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パワーズーム+納得の描写力…動画向けに最適設計された高倍率F4ズームレンズ

ニコン NIKKOR Z 28-135mm f/4 PZ

NIKKOR Z 28-135mm f/4 PZ。ボディはニコンZ9(以下同)

ミラーレスカメラの時代が本格化し、以前にも増して個人向け機材による動画制作が当たり前になってきました。スマートフォンに加えてアクションカメラやジンバルカメラも高画質化し、そのムーブメントを牽引しています。

このコーナーでは、主にミラーレスカメラなどを使用する個人の動画制作に役立つ機材や話題などを紹介していきます。

ニコンがFXフォーマット対応のZマウントレンズ「NIKKOR Z 28-135mm f/4 PZ」を4月に発売した。実勢価格は36万8,500円。

動画に特化したという毛色の変わったレンズだが、量販店のWebサイトでは次回入荷が7月になるとの案内もあり、好調な滑り出しのようだ。

プロ仕様のパワーズームレンズ

電動ズーム対応のZレンズとしては、2023年発売の「NIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VR」(18-42mm相当)がある。DXフォーマットの標準ズームで小形軽量になっており、Vlogなどカジュアルな撮影をターゲットにしていた。

一方のNIKKOR Z 28-135mm f/4 PZはワンオペのビデオグラファーなどを想定しているそうで、”ザ・業務用”といった趣の1本になっている。

多くのフルサイズ用標準ズームレンズが24mmスタートなのに対して、本レンズは28mmと控えめ。その代わり望遠側を重視しているというのはビデオカメラのコンセプトに近い。

いまでも業務用ビデオカメラはイベント、ステージ、ドキュメンタリー、ウェディング、報道など様々なケースで活躍しているが、そうした現場で業務用ビデオカメラからの置き換えを狙えるのが本レンズだろう。フォーカス、ズーム、絞りを操作できるいわゆる「3連リング」を搭載するなど業務用ビデオカメラの特徴が見て取れる。

本レンズはビデオカメラよりもズームレンジは狭くなるものの、フルサイズセンサーならではの高い解像力、暗所での低ノイズ、浅い被写界深度などを活用したリッチな映像で差別化できるのがメリットになるだろう。

外形寸法は約105×177.5mm、重量は三脚座を含んで約1,210gとF4通しの標準ズームとしては大きめ。付属のフードも巨大で仰々しいが、これくらい業務然としたルックスのほうが好都合なことは実際あると思う。

付属の角形フード

ズーミングで全長が変わらないので、三脚やジンバルで使っていてもバランスが崩れない。このあたりもハイクラスのユーザーを意識してのものだろう。

なお同様のレンズとしては、ソニーが2014年に「FE PZ 28-135mm F4 G OSS」をリリースしている。今回こうしたレンズでメーカーの選択肢が増えたのは歓迎されるところだ。

リングのカスタマイズで滑らかな”ゲインコントロール”も

外観を見ていくとやはり3つの大きなリングが目を引く。先端はフォーカスリングで、滑らかなフォーカス送りも可能だ。次いでズームリングは突起の大きなパターンで回しやすい。その次がコントロールリングとなっており、好きな機能を割り当てられる。

先端からフォーカスリング、ズームリング、コントロールリング
ズームリングの角度は45~360°に設定可能

コントロールリングのデフォルト設定は絞りになっているが、例えばISO感度を割り当てると、ビデオカメラでゲインを調整するようなイメージで露出をコントロールできる。特にカスタムメニューの「ISO感度ステップ幅拡張」(g11)では1/6段ステップにできるので、録画中に明暗ショックの感じられない滑らかな感度調整ができる。

コントロールリングの脇にはズームレバーがある。望遠側と広角側にスライドでき、スライド量でズームの速度も可変する。ズームリング共々、ズーム速度はメニューで設定可能となっている。超低速でズームする場合などはズームレバーの方が使いやすい印象だ。

ズームレバー。下にL-Fnボタンが見える
パワーズームの速度設定
録画中と待機中で別々の速度を設定可能。例として、待機中は最速にしておくと素早く撮影の準備ができる

ほかにはL-Fnボタンが2カ所あり、さまざまな機能の割り当てが可能となっている。

三脚座は1/4ネジと3/8ネジの両方を備えている。また取り外しも可能だが、三脚座のリングはレンズから外れないようになっていた。

三脚座を外したところ

また、三脚座の底面はZ9の底面と同じ位置に来るようになっており、ロングプレートを2カ所で固定できる。本レンズとZ9の組み合わせだと前後方向の重心位置が三脚座よりもカメラ側になるため、その調整も含めてこの仕様はありがたい。

Z9の底面と高さが揃う

文句なしの解像力

まずはズームレバーを使って28mmから135mmまでのパワーズームを使ってみた。ズーム中も画角変化は滑らかで、人物を検出してのピント追従も問題無かった。

【ズーム作例(ゆっくり)】
※音声はありません(以下同)

