基本的に、高感度=低画質というのがあるから、お気軽に感度を上げるのはあまり好きではない。なんだかんだ言って、ベース感度で撮るのがいちばん画質がいいわけだし、どうせ撮るならきれいなほうがいい。高感度にしなきゃどうにもならないシチュエーションもあるが、どこか後ろめたい思いをしながら撮っていたりするのである。
ただまあ、D700はISO3200やISO6400でもそれなりに使える画になってくれるので、以前よりは積極的に感度を上げることも増えてきた。そういうのもあって、今まで食わず嫌いで使わずにいた「感度自動制御」を試してみることにした。
「感度自動制御」は、文字どおり感度を自動で制御する、つまりは感度オートである。暗くなったら自動的に感度をアップしますよ、という機能だ。感度オートであれば、コンパクトデジカメにだって付いているし、エントリークラスのデジタル一眼レフカメラでも当たり前の機能となっている。が、ニコンがわざわざ「感度自動制御」という名称にしているのだから、一般的な感度オートとはひと味もふた味も違うに決まっている。奥が深くて、使いこなしに頭をひねらなくてはならない機能であるはずだ。
まずは、撮影メニューの「ISO感度設定」を見てみる。感度固定で撮る場合は、上面左手側肩の「ISOボタン」を押しながら右手親指側のメインコマンドダイヤルを回して設定するが、「感度自動制御」のオンオフとオプション設定は、撮影メニューからやらないといけない。
撮影メニューの「ISO感度設定」の画面。「感度自動制御」がオフの場合は「ISO感度」で設定した感度で固定となる | 「感度自動制御」の設定画面で「する」を選択すると、感度が自動で制御される。つまり、感度オートになる |
「ISO感度」の設定画面。「感度自動制御」がオンのときは、自動制御される下限感度となるが、条件によってはさらに低くなることもある |
いちばん上の「ISO感度」は、「感度自動制御」がオフのときは使用感度になるが、オンにしたときは自動制御される下限の感度となる。「制御上限感度」は自動制御される上限の感度である。つまり、感度オートの感度の範囲を自分で決められるわけだ。ただし、設定した「ISO感度」よりも「制御上限感度」が低い場合は、「制御上限感度」が優先となる。例えば、「ISO感度」がISO6,400でも、「制御上限感度」がISO1,600なら、ISO1,600で固定となるわけだ。
最後の「低速限界設定」は、感度アップをはじめるシャッター速度を決める項目。原則的には、これより遅いシャッター速度にはならないようになっている。なので、動きのある被写体を撮るときは高めに設定することで被写体ブレを抑えることができる(スポーツやライブとかに便利だろう)。
「制御上限感度」は自動制御される上限の感度。D700は高感度でも低ノイズなので、わりと安心して高めに設定しておける | 感度アップをはじめるシャッター速度の下限を決める「低速限界設定」。夜景なら遅め、動く被写体なら1/500秒とかにする |
「制御上限感度」よりも「ISO感度」を高く設定すると「制御上限感度を優先します。」というメッセージが表示される | 今回の撮影で使った設定がこちら。高感度に強いD700だから、こんなアバウトな設定でいけちゃったりする |
今回は、「手持ちで手軽に夜景を撮るための感度オート術」といった撮影なので、レンズはAi AF Nikkor 35mm F2 Dの1本のみ。「1/焦点距離」秒よりは1段くらい粘れるつもりだから、「低速限界設定」は1/15秒。「ISO感度」はISO200、「制御上限感度」はISO6,400というセッティングにしてみた。これで絞り優先AEにしておくと、明るい条件ではISO200。ISO200でシャッター速度が1/15秒を下まわる暗さになると、シャッター速度は1/15秒をキープしたまま感度がアップしていく。うんと暗くなって、ISO6,400でもまだ露出アンダーになってしまう条件になると、今度はシャッター速度が1/15秒より遅くなっていく。そうすることで、適正露出をキープしてくれるわけだ。
この動作はプログラムAEの場合も同じだが、「ISO感度」を高めに設定していて、シャッター速度が最高速の1/8,000秒でも露出オーバーになる明るさになったときは、感度が自動的に低下するようになっている。その場合の感度の下限はISO200となる。けっこうややこしいのである。
