【新製品レビュー】ニコンCOOLPIX S800c
ニコンの「COOLPIX S800c」(以下S800c)は、Android OSを搭載したコンパクトデジタルカメラだ。1/2.3型有効1,602万画素の裏面照射型CMOSセンサーや35mm判換算25-250mm相当F3.2-5.8の10倍ズームレンズといったカメラ要素を持ちつつも、Android 2.3と背面のタッチパネルを利用し、スマートフォンのようにも扱える。
IEEE 802.11b/g/n準拠の無線LANを搭載し、S800cで撮影した画像を直接TwitterやFacebookなどへ投稿することが可能。A-GPS対応のGPSも搭載しており、位置情報を写真や動画に記録することも可能だ。3G通信機能は搭載しないため、インターネット接続は無線LANのみとなる。
発売は9月27日。店頭予想価格は4万8,000円前後の見込み。
■前面はカメラ、背面はスマートフォン
本体前面は一見すると普通のデジタルカメラだが、背面ディスプレイは右側に「MENU」「ホーム」「戻る」というAndroidならではのボタンを搭載。このボタンを下側にして縦持ちすることでスマートフォンのような操作が可能だ。
本体上部にはシャッターボタンとズームレバー、電源ボタン、左側面にはminiHDMIポートとUSBポート。USBポートは独自形状となっており、付属の専用ケーブルでのみ充電やデータ転送が可能。専用ケーブルはUSB経由での充電も可能だ。
本体底面には三脚ネジ穴とバッテリーおよび記録メディア室を備える。記録メディアはSDXC/SDHC/SDメモリーカードに対応。
■初回利用時はAndroidのセットアップが必要
Android OSを搭載したS800cは、初回利用時にセットアップが必要。電源を投入すると「COOLPIX S800cへようこそ」というメッセージとともにAndroidのマスコットキャラクター「ドロイドくん」が表示され、言語設定やWi-Fiネットワーク追加、Googleアカウント、位置情報やバックアップ、タイムゾーンといった設定を順番に行なっていく。設定画面はAndroid標準のインターフェイスで、COOLPIX用のカスタマイズなどは行なわれていない。
初回起動時はAndroidの設定が必要 |
設定が完了するとホーム画面を表示。こちらもAndroid標準のランチャーで、ホーム画面は5画面、アイコンは1画面につき4×3個を設定できる。初期設定ではカメラ機能の「撮影」、ギャラリー機能の「再生」、画像転送アプリの「転送」のほか、ブラウザ、設定と合計5個のアイコンが設定されている。
スリープ解除時のロック画面 |
ホーム画面 |
設定画面もAndroid標準 |
アプリケーション一覧や設定画面もほぼ素のAndroidで、COOLPIX用のカスタマイズなどは一切といっていいほど行なわれていない。GmailやGoogle+、PlayミュージックやYouTubeといったアプリも標準で用意されており、画面だけ見たらAndroidスマートフォンにしか見えないだろう。
アプリケーション一覧 |
Google Playもインストールされているため、Googleアカウントさえ設定すれば自分の好きなアプリをインストールすることも可能。Androidベースのカメラというより、Androidのカメラ機能をコンパクトデジタルカメラに近づけた、というほうがイメージとして近い。
■数年前のスマートフォンと同程度のスペック
CPUは1.6GHzシングルコアでARMv7アーキテクチャのCoretex-A9(説明書の記載のママ。おそらくはCortex-A9のこと)を搭載、ROMは4GB、RAMは512MB。ホーム画面のタッチ操作などは快適だが、ブラウザなどを利用する際はデータ量が多いページで読み込みが重いなど、操作感としては一昔前のスマートフォンといった印象だ。
Androidのベンチマークアプリ「Quadrant Professional Edition」のスコアは1324と、約2年前に発売されたAndroidスマートフォン「Nexus S」より低い数値となった。AnTuTu Benchmarkの測定結果でもRAMやCPU性能は低く、2万円を切る価格で発売されている低価格タブレットと同程度、といったところだ。
Quadrant Professional Editionの測定結果 |
バージョン | v.2.9.2 |
RAMのパフォーマンス | 330 |
CPUの整数性能 | 610 |
CPUの浮動小数点演算性能 | 454 |
2D描画 | 294 |
3D描画 | 1,235 |
