【新製品レビュー】ニコンD4

〜連写&高感度性能に磨きをかけたプロ向け一眼レフカメラ
Reported by 礒村浩一

 ニコンから発売された「D4」は、いわずとしれたプロ向けのハイエンドデジタル一眼レフカメラだ。撮像素子は35mm判フルサイズ相当のFXフォーマットを採用した、有効1,620万画素のCMOSセンサーとなる。また高速連続撮影時には最大で秒間11コマ(AF/AE連動では10コマ)を実現。実勢価格は約65万円と、おいそれと手を出せるカメラではないが、その存在はまぎれもなくニコン伝統の一桁称号を継承する機体である。


ゆるがぬ剛性と巧みな重量バランス

 D4を手にしてまず感じるのは、そのずっしりとした重さである。スペックでの質量は約1,180gとなっているが、私の感覚としてはそれ以上の重みを感じる。それは初中級機カメラとは別次元である高密度な「塊」として印象が強いからにほかならない。縦位置撮影に必須なバッテリーグリップ一体型のボディは肉厚な触感を生み、マグネシウム合金で成形された筐体は強靭でゆるぎなく、強く握る握力をいとも簡単に跳ね返す。たとえ私がアメコミのヒーローのような超人的な力を持っていたとしても、この塊をこれ以上小さく押しつぶすことは不可能なのではないかとも思えてしまうほどだ。

 しかしD4にレンズを装着するとその印象は大きく変わる。鏡筒に左手の手の平を添えファインダーを覗いた瞬間に、カメラの位置がピタっと決まる。レンズのズームリングやフォーカスリングを操作しても、D4は常に安定した位置に留まる。人の手の形状に自然とフィットするデザインもさることながら、カメラの質量が大きいことによる慣性の法則によるものもある。

 その中でも望遠レンズと組み合わせたときのバランスの良さは特に際立つ。今回撮影に使用した望遠ズームレンズ「AF-S NIKKOR 70-200mm F2.8 G ED VR II」との組み合わせでは、総重量が約2.9kgにも及ぶ。しかし重量バランスがとても良好なので、重さが苦にならない。またボディ剛性が高いことでズーミング時の回転方向の「よれ」がなく、瞬時の反応にも余裕で追随してくれる。頻繁なズーミングが多いスポーツなどの撮影時には、その差を直感的に感じ取れるはずだ。これほどまでに剛性と安定感が両立しているカメラは、数多くあるカメラのなかでもそう多くはない。

 D4は同じくプロ向けハイエンド機である「D3S」の後継機だ。外観の基本デザインは「D3S」を踏襲しており、ダイヤルおよびボタンのレイアウトにも大きな変更はない。したがってこれまでD3SやD3を使用していたユーザーでも戸惑うことなく使用することができる。新設されたサブセレクターやライブビューセレクターなどボタン類も、その位置づけや機能がわかりやすくすぐに活用できる。

 また縦位置ポジションにおいても、横位置での操作と同じ感覚で操作できる。頻繁に横位置/縦位置を切り替えて撮影するカメラマンにはうれしい配慮だ。このような操作面での配慮も、プロ機には重要な意味があるのだ。なお、D4の全体像や操作ボタン類などの詳しい紹介は、既出の「写真で見るニコンD4」にて詳細にレポートしているので、そちらを参照していただきたい。D3と比較した写真も掲載されているのでその差もわかるだろう。


被写体の躍動感を捉える強力なAFシステム

 今回、私がD4をレポートするにあたり注目した点は、動体に対するAFの追随性と、高感度特性の改善である。ロンドンオリンピックでの使用を念頭に開発されたと聞くD4最大の武器といえるこれらの点についての実写レポートをご覧いただきたい。

 D4ではD3およびD3Sで採用されていたAFモジュールに換え、新開発の「アドバンストマルチCAM3500FXオートフォーカスセンサーモジュール」を採用している。フォーカスポイントはD3およびD3Sの51点と同数だが、さらなる高速化、高精度、低輝度下でのAF性能を実現しているという。AFエリアモードも「シングルポイントAFモード」「ダイナミックAFモード[9点、21点、51点、51点]」「3D-トラッキング」「オートエリアAFモード」を継承している。

アドバンストマルチCAM3500FXオートフォーカスセンサーモジュール

 この動体撮影テストにおいては、コンティニュアスAFサーボ(AF-C)とAFエリアモード「ダイナミックAFモード」「3D-トラッキング」の組み合わせで実写を行なった。今回被写体として選んだのは自転車ロードレースのプロチームである。自転車といってもプロレーサーの走りはとても速い。平地でも平均時速40km以上のスピードとなり、特に直線コースにて全速で向かってくる姿を的確に捉えるのは、カメラにとっても非常に高い能力を要求する被写体だ。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。

・ダイナミックAFモード

 AFポイントを先頭レーサーの頭に合わせてフォーカスと同時にレリーズON。4コマ目で胸元に、5コマ目以降は胴側面にフォーカスが移るもレーサーがフレームアウトするまでフォーカスが追随している。200mm/F2.8という浅い被写界深度でも十分にフォーカスのあった画像が得られる。

