写真を巡る、今日の読書

第89回:写真と文章の関係を考える―実践的な文章技術への道しるべ

写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。

現代における写真と文章の関係

仕事柄、文章を書く機会は多くあります。しかし、これは決して私だけに限ったことではありません。おそらく多くの写真家が、文章を書くことの得手不得手にかかわらず、何らかの形で文章執筆を行う機会は多いのではないかと思います。

私がまだ学生だった頃には、「写真に言葉や文章など必要ない」と主張する写真家や写真研究者がある程度おりましたが、今ではそのような考え方は、圧倒的に少数派になってしまったように感じます。もちろん、「写真に言葉はいらない」というコンセプト自体は、今でも十分に成立し得ます。ただ、その立場をとる場合でも、なぜ言葉が不要なのかを説明しなければならないというジレンマに陥ることがしばしばあるでしょう。

この背景には、現代の写真やその他の芸術が、何らかのメッセージを伝えたり、コミュニケーションを図ったりするものだという前提があるのかもしれません。もし作品を通じて、あらゆるコミュニケーションの断絶を表現しようとするならば、言葉を一切必要としない視覚芸術も可能かもしれません。実際、そのような徹底した表現方法も時折見られます。

とはいえ、多くの方にとっては現代写真を行うにあたり、なかなか言葉を無視するのも難しいと思いますので、今回は文章技術について参考になりそうな本をいくつか紹介してみたいと思います。

『相手への心づかいが行き届く 一生使える「文章の基本」 』木山泰嗣 (著)(大和出版/2023年)

1冊目に紹介したいのは、『相手への心づかいが行き届く 一生使える「文章の基本」』です。以前、法学部の先生と話していた際「法律を学ぶことは、正確な日本語を学ぶことだ」と伺ったことがあります。その記憶があったため、著者の経歴を知り、同じく法学者による文章技法の本であれば信頼できるのではないかと思い、本書を手に取りました。

本書は、「文章を書くとは、『読み手への心づかい』を尽くすことである」という考え方を軸に、伝わる文章の基本が丁寧にまとめられています。推敲のポイントなども具体的に挙げられており、まさに「基本」をしっかり押さえられる1冊だと感じました。読む相手を意識して書くことで、誰に何を伝えるべきかが明確になり、私自身も自分の文章の書き方を見直す良いきっかけとなりました。

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『物語を作る魔法のルール 「私」を物語化して小説を書く方法』山川 健一 (著)(幻冬舎/2023年)

2冊目は、『物語を作る魔法のルール 「私」を物語化して小説を書く方法』です。この本は文章技法というよりも、テーマの見つけ方や作品のコンセプト、設計について多くの示唆を与えてくれます。「物語」とは何か、そしてそれが「小説」になるためにはどのような条件や方法が必要なのかが冒頭で解説されています。ドストエフスキーやジャック・デリダといった作家のほか、「不思議の国のアリス」や「シンデレラ」などの作品を基に物語の構造が語られており、自分の興味のある作家や物語からその仕組みを学べるのも面白いところです。特に印象に残ったのは、第三章で取り上げられている太宰治「メリイクリスマス」の構造分析です。とても好きな話で、繰り返し読んできた物語ですが、改めて解説を読むことで新たな発見があり、非常に興味深く感じました。「私」を物語化するという方法は、写真制作にも応用できる点で大いに参考になります。

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『クリエイターのための 幻想類語辞典』 新紀元社(編集)、川口 妙子(編集)(新紀元社/2024年)

最後に紹介するのは、『クリエイターのための 幻想類語辞典』です。私は子どもの頃から、国語辞典や大辞林、類語辞典、英和/和英辞典などを眺めるのが好きでした。辞典で偶然目に留まった単語から新しい知的発見があったり、その言葉の響きからさまざまな物語を想像したりしていたからです。本書も同様に、さまざまな単語とその意味を眺められる構成になっています。

一般的な類語辞典というよりは、ゲームやアニメ、漫画などのメディアでよく使われる神話や伝承に登場する用語や固有名詞をジャンル別にまとめた単語帳のような作りです。言葉から新たな発想や物語が生まれる楽しさを、改めて感じさせてくれる1冊でした。

大和田良

(おおわだりょう):1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。