環境はもちろん、8Kにも対応出来る4GBのビデオメモリを搭載したカードのため、性能面ですぐに不満が出るということは少ないだろう。もちろん、動画編集ではグラフィックカードの性能が効いてくる場面もあるが、フルHD動画の編集や簡単な4K動画の編集ならGeForce GTX 1050Tiでも十分な性能を発揮するはずだ。

インターフェイスはDVI-D、HDMI、Displayportで3画面までの出力が可能。

マザーボード

CPUやメモリーなどパーツを載せるための土台となるものだ。ここでは信頼性に優れるASUS製のマザーボードを採用した。載せるCPUの種類や拡張性が異なるチップセットという規格があるが、ここもコストパフォーマンスに優れるB360を採用。

ハイエンドモデルと比べると拡張性は劣るが、拡張カードを多数増やすような使い方をしなければ十分な実力を持っている。

メモリースロットは標準の16GB構成(8GB×2)およびアップグレードの32GB構成(16GB×2)なら2つ空きがある。PCI Express×1スロットも1つ開いている状態だ。

システム用ストレージ

OSやアプリケーションをインストールするシステム用ドライブには最近では定番となったSSDを採用。容量は標準で250GBと普通に使うぶんには十分な量がある。

HDDに比べてPCやアプリケーションの立ち上がりが非常に高速になり、快適だ。ベンチマークも良好な結果が得られた。

CrystalDiskMarkによるSSDのファイル転送ベンチマーク結果

データ用ストレージ

写真や動画、音楽など容量が大きなデータはSSDに入れてしまうとすぐにいっぱいになってしまうため、大容量なHDDに保管するのが良い。

標準では1TBとしたが、比較的安価に2TBや3TBへアップグレードも可能だ。

CrystalDiskMarkによるHDDのファイル転送ベンチマーク結果

光学ドライブ

高速インターネットが普及し、光学ドライブを使う機会は減ってきているがDVDに写真を記録して友人に渡す、DVDでもらうといったシーンは写真をやっているとよくあるはずだ。完全になくなってしまうと困ることもあるため、DVD±R 2層書込みに対応したDVDスーパーマルチドライブを標準で搭載。BD搭載ドライブにアップグレードすることも可能だ。

カードリーダー

CF、SD、microSDなど、カメラによって使用するカードが異なるため前面にマルチカードリーダーを設置。手軽にカードの読み書きが可能だ。マザーボードの内部ポートの関係で高速なUSB3.0にすることは適わなかったが、メモリーカードの取り扱いが多い写真愛好家なら付いているだけでも安心できるだろう。

もし高速なカードリーダーやXQDなどの次世代カードリーダーを持っているなら、カードリーダー無しにダウングレードさせることも可能だ。

ケース

一般家庭でも置き場所に困らないコンパクトなMicroATXミニタワーケースを採用。設置面積はコンパクトながら、内部の拡張性には少し余裕があり、アップグレードで2台目のHDDを追加することも可能だ。

フロントとリアには12cmケースファンを搭載しており、長時間の編集作業にも安心な自然なエアフローを実現している。ケースファンには防塵フィルターも標準で搭載されているため、ホコリなどの侵入を防止してパーツへのダメージを抑えられる。

前面にUSB3.0ポートを備えるほか、背面にはより高速なUSB 3.1 Gen2に対応したポートもある(緑色のポート)。

ちなみに電源容量は、検証機では400Wとなっているが、最終仕様ではより余裕のある550Wになることが決まった。400Wでも問題はないが、太っ腹なTSUKUMOさんに感謝したい。

Adobe Lightroomの動作を検証

上記のような構成で果たしてどのくらいの実力が発揮できるのか、いくつかのシーンを想定して実際のパフォーマンスを検証してみた。

まずはRAW現像をどれだけ快適に行えるかを検証するために、私自身も日常的に使っているAdobe Lightroom Classic CCを使っていくつかのベンチマークをとってみた。