共通設定:D4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 1/1,600秒 / F2.8 / ISO200 / AF-C / ダイナミックAFモード(9点) / JPEG(Fine)+RAW / 70mm

 まず向かってくる車列先頭のレーサーにAFを合わせた後、レリーズONで連写開始。最初の2コマでは少し後ピンになっているが、おそらく測距から私がレリーズONするまでのタイムラグの間に車列が進んだことによるものと思われる。3コマ目で先頭レーサーにフォーカスが合い、4、5コマまで追いかける。6コマ目で先頭レーサーがAFエリアから外れたので以後11コマ目撮影後にレリーズOFFするまでは後続レーサーにフォーカスされた。1秒間強の連写でおよそ10〜15m間の移動を追いかけての結果だ。

共通設定:D4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 1/1,600秒 / F2.8 / ISO200 / AF-C / ダイナミックAFモード(9点) / JPEG(Fine)+RAW / 70mm

・3D-トラッキング

 51点すべてのAFポイントを使用する「3D-トラッキング」モードで先頭レーサーを捉えレリーズONで連写開始。向かってくるレーサーに食らいついたままフレームアウトするまでフォーカスを合わせ続ける。これも200mm F2.8での撮影であり、浅い被写界深度を活かしたことで、先頭レーサーのみが浮き立つシーンとすることができた。

共通設定:D4 / AF-S NIKKOR 70-200mm F2.8 G ED VR II / 1/2,500秒 / F2.8 / ISO200 / AF-C / 3D-トラッキング / JPEG(Fine)+RAW / 200mm

 単走のレーサーを横位置で捉え「3D-トラッキング」で追尾。横方向と接近移動の複合だがフォーカスはしっかりと食いついている。1車線挟んだ位置からの距離をとっての撮影。近接撮影時に比べるとカメラの振りも少なくて済むので「D4」のAFは余裕で合わせてくる。

共通設定:D4 / AF-S NIKKOR 70-200mm F2.8 G ED VR II / 1/1,250秒 / F4 / ISO200 /,AF-C / 3D-トラッキング / JPEG(Fine)+RAW / 200mm

 今回の撮影ではプロ・ロードレースチームに協力いただき練習走行を撮影させていただいた。ただし練習走行とはいえども翌週にはレース本番を控えての走行なので、その走りは実戦に限りなく近い状況でのテスト撮影となった。結果として「D4」は非常に高い確率でフォーカスをコントロールすることができた。

 特に3D-トラッキングモードでのフォーカスの食らいつきは、D3のそれに比べると明らかに強力になっている。以前同じようにロードレースをD3で撮影した際には、3D-トラッキングではレーサーをうまく追いかけることができなかった経験がある。

 そもそも3D-トラッキングとは、被写体の色やパターンを識別することで、被写体を認識させ追尾を可能にしたAF方式だ。D4ではその識別に新開発の91KピクセルRGBセンサーによるシーン認識システムの情報が活かされている。このシーン認識システムの能力向上が、D4におけるAFシステムの進化の一翼を担っているといえるだろう。


超高感度撮影が生む新しい表現の可能性

 D4のもうひとつの大きな進化は、使用できるISO感度域が拡がったことだ。D3Sでは常用感度がISO200〜12800であったものが、D4ではISO100〜12800と低感度側に1段広がった。また拡張感度域として、ISO50の減感とISO204800という超高感度撮影が可能となったのも大きな進化といえるだろう。そもそもISO12800という超高感度撮影が常用感度として使用可能なのも驚きだ。

 さすがにISO100〜400で撮影したものに比べればノイズも多く出るが、数年前のデジタル一眼レフで撮影したISO1600〜3200程度と遜色ないほどまでにノイズが抑えられている。それよりもこの高感度を活かすことによって、いままででは撮ることの難しかった低照度下での手持ち撮影が可能となったことの方が大きな驚きだ。

・感度

 ISO50からISO204800相当までの夜景定点撮影。較べて見てもISO800まではまったくもって遜色のない画質だ。ISO1600からISO12800までも高感度撮影のメリットを考えれば十分に実用的な画質といえる。

 驚くのは拡張感度域となるISO25600相当でもノイズこそ多くはなるが、決して使用できない画質ではないということだ。そしてD4ではさらに超高感度となるISO204800相当という未踏の領域までも手に入れることができる。もっとも画質は極端に劣化してしまうのだが、「撮ることができる」というアドバンスは何物にも代え難い。

