新製品レビュー

キヤノンEOS Kiss X8i(外観・機能編)

先進機能とシンプルな操作性の融合

ビギナーをターゲットとした35mm一眼レフは、1970年代後半から各社がラインナップしてきたように記憶している。一眼レフにAE(自動露出機能)が搭載されるようになり、絞り優先AE専用の単機能として「一眼レフ=専門的で難しい」というイメージを払拭させていた。

その頃の主なビギナー向け絞り優先AE機といえば、ニコンEMやミノルタX-7、ペンタックスMV-1、オリンパスOM10などだ。キヤノンもローエンド一眼レフのAV-1をラインナップしており、その後はプログラムAE専用機のT50も発売。コンパクトカメラのように扱える一眼レフとして話題を呼び、AFの時代になってもEOS750に受け継がれた。

だが1990年には、ビギナー向けながら全自動モードと本格仕様を合わせ持つEOS1000が発売され、エントリーモデルも中級機並みのスペックを持つようになる。そして1993年、高機能のまま小型軽量を進化させたEOS Kissが誕生。一眼レフとしては驚くほど小さくて軽いこと、そして「Kiss」というソフトなネーミングで、これまで男性が中心だった一眼レフの世界に、女性ユーザーが爆発的に増えた。

EOS Kissシリーズはキヤノンだけでなく、ファミリー向け一眼レフを代表する機種として大ヒット。デジタルになった現在でも、Kissはエントリー一眼レフの定番なのは御存知の通りだ。そして今回、EOS Kiss Xシリーズの8代目となるEOS Kiss X8iが登場した。

発売は4月17日。実勢価格はレンズキットが税込9万9,770円前後、ダブルズームキットが12万5,390円前後、ボディ単体が税込9万3,420円前後。

本格派モデル「EOS 8000D」との共通点・相違点

ボディサイズは、同時に登場したEOS 8000Dとほぼ同じ。しかし本体上面には液晶パネルがなく、ダイヤルやレバーのレイアウトはEOS Kissシリーズお馴染みの、右手側に集中させている。そして左手側の上面には操作部が何もないのも、デジタルのEOS Kissシリーズ共通だ。そして背面には、EOS 8000Dには装備されたサブ電子ダイヤルがない。電子ダイヤルはシャッターボタン側にひとつだけなのも、EOS Kissシリーズを踏襲している。

グリップはEOS 8000Dと同じ形。エントリークラスのモデルは、ボディの小型化を意識しているのと、手が小さい女性でも握りやすいよう、グリップが小さい印象がある。しかしEOS Kiss X8iは男性でもしっかりホールド可能だ。しかも大柄ではないため、女性でも大き過ぎることもないだろう。

背面のバリアングル液晶モニターも、今やEOS Kissシリーズでお馴染みの仕様だ。ハイアングルやローアングルが横位置でも縦位置でも撮りやすい。外観デザインやバリアングル液晶モニターの搭載は、前モデルEOS Kiss X7iとほぼ同じなので、正直なところ、一見新鮮味は少ない。しかし内部は大きく進化した。

右手側の上面には液晶パネルがなく、操作部が集中しているのは、EOS Kissシリーズの特徴だ。EOS Kiss X8iのKissらしい部分だ。電源レバーは、ONの先は動画になる。
背面にサブ電子ダイヤルを持たないのは、フィルムの初代EOS Kissから続くKissの伝統だ。高機能をシンプルな操作で扱える。十字キーには機能が割り当てられていて、コンパクトデジタルからステップアップした人にもわかりやすい。
左手側の上面には、ダイヤルやボタン類が何もないのもKissの特徴だ。おかげでよりシンプルな印象になる。ただしEOS Kiss X8iには、無線LAN機能のランプが装備されている。
EOS Kiss Xシリーズではすっかりお馴染みになったバリアングル液晶モニター。様々なアングルでの撮影はもちろん、動画でも快適な撮影が行える。
バッテリーはEOS 8000Dと共通のバッテリーパックLP-E17を使用する。
メモリーカードスロットは本体側面に装備。エントリーモデルは小型化を優先させて底面のバッテリー室と共用する機種が多いが、EOS Kiss X8iはミドルクラスのような構造だ。これにより三脚使用時でもSDカードが出し入れしやすい。
内蔵ストロボはガイドナンバー約12(ISO100・m)。E-TTL II自動調光に対応し、±2段の調光補正も行える。またFEロックや、光通信によるワイヤレスストロボ制御も可能だ。
左側面の後方には、映像/音声出力・デジタル端子とHDMIミニ出力端子を装備する。
左側面前方は、リモコン端子と外部マイク入力端子を持つ。

