新製品レビュー
ニコンCOOLPIX A
画質と操作性を両立したAPS-Cコンパクト
(2013/4/1 00:00)
大型イメージセンサーを搭載するコンパクトデジタルカメラが、現在カメラ業界のトレンドのひとつとなっている。その主だった理由は世間一般で言われているとおり大きく2つあり、まずひとつはさらなる画質の追求である。センサーサイズが大きければ階調再現性やダイナミックレンジ、高感度特性などで有利となり、ボケを活かした描写も楽しめるからだ。もうひとつがコンパクトデジタルカメラの高付加価値化だ。普及価格帯コンパクト機のシェアをスマートフォンに奪われているカメラメーカーが次の施策として、高級機路線に重きを置きはじめたことによる。
現在1インチ以上のイメージセンサーを積むコンパクトデジタルカメラは、キヤノン、シグマ、ソニー、富士フイルム、ライカなど多くのメーカーからリリースされている。ニコンも重い腰をようやく上げ、APS-Cセンサーを積む「COOLPIX A」をリリースした。発売は3月21日。本テキスト執筆時点の量販店店頭価格は11万9,800円前後である。
まずは、やはりイメージセンサーから話をすすめたい。COOLPIX Aのセンサーは前述のとおりAPS-Cサイズ、いわゆるニコンDXフォーマットである。もちろんCOOLPIXシリーズの中では最大となるもので、ズームコンパクトの「COOLPIX P330」などが搭載する1/1.7型センサーに比べその大きさは圧倒的といえる。有効画素数は約1,616万。COOLPIX Aに先駆けて発売された同じDXフォーマットのデジタル一眼レフ「D7100」の約2,410万画素と比べれば画素数は見劣りするように思えるかもしれないが、絶対的な描写からいえば画素ピッチの大きいこちらのほうが有利と考えてよいだろう。
このイメージセンサーのもうひとつの特徴として、ローパスフィルターレスという点がある。一般的にレンズの解像力がより活かせる反面、モアレや偽色が出やすいといわれる。しかし、ローパスフィルターを搭載していたとしてもモアレや偽色を完全には抑えることができないことを考えると、この際なくてもよいように思える。また、同社の画像ソフト「Capture NX2」などを使えばモアレ低減処理ができてしまうことも、ローパスフィルターレスの積極的な採用を後押ししているといってよいだろう。ピクセル等倍で鑑賞できるデジタルになってからカリカリとした解像感が好まれる傾向が強いが、そのようなことも鑑みると、ローパスフィルターレスがスタンダードとなる日もそう遠くないのかも知れない。
画像処理エンジンは「EXPEED 2」を搭載。EXPEED 3が出ている現在ではちょっと古めかしく感じるかもしれないが、画素数やカメラの性格を思えば十分なものといえる。感度域はISO100からISO6400、拡張機能でISO25600相当まで設定できる。コマ速は最高4コマ/秒。14bit RAWでの記録に対応している。この辺りについては、画素数も含め同社のデジタル一眼レフD5100にかなり近いスペックといえる。
搭載するレンズは、専用設計のNIKKOR 18.5mm F2.8。35mm判換算で約28mm相当となる。イメージセンサーのタイプは異なるものの、スペック的にはシグマDP1 Merrillと真っ向勝負といえるだろう。イメージセンサーとの最適化が計りやすいレンズ固定式である点も、描写について大いに期待させる。レンズバリアを備えた沈胴式レンズを採用しているのも特徴。おかげでレンズを収納すると、ボディの大きさは小型のイメージセンサーを積むコンパクト機のようである。実際、レンズおよびグリップ等の突起をのぞくボディサイズは実測値で110×62×25mmで、これは1/1.7型のCOOLPIX P330よりもわずかに大きいだけ。COOLPIX P7700とくらべると一回り小さい。
最短撮影距離はマクロAFモード使用時でレンズ前面から10cm。ボケを活かしたクローズアップ撮影も手軽に楽しめる。鏡筒の根元にフォーカスリングを備えており、AF合焦後シームレスにMFでのピント合わせが可能。28mm相当の広角レンズではあるが、センサーサイズの小さい一般的なコンパクトデジタルと異なり、撮影距離などによってシビアなピント合わせが要求されることを考えるとうれしい機能といえる。