テスト条件(RAW→JPEG)

RAW現像を行う際、最もマシンパワーを必要とするのがこのRAWからJPEGへの書き出しだ。今回はEOS 5D MarkIV(約3,040万画素)とα7R III(4,240万画素)で撮影し、各種パラメータ調整済みのRAWデータを、それぞれ100枚JPEGに書き出した時の速度を比較した。

書き出し条件はオリジナルサイズ、画質80に設定し、他はデフォルト設定とした。

比較したのは私が普段仕事で使っているメインPCで、Core i7-8700K、メモリー48GB、GeForce GTX 1070と今回のPCよりも1ランク上のスペックを有しているものだ(オーバークロックなし)。私のマシンは多数のアプリケーションがインストールされ、いくつかのアプリが常駐している普段の業務に使う状態での比較とした。なお、eX.computerモデルは前記した標準構成のままだ。

結果

驚いたことに、ほとんど同じくらいの時間で現像が完了した。Lightroomの場合、書き出しの速度はCPUの速度に依存するため、Core i7-8700とCore i7-8700Kの数%のパフォーマンス差がそのまま出た形だ。

Lightroom Classic CCでの書き出し速度
監修した新PC日常使っているPC
EOS 5D MarkIV3:203:13
α7R III4:514:41

現像中のタスクマネージャーは写真のとおり。Core i7-8700の6コア12スレッドがしっかりとフル回転しているのが分かる。また、左のメモリーとGPUの項目にも注目したい。EOS 5D MarkIVの書き出し中で、システム使用メモリーは8GB近くに達し、α7R IIIの書き出しでは10GB近くとなった。高画素機で現像するにはメモリー8GBでは足りないのだ。今回の16GBであればメモリー不足を引き起こさずにパフォーマンスを発揮できる。

Lightroomでは書き出し時にGPUは使われていないこともわかる。使用するアプリケーションにもよるが、Lightoomを使うなら高価なGPUを積むよりもCPUやメモリーに投資した方がメリットが大きいことが分かるだろう。

Lightroomの他の処理についても速度を比較してみた。検証項目は、軽量ながらRAWと同じように扱えるスマートプレビューの生成と、非常に重い処理のひとつであるパノラマ合成だ。

スマートプレビューは先ほどのEOS 5D MarkIVのRAWデータ100枚からの生成、パノラマはEOS 5D MarkIIIの8枚のRAWデータからの合成とした。結果は以下の通りだ。

Lightroom Classic CCでの書き出し速度
監修した新PC日常使っているPC
EOS 5D MarkIV
スマートプレビュー100枚
0:340:45
EOS 5D MarkIII
8枚パノラマ合成
0:170:16

なんとスマートプレビューの生成に関しては私のマシンよりもeX.computerモデルの方が大幅に速い結果となった。私のマシンでのLightroom環境はカタログに30万枚を超える写真が登録されているため重く、カタログデータの書き換えを必要とするスマートプレビュー生成完了までに時間がかかったのだと推測できる。パノラマ合成に関してもほとんど変わらない時間で行うことができていた。

このようにLightroomでのRAW現像であれば、スペックがひとつ上のPCと大差ない環境で作業できることがわかるだろう。

ただし、今回は初期状態からLightroomだけを立ち上げてクリーンな状態で検証を行っている。常駐するアプリケーションを多数入れたり、Photoshopやブラウザを立ち上げながら高画素機のRAWデータの処理を行うと、16GBではメモリー不足に陥るシーンも予想される。はじめから重い処理をバリバリやりたいのであれば、もう少しメモリーを増やしておいても良いだろう。

Adobe Premiere Proを使った検証

最近ではカメラで動画を楽しむ人も多い。そこで簡単に動画編集にも使えるかどうかチェックしてみた。使用したアプリケーションはAdobe Premiere Proだ。

定量的な検証までは行っていないが、写真のようにフルHDの動画をタイムライン上に4本重ね、それぞれに色調補正やブラーなどのエフェクトをかけてみたが、問題なく快適に編集を行えた。