シャッター優先AEのときはまたちょっと違ったりする。当然だが、「低速限界設定」は事実上シカト。絞り開放でも適正露出が得られない暗さになると感度がアップするが、「制御上限感度」まで上げても駄目なほど暗くなると、素直に露出アンダーになる。絞り優先AEやプログラムAEのときのように、シャッター速度を自動的に変えて適正露出を守ってくれるようにはなっていない。
マニュアル露出になると、「低速限界設定」だけでなく「ISO感度」もシカトされる。設定値とは無関係に、ISO200が下限になってしまう。「制御上限感度」でも適正露出が得られないほど明るい条件では素直に露出アンダーになるし、ISO200でも適正露出が得られないほど明るい条件では素直に露出オーバーになる。では、そのあいだの明るさのときはというと、設定した絞り値とシャッター速度で適正露出が得られる感度に自動的に制御される。
言い替えると、自動的に感度を変えて適正露出が得られるように制御してくれるのである。つまり、自動的に露出が合っちゃうんです。マニュアル露出なのにね。ようするに、マニュアル露出ではあるけれども、実質的にはAEなのである。ペンタックスのTAvモード(シャッター&絞り優先AE)と同じようなものだと思う。
ただし、前後のコマンドダイヤルで絞り値とシャッター速度を設定するのだから、露出の微調整を行なうためには、露出補正ボタン+メインコマンドダイヤル操作が必要になる(「露出補正簡易設定」も無視されるので、デフォルトの露出補正操作をする必要がある)。ニコンのカメラのマニュアル露出でも露出補正ができるという仕様がこれまで不思議でしかたがなかったのだが、こういうときのためだったんだねぇ、と初めて得心した次第である。
カスタムメニューの「f1 照明スイッチの機能」で「情報画面」も点灯するように設定しておくと、夜景を撮るときに便利 | 「情報画面」は各種撮影情報が確認できる。上面の表示パネルよりも大きく明るいので、暗い場所で見やすくてうれしいのだ |
感度をオートにするだけで、ずいぶんややこしい。油断してると考えてる途中でわけがわからなくなったりもする。が、どの露出モードでどういうふうになにを撮るのかをよく考えておきさえすれば、かなり使える機能だと思う。手持ちで夜景をさくさく撮れるというのも、けっこう気持ちのいい体験だった。
ただ、レンズがAi AF Nikkor 35mm F2 Dだと、ちょっときびしい部分もある。なるべく感度を上げたくなくて、つい絞りを開け気味にしてしまうのだが、なにぶんにも設計の古いレンズである。原型のAF 35mm F2Sは1989年生まれ。Dタイプに変わったのだって1995年なのだ。絞り開放でのキレのよさでは最新設計のF2.8ズーム(高くて手が出ませんけど)にはかなわない。AF-S NIKKOR 50mm F1.4 Gのようにリニューアルしてもらいたいなぁ、と思う
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像(JPEG)を別ウィンドウで表示します。
■絞りごとによる感度の変化
「感度自動制御」をオンにしておくと、絞り込むにつれて、どんどん感度が上がっていくことになる。絞り開放では低感度なのでノイズは少ない反面、球面収差や非点収差が気になってしまう。レンズの性能的にはF4からF5.6まで絞ったほうがいいが、ノイズとの兼ね合いも考えないといけないので難しい。
作例は自宅の屋上から撮った近所の夜景(都会じゃないので暗いです)。ISO200に近い感度の画も欲しかったので「低速限界設定」は1秒にした。F16とF22では、「制御上限感度」に設定したISO6400でもまだ足りないので、シャッター速度が「低速限界設定」よりも遅くなっている。
D700 / Ai AF Nikkor 35mm F2 D / 4,256×2,832 / 2秒 / F16 / -2.3EV / ISO6400 / WB:オート | D700 / Ai AF Nikkor 35mm F2 D / 4,256×2,832 / 3秒 / F22 / -2.3EV / ISO6400 / WB:オート |
■自由作例
2009/10/2 00:00