新製品レビュー
ソニーサイバーショットDSC-RX1R
“ローパスレス”の解像感を「RX1」と見比べる
Reported by 大浦タケシ(2013/8/6 08:00)
ローパスフィルターを省き、更なる解像感を追求するイメージセンサーが昨今のトレンドといってよいだろう。いくつかのカメラメーカーからそのような仕様のカメラがリリースされ、話題を呼んでいる。
そして今回、2013年に“世界初のフルサイズコンパクト”として登場し、カメラグランプリ大賞を受賞するなど注目を浴びたサイバーショットDSC-RX1(以下RX1)をベースとしたローパスフィルターレスモデル「サイバーショットDSC-RX1R」(以下RX1R)が登場した。その描写は、ソニーファンのみならず、大いに気になるところだ。本稿では、両モデルの描写の違いについて作例も交えながら紹介していきたいと思う。
本稿執筆時点の実勢価格は24万8,000円前後で、RX1R・RX1ともに同じ。RX1Rはバリエーションモデルという位置づけのため、RX1も併売となる。
最初に述べたように、RX1RとこれまでのRX1の違いはひとつ。ローパスフィルターの有無である。35mmフルサイズ相当の有効2,430万画素CMOSセンサーにカールツァイス・ゾナーT* 35mm F2のレンズを組み合わせ、映像エンジンBIONZを搭載する部分に変更はない。外観もカメラ銘以外はRX1と同じだ。
なおRX1については本誌新製品レビューのほか、筆者が長期リアルレポートを行なっているので見ていただきたい。
光学ローパスフィルターレス構造のメリットといえば、いうまでもなく撮像素子本来の持つ解像感が得られることである。そもそも光学ローパスフィルターを搭載するのは、RGBのカラーフィルターをベイヤー(Bayer、バイヤー)配列とするイメージセンサーでは、被写体によって干渉縞(=モアレ)や偽色が発生してしまうから。光の高周波成分を抑えるローパスフィルターは、モアレや偽色の発生を低減するのである。
しかし、このローパスフィルターは諸刃の剣ともいえるもので、解像感の低下も招いてしまう。そこで、思い切ってローパスフィルターを外してしまおうというのが、RX1Rをはじめとするローパスフィルターレスのデジタルカメラのコンセプトといってよいだろう。
ちなみに、その火付け役となったのは2012年4月発売のニコン「D800E」(同機種はローパスフィルターの効果を“無効化”する構造)。中判デジタル一眼レフカメラの「PENTAX 645D」など、それ以前からローパスフィルターを外したカメラは存在していたが、D800Eの登場がローパスフィルターレスを身近な存在にしたといってよいだろう。
掲載したRX1RとRX1の比較作例は、三脚にカメラを固定し、露出、記録画質、クリエイティブスタイル、ホワイトバランス、ISO感度など条件を揃えた。なお、筆者の設定ミスから歪曲収差の補正を、RX1R:オート、RX1:切としてしまっていることをお許しいただきたい。どちらもフォーカスはAFを利用している。
まず注目の解像感だが、パソコンの画面で50%程の拡大ならば、その差はほとんど感じられず、どちらも鮮鋭度は驚くほど高い。RX1がこの拡大率でRX1Rと同等としているのは、高い解像感の得られる多点分離光学のローパスフィルターを搭載していることも大いに関係しているのだろう。この拡大率なら両者いい勝負である。
違いが明確になるのは、さらにそれより大きく等倍に拡大したときとなる。両者の画像を比較すると鮮鋭度が異なることが認識できる。RX1Rの画像は、エッジがさらに締まり、心持ちコントラストも高く感じられる。特に高周波領域を多く含むような被写体や、遠くの木々や岩肌のような被写体では違いが大きく感じられる。
これがプリントになるとその違いはより見極めやすくなる。特にA3ノビ以上のサイズとなると、この解像感が本当に活きてくるといってよい。大判プリントを楽しんでいるデジタルユーザーにとってこの上ない描写といってよいだろう。
ただし、両モデルの解像感の違いに万人が気付くレベルかというと、少々疑問が残らないでもない。今回の検証のように、じっくりと見比べないかぎり、その差は感じないこともあるように思える。そのことの判断については、作例を見ていただき、個々で判断していただきたい。
モアレや偽色に関しては、今回撮影したRX1R/RX1の作例では目立ったものは見当たらない。細かな繰り返しのパターンを持つ被写体がない風景撮影では、さほど気にしなくてもよさそうである。
今回の作例ではすべてJPEGで撮影を行なっているが、RX1Rクラスのカメラを使うユーザーであれば、RAWで撮影するユーザーが多いと思う。しかし、純正の現像ソフト「Image Data Converter」の使い勝手は正直さほどよいとはいい難い。今回の作例のなかではモアレなどの発生は見極められなかったが、万一のためにもモアレの補正機能などを強化した現像ソフトの登場を強く望みたい。
筆者がソニー関係者から聞いたところによると、そもそもローパスフィルターを外したきっかけは、RX1のシャープネスの高さゆえに、同フィルターを外した絵も見てみたいとするユーザーの要望からだという(カメラ愛好家とは何とわがままなものだろうか)。その結果は見事に思惑どおりで、コンパクトデジタルとして、あるいはデジタルカメラとして他の追従を許さない高い解像感が得られる。今回のRX1R試写を通じて、同社のデジタルカメラに対する本気度が以前にも増して高まっているように感じた。