D4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約6.6MB / 3,280×4,928 / 2秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO50(拡張感度) / WB:電球 / 24mmD4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約6.8MB / 3,280×4,928 / 1.0秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO100 / WB:電球 / 24mm
D4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約7.1MB / 3,280×4,928 / 1/2秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO200 / WB:電球 / 24mmD4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約7.4MB / 3,280×4,928 / 1/4秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO400 / WB:電球 / 24mm
D4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約7.8MB / 3,280×4,928 / 1/8秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO800 / WB:電球 / 24mmD4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約8.2MB / 3,280×4,928 / 1/15秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO1600 / WB:電球 / 24mm
D4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約9.1MB / 3,280×4,928 / 1/30秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO3200 / WB:電球 / 24mmD4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約8.8MB / 3,280×4,928 / 1/60秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO6400 / WB:電球 / 24mm
D4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約9.5MB / 3,280×4,928 / 1/125秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO12800 / WB:電球 / 24mmD4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約9.9MB / 3,280×4,928 / 1/250秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO25600(拡張感度) / WB:電球 / 24mm
D4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約9.3MB / 3,280×4,928 / 1/500秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO51200(拡張感度) / WB:電球 / 24mmD4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約8.7MB / 3,280×4,928 / 1/1,000秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO102400(拡張感度) / WB:電球 / 24mm
D4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約8.3MB / 3,280×4,928 / 1/2,000秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO204800(拡張感度) / WB:電球 / 24mm

 D4の高感度特性を活かして手持ちでの撮影。これを活かせば夜のスナップ撮影も可能だ。写真の新しい表現に繋がる。

D4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約9.6MB / 3,280×4,928 / 1/1,600秒 / F2.8 / +0.7EV / ISO12800 / WB:オート1 / 62mmD4 / AF-S NIKKOR 70-200mm F2.8 G ED VR II / 約8.2MB / 3,280×4,928 / 1/500秒 / F2.8 / +1.0EV / ISO6400 / WB:オート1 / 200mm
D4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約13.5MB / 3,280×4,928 / 1/40秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO51200 / WB:オート1 / 48mmD4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約11.5MB / 3,280×4,928 / 1/40秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO51200 / WB:オート1 / 70mm
D4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約11.8MB / 4928x3280 / 1/80秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO25600(拡張感度) / WB:オート1 / 70mmD4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約11.7MB / 3,280×4,928 / 1/80秒 / F2.8 / -1.0EV / ISO25600(拡張感度) / WB:オート1 / 70mm

スペックを超えた"カメラ”という存在

 このD4をレポートするにあたっては、プロの撮影における実戦投入に近いシチュエーションを想定して撮影を行なった。プロ機としてその役割を与えられた機体であるからには、厳しい状況下でも確実に結果を出してくれるカメラでなくては意味が無いからだ。その結果は予想を遥かに超えた圧倒的なパフォーマンスをたたき出してくれた。現時点におけるニコンの技術を惜しみなく投入したカメラであるのは間違いないだろう。

 また同時にシャッターを切るという行為においても常に安心感を与えてくれる機体でもある。重量級で大振りな機体と約65万円という高価な価格は決して万人に奨められるカメラではない。しかしD4というカメラを選んだユーザーは、スペックに書かれた性能以上の「何か」を得る事ができるのは間違いないだろう。


・作例

D4 / AF-S NIKKOR 70-200mm F2.8 G ED VR II / 約8.6MB / 3,280×4,928 / 1/6400秒 / F2.8 / +1.3EV / ISO200 / WB:オート1 / 200mmD4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約7.8MB / 3,280×4,928 / 1/400秒 / F8 / +0.7EV / ISO200 / WB:オート1 / 70mm
D4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約4.6MB / 3,280×4,928 / 1/500秒 / F2.8 / +0.7EV / ISO200 / WB:オート1 / 70mmD4 / AF-S NIKKOR 70-200mm F2.8 G ED VR II / 約7.2MB / 3,280×4,928 / 1/640秒 / F4 / +0.7EV / ISO400 / WB:オート1 / 200mm
D4 / AF-S NIKKOR 70-200mm F2.8 G ED VR II / 約7.9MB / 3,280×4,928 / 1/100秒 / F8 / +0.3EV / ISO200 / WB:オート1 / 200mmD4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約5.8MB / 3,280×4,928 / 1/160秒 / F8 / +1.0EV / ISO200 / WB:晴天 / 32mm
D4 / AF-S NIKKOR 70-200mm F2.8 G ED VR II / 約7.8MB / 3,280×4,928 / 1/320秒 / F2.8 / +1.0EV / ISO400 / WB:曇天 / 200mmD4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約10.4MB / 3,280×4,928 / 1/100秒 / F2.8 / +0.7EV / ISO1600 / WB:曇天 / 24mm
D4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約9.4MB / 4928x3280 / 1/80秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO6400 / WB:晴天 / 70mmD4 / AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED / 約10.0MB / 3,280×4,928 / 1/640秒 / F2.8 / 0.0EV / ISO6400 / WB:晴天 / 70mm

ロードレースチーム撮影協力:cannondale spacezeropoint/spacebikes.com






礒村浩一
(いそむらこういち)1967年福岡県生まれ。東京写真専門学校(現ビジュアルアーツ)卒。広告プロダクションを経たのちに独立。人物ポートレートから商品、建築、舞台、風景など幅広く撮影。撮影に関するセミナーやワークショップの講師としても全国に赴く。近著「マイクロフォーサーズレンズ完全ガイド(玄光社)」「今すぐ使えるかんたんmini オリンパスOM-D E-M10基本&応用撮影ガイド(技術評論社)」Webサイトはisopy.jp Twitter ID:k_isopy

2012/3/28 00:00