データベースのIO | 335 |
SDカードの書込速度 | 150 |
SDカードの読込速度 | 194 |
トータルスコア | 3,602 |
CPUなどのスペックはさほど高くないため、現行のスマートフォンと比べると操作感はやや劣る。画面も小さいため文字入力も難しく、速いスピードで文字を入力しようとすると誤入力が発生しやすかった。
機能についてはほぼ素のAndroidのため自由度は高く、FacebookやTwitterといったソーシャルサービスとの連携はもちろん、カメラアプリを別途インストールして利用することも可能。Ustreamのアプリをインストールしてカメラ単体でライブ中継を行なうこともできる。この拡張性の高さはAndroidベースならではだ。
ただし、カメラ系のアプリについては動作しない機能もあるので注意が必要だ。たとえば「Paper Camera」では光学ズームが動作したが、FxCameraでは動作しなかった。
Paper Cameraは光学ズームが利用できた |
Ustreamもライブ配信は可能だがタッチ操作でのフォーカスやズーム機能などは利用できない。
Ustreamも利用可能 |
Bluetooth 2.1+EDRもサポートし、Bluetoothレシーバーで音楽を聴くこともできる。ただし、対応プロファイルはA2DPのみでAVRCPは非対応のため、リモコン操作は利用できないほか、HSPやHFPも対応していないので、Skypeを利用した音声通話などはBluetoothでは利用できない。
■カメラ機能はAndroidアプリとして搭載
カメラ機能はアプリの1つとして割り当てられており、ホーム画面の「撮影」アプリから起動する仕組み。設定や撮影シーンを自動で選択する、「らくらくオート撮影」、ホワイトバランスなどの設定のみを自動で選択する「オート設定」、「風景」「スポーツ」などの撮影シーンを選択できる「シーン」、「セピアやモノクロといった加工が可能な「スペシャルエフェクト」、笑顔を自動検出してシャッターを切る「ベストフェイス」、1080pのフルHD動画が撮影できる「動画」の6つからカメラ機能を選択できる。
カメラ画面 |
6種類の撮影モード |
シーンモード |
スペシャルエフェクト |
撮影モードの変更、ホワイトバランスやマクロといった設定はタッチパネルから行ない、タッチした場所にフォーカスして自動でシャッターを切る「タッチ撮影」機能も搭載。詳細設定はMENUボタンから操作可能で、ホーム画面に戻りたい時はホームボタンを押すか、ホームボタンを2回押すことで表示できる。
設定メニュー |
戻るボタン2回かホームボタンでホーム画面に戻れる |
撮影した画像は「再生」で表示し、右側の共有アイコンからアプリへ展開できる。インストールしたアプリが、ファイルを共有するインテントの仕組みに対応していれば展開先は問わず、FacebookやTwitterなど自由にアプリの追加が可能。この自由度の高さはカメラ独自に作り込んだ機能ではなくAndroidを採用したメリットだろう。
画像の再生画面。画面右側の矢印2つマークが共有アイコン |
インテントに対応したアプリへ画像ファイルを展開できる |
電源オフの状態から電源を入れるとホーム画面ではなくカメラアプリが起動し、スタンバイやスリープから復帰する際は直前に利用していたアプリが表示される仕組み。電源投入時はいいが、写真をアプリで投稿した後スタンバイモードにしておき、再度写真を取りたい、と思った時はアプリからホーム画面に戻り、カメラを立ち上げる必要がある。カメラが利用の主目的となる製品だけに、カメラを直接起動できる専用ボタンなども欲しいと感じた。
■スタンバイモードで長時間の利用も可能
バッテリー消費はスマートフォン的に利用するか、カメラ的に利用するかで大きく異なる。スマートフォンとして利用しようとするとバッテリー消費は激しく、初期状態でGmailのみ設定し、無線LANに接続したまま画面を常に表示していたところ4時間でバッテリーが空になった。ほとんどアプリを利用していない状態なので、ブラウザやTwitterなど通信が発生するアプリを利用すると実利用時間はもっと短いだろう。
一方、カメラを利用しない待機時間には、できるだけバッテリーを節約する機能が盛り込まれている。電源ボタンを短押しすると各機能を待機状態にしてスタンバイモードとなり、この状態ではほとんどバッテリーを消費しない。Androidアプリの設定で画面が自動オフとなってから1分後にもこのスタンバイモードが自動で起動するほか、スタンバイモードから一定時間が経過すると自動で電源をオフにする機能も備えており、バッテリーの節約が強く意識されている。