肝心の描写だが、ローパスフィルターレスのイメージセンサーと、光学的に有利な単焦点レンズという組み合わせで、シャープネスの冴えは期待通りである。ただし、レタッチソフトで盛大にシャープネスをかけたようなものを想像するとガッカリする。あくまでも控えめなシャープネスの高さで、品があるといえばよいだろうか。もちろんローパスフィルターを搭載したカメラで撮影した画像よりは当然シャープネスは高いが、髪の毛の描写などがバリバリになるような感じでは決してない。レンズのヌケのよさからくる良好なコントラストも、解像感の高さに結びついているように思える。
ディストーションおよび周辺減光については、目立ったものは見受けられない。特にディストーションは皆無といってよいレベルである。
同様に画面周辺部の色にじみも非常に少なく、ローパスフィルターレスの描写をフルに活かした画像が得られる。
イメージセンサーや画像処理エンジンが深く関与する部分では、まず階調再現性はさすが大型のイメージセンサーだと唸らせるものである。ハイライト、シャドー部ともよく粘り、コンパクト機として考えるなら、他を圧倒する。いわゆる“作品レベル”の描写であることは改めて述べるまでもない。高感度での描写についても同様で、「D7000」や前述のD5100とよく似たレベル。高感度ノイズはよく抑えられており、ISO3200ほどでも十分実用レベルといってよい。ノイズの現れ方も、いわゆる粒の揃った嫌みのないものである。ノイズリダクションの効きが影響する解像感の低下も、A4サイズでプリントする程度なら気になることはないだろう
大型のイメージセンサーを搭載するコンパクト機の場合、AFの速さが気になることもあるが、それについても不満を抱くようなことはない。コントラストAFでシャッターボタンの半押しとともに間髪置かず合焦するようなものではないものの、スナップ撮影などでシャッターチャンスを逃すようなことはないだろう。
操作性はどうだろうか。まずは同社のデジタル一眼レフに近いダイヤル類のレイアウトを持つ。特にカメラの上部のコマンドダイヤルによる操作はそのまま継承しているといえる。コマンドダイヤルは操作感がよく、側面のローレットの手触りもよい。このクラスのカメラによくある露出補正ダイヤルはなく、こちらもデジタル一眼レフ同様、露出補正ボタンを押しながら、コマンドダイヤルで設定を行なう。
ただし、カメラを両手で持たないと露出補正ができないのは些か面倒。露出補正ボタンがカメラ背面左手側にあり、しかも押し続けている間のみ設定が可能であるためだが、同社のデジタル一眼レフのように右手のみの操作でも設定できれば、スナップ撮影の時など便利なように思える。
液晶モニターは3型92万ドット。メニューやインフォ画面の表示もデジタル一眼レフに準じたものとしている。同社デジタル一眼レフのユーザーならば、初見でも操作や設定に戸惑うことはないだろう。電源ボタンはシャッターボタンと同軸のレバータイプ。カメラを構えたままの状態ですぐに電源を入れることができる。COOLPIXシリーズでは押しボタンタイプの電源ボタンを採用するものが少なくないが、それよりも断然に使い勝手はよい。
グリップは小柄なタイプとするが、これが意外と具合がいい。適度に指がかりがよく、しかも大きく張り出していないので持ち運びのときなど気にならない。筆者はソニーサイバーショットDSC-RX1を所有しているが、同モデルのグリップが心もとなく感じているだけに、COOLPIX Aのグリップはうらやましく思える。外装は前後カバーにアルミニウム合金、トップカバーにはマグネシウム合金を採用する。塗装も高級感あるもので、カメラの格に相応しい仕上がりである。
GPSおよびWi-Fiは内蔵こそしていないものの、GPSユニット「GP-1A」(2万2,050円)とワイヤレスモバイルアダプター「WU-1a」(5,250円)が利用できる。GPSユニットは一眼レフカメラ用のもので、コンパクトな本機に装着した姿は少々アンバランスに感じられるかもしれない。
COOLPIX Aは、大型のイメージセンサーを積むニコンのコンパクト初号機ながら、デザインも含めよくまとまった隙のないカメラである。これまで同社はコンパクト機をつくるのが上手くないといわれてきただけに、ビッグ2の一端を担うメーカーの面目躍如といえるものだ。ニコンファン、とりわけ同社のデジイチファンには注目されること請け合いである。今後、異なる焦点距離のレンズを持つバリエーションモデルの登場にも期待したくなる。