特にこうしたスローで、ズーミングを一定の速度に保つにはパワーズームでないとかなり難しい。写真向けの多くのレンズではガクガクしたものになってしまうからだ。

さて、今回の動画サンプルはすべてニコンZ9、4K30P、ISO 200、絞りはF4で撮影している。絞り開放というわけだが、髪の毛1本1本まで分離しており画質はかなり鮮明であることがわかる。

また、人物と背後の壁の距離は1mほどだがF4でも望遠側なら結構ぼかせる。このあたりもフルサイズ機ならではといったところだろう。

続いては録画中のズーム速度を最速となる+5に設定してズームリングを一気に回してみた。このレンズでできる最も速いズーミングをしたものだ。

【ズーム作例(速く)】

これだけ速いズームでもピントはAFで問題無く合焦していた。スタジオ収録などで注目してほしい人物をアップにするといった素早いズーミングのカメラワークもそれなりに対応できそうだ。

望遠撮影を強化する「ハイレゾズーム」

撮影面では「ハイレゾズーム」機能が有用だ。Z9やZ8での4K撮影時(30Pまで、N-RAW設定時は無効)には最大2倍となる270mm相当での撮影が可能になるもので、遠方の被写体にも対応できる(Z6IIIでは最大1.4倍の189mm相当)。Z9では最大8Kからクロップする仕組みなので、一般的なデジタルズームのような画質劣化がなく、光学ズームのような感覚で使える。

ハイレゾズームの望遠端にしたところ。左側に「270mm」の表示が出ている

ハイレゾズームには「シンクロ式」と「エクステンド式」の2つのモードがある。シンクロ式はズーム全域で光学ズームとクロップを同時に行う方式。エクステンド式は基本的に光学ズームを使い、光学ズームエリアを超えるとクロップが併用されるタイプだ。

ハイレゾズーム方式の設定画面

エクステンド式は光学ズームエリアを純粋に光学ズームのみで撮影できる一方、ズーム速度が速いとクロップへの切り替わりで一瞬ズーミングが遅れる。一般的な4K撮影用途であれば、シンクロ式にしておくことで28-270mm相当をシームレスにズーミングできて使い勝手が良さそうだ。

下のサンプルはハイレゾズーム(シンクロ式)で28mmから270mm相当にズームアップしたもの。鳥の置物を画面一杯に写せる

【ハイレゾズーム(シンクロ式)】

次はハイレゾズームのエクステンド式を試したもの。このズーム速度だとクロップに切り替わるところで一瞬ズーミングが止まるのが確認できる。

【ハイレゾズーム(エクステンド式)】

エクステンド式の場合、下のようにズーム速度を落とせば一瞬止まる現象は目立たなくなる。

【ハイレゾズーム(エクステンド式、ゆっくり)】

本レンズの最短撮影距離は28mm時が0.34m、135mm時が0.57mとなっている。下のサンプルは28mmにし、MFで最短に設定して撮ったもの。それなりに近接撮影もできそうだ。

【28mmの最短距離撮影】

ところで、同じ135mmで最短撮影を試したところ、光学ズームのみのときとシンクロ式のハイレゾズームを使った場合では写る被写体の大きさは異なり、後者の方が大きく写せた。シンクロ式では表示上135mmになっていてもレンズの焦点距離はもう少しワイド側になっているようで、被写体により近づくことができたためだ(広角側ではこの効果は少ない)。

上記は望遠側の近接撮影で少しでも被写体を大きく写したいときの使いこなしになる。もし光学ズームの位置とは関係無くハイレゾズームのクロップを任意に設定できれば、最短撮影距離の制限から近づけない場合でもさらに被写体を大きく写すことができそうだ。本レンズは商品や料理をアップで撮るといった用途もありそうなので、今後のファームアップで対応すればより魅力が増すのではと感じた。

ニコンZマウントボディの動画ユーザーには待望の1本

動画ガチ勢向けのレンズと言うことで、気軽にVlogを撮ったり旅行に持っていったりというタイプではないものの、作例を見てわかるとおり、4K撮影でも解像力は申し分なく、十分プロの要求に応えられる性能は持ち合わせているというのが正直な所だ。

マウント近くにはニコンらしいイエローのリングも

今回モデル撮影をするに際して、デフォルト状態では肌のきめが写りすぎるため「美肌効果」を4段階中上から2つ目の「標準」にして撮影した。それでもこれだけ肌のディテールが記録できるのだから実力は相当なものだろう。

4K撮影がメインであれば、機種は限られるがハイレゾズームも実用的だ。ビデオカメラに対して比較的ミラーレスカメラの弱点とされる望遠撮影のしにくさがある程度改善され、会場の広さにもよるだろうがステージ撮影であれば登壇者や演者をアップで撮ることにも期待が持てる。

フィルター径は95mm

開放F値が変わらないというのもマニュアル主体で動画を撮るには地味ながら便利な部分。ズームを引いたときにうっかりF値が小さくなって露出オーバーになるといった失敗も起きない。

そして高倍率ズームレンズということで、そもそもレンズ交換不要で様々なバリエーションが撮れるのもワンオペには向いている。ニコン機を使うビデオグラファーには待望のレンズであろうし、今後ニコン機を検討する動画制作者も増えそうな1本だ。

モデル:進藤もも

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。