電源ボタンを押すとスタンバイモードに移行できる |
スタンバイモードから電源をオフにする時間はカスタマイズできる |
カメラの起動速度も電源オフ時で10秒程度、スタンバイ時では数秒かからない。基本はスタンバイモードで持ち歩いておき、長時間使わない時は電源オフにするという利用スタイルであれば、バッテリーははかなり持つだろう。
起動時に表示されるロゴ画面 |
ただし、スタンバイから復帰した直後は、カメラアプリが起動するものの、写真を撮ろうとしてもシャッターが降りず、ホームボタンを押してもホーム画面に戻れない事象が10秒程度続くことがあった。
■スマートフォン連携アプリも搭載
S800cのアプリから画像を投稿する以外に、S800cで撮影した画像をワイヤレスでスマートフォンに保存できるアプリ「Connect to S800c」も無料で提供。OSはiOS 4.1以上、Android 2.2以上の両方に対応しており、機能やインターフェイスは2つのOSでほぼ同一となっている。
「Connect to S800c」Android版 | 「Connect to S800c」iPhone版 |
利用時はS800cの「転送」アプリと、スマートフォン側の「Connect to S800c」アプリから「かんたん接続設定」を選び、同時にSTART」ボタンを選択。S800cのディスプレイに表示されたSSIDに接続することで画像転送が可能になる。Androidの場合は自動でSSIDに接続するが、iOSの場合は手動での接続が必要。ただしS800cのアクセスポイントはパスワードが設定されていないため、SSIDを選ぶだけで接続できる。
S800cの「転送」アプリ起動画面 | 本体とConnect to S800cで接続設定を開始 | S800cのSSIDを表示。パスワードは設定されていない |
S800cとスマートフォンで表示される番号が同じであることを確認 | スマートフォン側の表示 |
接続完了 | スマートフォンと接続中は「スマートデバイスと通信中」と表示される | iPhoneの場合は無線LANの手動設定が必要 |
設定としては手軽なものの、セキュリティ面で暗号化が一切かけられておらず、SSID設定をカスタマイズしてパスワードを設定できないのは不安。操作しやすさを優先したのだろうが、少なくとも後からユーザーが任意に設定できる機能は欲しいと感じた。
接続設定が完了したら、S800cとカメラで同時に「サービス開始」を選択すると2台が接続、S800cで撮影した画像や動画をスマートフォンで表示できる。アプリから直接TwitterやFacebookへ連携する機能などはなく、表示された画像はダウンロード前にサイズを変更できる程度にシンプルな機能になっている。
内蔵ストレージとSDメモリーカードを切り替えられる | 画像サイズの変更が可能 |
■カメラメーカーならではの提案に期待
最近では無線LAN機能を搭載してスマートフォンと連携できる機能がコンパクトデジタルカメラを中心に1つのトレンドになっているが、その多くは機能が大幅に制限されていたり、Webサービスへの登録が必要だったりと使いにくいものも多い。その点においてAndroid OSとしてスマートフォンとほぼ同等の機能がそのまま利用できるS800cは、Web連携機能も非常に使いやすく、スマートフォンとの連携アプリも備えている点で非常に画期的な存在だ。
一方で、こうしたWeb連携機能などは魅力なものの、素のAndroid OSにアプリを搭載しただけ、というインターフェイスは、デジタルカメラとして使いやすいかどうかは疑問が残る。ある程度スマートフォン慣れしたユーザーでないと、このインターフェイスは使いこなしが難しいのではないかと感じた。
また、スマートフォン慣れしているユーザーであれば、そのまま自分のスマートフォンに搭載されたカメラ機能を使った方が早いかもしれない。Android標準そのままの機能になっているため、スマートフォンとの差別化はほぼレンズ部分だけとなってしまっている感もある。
Web連携を考えた時に独自で作り込むよりもAndroid OSを採用する、というコンセプトは非常に面白いし期待したいが、現状はそこにカメラメーカーならではのインターフェイスが存在しないのが残念。今後はAndroidをよりカスタマイズし、カメラメーカーならではのAndroidという提案を見てみたいと感じた。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
2012/9/20 00:38