手元の4K動画(XAVC S)でも試してみたが、色調補正程度であれば画面がカクつくこともなく、スムーズな編集が可能だった(ブラーなど重めのエフェクトを入れるとカクつく)。

Adobe Premiere Proでは主にプレビューでGPUのパワーが使われるが、デフォルトの1/2解像度でのプレビューならGTX 1050TiでもさほどGPU使用率が上がることなく使う事ができていた。

このように、趣味でつくるような動画やYouTube向けの編集程度であれば十分快適に作業できるはずだ。

パソコンだけでなくモニターにも気を遣おう

ハイスペックなPCは処理速度が速くなり快適に作業ができる一方、だからといって直接的にRAW現像の質が向上するわけではない。写真編集をするなら、どんなに高速なPCがあっても、写真を正しく見ることが出来るモニターがなければ意味がないのだ。

今回のモデルはモニターが付属しないため、自分が撮影した写真の色や階調を正しく見ることができるモニター選びができるチャンスでもある。昔は高価で手が出なかったカラーマネジメントディスプレイも最近は手に入りやすい価格のものも増えてきたので、ぜひ自分に合ったモニターを考えてみて欲しい。

検証機で使用したモニターはBenQ SW240。手頃な24インチカラーマネジメントディスプレイだ。

おすすめBTOカスタマイズ

以上のように標準構成でも十分なパフォーマンスを発揮する本モデルだが、ハードに使う場合は購入時にオプションでアップグレードさせることも可能だ。いくつか高い効果が見込めるアップグレードオプションを紹介しておきたい。

まずはこれまで何度も紹介したメモリーの重要性だ。パソコンはメモリー不足に陥ると急激にパフォーマンスが悪くなるため、多すぎて困ることはない。例えば常にブラウザを立ち上げながら作業するとか、PhotoshopやIllustratorなど複数のアプリを連携させて使う、あるいは積極的に動画編集を行うといった用途に使うなら、少々コストはかかるが最初から32GBにアップグレードしておくことをおすすめしたい。

最初から32GBにしておくなら、16GBのメモリーを2枚採用する構成となるため、スロットに2つ空きが出る。これなら将来的にメモリーをさらに増やしたい時にも対応可能だ。

Lightroomを使うならシステムストレージの増強も検討して欲しい。Lightroomは写真データの他に、"カタログ"というデータベースを生成して写真を管理する。このカタログは高速なSSDに置いた方がパフォーマンスの向上につながるので、システムドライブに保管するのがベターな設定だ。

カタログ関連ファイルは写真10万枚の登録時で、おおよそ100GBくらいのサイズ感となる。多数の写真をLightroomで管理しようとした場合、250GBでは将来的に不足する恐れもあるので、余裕があれば500GBにアップグレードしておくといいだろう。

後からシステムディスクを交換するのは大変だ。250→500GBであれば追加コストもあまりかからない。

データ用に1TBのHDDを用意しているが、RAWで大量に写真を撮るならHDD容量アップも検討してみると良いだろう。2TBや3TBへのアップグレードなら安価に行えるのでおすすめだ。

まとめ

以上のように、使用するパーツを実際の用途に照らし合わせて厳選することで「できるだけ予算を抑えながら、RAW現像が快適に行えるPC」を作ることができた。

検証結果に示したとおり、標準構成でも上位クラスのPCに引けを取らない実力をもった写真編集に最適化したモデルだ。

快適に作業できるPCが手元にあると写真は撮るだけでなく撮った後にも楽しむことができる。もし現在の編集環境に不足を感じているようであればこのモデルも検討して欲しい。

制作協力:株式会社Project White(ツクモ)

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワーク ショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主催 。