フィルター活用術
中西敏貴さんによる“GNDフィルター”3タイプの作品を紹介!
マルミ光機「マグネットホルダーM100」を使う ソフト/ハード/リバースの使い分けとは?
2020年7月17日 07:00
プロ・ハイアマの風景写真家に限られていた「角型フィルター」ですが、ここ数年で意欲的な新製品が増えたことで、いまや多くのアマチュア写真家が愛用するアイテムのひとつになりました。
しかしフィルターの種類が多かったり、ホルダーなどフィルター以外のアイテムが必要だったり、見た目が大げさだったりと、初心者にとってとっつきにくいイメージは変わりません。種類も増え続けています。
このページでは風景写真家の中西敏貴さんに、角型フィルターのうち、基本となるGND(グラデーションND)フィルターの効果について説明してもらいました。
GNDフィルターは「空と大地」「空と海」といった明るさの差が構図内にあるとき、その明るさの差を埋めるのがその主な役割ですが、今回は代表的な
・ソフトGNDフィルター
・ハードGNDフィルター
・リバースGNDフィルター
の3タイプを使って作品を撮っていただきました。これらに「PLフィルター」「NDフィルター」を組み合わせた例を見せていただきます。
使用したのは、マルミ光機の「マグネットホルダーM100」を使ったシステム。フィルターをマグネットでホルダーに装着するという、これまでにない利便性を持ったフィルターシステムです。(編集部)
GNDフィルターを使う理由とは
人が知覚している光景をそのまま写真に記録するのは不可能だ。最明部から最暗部までの輝度差をすべてカバーしてくれるセンサーはまだ存在しないので、撮影時にはある程度情報をそぎ落とす必要がある。それが写真の楽しみの一つであるし、全てを描く必要もないとさえ考えている。
しかし、この部分のディテールだけは諦めきれないというような場面があるのも事実だ。最近はRAW現像で暗部をおこすことも可能だが、現場でやれる限りのことをしておけば、仕上がりのクオリティに違いが出てくる。そこでいい仕事をしてくれるのが角形フィルター群だろう。今回はその中でもGND(グラデーションND)フィルターをピックアップして紹介したい。
マグネットホルダーM100システムについて
私は普段から他社製の角型フィルターを愛用している。色被りの少なさや逆光耐性などで十分満足いく性能を得られるので気に入っているが、M100マグネットホルダーというシステムは存在しない。
今回こうして使ってみる機会を得たわけだが、着脱のしやすさという意味では他の追従を許さない感覚だ。落下の不安は拭えないが、撮影までのスピード感は段違いな印象がある。
ソフトGNDフィルター
GNDフィルターの中で最もグラデーション具合の緩やかなフィルターだ。空と地上との境界線が曖昧な場面で使うといいだろう。濃度が複数枚用意されているので、輝度差に応じて使い分けると便利だ。
作品解説: 朝霧に覆われた幻想的な朝を迎えた。画面下1/4にある畑の色合いとディテールを出したかったので、霧の部分から上部にSoft GND4を使い、輝度の差をコントロールした。
ハードグラデーションNDフィルター
ND部分とクリア部分との境界線がもっともはっきりしているので、空と地上との境目が比較的わかりやすいシーンに使うといいだろう。ただし、少しのズレでいかにも使ったという感じが出るので常に効果を確認しながら使うのがコツ。
作品解説: 日の出直後の強い太陽の光を使って麦畑を輝かせた。この時、空の部分と麦畑との露出の差が大きくなってしまうため、Hard GND8を使ってその差を縮めている。
作品解説: 地上と空の境目が比較的はっきりしていたのでハードGNDフィルターを選択。濃度は露出差を考えてGND8を使っている。地上の麦の色合いとディテール出すことが目的だ。
リバースグラデーションNDフィルター
境界線はハードGNDと同様だが、上部にいくにしたがって濃度が薄くなっている。日の出や日の入りのシーンで太陽の周辺を中心に光量を落としたい場合に使うといい。グラデーションの美しい空を撮影するには最も重宝する。
PL & NDフィルターとの重ね合わせ
角形フィルターのメリットの一つが重ね合わせだろう。マグネット式はこの重ね合わせ使用には最強だと感じた。各溝に合わせてスライドさせなくてもよく、ピタッと装着するだけ。調整したい場合はそれほど力を入れなくてもスライドできる、絶妙の磁力だった。
作品解説: 逆光に輝く新緑の色合いとと残雪の山を同時に描きたかった。そこで山の部分にソフトGND4をかけ、PL効果で新緑の色合いを引き出した
作品解説: 黒い雲が東方向へ流れていた。カメラの設定をモノクロにしてみたがどうもしっくりこない。そこでハードGND8とND64の組み合わせで30秒の露光時間に設定し、流れる雲を描き出した。
まとめ
レンズの性能を最大限に引き出すためにはフィルターを使わない方が良いというのは事実だ。しかし自然の中では、大きな露出差を調整したり、長秒露光を試みたり、反射をとったりという必要性が必ず出てくる。RAW現像によってなんでもやってしまおうというのではなく、角形フィルターを使って撮影をしておくことで、良質のRAWデータを得ることができる。そうすることで現像作業の負担も減り、結果的に上質な作品が完成すると考えている。角形フィルターは複数効果の組み合わせが容易にできるのが最大のメリットなので、ぜひ現場で仕上げる癖をつけてほしい。
冒頭にも書いたように、私は他社製の角型フィルターシステムを愛用しているが、このマグネットホルダーシステムは画期的だ。装着のしやすさ、取り外しやすさは群を抜いていると言っていいだろう。磁力によって止まる方式なので振動や風による落下の心配は拭えないが、使用中に落ちるということはなかった。
もう一つ気に入った点を書いて締めくくろう。フィルターの外周を囲うマグネット部分は、着脱の際にその部分を指でつまんで作業を行える。それがとても便利なのだ。ガラス製のフィルターにダイレクトに触れると指紋がついてしまうが、これならば指紋が付く心配はない。この点は他社も参考にしてほしいところだ。
協力:マルミ光機株式会社