高まる基本性能。スマホ転送も

撮像素子は、APS-Cサイズの有効2,420万画素CMOSセンサー。なんと画素数では、APS-Cサイズのハイエンド機であるEOS 7D Mark II(有効約2,020万画素)を超えてしまった。そして映像エンジンDIGIC 6を搭載。大きなデータも高速で処理することができ、連写の最高速は約5コマ/秒だ。

さらにAFは、オールクロス19点測距。EOS Kiss X7iの9点から大幅に増えたため、構図の自由度がより広がった。しかもAIサーボAF IIが新搭載され、19点測距と併せて動体にも強い。動き回る子供やペットに威力を発揮する。測光システムもEOS Kiss X7iの63分割デュアルレイヤー測光から、7,560画素RGB+IR測光になり、被写体検出精度が向上した。

ライブビュー撮影も進化した。位相差AFとコントラストAFを組み合わせた「ハイブリッドCMOS AF III」により、EOS Kiss X7の最大約4.8倍という高速AFを実現している。これまでデジタル一眼レフでライブビュー時のAFというと、多くの機種は動きが遅くて使いにくい印象が強かった。しかしEOS Kiss X8iは、全くストレスを感じない。特にこのクラスのユーザーは、スマホのカメラ機能やコンパクトデジタルからステップアップした人も多いはず。ファインダーを覗きながら撮影する習慣がなかった人にも、ライブビューで快適な写真が楽しめる。

また液晶モニターはタッチパネルになっていて、各種設定や再生時の拡大や縮小、戻り、送りもタッチで可能。タッチAFもできる。これもスマホ感覚で操作なので、ビギナーには嬉しい仕様だ。

タッチパネルから各種設定が行える。タッチの反応もよく、快適に操作できた。もちろん、十字キーから設定することも可能だ。
再生画面
背面のフレーム選択ボタンやAEロックボタンで再生画像の拡大や縮小もできるが、画面をピンチして拡大や縮小も可能。スマホ感覚で操作できるので、スマートデバイスユーザーでも違和感なく扱える。
画面をスワイプして、再生画像の戻り、送りもできる。これもスマホ感覚だ。
ライブビュー時は、画面のタッチでAF測距が行える。
そのまま被写体が動いたり、カメラが移動すると、AFは被写体に追従する。

スマホやタブレット端末などのスマートデバイスユーザーに見逃せないのが、EOS Kissシリーズで初となる無線LAN機能の搭載だ。NFCに対応しているため、NFC対応のスマートデバイスをEOS Kiss X8iにかざすだけで接続できる。撮影した画像をスマホに転送すれば、すぐSNSへアップロードが可能。友人や家族にメールで送るなど、シェアも楽しめる。またリモート撮影もできるので、記念写真も楽々。さらに無線LAN機能対応のプリンターで直接プリントしたり、カメラ同士で撮影データを送受信したり、写真を幅広く楽しむことができる。

Wi-Fi/NFCを「使う」にすると、無線LAN機能が働く。
無線LAN機能による接続は、スマートフォンだけでなく、カメラ同士やプリンター、Webサービス、メディアプレーヤーCS100とも通信できる。
無線LAN機能を使い、スマホでリモート撮影の様子。ライブビュー画像がスマホで確認でき、測距点の選択や絞り値、露出補正、ISO感度やホワイトバランスなど、各設定がスマホから行える。

シンプル操作が信条の入門機

EOS 8000Dのレビューでお伝えした通り、EOS Kiss X8iは基本的にEOS 8000Dと主要スペックが共通だ。ただしEOS Kiss X8iには、EOS 8000Dには搭載されているライブビュー時のサーボAFや動画時のデジタルズーム、電子水準器は持たない。とはいえ、異なる点はそれだけ。エントリークラスながら、ワンランク上のスペックを持っている。

しかも高機能ながら、EOS Kissらしいシンプルな操作も実現している。中級者向けに近い雰囲気が楽しめるEOS 8000Dに対し、EOS Kiss X8iはビギナーや女性にもハイスペックが親しみやすい仕上がりだ。なおボディカラーはブラックのみ。カラーバリエーションが欲しいような気もするが、かえってシックなブラックの方が、一眼レフを手にしている満足感に浸れるかもしれない。

小型軽量のEOS Kiss X8iは、小型の単焦点レンズを装着してもバランスがいい。これはEF50mm F1.8STMを装着した状態。35mm判換算では80mm相当の中望遠レンズになり、ポートレートやボケを活かしたスナップに向く。また薄型パンケーキレンズのEF-S24mm F2.8 STMもよく似合う。

次回の実写編で、実際に使用した感想をお伝えする。

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になる。現在はカメラ雑誌での撮影、執筆を中心に、国内や海外の街のスナップを撮影。公益社団法人日本写真家協会会員。